上高地から新穂高ロープウェー
2008年11月02日


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1 晩秋の上高地散策

 塩尻のホテルを7時前に発ち、脇道を走って午前8時に沢渡(さわんど)の駐車場に着いた。どこの駐車場も満車である。昨夜は諏訪湖や松本インターのビジネスホテルが満室で断られ、上高地の紅葉は10月中旬だから季節はずれだとタカを食っていたわたしには意外だった。
 谷あいの卜ンネルを抜けて走る国道158号の周囲は赤味のまざった紅葉である。釜トンネルを抜けると焼岳に雪がびっしり張り付いている。道路のまわりは黄色と緑のぶちになった風景が続いてどこにも赤色が見当たらない。。寒風が次く上高地バスターミナルヘ着けば、「先週の札幌より寒いわ」と妻がつぶやく。暑がりのくせに寒さは人一倍敏感だ。

 身ぶるいしながら梓川にそって河童橋へ向うと小径はやけにぬかるんでいる。焼岳は雪に覆われ、穂高の峰々には雪と岩肌がコントラストを見せる。いつになく稜線がくっきりしているのも寒気のせいだろう。帰ろうと言い出すかと思っていた妻はイワナの塩焼を口にする。那須で買い込んだヤッケを着せ、クルマに常備してある帽子をかぶせて梓川の左岸〔山に向って右側〕を歩く。林の中を吹きぬける風が木々とぶつかってごうごうと音を立てる。杉の小さな刺が舞うから妻は深く帽子をかぶっている。「紅葉って赤いのに黄色しか目につかないじゃない」と批難しても先へ進むのにあきれた。

 明神館に着くころは日も射して過ごしやすくなった。明神橋の吊橋は風が吹きさらすので帽子を手に持った。午前10時に嘉門次小屋へ着くと観光客があふれている。河童橋から右岸や左岸を歩いても1時間の道のりで適度の散策ルー卜だからだろう。明神池のある穂高神社奥社に参る客が多いのに驚いた。いつものとおりイワナの塩焼を頭からかじりつき定食をたいらげた。「いつもより小さくなったじゃない」と妻がつぶやく。たしかに小ぶりになった。隣の「山のひだや」の塩焼は倍以上ある。帰る途中に「ここのも食べて行くか」と言えば、「イワナはやっぱり嘉門次小屋ね」と答えるのがおかしい。

 右岸の林の中を河童槁へ向えばひっそりしている。清流の中にイワナが泳ぐのを眺めて、「塩焼にしたら美味しそう」ともらすのに呆れた。久しぶりに入った明神池では見当らなかったのに水の流れに逆らって泳ぐイワナは美しい。イワナもヤマメもサケ科だけれど小ぶりなのは川に残ったちがいだろうか。ちなみに、ヤマメはサケ属のサクラマスの河川残留型といわれ、イワナはオショロコマを始めとするイワナ属である。1992年に亡くなった今西錦司さんがイワナとヤマメを論じていたのが懐しい。サケ、マス、アユはマス目に属す親類だけど塩焼きはイワナに限るようだ。

 12時すぎて河童橋へ戻れば観光客であふれている。妻は雪に覆われた岳沢を眺めてやたらと感激をもらす。五十肩でどこへも出向けなかった罪ほろぼしが、11度目とはいえ夏の上高地しか知らない妻に新鮮な印象を与えたのだろうか。


2 新穂高ロ一プウエイから北アルプス眺望


 河童橋で上高地散策を振り返っていると、「穂高へ寄って行きたいわね」と妻が言いだす。初めて連れて行った禄山美術館やわさび田のある安曇野かと錯覚した。妻はきょとんとして、「何言ってるの。ロープウェイと温泉がある穂高よ。安房(あぼう)卜ンネルを抜けて何度も行ったじゃない」と言う。温泉と食い物だけでなくロープウェイもしっかり記憶にとどめている。

 上高地から沢渡駐車場へ戻るタクシーの運転手の小林さんによれば、紅葉は岐阜県側の方が盛りという。平湯温泉、新平場温泉、栃尾温泉、蒲田温泉、新種高温泉と並べたあげく、ロープウェイの順路までこと細かに説明してくれた。新穂高温泉には混浴場もあって夫婦で入浴できますよとそそのかすのも困ったものだ。イワナの塩焼きの次は温泉と思い込んでいる妻はもう一泊も辞さない気になっている。

 新穂高ロ一プウエイに至る道は小林さんの言ったとおり、卜ンネル2つができて楽になった。以前は狭い道を行き交うしかなかったからけっこう冷や汗をかいたものだ。スキー場がなくなって鍋平駐車場が広がり、第2ロープウェイまで一般車が入れるようになったのも嬉しい。教えてもらったとおりに右折して狭い山道を登れば白い雪に覆れた北アルプスの前にもみじほかが真っ赤に紅葉してまばゆい。ギアのレンジを落としてぐんぐん走れば妻は呆れる。

 3連休の中日なのでロープウェイは整理券を発行し、20分待ちという。たった7分の乗車で2150mまで上がれるからだろう。家族連れが目立ち、関西弁が多い。120人乗りの2階建ゴンドラで西穂高口駅に着けば周囲は雪で覆われて肌寒い。千石園地を歩く気はとっくに失せ、展望台から写真を撮るだけで身震いした。北アルプスの峰々が雪に覆れる中で槍ケ岳の頂が岩肌をさらすのに妻と驚いた。正面の穂高連峰はどっしりそびえ、今までどこにあるか気づかなかった西穂高山荘までくっきり見える。2900mにある山小屋がこんなに近くあるのもこのロープウェイの魅力だろう。「西穂高山荘から上高地へ入ることもできるんだよ」とつぶやいても妻が関心を示さないのでほっとした。

 妻が楽しみにしていた入浴はビジターセンターに併設されている「神宝の湯」でごまかした。男女別の露天風呂だけで、石鹸を使わせない簡素な施設である。温度計も効能書も見当らぬ風呂だけど、ちょっと熱目だがほてってくる感触は確かに温泉である。湯上り美人になった妻が満足し、帰りがけに日帰り温泉をいくつも見かけても立ち寄らうと言い出されずに済んだ。

 追記:連休の渋滞にまきこまれ大月〜小仏峠35Kmで帰宅は午前1時になりました。いつものとおり思い付きで出向いた上高地と新穂高ロ一プウェイめぐりはこれで終りです。

 


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