14.山川惣治のライバルたち 似顔絵を書く人々
前のページで小島剛夕が描く「隠密ゆうれい城」の主人公の顔は、当時の高名な時代劇俳優の顔を
無断拝借していました。
昭和31年ころ、映画俳優の顔に似た人物を登場させた時代劇の絵物語が流行りました。
上の二つの絵はそれらの作品群のうちのひとつです。
左は渡辺三千太郎「まぼろし丸」、右は植木金矢「三日月天狗」です。「三日月天狗」などは、主人公の扮装も、
人気俳優の当たり役そっくりです。さらに、物語の中で、主人公が吐くセリフも、その俳優の芸風そのままです。
三日月天狗が大見得を切る場面の連続です。
しかしどこにもその俳優の名前などは書いていないのです。「誰某が絵物語に登場して大暴れ!」というような
宣伝文句はいっさいつかっていない。「映画でお馴染みのキャラクターが勢ぞろい」なんてことも一切言っていません。
そんなことをいうと肖像権の侵害になるのでしょう。
しかし名前をあげない限り、人気俳優の顔に似せた人物を絵物語の中で使うのは勝手なのでしょう。(他人の空似って
こともありますし。)名前をあげずとも知っているひとは知っているので効果は同じです。
手塚治虫が、映画俳優に似たキャラクターを半ばお遊びで使っていました。ジェームス・メイスン、リノ・バンチュラ、
シャルル・ボワイエといった俳優のキャラクターです。しかしマンガはデフォルメが強いので、あまり似てない。
誰それと言われないとわからないくらいでした。
絵物語の場合はばっちり分かってしまうのです。これで、マンガより、挿し絵の技法のほうが、顔つきを似せるのは
簡単だということがわかります。現在だと肖像権の侵害としてクレームがつくでしょう。
この作者たちの手並みをみると、大変見事で、このような絵のテクニックを、オリジナルなキャラクタの創造に
向けたらよかったのにと思います。(映画の看板書きさんを呼んできたのでしょうか)
(小松崎茂は俳優の顔をした人物を登場させたりはしていませんが、山川惣治はやって
います。やめておけばいいのに
と思いますが、第一人者というものは、自分は何をやらせてもうまい、と考える傾向があるのか、他の絵物語作家の
することを自分も一応やってみせたりするのです。ただ山川惣治は外国の俳優しか使っていないので、その点は
よろしい。)