客のあまり来ない店

 ここのところ、仕事があまりなく、暇である。夏の間は、長期の休みを取るパートさんが多く、僕の働いている部署も僕一人、やる仕事もなく、広いフロアーにポツンといるものだから、傍から見たら、それは流行らない店で、一人番をしている店員のように見えたかもしれない。

 しかし、僕はそういうのは嫌ではなく、むしろ、好みだったりする。プロ野球選手を夢見ていた子供の頃はさておき、ある年齢というよりも、社会人になって働き出してから、僕の憧れるイメージはいつだって流行らない店の店番だったり、閑職に追いやられた窓際族だった。

 何故、そのような立場に憧れるのか自分でもよくわからないが、何ともいえない安らぎを覚えるのである。あまり客の来ない店で、たまに来た客とどうでもいいような話しをのんびりしたり、あまりの仕事の無い部署でただ一人の部下とまったりお茶でもしている姿を想像して、それに強い憧憬を抱いたりしていた。

 今まで旅へ出ると何となく旅先の喫茶店に入りたくなるのは、そこに自分の居場所のあるような気がしていたのかもしれない。地方の喫茶店というのは、寂れているところが多く、あまり客のいない店でのんびりとコーヒーを飲んでいると、不思議な安堵感を覚え、そして、僕はここにずっといたのかもしれないという錯覚を起こし、夢想に耽ったりした。

 あまり客の来ない店の店員というのは、自分にはぴったりの立場のような気はするのだけど、これが店主ともなれば、そう、のほほんともしていられず、いろいろと策を講じなければならないだろうし、企業ともなれば尚更シビアになってきて、いろいろな手を打ってくる。

 まずは時短である。暇な時期は、交代で休みを取り、遅く出勤したり、または早く帰ったりしろというわけである。次に人減らしである。現在、勤めているところでは今のところ首切りはないが、欠員を補充しないという形で行っている。さらに、別の仕事を押しつけられたりするが、本業の合間を縫ってやることになるので、それほど業績のあがるものではない。

 最近では、また部署の統合という話しが出ている。この話は二年前くらいに直前まで行ったが、社長の一声で延期になり、その後、何回か出ては消えということを繰り返していた。それが、またここに来て、来年の二月くらいに…という具合になってきたのである。

 そうなると統合する側、される側で、人の移動のあることは確実で、パートという立場の自分は、かなりまずいことになるのではないかと思っている。それにしても、こういろいろと突かれると、精神的に疲れてきて、考えも退嬰的になってくる。そして、何処かに客のあまり来ない店の店員でも許されるような仕事はないものかと、思ってしまうのである。(2010.9.13)




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