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はじめ通信10−0919
堀船水害はなぜ再発したか(シリーズ8)
住民説明で登場した二つの「水理実験」

●9月15日に「7・5水害対策協議会」(堀船自治会・町会代表による運動体)に対する、首都高速鰍ノよる「水理模型実験」などについての説明会が行われました。
 首都高はずい分、説明会への出席を渋ったらしいという話ですが、それもそのはず、当日の説明を聞いて多くの参加者が不満や疑問がおさまるどころか、ますます首都高への不信感を募らせたということでした。

●私は、首都高が説明に使った資料を見せていただいて、改めて、彼らの説明会への姿勢が、ひたすら”責任逃れ”のみを目的とし、それに都合のよい材料だけを選び抜いて資料が作られ、今やくり返し発生している1時間50ミリを超え100ミリに達する集中豪雨と石神井川の洪水を、ひたすら「護岸まではわが社の責任。護岸を越えたら『想定外』」と振り分けるためだけの様ざまな理屈を「科学的シミュレーション」とか「水理実験」などと称して並べているに過ぎないことを痛感しました。
 今流行の「ニセ科学」より悪質なこれら資料やデータのごまかしを明らかにするため、執念を持ってたたかって行きたいと考えています。

●今回、その入り口として、説明資料に出てきた平成10年の水理実験と、そして昨年から今年の水害直前まで行われていたという、いかにもイワクありげな「ステップ6ダッシュの補完実験」について、いくつかの問題意識を提起し、今後その一つひとつを分析して行きたいと思います。

◆1.「50ミリ対応」の実態とは何か・・

 首都高が「50ミリ以下の降雨には安全が確保されるよう施工してきた」という、1時間当たり50ミリ降雨の基準というのは、今や彼らの最大の防衛線です。
 ではこの石神井川の工事区域について、「50ミリ対応」というのは、どれほどの実態と根拠のあるものなのか・・。
 実は平成10年の「水理実験」の際に、同じ「50ミリ」でも、出発点の水位をどう決めるか、どの観測点の「50ミリ降雨」かの選び方で、川の水流や護岸のかさ上げが違ってくることが、報告書を読むと分かるのですが、今回の説明資料にその部分はありません。
(ここから資料の一部を見られます)

@「50ミリ」降雨時の隅田川合流点の水位をどう設定するか
 模型実験というのは最下流の出口の水位、つまり隅田川に合流する水位を決めないと実験できないのですが、そこでまず手抜きが行われています。
 隅田川の「50ミリ降雨」対策では、東京湾の平均満潮水位A.P2・10mを基準にさかのぼって、石神井川出口はA.P3・967mという「計画高水位」というのが定められています。
 しかしまだ隅田川の計画全体が完成していないのを理由に、この水理実験の水位基準は、これまでの50ミリの豪雨の際の水位の「実績」に基づいて決めるというのです。
 しかも石神井川の出口は水位観測所も雨量計もないので、「近傍」の小台、志茂橋の観測をもとに、石神井川と小台や志茂の「相関解析」から、模型実験の出口の基準水位を、隅田川の計画水位より85センチも低い3・11mと決めています。
 もし隅田川の計画通り出口で4メートル近い水位を設定して実験すれば、豊石橋や新柳橋など出口に近いあたりの水位は、5・8メートルの護岸では間に合わなくなっていたかもしれません。
 現実に、溢水が起きていた7月5日の午後10時ごろは、まさにその日の満潮時で、隅田川出口付近はベースの水位が干潮時より数十センチ上がっていた可能性があります。

A5年に1度は50ミリ規模の豪雨があることは分かっていた
 小台や志茂橋の年間最高水位の実績から、年間最高水位が3・11mを超える確立を調べ、5分の1という計算結果を出して、これがこの場所で50ミリ以上の降雨の確率とほぼ一致していることから、この水位を採用しています。
 つまり最大で5年程度に1度の、50ミリを超える豪雨や水害は織り込みずみということになります。

B「50ミリ」降雨の観測点に練馬も板橋も入っていない
 小台と志茂橋に加え、所沢観測所の雨量データから、3箇所に共通して50ミリを越える程度の雨が5分の1、60ミリ程度が8分の1、70〜80ミリ程度が20分の1程度の確率で起きるというデータをもとに、言うなれば石神井川の下流部は、5年に1度の豪雨と水流に耐えられればよいという基準で護岸のかさ上げなどが決められたことになります。
 しかしここにも、石神井川の通っていない所沢観測所を入れながら、練馬や板橋の雨量観測点を入れていない致命的欠陥があるのです。練馬を入れたら、護岸を越えるような水害は「5年に一度以下」ではすまない実態が浮き彫りになったのではないでしょうか。

2.平成10年の水理実験が何のために行われたのか

 水理実験報告の「目的」のところをよく読むと、どうやら工事のステップ4から現在行っているステップ6´にかけて、当初計画になかった河川の中の橋脚<P79n>を造る設計変更を行うため、この橋脚による水流への影響や、ステップ2〜3で施工してきた川の中央に杭を並べる工事の影響を調べるなどが狙いだったようです。(「実験状況工事ステップ6」の右上写真がP79n)
 ところが、ステップ2〜3の実験では、40本の杭の影響を詳しく机上計算と模型実験の比較までやりながら、P79橋脚の影響は、あまり検討された様すがありません。
 しかも実際の工事の現状を見ると、溝田橋付近は、実験の簡単な模型とは似ても似つかぬ、複雑な杭や桟橋が林立しており(下の写真)、この状態を模型でも机上計算でもシミュレーションしたようすが無いのです。



◆3.なぞめいた補完実験

 昨年平成21年3月から今年の5月まで1年以上かけて行なわれたことになっている模型による「ステップ6´の補完実験」なるものは、写真を見る限り、平成10年と同じ研究施設で、そっくりの模型を再度造って行われた様すです。
 なぜ一つの中間ステップの実験で1年以上かかったのか、なぜこのステップだけ実験したのか、実は他の段階も実験しているが隠しているのかは、いまだ不明です。
 この実験の写真「模型写真(工事ステップ6´)」を見ても、溝田橋付近の複雑な河川内の構造物の現状は全く反映されていない、あまりに奇麗ごとのように見えます。


◆4.東京都の桟橋工事の影響は・・

 新柳橋付近で東京都が行っている桟橋を使った護岸工事の影響については、水理実験は無く、机上計算のデータだけが載っていました。(下の左図)
 これだけではどんなモデルを想定してどういう計算方式をとったのか全く分からず、論評しようがありませんが、あすか緑地のおかげで上流の水位が下がるなどという、自らに都合よい部分だけは現場を細かく再現しながら、川の断面図(下の右図)を見ても、水理実験より広がったところだけを図示し、狭まったところは図示していないなど、基礎データの取り方も、かなり恣意的に見えます。
 何より桟橋の影響による水位の変化について、今回溢水した護岸箇所のデータだけを公表したのは、この机上のシミュレーションが水害の後に行われたことを示唆しているのでしょうか。だとすれば、それ自体首都高や工事主体である東京都が怠慢だったことの現われといわねばなりません。
















●以上のように、あらためて今回の水害の”人災”要因のカギとなるのは、河川内構造物の影響問題だと感じています。

 この水害シリーズのNO.5で、川の流れの中に打ち込まれた数多くの桟橋の杭や鋼管矢板などが水流をいかに阻害するかについて、私なりの考察を掲載しましが、その後の検証で誤りが判明し、「石神井川の水位が300メートルにわたり平均16センチ程度上昇する」との推論は大幅に修正する必要があります。
 お詫びもうしあげるとともに、次回は全面的に河川内構造物の影響問題について論じてみたいと思います。

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