寒い家

 一日の最低気温が10℃を下回る日も出てきた今日この頃、家の中が寒い。それは、妻との関係が冷え切ってしまったとか、懐が寂しい状況だとかではなく(こちらの方は多分に関係しているかもしれないが…)文字通り寒いのである。

 寒い理由は、暖房器具を未だに使っていないからで、何故使っていないかというと、節約のためである。何しろ収入が少ないので、できるだけ我慢しようということになったのだけど、さすがに辛くなってきた。居間に一枚だけ置いてある毛布は妻と奪い合いになり、結局はその一枚にふたりで足を突っ込んでいる。

 日本のような明確な四季のないペルーで生まれ育った妻は暑さ、寒さに弱く、何とか対策をしようとホームセンターで窓に張る防寒用のシートなどを買ってきた。家の中のいろいろな場所の温度を測り、特に気温の低かったトイレと納戸の窓にそのシートを張り付けた。どのくらい効果があるのだろうかと思っていたが、多少は改善されたようで、トイレなど以前よりも寒さが緩んだような気がする。こたつを買うつもりで家の近くにあるニトリまで見に行ったりしたが、その財源として予定していた競馬で負け続けているため、実現できないでいる。

 前にいっしょの職場で働いていたTさんは、冬場、暖房なしで過ごしていたそうだ。「夏の暑さからは、裸になっても逃れることはできませんけど、冬の寒さは着込めば何とかしのげますからね」と言っていたが、僕は暑さには強く、寒さには弱いので彼のようにはいかない。

 寒さというものに人は、暑さと違ってある種の恐れがあるように思う。家にいるときは、いくら寒いといっても、どうにかなるものだが、アウト・ドアではそうはいかない。数年前の晩秋、奥会津にキャンプに行ったとき、気温が4℃くらいまで冷え込んで、その夜は一睡もできなかった。寒さによる恐れで、二日目の夜の来るのが怖かった。自然界の動物などは冬に餓死することも多いはずで、冬に恐怖を抱くのはDNAに組み込まれているのかもしれない。

 そんな寒い家で妻は数か月前から始めた編み物に熱中していた。ひとつの毛布の包まりながら、妻の手の動きを見ているのは楽しかった。何を編んでくれるのかと思っていたら、僕のマフラーでつい先日、完成した。どんな出来栄えになるのだろうかと少し不安だったが、意外に器用なようで紺とアイボリーの配色もよく、きれいだった。

 「明日は、少しは暖かくなるかな?」
 「テレビで日中14℃まで上がるって言ってた」
 「それはいいね」
 「明後日は18℃まで上がるって」
 「暖かくなるのはいいね」
 「そう?私は寒くなってくれた方がうれしいけど…」と妻は照れながら言った。(2008.12.12)




皆さんのご意見・ご感想をお待ちしています。joshua@xvb.biglobe.ne.jp

TOP INDEX BACK NEXT