おとずかい
第5章 和音の本文

上高地田代池からの穂高連峰


 トップページ  音楽本   コード進行


音図解もくじ

   1 和音と五度圏                  ● 第5章のあらましへ戻る

   2 和音のしくみ

   3 基本的なコードの区分

   4 ダイアトニック・コード

   5 主要三和音

   6 近親調

   7 変化記号の並び


第5章 和音

 この章は必要なことにしぼって説明しています。解説書が多数あり、いずれも図解つきでわかりやすい説明がされています。
 でも、こまかいことにふれすぎて迷路に入り込むことも多い分野です。
 そこで、図解を省略してわたしがとまどった部分の解説につとめました。
 ここを読み終えたら「誰にもわかるコード進行」に進んでください。
 こどもの歌やフォークとGSの約400曲のはじめと終りのコード進行パターンを分類し、
  @和音のつけ方
  A終止形の使われ方
  B代理コードの展開
  Cスリーコードと4コードの典型パターン
  D循環コードのパターン
  Eセカンダリー・ドミナント
  Fルート進行
  Gコード進行の修飾
 を細かく説明しています。
 この章は簡単にまとめていますが、基本となるものばかりですので甘く見ないでください。
 和音の大海で難破しないようにしてください。
 ここを理解すればコードの分析や修飾もスッキリ理解できます。

1和音と五度圏

 楽器の演奏はひとつひとつの音を弾く方法と複数の音をまとめて弾く方法があります。
 音をまとめて弾き、進行させるのが和音です。そこには音の組合せの約束があります。
 基本となるのは第4章の音階や音程ですが、和音どうしの結びつきも無視できません。
 音程や調性を説明するのが五度圏ですが、和音の進行もまた五度圏で理解した方がわかりやすいので繰り返します。

(1)和音               【図5−1】 
 和音は主音の上に3度ずつ積み重ねた音の組み合わせで三和音と四和音があります。

 転回形はある和音の組み合わせの並べ方を変化させたものです。
  @三和音では、基本形・第1転回、第2転回の3つです。
  A四和音では、基本形・第1転回、第2転回、第3転回の4つがあります。
  B転回の数が増えるほど基本形とずれた響きが出ます。
  C同じコードのどの音をベースにするかは「分数和音」や「オンコード」で扱われます。
 なお、転回音程については図4−10や4−11でふれました。

      

(2)いずれも同じ和音       【図5−2】  
 T・S・Dの属性で表すものとT・W・Xのローマ数字で示す方法は同じことです。
 【注】T=トニック(主和音)、S=サブドミナント(下属音)、D=ドミナント(属音)
 この3つの和音だけで弾ける曲は童謡・唱歌・フォークにたくさんあります。
 この組みあわせを知ることにより、調号を変える「移調」も簡単にできます。
 なお、「ギターに挑戦」で簡単に作れる移調器の作成を紹介しています。

      

(3)五度圏             【図5−3】  
 音ないし調の循環を円形に表示したものです。4度進行とも呼ばれます。
 後述する近親調の結びつきもこの図をながめて扇形の関係になるの確かめてください。
 音階では音名の変化でしたが、和音では調性やコード名の変化になります。
 同じ円では5度または4度の動きですが、別の円とは3度の違いがでます。

      

                                   文頭に戻る

2和音のしくみ         【図5−4】

 和音は音を積み重ねて響きを発生させます。1オクターブ内では3または4の音に限って使われます。
 近寄りすぎると不協和音程になるからです。和音の進行は協和音程と不協和音程の結びつきです。
 そこで、これから和音がどのような音の組み合わせかを確かめます。

(1)三和音
   ルート(第1音)、3度、5度音を重ねた和音

(2)四和音
  重ね方に2つのパターンがあります。
  @7th系・・・・ルート、3度、5度、7度(長・短)の重ね
  A6th系・・・・ルート、3度、5度、6度(長)の重ね

      

(3)和音の構造         【図5−5】
 次の図は「楽典♪音楽理論の基礎」から引用しました。http://musical-grammar.com/note005.html
 三和音にしぼりましたが、四和音については図5−6を参考にしてください。
 3度、6度、7度の音程には長と短があることを思い出してください【図4−3】。

  @長三和音・・・長3度(4半音)と短3度(3半音)の組み合わせで5度は完全(7半音)
  A短三和音・・・短3度と長3度の組み合わせで5度は完全
  B増三和音・・・長3度を2つ重ねるため5度が増になる(8半音)
  C減三和音・・・短3度を2つ重ねるため5度が減になる(6半音=3全音)

      

                                   文頭に戻る

3基本的なコードの区分

 和音の基本は1オクターブ以内の音の組み合わせです。
 それ以上の音を積み重ねた和音はテンションコード(修飾和音)と呼ばれます。
 
(1)コードの区分             【図5−6】
  @メジャー(長三和音)
  Aマイナー(短三和音)
  Bオウグメント(増三和音)
  Cデミニッシュ(減三和音)
  Dメジャー・セブンス(長七和音)
  Eマイナー・セブンス(短七和音)
  Fドミナント・セブンス(属七和音)
  Gマイナー・メジャー・セブンス(和名なし)
  Hオウグメント・セブンス(和名なし)
  Iデミニッシュ・セブンス(減七和音)
  Jメジャー・シックス(長三和音付加六)
  Kマイナー・シックス(短三和音付加六)
  Lサスフォー【サスペンデット・フォー】
  Mセブン・サスフォー【セブンス・サスペンデット・フォー】

      

 どういう音が組み合わされているかを確かめてください。メジャー、マイナー、ドミナント・セブンを知っておけば十分です。
 ギターで最低限必要なコードは図6−6のとおりです。これもすべて覚える必要はありません。代理コードや移調を身につければ7つのコードで切り抜けます。
 平均律をもとにした西洋音楽はひとつの音階を覚えれば微妙な違いを問わなければ他の調への移調も簡単にできます。
 図4−6の異名同音と同じように図4−23の「異名同調」がありますから恐れることはありません。

(2)コードネームの表記          【図5−7】
 コードの表記は統一されていませんが次のような暗黙の了解があります。
  @長調はメジャー(M)、短調マイナー(m)。♯や♭の付く長調や短調もあります。
  Aルートはアルファベットの大文字で表記し、キー(調)を示します。
  B3度音は長音(M)は表記されません。短音はmで表記されます。
  C5度音は増減を除いて表記されません。また、音符が省略されることも多い。
  D6度音は数字だけ表記されます。6度音の付加は長音に限らます。
  E7度音の長音はMで表記されます(majや△もあります)。短音はmを表記せず数字だけ(7は短音です)。
  Fその他は、9、11、13は数字のみ表記されます。
   aug(増、+)、dim(減、−)、sus(吊り上げる)、add(加える)など多数の付加表示があります。

      

                                   文頭に戻る

4ダイアトニック・コード

 ダイアトニック・コードは全音階(ダイアトニック・スケール:図4−4を参照)に和音を積み重ねたものです。
 音階は始めのドから上のドまで8音表記ですが、和音はTからZ番まで7音表記です。
 長音階と短音階を表記していますが、短音階は自然的短音階にとどめています。

(1)三和音                 【図5−8】
 長三和音にはMは付かず、短三和音にmが表記されます。長調のダイアトニック・コードには短音が含まれます。

      
 

(2)四和音                 【図5−9】
 長三和音にMが付きます。加わる7度音が長7度のときにMがつき、短7度のときは7だけです。つまり7は短7度を表します。

      

(3)ダイアトニック・コードを分解すると  【図5−10】
 なぜBm(♭5)なんて長たらしいコードが出てくるかが気になって作りました。他の和音が7半音なのにこのコードだけは6半音の減5度音程なんです。
 音階の「ミからファ」と「シからド」は半音です。その上に音を重ねれば3度が短音程(m)になる組合せは4つ生じます。
 ダイアトニック・コードは音階が三つ重なった構造だということをすっかり忘れていました。音楽解説書はこんな当り前なことににふれていません。「宮脇俊郎のらくらく理論ゼミナール」(リットー・ミュージック)が参考になります。
 こんな泥臭い分解をしてようやく長調のダイアトニック・コードに短音程が含まれるのに気づきました。
 この先に興味がある方は「音楽ガイド」で確かめてください。

      

                                   文頭に戻る

5主要三和音               【図5−11】  

 T・W・Xを主要三和音といい、その他を「副三和音」といいます。
 副三和音は主和音に代用され「代理和音」とされます。代理和音は「音楽ガイド」でふれています。

      

(1)役割と進行する方向
 三つの関係は、感情や気分の動き(明るい、暗い、そのあいだ)で説明したり、演劇の主なキャラクター(主役、悪役、脇役)で説明されます。この説明のしかたが解説者の経験や知識を反映しておもしろいですね。失恋を持ち出したり、抗争にたとえたり皆さん苦労しています。三つ巴は三角関係ですがわたしはふれようがありません。音楽解説書に楽しさがあふれているのが主要三和音の説明です。
 基本はトニックとドミナントの対立と解消ですが、それに火をつけたりなだめるのがサブドミナントです。
 物知りぶって言えば正義と悪の弁証法でしょうか。まったく反対なものにも、どちらにも似たような要素があってその矛盾を解消して次の展開に至るというギリシャ哲学に始まる弁証法ですね。その子孫の西洋音楽は、三位一体のキリスト教も含めて3つで説明するようです。詳しいことは中山元「思考の用語辞典」(ちくま学芸文庫)や三浦つとむ「弁証法はどういう科学か」(講談社現代新書)などが参考になります。
 サブドミナントは「トリックスター」でしょう。鳥にも虫にもなるコウモリ、あるいは神話に登場するいたずら者ですね(水木しげるさんの「ゲゲゲの鬼太郎」のネズミ男を思い出してください)。音楽と関係ありませんがトリックスターについては山田永さんの「アンパンマンと日本神話」(集英社新書)がおもしろいですね。いたずら者といえば古いテレビ番組「ひょっこりひょうたん島」に登場した海賊トラヒゲもいました。やんちゃで、悪いけど憎めないキャラクターでした。サブドミナントはそういう欠かせない役割を持っています。正義と悪だけじゃ音楽はつまらないですね。ここではふれませんが代理和音もそういう脇役なんです。代理が主役を食うことだってあります。
 ともあれ基本進行はトニックに始まり、寄り道を経て、トニックに戻ります。クラッシクには、ドミナントからサブドミナントへの進行は禁則とされます。何でもありのポピュラーにも代理和音は主和音の前に置かない禁則もあります。

(2)和音の終止形(ケーデンス)  
 曲の終りだけでなく曲の始まりにも使われます。ここはどの解説書も力を込めて説明しますので要点だけにとどめます。
 ドミナント・モーションの意味と和音の動きを押さえておけば怖いものなしです。図解はインターネットで確かめてください。
 てごろな解説書は角聖子「ピアニストのためのコード学習帳」(リットー・ミュージック)でしょう。読む・弾く・解くの繰り返し図が巻頭に出てきて煙たいけれどわかりやすいですね。

  @T・D・T    ドミネントからトニックで終わる「ドミナントモーション」が特徴です。

  AT・S・D・T  サブドミナントから「ドミナントモーション」で終わるパターンです。

  BT・S・T    サブドミナントからトニックで終わるもやっとした終了です。アーメン終止

  *唱歌や童謡はD→Tで終わる@とAのパターンがほとんどです。
  *ビートルズの曲はS→Tで終わる曲が多いようです。
                                   文頭に戻る

(3)和音の進行で頻出する用語 
 コード進行の解説書を読むときとまどうのが進行を示す言葉です。
 すでに図4−13や14で説明した上行・下行・並進行・反進行・斜進行のほかに次の言葉を知っておいた方が理解しやすいので簡単に整理しておきます。専門家は何気なく使いますが素人はそのたびにギョッとさせられます。
 ここも解説書が懇切丁寧に図解つきで説明するので図解はしません。

 進行パターンの基になる考えは次のとおりです。
  @強進行    DからTへのルート(根音)の4度上行をいいます。
  A代理和音  T・W・X以外を用いた和音です。「音楽ガイド」でふれています。
  Bツー・ファイブ Wの代わりにUの和音を用いてU→Xに4度上行させた強い進行。
  C偽終止(ぎしゅうし)  最後のトニックを代理和音のYで終わること。Vは少ない。
  Dセカンダリードミナント 借用和音を用いてドミナント・セブンのモーションにさせること。
  E転調      曲に変化を与えるために臨時的に別の調に変えること。            
  F半進行     ある音からDへ向かうこと。               
                                   文頭に戻る

6近親調              【図5−12】  

 結びつきやすい和音と結びつきにくい和音にはそれなりの理由があります。協和音程ばかり並べてもしまりがないノッペリした流れですし、不協和音程を並べられても不快になるだけです。
 近親調は結びつきやすいものを説明する考え方です。五度圏と近親調のつながりでは5度または4度の関係(いずれも完全音程です)ばかり目につきますが、3度の関係(長と短の区別がある音階です)も現れています。
 脱線しますが近親とか身内は、良い時には円満なんですがこじれたら他人より始末が悪いようです。旧約聖書だって身内のいさかいばかり並べたてられてうんざりします。夏目漱石の名作にもそんな作品がありましたね。そして近親相姦や近親憎悪なんて耳にしたくない言葉もありますね。近親調もそいう矛盾をはらんでいます。続けて並べれば良いわけではないようです。
 それにしても、CとAmの平行調はなじみやすいのですがCとCmの同主調は短3度の違いなのに調号も変わって(Cmは♭が3つもつく)スッキリしません。
 和音の解説は平行調の説明が多いのですが、たまに同主調を持ち出した説明もあって戸惑わされます。♯や♭は音楽アレルギーのもとですね。
 
 調には次のような関係があり、和音の進行に使われます。
  @主調(トニック)  調を決めたり、ベースとなる根音を基にした調。
  A属調(ドミナント) 主調から5度上の不安定感を持ち、主調に向かって安定する調。  
  B下属調(サブドミナント)  主調から5度下の下行限定進行音ともいわれ、やや不安定な調。
  C平行調   主調と同じ調号で、主音から短3度下の調。移調や転調に使われる。
  D同主調   同じ主音から長3度上の調。移調や転調に使われる。

      

                                   文頭に戻る

7変化記号の並び

 変化記号の付かないCメジャー(ハ長調)やAマイナー(イ短調)に親しんでいると他の調の変化に気が付きません。
 移調して音を出してみると微妙なズレを感じるのも変化記号を無視するからでしょう。
 個々の音階のどの位置に♯や♭がつくかという疑問がきっかけで和音も調べたのがここにまとめた図解です。
 知らなくても済むけれど確かめたい方は参考してください。音楽に興味のない方には最も退屈な部分だと思います。
 
(1)ABC順に並べたもの
 和音の進行を解説する本にふろくとして掲載されるものです。
 ABC順は辞書の索引と似て、とさの場合に弾くときには便利なものですが規則性はわかりません。
 調ごとの音階表には「調号」しか記載されません。♯や♭が付いている位置に変化記号が及ぶ約束があるからです。
 そのたびに変化記号を確かめるのも面倒だから整理しました。

  @長音階                 【図5−13】
      

  A自然的短音階            【図5−14】
      


(2)変化記号順に並べ替える
 こちらは音楽入門書や楽典に掲載されるものです。五度圏を前提にした並びです。
 でも、五度圏を説明するために掲載するのでC(変化記号なし)、G(♯がひとつ)、F(♭がひとつ)の順で説明して次にふれていません。
 親切な解説書はテトラコード(4音列)の移動で五度圏の成り立ちを説明しますがキツネにつままれたようなとまどいを覚えます。
 長音階のテトラコードは全音・全音・半音の対称的な音階ですが、短音階は対称的ではないからです。
 とはいえ和音にも♯や♭の付く位置に規則性があります。
 そして、ダイアトニック・コードは全音階を基にした変化記号に加えて、構成する音による変化があります。

  @長音階                【図5−15】
      

  A自然的短音階           【図5−16】
      

        お疲れさまでした。長いおつきあいありがとうございます。

                                第5章のあらましへ戻る

                                    文頭に戻る