現在、働いている会社に勤めて、二年くらい経った頃、通勤路に大型の施設ができた。そこは、三階以上にオフィスが入り、一階と二階には飲食店やスポーツ店などが入居し、コンサートホールも併設されている、というよりそのネーミングからするとそれがメインなのかもしれない。通勤路に、その大型施設ができたからといって、特に変りはなかったのだが、その施設の中を通っていけば、駅から会社まで直線的に行けるようになるから、多少は通勤時間が短縮できるように思った。幸いにして、その施設は、24時間開放されているので、遅くまで残業しても大丈夫だった。 駅から会社まで、大型施設の中を突っ切らなくても5分ほどで行けたから、その中を通ったとしても大した時間の短縮になるはずもなく、せいぜい数十秒から1分くらいのものだった。だけど、その中を通ることを繰り返しているうちに、それが日常になり、意識しなくても足は大型施設の中に向かうようになった。駅から、その大型商業施設まで続く高架のプロムナードを歩いて、施設の中を通るとエスカレータがあるから、階段の上り下りをしなくても済むし、また、夏や冬など、施設内は空調が効いているから、快適に歩くことができた。 24時間開放されていることから、朝の通勤時にホームレスの人たちが施設内のベンチに座っている姿がみられるようになった。そのため、施設側はベンチの近くに長時間留まることを禁止する張り紙をし、ベンチにも人が横になれないような細工がされ、さらに、しばらく経つとベンチをオブジェにようにして、人がほとんど座れないような構造にした。しかし、施設を訪れる人から苦情が出たようで、数か月でベンチは元の形に戻った。 最近になって、通勤時の出口側の自動ドアの開かないことが、度々起こるようになった。朝、いつものように高架のプロムナードを通ってビルに入り、エスカレータを降りて、イタリアレストランと美容室の間の通路を通って会社近くの出口から出ようと自動ドアの前に立ったのだが、ドアは全く動かない。ドアの前の床を強く踏んでもうんともすんともいわない。(後に知ったことだが、この行動は全く意味がなかった。最近の自動ドアのセンサーの主流は近赤外線なのである) 24時間開放といっても、全ての出入口が開いているわけではない。しかし、使用できない出入口は、7時〜23時開放というように、そのことを示す表示があるのだが、そこには24時間開放としっかり明記されている。何かの都合で出入りできないようにしているのかもしれないと思い、他の場所に回ろうとしたところ、反対側から人がやって来て、自動ドアの前に立つと開いたのである。その人のおかげで無事に、外に出ることが出来たのだが、それ以来、この自動ドアに対して微かな恐怖を覚えるようになってしまった。 毎朝、大型施設のビルに入り、開かなかった自動ドアが近づいてくると、今日は開いてくれるのだろうかと不安になり、緊張を覚えた。そして開かないと、自動ドアの前の床を強く踏んだり、踏む場所を変えたりしたが、開いたり、開かなかったりで、自動ドアの開かない恐怖は日に日に強くなっていった。恐怖を覚えるくらいなら、他の出入口に変えたり、また、大型施設の出来る前の通勤路に戻したりすればいいのだが、習慣とは恐ろしいもので、ついつい魅入られたようにそこに行ってしまうのである。 自分が立っているのにドアは開かず、反対側から来た人によって、何事もなかったようにドアが開くと、まるで自分の存在を否定されているように思えて来て、居た堪れない気分になった。そして、会社に遅刻するかもしれないという実際的な問題もあり、ネットで調べてみたところ服装が原因の可能性が出てきた。 前にも書いたように最近の自動ドアのセンサーは近赤外線が主流だそうである。頭上のセンサーから近赤外線を照射し、その反射の変化によってドアが開く仕組みになっているため、服装が床面と同系色だとセンサーが感知しないことがあるらしい。ドアの開かなかったとき、センサーに感知させるためには、手を振るとか、新聞や雑誌、書類などを動かすといいそうである。 自動ドアの開かなかった理由は、何となくわかったが、それにしても前に立っているのにドアの開かないのは、気分の悪いものである。ドアに限らず、何でも自動化されていくというのは、意外と不便で、また怖いことなのかもしれない。(2014.11.14) |