山川惣治と絵物語の世界page14195  picture

 

14.山川惣治のライバルたち 椛島勝一6

ーペンと筆で絵の感じが違うー

 

shadow

lion

上は山中峯太郎「敵中横断三百里」の挿し絵。筆で描かれており、コントラストの強い絵で、 服のひだの影の階調表現が西洋の肖像画のようです。下は細密なペン画(昭和4年)。ライオンのたてがみや草原の草 の1本1本が丁寧に描かれています。椛島のペン画は、筆で描かれた挿し絵ほどコントラストが強くないのです。ペン画は口絵として、上質紙に 印刷されて掲載されるためか、非常に細かいところまで、鮮明にみえます。ですからコントラストを上げる必要が なかったのかもしれません。

1.椛島勝一の挿し絵は筆で描かれ、白黒のコントラストの強い絵である

椛島勝一の挿し絵は、私の知るかぎり、すべて筆で描かれており、すべてコントラストの強い絵で、ドラマチックな緊張に 満ちており、ドイツの表現主義の映画にも似ています。大体逆光で描かれています。筆で描いた他の挿し絵画家の絵と 比べると、椛島の絵は非常に見やすい。精度の低い印刷技術でも、見栄えがする ように描かれています。同時代の梁川剛一や鈴木御水や松野一夫の絵に比べて、ずっと目立ちます。印刷によって 平板な絵になってしまうのを計算してはじめからコントラストの強い絵を描いたのではないでしょうか。

(筆で描かれたさし絵の中で椛島の絵と同じくらい鮮明なのが伊藤幾久造の絵であ りまして、これは伊藤が椛島の絵を研究した成果と思います。絵の魅力というのは、ちょっとしたアイデアなんです ね。闇雲にかいてもダメだといいたい。)

2.椛島のペン画は白黒のコントラストが強くない

高畠華宵や山口将吉郎、伊藤彦造といった時代劇専門の挿し絵画家は大体ペン画で挿し絵を描いていました。ペン画は 普通の紙に印刷しても、比較的細かいところまで見えます。また、伝統的な日本画は、陰影をあまり表現しません。 そのためか、高畠、山口らはほとんど陰影をつけていません。そのかわり、衣服の 模様などは端まで精密に書き込んでいます。椛島が服の模様などは一切描かなかったのと対照的です。

椛島も衣服の模様こそ描きませんでしたが、ペン画の場合は、非常に細かいところまで書き込む傾向がみられます。 ライオンの絵ではお尻から太ももにかけての筋肉の収縮による細かいしわの表現なんかです。もし椛島が筆でこの絵 を描いたら、こんな細かい皮膚のしわなどは描かず、光と影による階調表現で、後ろ足の筋肉の質感を出したでしょう。 椛島は奇妙なことにペン画の場合は陰影をあまり強調しないのです。

これはおもしろいことで、もし椛島が光と影によるコントラストの強い情景を描くのが好みなら、ペンでも同様に陰影 に満ちた世界を描いたはずですが、彼の描くペン画は正確な形(船、航空機、波、木の枝)と、とことん細部まで描く タッチの細かさが特徴で、陰影はあまり強調されません。彼は道具によって絵を変えたのです。

3.後輩作家は椛島の挿し絵とペン画をミックスさせた

椛島以降の挿し絵画家 は、彼の絵を研究し、彼の筆による絵とペンによる絵の特徴を持ち合わせた絵をめざしたのではないでしょうか。

山川惣治のペン画は椛島より、ずっと輪郭を強調します。また陰影も椛島のペン画よりは強くつけます。山川は椛島 の筆による絵とペン画を融合させたといってもよいと思います。山川以後の挿し絵画家はみな、椛島の挿し絵に見ら れる陰影の濃さをペン画に付与しました。

椛島勝一の信奉者である、岩井川俊一も、白井哲も、ペン画を描く時には椛島の ペン画よりも強い陰影をつけました。それが彼等の新しさです。またときとして、彼等のペン画には、読者が近寄り がたい、陰影の強さと、過剰な精密さが見られます。その結果分かりにくい、暗い絵になっています。彼等がなぜ そんな絵をかいたのか疑問に思われますが、椛島の影響と考えると納得がいきます。  


椛島勝一7へ
ホームページへ