売ったり貸したりするのは簡単ですが、代金や貸金を回収するのはむずかしいものです。
世の中には意図的に約束を守らない人がいますし、誠実な人でも事情の変化で約束を守れないことも出てきます。
ところが、私人間では自力執行は禁じられています。
債務不履行の場合の強制履行(民414条)や
詐害行為取消(民424条)は裁判所に請求できるにすぎません。
民法は「
実体法」とよばれ、法律関係の内容を定めるだけです。
それを実行するための手続きにかかわる法律は「
手続法」と呼ばれます。
民法の手続法には、訴訟の手続きにかかわる
民事訴訟法、そこで得た調停・仲裁・決定・判決などを執行する
民事執行法、その前段階としての
民事保全法があります。
ちなみに、抵当権の実行は民事執行法で行われますが強制執行と異なり、確定判決などの
債務名義を必要としません。
また、訴訟は時間がかかりますので、その間に法律関係が変わる事態を防止するための
仮差押えや
仮処分は民事保全法を使います。
仮差押えは金銭債権、仮処分は金銭債権以外に使われます。
ここでは債権回収の段階に応じた民法の用語を整理しておくにとどめますが、4つの段階に分かれることを知っておきましょう。
いずれの段階でも、債権を確保し、権利を主張するために「
時効の中断」を行うことを忘れてはなりません。
第1は
予防の段階です。債務者の状況を把握し、それに応じて
担保や保証をとります。取引の中で法律的な注意のほかに
取引状況や
財務状況の把握も欠かせません。
第2は
自主回収の段階です。催告に応じない、あるいは自らの財産を減らそうとする債務者に対する交渉のカードとなる
相殺や代物弁済などもあります。
第3は
法的手段の段階です。逃げ回ったり交渉に応じない債務者には裁判所に請求して回収を図るしかありません。
第4は
破産等の段階です。ここに至ると債権の回収は、優先する担保権がない限りほとんど回収は望めません。
債権の回収法については実務家があれこれ解説し、民法の判例も多くあります。
最も大切なことは、
債務者に返済する財産や資力があるうちに回収するための努力をすることです。
@基本契約で期限の利益を喪失させたり、契約解除事項を細かく決めていつでも法的な対応ができるようにしておき、
A債務者の状況に応じて速やかに対応し、
B連帯保証人からの回収もあわせて行う
につきます。
物権とちがって債権には「債権者平等の原則」があって、第3や第4の段階では訴訟も割に合わないこともあります。
自分の権利を守るためには実体法とあわせて手続法を知ることも忘れてはなりません。
訴訟に勝っても執行しなければお金は戻ってきません。