14.山川惣治のライバルたち 椛島勝一7 「人好きのする顔」や動作をかくのが不得意?
椛島勝一は人物の顔を描くのが不得意なのでしょうか。少なくとも、子供に受けるような、颯爽たる
美少年や美男子の顔は描きませんでした。「敵中横断三百里」では出発のときと、友軍の陣地に戻ったときだけしか、
日本軍兵士の顔が描かれません。その途中はずっと頭巾をかぶって、向こうを向いたままです。大部分、夜間の情景
です。実際、一目を忍んだ作戦ですから、敵の占領地を移動するのは夜間でしょうから、原作に忠実といえば忠実な
挿し絵ですが、子供には高級すぎるかもしれません。
昭和5年に「少年倶楽部」の別冊付録として「敵中横断三百里」が再録されたときには、梁川剛一が主人公たちの顔や
アクションの入った挿し絵を描いて多数追加しています。それによって随分わかりやすくなったのではないでしょう
か。
「敵中横断三百里」ではそれでよいとしても、椛島は他の挿し絵でも、主人公の顔はあまり前から描かれず、外国人
の顔や、人物の後ろ姿ばかり描くことが多いように思います。いつも人物の顔をかかないとなると、不得意なのでは
ないかと思いたくなります。漫画「正チャンの冒険」が書けたのですから、挿し絵でもかけそうなものですが。
また人物を描いても、じっと立っているようなのが多いように思います。アクションはあまりかかなかった。アク
ションがあるのは動物画だけでした。
山川惣治は人物の動きをかくのこそが得意で、また主人公の顔を美少年にかくのも(あまり安定していないとはいえ)
一応できました。山川惣治は椛島の動物画を発展させ、同時に椛島のいちばん不得意な部分を補って登場したのです。