30年ぶりの上高地の徳沢園
2012年4月28日
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【本文】
井上靖の『氷壁』を覚えているだろうか。北アルプスの前穂高岳の岩登りをめぐる小説で、ロープの材質が問われた。55年前の作品(1957年新潮社刊)だがたまに映画やテレビに登場する。
桜見物に諏訪へ出向いたら北アルプスの稜線に雪が積もっている。
「去年は新穂高温泉や平湯に何度も出向いたけど、上高地を歩かなかったわ。」と妻がつぶやく。
せっかく高遠の桜まつりへ出向いてきたのに上高地はないだろう。
「それじゃ、上高地に転進しよう」と言い出しても妻は動じない。
諏訪から先の中央道は桜が満開で花吹雪の中を進んだ。
いつものとおり河童橋から山に向かって右側(左岸)を歩けば夏と違って人通りはまばらである。
雪が残る山道をぬかるみを避けて歩くと、
「連休が始まったのにやけに人が少ないわね」と妻が言い出す。
「こんな時期に歩くのは登山者かスキーヤーぐらいだ」と言えば、
「花見に来て、山を歩かされるとは思わなかった」と妻が笑い、
「岩魚の塩焼きを食うためにガマンしろ」といえばうなずく。
明神館の前でひと休みし、「これから徳沢園まで歩く」と言っても妻は反対しない。
「徳沢園に何があるの」と聞くから、
「おしるこがあるかもしれない」と言葉を濁すしかない。
「その言葉につられてクルマに乗ったけど、柳沢峠(奥多摩)にはなかったわ」と妻は笑う。
「井上靖が『氷壁』を書いたという宿がある」といっても小説を読まない妻には理解不能だ。
先に進めば山道はぬかるみが増し、小石が混ざって歩きにくい。
グチを並べず黙々と歩く妻が足取りを止めるから、何かと思えば植物の写真を撮り始めた。
ものぐさな妻がカメラのシャッターを押すのも意外だ。
一面の花は実が食い荒らされ、葉っぱだけになっている。
「あれ! サルが歩いている。何匹もうろついているわ」と先を指さす。
親子のサルの群れが餌を探して歩き回るのも珍しい。
「このサル、人に慣れてるわ。近寄っても逃げない。」と妻が叫び、
「子サルが一人で餌を探してる」と感心する。
「いつまでたっても母親に飯をつくらせる家の子どもとちがうよ」と言えば、
「それとこれとは別でしょ」と反論する。
明神館から徳沢園まで1時間かかった。山歩きをしてた頃は40分程度の距離だが今日は山を眺めて歩く散策である。
そして、この区間は妻には初めてのルートだ。
今ままでのルートは川原とそれほど落差のない林の中の広い散策路だが、今回のルートは川原を高巻いて作られた上下動を伴う狭い道だ。
「思ったより広い場所ね。こんなに多くテントを張ってるわ」と妻がやけに感心する。
そういえば小梨平キャンプ場ではテントを見かけなかった。
「雪山がそそり立っているし、遠くを眺めることもできる場所ね」と満悦だ。
上高地には妻を十回以上連れ歩いているけど明神橋までにとどめてきた。
それ以上歩かせても疲れるし、槍沢や涸沢へ向かう長くて単調な谷間の山道は退屈だ。
安全な下山路であっても景色を堪能する道ではない。
せっかくだから横尾キャンプ場までと思ったが雪が多いので諦めた。
北穂高岳から奥穂高岳を縦走するために上高地から雨の中を涸沢に向かい、土砂崩れ、4日逗留、沢で滑走した4月末にはロクな思い出がない。
新村橋の狭い吊り橋を渡り、人の通りが絶えた作業道路を嘉門次小屋の岩魚の塩焼きを楽しみに黙って歩いた。
【データ】
4/27(金) 16:30発(保パ・東名・環8・中央道)※事故で湾岸線渋滞のため迂回、18:00石川PA、19:20境川PA(宿の予約)、20:10八ヶ岳PA:リニューアル、21:00諏訪ルートイン(泊)・180km
4/28(土) 9:00発、みどり湖PA、松本IC、10:30沢渡駐車場、11:10上高地、12:10明神小屋前(休憩)、13:40−14:10徳沢園(喫茶)、新村橋、14:50−15:35
嘉門次小屋(岩魚定食・汁粉)、16:30河童橋※右岸は70分かかり左岸の50分より長い、腹痛で早足、17:00上高地でバス乗車、17:30沢渡駐車場、17:40奈川渡ダム分岐、奈川、木祖村、権兵衛トンネル、19:00−20:00みはらしファーム(入浴)、20:30−21:00高遠城址公園で桜見物、21:40ルートイン諏訪(泊)※本日から季節割増料金