奥会津旅行記−2001年9月22日〜24日−


9月22日

 朝4時30分に目が覚めた。旅行に行く日だと目覚まし時計なしでも目が覚めるから不思議だ。昨日の夜はかなり強い雨が降っていた。天気予報だと今日の明け方から朝のうちに上がるそうだが、できれば止んでいてほしい。窓を開けると外の冷気が部屋の中に湿った空気といっしょに入ってきた。この時季だと4時半ではまだ暗い。街灯を通して外の状況を見るとどうも雨は止んでいるようだ。つい先ほどまで降っていたようで、路面はまだ濡れているが、これから天気は北から回復するそうなので大丈夫だろう。服を着替えて顔を洗い、キャンプ用品などが入ったバックをバイクに付けた。雨は降っていないが、外の気温はまだかなり寒いようだ。

 家を出たのは5時30分くらいだった。このくらいの時刻に出発しないと必ず渋滞に巻き込まれてしまう。都心よりもその周辺が混む。バイクは久しぶりに動かしたせいか調子が悪い。チョークを元に戻すとすぐにエンジンが停止してしまう。仕方ないのでアイドリングを高目に設定して出発した。しかし排気音がおかしい。スロットルを閉じるとパン、パンという音がする。どうもタンクの中に水か何かの不純物が入ってして爆発がおかしくなっているようだ。5Kmくらい走り環7からR15に入ったくらいから急にエンジンが元に戻った。タンクの下の沈んでいた不純物がなくなったのだろう。途中何回か止まってアイドリングの設定を元に戻した。

 奥会津地方を僕が始めて訪れたのは今からもう12、3年前だろう。会社を退職した僕は車で東北・北海道を約1ヶ月間旅行した。始めは東北地方をゆっくり回り、北海道に入り宗谷岬まで行ったら一気に帰路に着く予定だった。しかし、なかなか家に帰る気にならず、北海道から東北に戻ってきてからも、ゆっくり南下をしていた。その旅で最後に訪れたところが奥会津地方の大塩温泉だった。僕は奥会津の素朴さが好きになりそれから頻繁にこの地域を旅するようになった。特にすごい観光の目玉があるわけではないが、山村の素朴な雰囲気と鄙びた温泉の数々があり、いつ行っても飽きることがない。

 空はどんより雲っていたが、北上すると天気はだんだんと回復してきた。北の空を望むとそこには青空が広がっている。もう少し北上すればあの下に出るはずだ。そして宇都宮に入ったくらいで陽がこぼれてきた。空には青空が広がっている。宇都宮からR119で日光方面に向った。この道は杉並木の気持のいい道だ。道の両側を杉が覆っている為、夏でもひんやり涼しい空気がある。今市でこのR119に別れを告げ、R121に入り藤原町・川治温泉方面に向う。ここからだんだんと山深くなり、道も山岳道路の様相になってくる。本格的な山道になる前に朝食とトイレを済ましておきたかった。R121に入ってすぐのところのコンビニに入っておにぎり4個とお茶を買った。時計をみると10時ちょっと過ぎだった。ここまで約5時間休みなしで走ってきたことになる。さすがにちょっと疲れている。コンビニの駐車場でまずそのうちの2個を食べた。あとはこれから入る林道の途中で食べることになりそうだ。

 少し走り鬼怒川の辺りに入ると、ちょっと休憩のできる公園があった。ここでトイレを済ましてしばらく休憩した。鬼怒川の温泉街を過ぎると本格的本格的な山道になってくる。川治温泉の手前で右折し、川俣温泉方面に向う。この県道は1.5車線の狭い道でかなり曲りくねっている。カーブが連続するワインディングロードで途中でたまに小さな集落が現れる。とにかく走っていて疲れる。こんな道はあまり走りたくないと思った。しばらく走ると瀬戸合峡という場所に出た。ここはかなり深い谷になっている景勝地だ。川俣ダムの横にあるドライブインの横に展望台もある。このドライブインでは鮎の塩焼きも売っていた。天気はすばらしくよく、深い谷に陽が映えていていとてもきれいだ。紅葉の季節だとさらにすばらしい光景になりそうだ。

 川俣大橋のわきから馬坂林道に入り川俣桧枝岐林道を抜け、桧枝岐に入る予定だったが先日の台風の影響で馬坂林道が通行止めになっていた。この林道が通行止めになってしまうと川俣桧枝岐林道に入ることはできない。さらに田代林道は工事のため通行止めになっている。後は安が森林道だが、これも台風の影響を受けている可能性がある。この林道は栃木県側は舗装されているため通行はできるだろうが、福島県側がどうなっているかわからない。通行止めになっていると大きな時間的ロスになってしまう。仕方がないので確実に国道まででてR121からR352に入り舘岩村に行くことにした。R121まで戻る途中の川治ダムのところで残っていたおにぎりを2つ食べて昼食をとった。本当だったらこのおにぎりは川俣桧枝岐林道の帝釈峠辺りで食べて、昼食には桧枝岐でうまいそばでもとろうと思っていたのに…。これが林道を走るときの難しさだろうか… 通行止めになっていることが結構ある。特に今回のように台風の後はその可能性が高くなる。自然環境に影響されやすい道だ。それが魅力でもあるんだけど…

 国道を回り込んだ為、当初の予定よりかなり遅れて館岩村の湯の花温泉についた。この湯の花温泉への道をずっと走っていくと田代林道になる。今日は林道を全然走れなかったので行けるところまで行ってみようと思った。未舗装の部分に入り、勾配がきつくなってくるとやはり台風の影響だろうか土が流されているようで石が路面に出ていて多少荒れているようだ。情報によると田代林道も工事の他、今回の台風の影響で2年間くらい通行止めになってしまうらしい。途中まで走り、引き返した。

 今回の宿泊地はこの道沿いにあるしらかば公園のキャンプ場だ。そんなに人は来ていないと思ったが、実際はかなりの混雑だった。管理棟で今日と明日、2泊の予定でキャンプを申し込んだ。予約とか入れている人も多いようでテントを張る位置もだいたい決められた。でも、そんなにすごい混雑というほどでもないし、奥まったところだから静かだ。手早くテントを設営して、早速、湯の花温泉に向った。

 湯の花温泉には弘法湯、天神湯、湯端の湯、石湯と4つの共同湯がある。どの共同湯に入るか考えたが湯端の湯は男女別になっているようなのでまずここに入ろうと思った。キャンプ場にも一番近い。湯端の湯は確かに男女別になっていた。引き戸のところに箱がありそこに料金を入れる。料金は200円。中は人が10人くらい入れる湯船が1つあるだけで、シャワーとかの設備は一切ない。だから、温泉に浸かるだけだ。ただ、水道の蛇口はあったので体くらいは洗えるだろう。鄙びた雰囲気のいい温泉という感じだ。中にはすでに5〜6人入っていて、混み合っていた。やはり休日で天気がいいからだろう。

 温泉に入った後は食事だ。湯の花温泉に入る道の入り口近くにあるかねまる食堂という店に入った。ここは定食からラーメンまでいろいろ種類がある。かねまる定食というのを注文した。これは正解だった、大根・にんじん・竹輪などの煮物、きのこ・山菜の大根おろし添え、白身魚のフライ、クリームコロッケ、ポテトサラダ、漬物、味噌汁まで付いて1000円だった。これだけついて1000円は安い。それに種類も豊富だから楽しい。ここで夕食をとった後、近くの商店で翌日の朝食を買おうと思い中に入ったが、パンの種類が全然ないし、あるのもイマイチだ。仕方ないのでとりあえず一番ましそうなパンを買い、外の自販機で缶コーヒーを買った。

 キャンプ場に戻って来た時、時間は5時30分過ぎくらいだった。温泉には浸かったが髪を洗っていないのでゴワゴワした感じがする。4つの共同湯の中で一番建物がきれいな弘法湯だとひょっとしたらシャワーがあるのではないかと思い、キャンプ場から散策がてらプラプラ歩いていくことにした。まだ何とか陽があるので明るさが残っている。弘法湯は4つの共同湯の中で一番きれいで中から女性とかも出てくるので近代的なのかもしれない。中に入るとおじいさんがいてその人に入浴料の200円を渡した。中は確かに一番きれいでシャワーも2つ付いていたが、風情はあまりない。それに人が多く、湯船に浸かるのも順番待ちのような感じだ。たぶんここしか満足に体を洗える共同湯がないのでここに集中してしまうのかもしれない。

 この共同湯を出た時はもう6時30分を過ぎ、外は真っ暗になっていた。懐中電灯を持ってこなかったことを後悔した。というのもまだ湯の花温泉の中心だと家などの灯りで道は見えるが、ちょっと外れてしまうと街頭など全くないため頼りになるのは月明かりしかない。道もほとんど見えないくらいだ。気がつくと道のギリギリを歩いていたりして危ない。何とかキャンプ場に着いた時は7時をちょっと回っていた。息を吐くと白くなった。かなり気温は冷え込んで来たらしい。これだけ天気はいいと放射冷却で夜間の気温はかなり冷えるのではないかと思った。

 テントの中に入り、明日の予定を考えていたが今日は朝4時30分に起きたこともあって眠くなってきた。寝袋に入るとウトウトしてきたのでちょっと寝ることにした。熟睡したわけではなかったが少しまどろんだ。トイレに行きたくなって起き、時計を見たら時間はまだ9時過ぎだった。外に出たら満天の星が降ってきた。これだけの星空を見るのは久しぶりだ。トイレからまたテントに戻り、寝袋に入ったがかなり寒い。ここからは寒さとの闘いだった。バイクジャケットなどいろいろなものを寝袋の上にかけたが寒さをしのぐことはできなかった。結局、朝まで一睡もできず23日の朝を向えることになってしまった。(つづく)


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