図解編
担保と保証の基礎知識
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担保って何だろう
物的担保と物上保証人
人的担保と保証契約
連帯保証と連帯債務
1担保って何だろう
民法には担保の定義が見当たりません。物権編に「担保物権」の種類、債権編に「担保責任」の条文があっても「担保」がどういうものかについての定義が見当たりません。
ちなみに、担保物権は、債務者が返済できないなど「債務の不履行」が生じた場合に、財産などを返済にあてるもので債務者の財産とは限りません。また、担保責任は、売主の担保責任のように債務者の履行が不完全(瑕疵)な場合の責任です。
両者に共通するのは、担保は何らかの事情によって債務者が契約を履行しない場合に備えてあらかじめ用意したリスクの回避手段といえます。
担保物権や担保責任の内容や性質、あるいは物的担保と人的担保の区分、そういうことに細かい解説があっても、全体をまとめる概念を無視して先に進むのが民法解説の通例です。
ともあれ、担保は、@債務者の不履行に備えて、Aあらかじめ、B債務者の財産などを用意する、Cしくみとしておきます。
若干の補足をすると次のとおりです。
・担保は財産に限りません。物権や債権に出てくるように財産だけではありません。責任は行為を含みますから「給付」もかかわります。 ・担保を提供するのは債務者だけではありません。物権編の「物上保証人」(351・372)や債権編の「保証人」(454〜465)のように債務者以外の第三者を含みます。 |
こういうことを忘れて、担保権の実行や担保物の処分、あるいは保証人への請求を論じても不毛です。不従性、随伴性、不可分性、物上代位性、優先弁済的効力、留置的効力(以上は物権担保)のほかに補充性(保証の抗弁権)を持ち出しても混乱するだけでしょう。
■参考:上記の説明は次の図解を参考にしてください。
・物権のあらまし
・債権編のあらまし
・債権回収あれこれ
物権は民法175条で、この法律その他の法律に定めるもののほか創設することができないとします。法定担保は「典型担保」と呼ばれますが民法に規定される物権です。非典型担保は物を介在させていますが、契約自由の原則(この原則も条文はありません)による「担保」です。
法定の担保物権は「物的担保」とも呼ばれます。そして、留置権と先取特権が「法定担保」、質権と抵当権が「約定担保」に区分されます。
物権編は権利を中心に書かれていますので財産(物)の所有者がぼかされています。留置権や先取特権は所有者が不明ですが、質権は「債務者又は第三者から受け取った物」(342)、抵当権も「債務者又は第三者が占有を移転しないで担保に供した不動産」(369)とあり、第三者の財産を含めています。
他人の債務を担保するため質権や抵当権を設定した人を「物上保証人」といいます(351、372)。抵当権は質権の条文の準用ですが、求償権の条文から読み取るしかない定義であることに注意してください。
ここでは個々の権利に触れませんが、物的担保(担保物権)には次の性格があると説明されています。
●役割(機能): 債権者平等の原則の例外として弁済を確保する ●性質: @不従性:担保物権は債務があるのを前提とするから、債務が消滅すれば解消する A随伴性:債務が移転すればそれに伴って担保物権も移転する B不可分性:担保権は債務のすべてが弁済されるまで解消されない C物上代位性:優先的弁済効力を持つ担保権は、目的物から受ける債務者の権利(売 ●効力: @優先弁済的効力:債権者は担保物の処分から得た代金から優先的に弁済を受ける A留置的効力:留置権や質権は物を占有することにより、債務者に弁済を促せる |
以上を眺めると、物的担保はかなり強力な法的権利です。
でも、それを処分するのは債権者ではありません。
自力執行の禁止(これも条文に見当たりません)がされているので裁判所に請求し、民事執行法などの手続きにより担保権の実行や処分が行われます。
3 人的担保と保証契約
担保が他人の財産で良いなら、他人が保証し、他人を債務者に加えれば良いという考えも生まれます。財産があるのが望ましいのですが、債務者より確実な収入や信用がある方がリスクを回避できるからです。そこで、債権者は、保証人と保証契約を交わし、第三者を主たる債務者(当事者)と連帯する債務者とする契約を結びます。こういう契約を「人的担保」といいます。物を担保にするのでなく、保証人や連帯債務者を当事者にして請求権を得るので「人的担保」と区分されます。
保証契約の問題点は、債権者と契約を結ぶことで、債務者の不履行により弁済する義務を負うことです。履行する気が欠ける債務者や履行する資力のない債務者の場合は尻拭いするだけの立場に置かれます。そんな債務者にどうして債権者は契約を結んだと主張しても、保証契約は債権者と保証人の契約です。債権者に、「わたしはあなたと契約したのです。あなたが弁済したお金は債務者に請求してください」と言われるだけです。債権者は弁済してくれる人だから契約したとか、保証というものはそうゆう契約ですと主張します。
もちろん、通常の保証契約は、まず債務者に請求してください(催告の抗弁権)とか債務者にこんなの財産がある(検索の抗弁権)という反論ができます。そう言われれば、債権者は債務者に請求するしかありません。でも、そういう反論ができない契約が連帯保証です。取りやすいところから債権額を回収するための契約が連帯保証です。弁済額を債務者に請求できると言っても、債権者が請求しても応じなかったツワモノで、クワセモノの債務者に何が期待できるでしょうか。そこで、保証契約の条文を並べてみますので読み直してください。2で取り上げた物上保証人の「求償権」は保証債務の求償権を準用しています(351、372)。確実に身に付けてください。
条文のポイントは次のとおりです。
1保証契約は、債権者と保証人が書面を交わして行う契約です。
2保証人は、法律行為が行える者で弁済する能力がある者。未成年者や無能力者でなく、資力のある者ですから、浮浪者はなれません。
3保証額は、債務金額だけでなく利息、違約金、損害賠償金などを含めた金額です。
4通常の保証人(単純保証人や共同保証人)は催告及び検索の抗弁権を持ち、債権者がそれを行わなかった場合は義務を免責される額があります。
5連帯保証人には抗弁権はなく、債務者に先立って弁済を求められることもあります。
6共同保証人は保証人の人数に応じて負担割合が変わります。
7保証人は、主たる債務者や他の保証人に自己の負担割合を超えた弁済額を請求できます。
・保証人の責任等(446): @主たる債務者が、その債務を履行しないときに、履行する責任を負う。 A書面でしなければ効力を生じない。 ・保証債務の範囲(447):主たる債務に関する利息、違約金、損害賠償その他に従たるすべてのものを抱合する。債務額だけではありません。 ・保証人の負担が主たる債務より重い場合(448):主たる債務の限度まで減縮する。債務者の額より少なくするとは書いていません。 ・取り消すことができる債務の保証(449):未成年者・未成年後見人・被保佐人などの行なった法律行為だけ取り消せる ・保証人の要件(450):@行為能力者であるA弁済する資力を有する者。物はなくても「資力」つまり収入力や金を借りる信用のあるマトモな人です。 ・他の担保の供与(451):保証人を立てることができないときは、他の担保を供してこれに代えることができる。どうしても保証人が立てられなければ担保を出せということです。担保がないから保証人を立てるのにおかしな条文です。担保と保証は同じだから、どちらかを出せという規定です。 ・催告の抗弁(452):まず債務者に請求しなさいという反論です ・検索の抗弁(453):債務者に財産があるからまずそれを調べてくれという反論です。 ・連帯保証の特則(454):催告の抗弁や検索の抗弁はない ・催告の抗弁及び検索の抗弁の効果(455):保証人が抗弁したのに債権者が手をこまねいて債務者の弁済のチャンスを失ったときはその範囲の義務を免責されます ・数人の保証がある場合(456):分割債権・分割債務の条文を準用して、それぞれが等しい割合で負担すること。保証人が二人なら1/2、三人なら1/3。債務者は加えません ・主たる債務者に事由の効力(457): @時効の中断・・・保証人に対しても効力が及ぶ ・連帯保証人に生じた事由の効力 @履行の請求、更改、相殺等、免除、混同、事項の完成は他の連帯保証人に対しても同じ効力が生じる(絶対効力) Aその他については相対的な効力しかなく、効力は及ばない ・委託を受けた保証人の求償権(459) ・委託を受けた保証人の事前の求償権(460) ・主たる債務者が保証人に対して償還(返済)する場合(461) ・委託を受けない保証人の求償権(462) ・通知を怠った保証人の求償権の制限(463) ・連帯債務又は不可分債務の保証人の請求権(464) ・共同保証人間の求償権(465) |
先に紹介した保証債務の458条は、連帯債務の434条から440条を準用しています。そこで連帯債務の条文を並べておきます。
・履行の請求(432):債権者は、その連帯債務者の一人に対し、全部又は一部の履行を請求できる。つまり、連帯債務者が数人いても弁済できそうな人に全額を請求できます。 ・連帯債務者の一人についての法律行為の無効(433):他の連帯債務者の効力を妨げない。 ・連帯債務者の一人に対する履行の請求(434):絶対効力。 ・連帯債務者の一人との更改(435):絶対効力。 ・連帯債務者の一人による相殺等(436):絶対効力。 ・連帯債務者の一人に対する免除(437):絶対効力。 ・連帯債務者の一人との間の混同(438):絶対効力。 ・連帯債務者の一人についての時効の完成(439):絶対効力。 ・相対的効力の原則(440):連帯債務者の一人に生じた事由は、434条から439条を除き、他の連帯債務者に対してその効力を生じない ・連帯債務者についての破産手続開始(441) ・連帯債務者間の求償権(442) ・通知を怠った連帯債務者の求償権の制限(443) ・償還する資力のない者の負担部分の分担(444) ・連帯の免除と弁済する資力のない者の負担部分の分担(445) |
連帯保証と連帯債務の問題点は「人的担保の問題点」を読んでください。