アラブ・アンダルスの歌

 最近、アフリカの伝統的な音楽が聴きたくなり、アミナ・アラウイの「モロッコ/アラブ・アンダルスの歌」という作品をインターネットから注文して買った。

 何故、急にアフリカの音楽が聴きたくなったのかというと、いや、‘急に…’ということでもなく、以前から「遠い夜明け」とか「ブラックホーク・ダウン」とかいったアフリカを舞台にした映画の中で流れていた音楽がいいなあと思い、いつかじっくりと聴きたいと考えていたのだけど、実行が伴わなかったのだ。

 アフリカの音楽といっても、アフリカ大陸は広いからヨーロッパに近いモロッコとかアルジェリアの音楽と南アフリカでは全く違うだろうし、何を買ったらいいのかということがわからなかったのと、近くのCDショップのワールド・ミュージックのコーナーにほとんどアフリカ関連のCDが置いていなかったというのが原因なのだけど、最大のものは僕のものぐさな性格による。

 数年前、ブラーのデーモン・アルバーンが西アフリカのマリのミュージシャンと作った‘マリ・ミュージック’を買ったことで、アフリカ音楽がかなり身近になったのだけど、ものぐさな性格は変わらず、次の行動に繋がらなかった。しかし、生活に何か変化を与えたいと思い、またインターネットでアフリカ音楽のCDの試聴などもできるようになり、いくつか聴いたものの中から、上記のものを注文したのだ。

 アフリカというとリズム中心の音楽ように思われるが、この「モロッコ/アラブ・アンダルスの歌」収録されている曲は、モロッコに口頭伝承されているものをアミナ・アラウイが編曲したもので、ウード(リュートや琵琶の祖先)やシターン(マンドリンの祖先)といった弦楽器の美しい旋律に彼女の澄んだボーカルが乗り、南ヨーロッパと中近東の香りがする。

 演奏者は4人でウードとシターンの他の楽器はザルブ(イランの花杯片面太鼓)、ウードゥー(インドの素焼きの器を利用した体鳴楽器)、ダブ(木枠つき大型片面太鼓)でザルブとウードゥーはアミナの息子が、ダブはアミナ自身が歌いながら打っている。ちなみにシターンを演奏しているのは、アミナの夫君である。

 イベリア半島で勢力を張ったアラブ宮廷文化によって開花したアンダルシア音楽は、レコンキスタ(国土再征服運動)によってスペインを追われ、退却するイスラム教徒と共に海を渡って対岸のマグリブの地に移り、歌い継がれていった。(マグリブというのは北アフリカ北西部の位置するアラブ諸国)

 このアルバムで歌を歌っているアミナ・アラウイはモロッコの内陸部にある古都フェズの出身であるが、現在はスペインのグラナダに移住して、ここを拠点にして音楽活動をしているという。グラナダを追われたイスラム音楽が時を経て、再び誕生の地に帰って来たというのは感慨深い気がする。世界は回っている。

 踊りだしたくなるような曲もあるが、基本的にはじっくりと聴かせるものが多いので、仕事帰りや、寝る前のちょっとした時間に聴いている。よく考えてみると、今まで僕の聴いてきた音楽はイギリスやアメリカのポピュラー・ミュージックがほとんどだが、それらはキリスト教を基盤とする国である。もうひとつの世界であるイスラム教を基盤とする国の音楽は、ほとんど断片的にしか聴いたことのなかった気がする。全く異なる文化の背景を持つ音楽を聴くというのは、何処か遠い地域に旅行しているような感覚になる。仕事を終え、家に帰るのが楽しみである。(2008.12.6)




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