山川惣治と絵物語の世界page1001

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10.「少年ケニヤ」は「ゴジラ」に影響を与えた

山川惣治の絵物語「少年ケニヤ」が特撮映画「ゴジラ」に影響を与えたという説を主張します。

(1)まず「ゴジラ」のスタッフは映画をつくるとき、「少年ケニヤ」を手許に持っていたという話。

上にかかげた三枚の絵うち、左端のへたくそな絵は、映画「ゴジラ」の絵コンテです。「ゴジラ」のような映画はそれまでに撮られたことがなかったので、 スタッフのイメージを統一するために、撮影の前に絵コンテが書かれました。いちばん左の絵は芹沢博士と尾形船長が oxygen destroyerを持って潜水して出会う、海底に横たわるゴジラです。(実際に撮影された場面は構図が異っています) このゴジラの絵は、まん中の絵と構図が そっくりです。まん中の絵は産経新聞社刊「少年ケニヤ・第五巻」の機関銃の銃弾を受けて弱った体を休ませるティラ ノザウルスです。「ゴジラ」のスタッフが、映画の場面をつくり出す過程で、「少年ケニヤ・第五巻」を片手に持って おり、真似をしたと考えられます。

「少年ケニヤ・第五巻」の奥付をみると、昭和29年3月10日発行となっています。一方「ゴジラ」の方は香山滋が 原作の執筆を承諾したのが昭和29年5月12日。1週間で原作は完成。原作をもとに村田武雄と本田猪四郎がシナリオ を執筆。さらにシナリオをもとに絵コンテが書かれた。絵コンテがかかれた時期ははっきりしませんが、撮影開始が8月 7日ですから、5月から8月の間にかかれたものと思われます。「少年ケニヤ・第五巻」が本屋の店頭に並んでいる時 期と一致します。

「ゴジラ」のスタッフ(監督本田猪四郎自身かもしれない)は、産経新聞連載の「少年ケニヤ」でなく、単行本「少年ケニ ヤ・第五巻」を参考にしたと思われます。なぜなら、新聞連載の「少年ケニヤ」では、休息するティラノザウルスの 絵はすこし構図が違うからです。いちばん右が新聞連載時の絵ですが、ティラノザウルスの顔が正面を向いており、口 の先がとがっていません。足先も書かれていません。単行本にするにあたって作者がこのコマを書き換えたのです。(新たに描かれた絵はみごと な絵です。白土三平もこの絵をまねたことがあります。)「ゴジラ」のスタッフは映画の場面を作る際、手 っ取り早く手にはいる参考資料として、本屋で「少年ケニヤ・第五巻」を買ってきたとおもわれます。

さらに,ゴジラのスタッフは、ゴジラのデザイン画を絵物語作家の阿部和助画伯に依頼しました。阿部和助氏は、山川 惣治のお弟子さんです。阿部氏は当然、「少年ケニヤ」の単行本を持っていたでしょうから、恐竜の登場する、第四巻、第五 巻を見るよう、スタッフにアドバイスを与えたことは十分考えられます。「ゴジラ」のスタッフが「少年ケニヤ」を手許に 持って参考にしつつ、映画の案をねったことは確実と思われます。

(ところで、ティラノザウルスが休息する様子を絵に描いたひとは、山川惣治がはじめてではないかと思います。恐竜 のイラストレーションで有名なチャールズ・ナイトも当時そのような絵は描いていなかったと思われます。まん中の絵 は恐竜が首をうなだれた感じが、機関銃弾を受けて弱った感じをよく表現していますが、この構図は全く、山川惣 治の創作と思われます。恐竜が木にもたれて休息するというポーズはかれのでっち上げです。恐竜がもたれられる大木 がいつもあるとは限りません。この絵が迫真力を持っているのは、 作者の筆の力によるものです。現在の学説ではティラノザウルスは腹と胸を下にして、うつぶせに寝ると考えられてい ます。ティラノザウルスの小さな手は起き上がろうとするとき、重い頭部を地面からもちあげるために、地面を突いて はずみをつけるのに用いられたと、想像されています。)


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