お弁当屋さん その2

 以前、会社近くのオフィスビルの中にお弁当屋さんが3件でき、そのうち2件が潰れて、一番値段の安かった店だけが残ったことを書いた。最近までその状態がずっと続いていたのだけど、今日、お弁当を買いにいってみると空いていた左のスペースに新しいお弁当屋さんが入り、販売をしていた。

 値段はどのお弁当も500円で潰れてしまったお店と同じなのだが、‘こだわりの食材’と銘打っており、価格よりも素材の良さで勝負をするつもりのようである。しかし、以前も書いたように、500円という値段は同じビルの一階にある鶏専門店がほぼ同じ価格帯でお弁当を販売しており、安さを求める客は隣の390円に行ってしまうだろうし、旨さを求める客は1階の鶏専門店に行ってしまいそうで難しいところだ。

 初日の今日も苦戦のようで、僕の買いに行った時のことなのだけど、390円のところに4〜5人の列のできている間に500円のお弁当を買った人はひとりだった。マネジャーらしきスーツを着た比較的若い女性が、販売員の後ろから状況を見ている様子に意欲を感じだが、‘こだわりの食材’がどのようなものかによって今後の運命が決まりそうである。

 そして、右のスペースを見るとまだ店舗は入っていないものの、広告が張り出されており、それによると7月6日オープン、全品380円とある。明らかに隣の店を意識した価格設定だ。普通ならこの状況を見て、競争の生まれることを喜ぶのかもしれないが、僕は気が重くなってしまった。どうしていいのか、わからないのである。

 今日も‘こだわり食材’の500円弁当も試してみたい気持ちはあったのだけど、今までずっと贔屓にしてきたお弁当屋さんへの義理立てで、見向きもせずに390円の列に並んだのである。もっと正確にいえばお弁当屋さんというよりも販売員の女性の心情を慮って、あえて新しいお弁当屋さんを無視したのだ。

 来週の月曜日から380円のお弁当屋さんが参入する。値段の安さからいえば、この店のものを買いたい気持ちは強いのだけど、そうすると今まで買っていた販売員の女性に悪いような気がして来て、どうしたらいいのかわからなくなってしまったというわけなのだ。

 僕一人だけが380円のお弁当に浮気をしたというのなら、どうっていうことはないが、みんながみんな雪崩をうって380円に流れてしまったらと考えると、ますます気が重くなってきて、どうかそんなことにはなりませんようにと祈らずにはいられない気持ちである。今までずっと利用させてもらったお店が、傾く様子は見たくない。

 価格と品質を考えて、一番お得感のあるものを買うのが賢い消費者ということになるのだろうが、店の人が顔馴染みであったりするとそうもいかなくなり、今まで買ってあげていたからという人情や義理が入り込んできて、苦しくなる。

 競争のあることはいいことだ、競争がなければだめだと、よくテレビの中の人は言っているけど、いや、それはその通りなのかもしれないけど、実際に目の前で競争をされて、それから破れていく姿を見るのはイヤなもので、どうしても、そんな冷酷な競争讃美者にはなれない。

 いっそのことお弁当を止めて、外食することにしようかとも思ったが、僕がそんなことをしても現実は動いていくわけだし、臭いものにフタ方式の何の意味もない行動で、いままで通りにすることにした。

 お弁当を見て、一番食べたい物を買えばいいだけの話なのだが、週5日のうち、今まで利用していたお弁当屋さんを3日、‘こだわり食材’を1日、380円を1日にしようかとなどと未だにぐずぐずと考えてしまうのである。(2009.7.5)




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