年収200万円のパートでも、家は買えるか?

1.まずは不動産屋へ

 現在、住んでいる部屋の家賃は70000円である。もし、月々の支払いが家賃の70000円以下で家が買えるのなら、そっちの方がいいのではないだろうか?とは誰もが考えることだと思う。賃貸だったら、死ぬまでずっと家賃を払い続けなくてはいけないが、持ち家なら住宅ローンを払い終えれば、自分のものになり、月々の出費で最大のモノがなくなるのだ。

 しかし、現在のパートという立場と年収200万円という状況で、果たして家を買うことができるだろうか?年収がいくら低くても、勤務形態がいつクビになるかわからないパートであっても、現金を持っていれば家を買うことはできる。しかし、僕の実家は資産家とはほど遠い状況で援助は期待できないし、僕自身、以前に貯めた貯金は、いくらかはあるが、家を即金で買えるほど持っているわけではない。したがって、家を買うためには、どうしても住宅ローンを組まなくてはならない。せめてもの救いは妻も働いているということだろう。お恥ずかしい話だが、僕の年収より、妻の年収の方が多かったりする。

 現在、暮らしている部屋を探すときも、年収の低さが問題になり、保証会社と契約しないと部屋を借りることができないという状況になりかけた。家賃が、月収(税込)の三割を超えると、滞納の危険が大きくなり、それが僕の場合5万円だったのである。前に住んでいた一軒家と借りようとしていた部屋の家賃は同じで、以前に家賃を滞納したことは無く、僕は抗議したのだが、「世の中は、そういうことになっている」というようなことをいわれ、結局、その部屋を借りるのは止め、現在のところに落ち着いたのである。そのとき、初めて妻の源泉徴収票をみて、僕よりも年収が40万円近く上だったので、情けない思いをしたのだった。つまり、僕にわずかながらの‘希望’があるとしたら、妻の働いていること、そして多少の自己資金のあることである。

 まずは、ネットで物件を探した。僕の年収、妻の年収、自己資金を考えて、1000万円前後の中古一戸建てなら、どうにかなるのではないかと勝手に決めた。不動産サイトで検索すると、そのような条件の物件は少ないが、それなりにあることはあった。ただ、当然、安いには安いなりの理由がある。まずは築年数が古いこと、そして高台にあること、駅から遠いことなどである。高台などというと高級住宅地を思い起こすかもしれないが、この場合の‘高台’とは、崖地とほとんど同意語である。この中で、築年数の古いのは、妻がNGなので、除外し、丹念に見ていくと、通勤圏内で平成元年築、4DKの一軒家で980万円という物件が見つかった。ただ、通勤圏内といっても、そのぎりぎりの辺りで、駅からもバスで13分というところが、難点である。とりあえず、物件を見なくては始まらないので、早速、内見の予約を入れ、日曜日、妻と不動産店へいった。

 不動産店に着くと、受付の女性が丁重に向かい入れ、エレベーターで二階のブース席に案内された。客は、僕たちしかおらず、落ち着いた雰囲気で、家を買うなど初めてのことで緊張気味だったが、だいぶ解れた。席に座って待っていると、再び受付の女性が現われ、「お飲み物は何になさいますか?」とメニューを差し出したので、ふたりともコーヒーにした。このコーヒーはかなり美味しかった。

 10分ほど待たされ、担当者がやってきた。三十代半ばくらいの男性だった。テキパキと物件の説明を始めた。この物件は、価格の安さから多くの人が見学に来ているらしい。さらに、同業者からも転売の話があり、それは価格交渉で先方の買値にオーナーさんが難色を示しているということだった。オーナーさんは一月前くらいまで、その家で暮らしていたらしい。それだったら、大したリフォームなしに住めるのではないかと思ったが、それは甘かった。すでに内見を終えた購入希望者がリフォームの見積もりを取っており、それを見せてもらったら、総額で450万円を超えていた。

 担当者から物件の他、周辺地域の説明もあった。それによるとJRの駅まではバスを使わなくてはならないが、朝は大変混むということだった。とにかく物件を見ないと始まらないので、車で向かった。日曜日ということもあってか、道路は大変混雑をしていた。妻が「このくらいの価格で、他の物件はあります?」と訊くと、即座に「ありません」と返答された。ネットで見ていると、確かに数は少ないが、ないこともないので「…」という印象を持った。

 物件は、正に閑静な住宅街で環境のいい場所にあった。背後には畑が広がり、生活道路の行き止まりにあるため、車の通行もほとんどなさそうだった。ただ、バス通りに向かって上り坂になっているので、年を取ったとき、辛くなるかもしれないと思った。車一台分くらいのスペースが敷地内にあり、物干し場にもなりそうだった。カースペースの周りには、狭いながらも土の部分があり、植物を育てるのが好きな妻にはいいかなと思った。

 家の中に入ると、予想以上に汚く、450万円のリフォーム見積もりが現実味を帯びてきた。しかし、後から気づいたことだけど、今まで僕は家を買う目的で内見したことはなく、全て賃貸としての部屋だけだった。賃貸としての部屋は当然、前の住人が退去したあと、ハウスクリーニングが行われ、必要ならばリフォームをする。そのため、かならずきれいな状態になっている。しかし、売り家の場合は、そうではない。もちろん、リフォーム後、売り出される物件もあるし、ハウスクリーニングをしてあるところもあるが、多くの場合、前の住人が退去したままになっていて、その後の処置は買主が行うのである。したがって、汚いのが当たり前なのである。しかし、そのときは、そのようなことに思いは及ばず、ただ、荒れているなという印象だけが残った。

 クロスの張り替え、キッチン、トイレ、バスの交換、フローリング工事、リフォームの見積書が頭に浮かんだ。しかし、つい一月前まで人が住んでいたのである。果たして、これだけのリフォームが必要なのか、ひとつ、ひとつ、見直す必要はありそうだった。バブル期の建築なので、造りはしっかりしているという印象を持ったが、間取りなどは明らかに一昔前という雰囲気だった。そして、何より、思った以上に駅から遠く、バス通勤しなくてはならないが、果たして会社から通勤費が全額出るかというと不透明だった。

 以前、通勤費は全額出ていたし、今も全額もらってはいるが、ここに居を構えるとなると現在の通勤費の三倍近くになりそうで、昨今の会社の経営状態を考えると、不可能のように思えた。そうなると、通勤費の一部は家計からの持ち出しとなり、生活費を圧迫するのは確実である。さらに、それが理由となって、雇い止めということにつながる可能性も捨てきれない。物件の状態より、その理由で「ここは難しいかな?」と思った。

 不動産店に戻り、担当者と資金のことで話しあった。家を買うのは、初めてのことなので、住宅ローンのことなど知りたかったのである。お客様カードというのに、年収200万円、職業パートを書き入れると、担当者の顔が明らかに曇った。「この年収では、住宅ローンを組むのは難しいですか?」というと、年収よりもパートの方が問題だという。身分が不安定なため、いつ解雇され、収入が途絶えないとも限らないという判断であろう。パートまたはアルバイトというだけで、門前払いという金融機関も多いらしい。

 確かに、会社の経営状態が悪くなれば、パートは真っ先に解雇されるだろう。しかし、だからといって、即、生活が追い込まれるわけではない。当然、すぐに次の仕事を探すし、また、社会構造の変化により、それは、それほど難しくないと思えるからである。確かに、正社員としてキャリアを積んでいくような仕事を見つけることは、現在の日本では若い人にとってもハードルは高いと思われる。しかし、今は70代の人たちがファーストフードで働いていたりする。コンビニ、倉庫でのピッキング、配送、警備、工場、掃除など、社会が24時間化し、ネットが普及した現在、多くの給料は取れないが、それに伴った仕事は増えている。したがって、月々のローンを6万円台に抑えることができれば、返済することはそれほど難しくないと思う。

 現在の家賃は7万円なので、12年ローンを想定して、資金計画を立ててもらうと自己資金450万円を入れれば、月々69000円の返済となり、家賃を下回ることになるという。幸いにして、それくらいの自己資金は出せそうだった。ただ、こちらがいくら心配ないといっても、貸す、貸さないの判断は銀行にあるから、パートではダメだといわれてしまえば、それまでである。

 「フラット35はどうでしょう?」と質問すると、フラット35なら可能性はあるという。ただし、フラット35の場合、購入する物件が適合基準を満たしていなくてはならず、今回、内見した物件は容積率を超過していて、銀行ローンなら問題ないが、フラット35では、わからないということだった。「とりあえず、パートでローンを組めるか銀行に訊いてみましょう。それと、この物件で適合基準の書類が取れるかどうか、確かめてみます」と担当者はいい、この日は終わった。

 数日後、担当者から、「やはりパートだと、住宅ローンを組むのは難しい。しかし、フラット35なら可能性はあるので、この物件を買う、買わないではなく、事前審査だけでもやっておきませんか?通れば、安心して物件探しができると思います。奥さんと相談しておいてください」という電話があった。(2016.5.5)


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