白いチーズケーキにひかれて
2008年11月22日

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●寂しい夜の国道

 昨日は間に合うかもしれないという淡い期待をこめて中央道を使って八ケ岳へ出向いた。日没前に着いた小渕沢(こぶちざわ)は紅葉がすでに終り、静まりかえっていた。

 寒風と冷えこみにおびえ入浴はそっちのけにし、宿を探してようやく諏訪インター近くの茅野市の常宿にたどりついた。途中にある蔦木(つたぎ)宿などの日帰り温泉にわき目もふらず、うす暗くてクルマの少ない国道を寒さをこらえ窓ガラスを開けて走行した。久しぶりに暖房をかけると、内気循環に設定したままのエアコンで室内が曇って大慌てさせられた。

●霜取りに追われて

 朝8時を過ぎて駐車場へ向うと一面に霜が降りている。指でひっかいてもまったく手がおえない。エンジンをかけて霜取りをすれば、妻はまわりのクルマのガラスにはりついた霜をもの珍し気に眺め、排気ガスの白い煙がもうもうと吹き上がるのにおびえる。

 昨夜、諏訪インターに到着したとき摂氏2度の標示に驚いたが霜のことまで気がまわらなかった。ぞうきんで窓の雪を落とすだけで指先がかじかむ始末である。霜取りのためにかれこれ10分かければ、「毎朝こんな作業をするのも大変ね」と妻がつぶやく。

 日は明けたもののまだら状の日陰の路面にスリップしないかとおびえて再びハケ岳へ向う。

●富土見峠

 黄色や橙に変わった山々の木々は陽光を浴びて赤味を帯びている。くすんでいても太陽の光が活気を与えて華やぎをかもすのも不思議だ。うす暗くて昨夜は気にもとめなかった谷間の集落がどことなくひなびて映る。

 富士見峠の下りでかなたに富士山を初めて見た。
「国道からも見えるんだ」とわたしがつぶやけば、
「何度もここを走っているのに・・・」と妻は呆れる。

 朝方に東京へ向けて走ったことがないから今まで気がつかなかった。ここを通過するのは午後か夜ふけで景色どころではなかった。
「前々から富士見と富士山の結びつきが気になっていた」とつぶやけば、
「富士山が見えるからでしょ」と妻は笑う。

●枯葉の中を

 小渕沢からなじみのハケ岳高原ラインを走る。有料道路の頃からだから妻より長いつきあいである。昔はつづれ折りのカ一ブ走行の緊張感を楽しんだが、同乗者と移り変る景色をゆっくり堪能(たんのう)して走るのも楽しい。富士山がときどき姿を見せるものの木々の並木がさえぎるのもしゃくだ。

 先日はジローズの「枯葉の中で」という失恋歌のコードを勝手に当てはめた。C・Em・F・C、Dm・Em・F・Gの繰り返しを探すまで2日かかった。あいかわらず、さようなら♪のコードはわからない。

 カ一ブ走行に浮かれて口ずさめば、「そんな歌は聞いたことがないわ」と妻はにべもない。枯葉の中を腕を組んで歩いたことのない女には分からないのだろう。


●まきば公園

  

 富士山を眺めるために初めて《まきば公園》へ立ち寄った。広々とした牧場のかなたに富士山が浮ぶものの寒風吹きさらす冷え込みに耐られず、たちまちクルマに戻る。遮蔽物がないから下から次きあげる風と冷え込んだ寒気があいまって身震いする始末だ。

 のどかな牧場を散策するのは夏に向いているだろう。そのせいか、今回はすこし先にある広い駐車場は閉鎖されていた。ともあれ、前からある仙人小屋や東沢大橋より多数のクルマが駐車できるから人が集るようだ。


●白いチーズチーキにひかれて

   

  

 なじみの美し森から奥に向うと《白いチーズケーキがあります》の看板が目に入った。那須や上高地もケーキにひかれて立ち寄った夫婦には無視できない文句だ。入ってみれば元は高根町営のたかね荘である。美し森ファームという耳慣れない名前に腰がひけたが、チ一ズケーキと野鳥観察を売り物にして《森と林に囲まれた星空に近いキャンプ場》というおおげさなタイトルをつけて今も営業している。http://www.utsukushimori-farm.com/

 平成の大合併で山梨県にはなじみのない市町村が増えた。甲州市、笛吹市や中央市がいったいどこにあるかとまどい、小渕沢、白州、大泉、長坂、須玉、武川、増富を一緒にした北杜〔ほくと〕市の名前が読めなかった。清里のある高根町も北杜市になった。そのせいで合併前にあった町営や村営の施設の名前が変り、出向くたびにとまどう。

 わたしが初めて清里を訪れた春は山に雪が残って山歩きどころではなかった。キャンプ用具を脊負い、雨の中を清里駅から1時間歩いて美し森にある《たかね荘》に着いたときはくたびりきっていた。そのときの思い出はホームページの「初めての清里」http://www5f.biglobe.ne.jp/~nobu-yamada/page311.htmlに残しているが、美し森駐車場から展望台に至る急な登りは今も苦手だ。

 小鳥のさえずりを眺めて半生のチ一ズケーキを味わうと美し森を思い出した。たかね荘から展望台へは歩いて10分という。
「それほどのアップダウンはないから」と促せば、ケーキの効果もあって妻はさっさと先を進む。背面に雪に覆われた赤岳を眺め、林の小径を軽快に歩いた。
「こんな近道があったんだ」と妻は驚きを隠さない。何度か下の駐車場から歩かされた妻には思いもかけない小径に映ったようだ。

●美し森展望台

  
     清里駅に向う道                    美し森の富士山

  
      美し森ファームへの道               青空と枯木

  
         展望台                    登ってきた人たち

 富士山ファンは多いけれど、そしてわたしも妻もそのひとりだが、どこでも目につくのが難点だろう。ありがたいようでありがたみがうすれ、出しゃばりの煙むたさがつきまとう。美人は無口でしとやかなほうが神秘性がある。言葉にしたり目につけばアラが目立ち、あれこれ批難されるのも美人ゆえのつらさだろう。ブスだったら愛嬌と許されるものが、美人ゆえに断罪されるのも皮肉だ。

 ハケ岳の南側の山麓でたいして歩かずに富士山を眺めるには美し森が欠かせない。むろん歩かなくても駐車場から眺められるが、展望台からはなだらかな秩父の山々、北岳から甲斐駒ケ岳を結ぶ南アルプスの岩峰、あるいは目前にそびえる硫黄岳、赤岳、権現岳を仰いで富士山を眺められる。

 でも難点は石だたみの急な坂だ。日差しを避ける物がない夏場は生き地獄の歩行を強いられる。この展望台も今日で閉店という。食品の割引販売にひかれて入れば「近くには春に水芭蕉も咲く」という店のおばさんの声も心なしか寂しく響いた。

●初めての天女山

  
      パノラマの湯の富士山            天女山の石碑
  
      天女山の富士                     編笠山

 甲斐大泉のパノラマ温泉の生ぬるい露天風呂につかり富士山を眺れば妻はごきげんである。昨年の夏は雷におびえて入浴どころではなかった。昨夜の小渕沢では寒さに震えて入浴どころでなく、今朝立ち寄った蔦木宿の風呂は準備中だったから十分満足したようだ。内湯に十分つかって身体を温めてから露天風呂へ入ったわたしとちがって、露天風呂に直行するあわて者だ。

「せっかく来たから天女山へ寄って行こう」と言い出せばきょとんとしている。
「クルマで行けるところまでにするよ」とつけ加えてようやく納得した。

 高原ラインから10分もしないうちに駐車場があり、そこから数分で広場のような山頂に着いた。ほんとうにあっけない。美し森から歩けば5kmだから嘘のようだ。八ケ岳だけでなく富士山も堪能できる穴場である。山歩きをしてきたわたしにはあまりにも簡単すぎてすすめたくないが、権現岳から編笠山に至るなだらかな八ヶ岳の尾根を眺めるのも悪くはない。

●工場見学

  
    集合場所のウィスキー博物館           もみじの紅葉

 話のタネにいつもは通り過ぎる北杜市の白州にあるサントリーの蒸留工場へ立ち寄った。空いているとタカを食っていたが広い駐車場はマイカーがあふれている。3連休のひまつぶしに誰もが思いつくからだろう。帰ろうとすれば妻はけげんな顔つきをする。待つのも嫌だし、遅れれば渋滞に巻き込まれる。それにウイスキーを飲み過ぎて身体を壊したわたしにはどうでもいい場所だ。

 見学コースはウィスキー蒸留と天然水製造の2つあるがいずれも60分かかるという。15分おきにガイドがつくというので我慢して入場すれば、25分後になるという。よく確かめれば各コース30分おきに行われ、自由な見学はさせないようだ。ウィスキーコースの方が参加者が多いのは試飲を楽しみにするからだろう。むろん天然水コースもウィスキーの試飲つきだ。

 アルコールに縁がなくなっても天然水やジュースを飲んで、美味そうにウィスキーを試飲する人たちを眺めるのもしゃくだ。近くにはケーキ工場やアイスクリーム工場もあるのに見学チラシが見当たらないのもわたしには寂しい。

●おまけ

   
      韮崎からの富士山(国道20号の渋滞中に撮影)
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