弟の再出発

 12月下旬、母から注文しておいた中華料理のオードブルが届いたから、取りに来てほしいと電話があった。昨年は、おせち料理を注文したのだが、あまりよくなかったとそうで、今年は中華にしたらしく、自分のところだけでなく、ウチの分まで頼んでくれたのだった。

 バンバンジーやマーボー豆腐、唐揚げ、酢豚、鶏肉のカシュウナッツ炒めなど全13品目で、レンジでチンするか、湯せんすれば食べられるので、ゆっくりしたいお正月にはうれしいものだった。

 母の家にもらいに行くと、いつも家にいる弟がいなかった。どうしたのかと訊くと、夜勤を終えて二階で寝ているという。以前にも、ここで書いたことがあるが、弟はここ数年、働いていなかった。母が弟の家に移ったのが、2011年でそのときには、一日中ずっと家にいるという状態だったから、最低でも3年は失業状態だった。

 母によると9月くらいから、働き始めたという。弟はどういうわけか、詳しいことを話したがらないようで、勤務先などは不明ということだったが、飲食関係らしい。勤務は昼勤が朝8時半から夜8時半まで、夜勤は夜8時半から朝8時半までで、昼、昼、夜、夜、休、そして、また、昼、…という4勤1休で、盆、暮、正月など関係ないそうで、この正月も3日のみ休みということだった。この3年間、全くといっていいほど、就職活動をしなかった弟が、何が働き始めるきっかけになったのだろうと思ったが、お金の問題だったという。

 母は高齢なので、いちいち預金を下ろしに行くのが億劫になり、弟にカードを渡して、頼んでいたという。ところが、今年の夏に郵便局員が、「預金の引き出し額が多くなっていますが、大丈夫ですか?」とやってきたそうで、通帳をみると合計100万円が消えていたそうだ。母はビックリして、弟に預金の減っていることを話し「どうも、何か犯罪にあったらしいので、警察に行こうと思う」というと、自分が引き出したと告白したという。

 「何で、働いていないのに弟はお金を持っているのか?」ということが、ずっと母や僕の疑問で、父の生命保険や貯金、弟の貯金などが、ある程度あるのではないかということで、納得していた。そういったものもあったのかもしれないが、いつしか底をつき、母の預金を5万、10万と引き出すことが続き、それが100円という大金になってしまったようである。

 当然のことながら、黙って預金を引き出された母は衝撃を受けていた。お金がないと正直に話してくれれば、自分からお金を出す用意はあったのである。弟は悪びれた様子もなかったというが、さすがに心の中では悪いと思ったのだろう、勤め先を探してようやく働きだすことになった。働き始めたことは、安心したが、母の預金を平気で使い込む神経は理解できない。

 「弟は使い込んだお金を返す気持ちはあるようなの?」と母に訊くと、そんな素振りは全くないという。とりあえず、働きだしたので、あまり責めずにしばらく見守る方がいいと判断したそうである。3年も働いていなければ、仕事するのもかなりキツイだろうから、母のいうように弟の再出発を温かく見守った方がいいと僕も思う。それにしても、人間というのは、変るものであるとつくづく感じた出来事だった。(2014.12.31)




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