仕事を終え、家に帰ってくると玄関ドア前に猫が三匹寝そべっていた。三匹とも白毛に黒ぶちの毛色で二匹は小さかったので親子のように思われた。玄関に繋がる小道に入ると三匹とも驚いたように立ち上がり、警戒するように素振りを見せたが逃げずに僕の行動をじっとみている。さらに近づき門扉を開けると、三匹とも逃げていった。 以前から黒ぶちの猫を見かけることはあった。家の裏庭と隣家の間を歩いていたり、庭木で爪を研いでいる姿をみたこともあった。しかし、子猫は初めてで大きさから判断すると、ここ二、三か月の間に生まれたらしい。それにしても家に帰ってきたら猫の親子が玄関ドアの前に寝そべっていた光景は衝撃的だった。 恐らく、家は前面の道路から一列後ろにあるため、両側にある家の影に入るから人目につかず落ち着くような気がするし、そもそも朝家を出たら僕たちが帰宅するまで誰も来ないからゆっくりできるのだろう。また、人が来ても両隣の隣家の隙間に逃げ込めるという安心感もあるかもしれない。この日から、頻繁に猫を見かけるようになった。 妻のいうには猫は四匹いるという。数日後、僕ももう一匹子猫がいるのをみた。子猫の大きさから生まれて2、3か月は経っているように思えた。ここ数か月の間、子猫の鳴く声を聞いたことはなかった。何処で生んだのだろうと不思議に思った。僕が子供の頃、当時住んでいた家の物置兼仕事場に野良猫が子猫を生んだ。物置に行くと絶えず子猫の泣き声がしていた。いつしか子猫の泣き声はしなくなったが、一匹だけ子猫が取り残されていて、家で育てたのだった。 その経験から、今回は子猫の鳴き声は全く聞こえなかったから、家の周りで生まれたということはなかったはずだ。また、夜九時を超えて見かけたことはないので、何処か帰る場所があるのかもしれない。猫たちの毛並みはきれいで、栄養状態も良さそうである。何処かの家の飼い猫の可能性もあるが、首輪はしていないし、いろいろな場所で休んでいる姿を見かけるのでよくわからない。ただ、飼い猫ではないにしても、餌を上げている家があるように思う。朝方、餌をねだるような鳴き声がよく聞かれる。 ガーデニングが趣味の妻は庭などにおしっこやウンチをされることを心配している。今のところイヤな臭いはしていないが、子猫が玄関ドアの横に置いてある鉢植えのオリヅルランの上に座ったりしているので、葉がぺしゃんこになってしまった。そういったこともあって、妻は猫が入り込まないように脅したりしているようだが、最近は慣れてきているようで逃げなくなってしまった。特に子猫はかなり近づいてもじっとこちらの目をみて、なかなか動こうとしない。 猫が寄り付きやすい家というのはあるのだろうか?ネットで検索したら、いくつかの情報を得られた。それによると、まず猫は敷地に入ってきても、そっとしておいてくれる家だという。いろいろな人が出入りする公園などに比べると、静かにしておいてくれるというのは格別に居心地がいいと感じるようだ。そして、敷地の中に隠れることができるような場所がある家を好むようだ。家は前の道路より、一列下がった位置にあるから、通りから目につきにくいというのはあるし、裏庭に関しては他人から干渉されることは皆無で静かな環境である。そのため、猫だけでなく、メジロや鳩などが巣を作ったりするし、タイワンリスが顔をみせることもある。狭い庭なのに、小鳥や小動物が姿をみせるのは、周りを家に囲まれているため、外から見えずらく、格好の隠れ場なのかもしれない。(2022.8.15) |