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   「そう。彰吾のことだ。交通事故のときに活性化した。子が生まれればその血は子へと移行する。

   だから君の妻は亡くなり、庇われ、血の活性化した彰吾が助かった。今はまだ、彰吾は人。だがやがて

   魔物の意識が彰吾を壊し、人を襲い始める。それだけは正さなければいけない」


   感情のない瞳が俺を見据え、葉月に抱かれた彰吾を見やる。葉月は少しでも沙羅から彰吾を庇おうと

   自分の胸に抱きしめていた。俺は二人を庇うように立ちふさがる。


   「……お前の話が本当だからといって、何故、幼い彰吾を殺す必要がある。彰吾は俺の大事な息子だ。

   お前の話は正直疑っている。だが、例え魔物の血を持っていても、彰吾が彰吾である限り、俺の息子だ。

   彰吾が自分の中の魔物に負けるはずがない。俺の息子を……俺の子供を馬鹿にするなっ」


   「誰がそれを保障できる。滅多やたらと不確かなことを言うな。お前がずっと彰吾を見張ってられない。

   所詮、お前は親だ。確実に先に死ぬのはお前だ」


   その通りだ。俺がずっと見張ってられない。でも息子も殺させない。どうすればいい。必死に考えた。

   この場からふたりを逃がしてもいいが、青ざめて哀しそうに沙羅を見ている葉月に負担をかけたくない。

   でも絶対に彰吾を殺させない。あいつが残してくれた俺の大事な家族。俺と葉月が育てた息子だから。


  「どうあっても彰吾は殺させない。俺が護ってみせる」

  「そうだね、君はやるといったらやるだろう。しかし、彰吾が大きくなり、伴侶を得たときはどうする。

   子を宿し、魔物の血が移行する。活性化した血はいつ暴走するかわからない」


  「そのときはあいつが命をかけて護るさ。俺の息子だ。それができる男に育ててみせるさ」

   きっぱりと言い切った俺に、沙羅はわずかに剣をずらし、溜息ついた。そのわずかな隙を狙ったかの

   ように、影が沙羅に襲い掛かった。


  「彰吾、ダメッ」

   葉月の声に反応し、彰吾がわずかに力を抜く。沙羅が剣で彰吾をなぎ払う。


  「やめろっ」

   払われた彰吾が獣のような唸り声を上げて再び襲い掛かる。沙羅が難なくかわしながら彰吾に

   剣を振りかざす。すべてが早くて出遅れていた体が、やっと反応する。考えるまもなく体をふたりの

   間に滑り込ませた。


   「いやーーーっ」

   葉月の悲鳴を聞きながら、彰吾を庇い、沙羅の剣に肩を貫かれた。


   「……彰吾、彰吾、落ち着け。大丈夫だから。聞こえるか?」

   剣を引き抜きながら、少しでも沙羅から逃げるように前進し、抱きしめた愛息子を見つめた。

   怖かったのだろう。俺の血が滴り落ちるのをじっと眺めて震えていた。その瞳は金色に光っていたし、

   牙が生えて、耳がとがっていたが、やっぱり俺の息子で、愛おしかった。


  「うーっうー」

  「大丈夫だ。お前を殺させはしないから。お前は俺が護る。だから、戻っておいで、彰吾」

   怯えるように心配するように、俺の血を止めるように肩を掴む。そのまま強く抱きしめて、安心させるように

   背を叩いてやった。


   「うーうー……」

   「大丈夫だ。泣かなくてもいいから」

   俺の血で汚れてしまった彰吾は、落ち着いてきたのかゆっくりとだが、人間に戻ってきた。

   それとは逆に俺の意識はだんだんと薄れてきた。ぼんやりと死ぬのかな〜と思って、彰吾が

   助かったからいいのかなって。


   「父さん?」

   「ああ。お帰り、彰吾」

   彰吾が安心したかのように、眠ってしまうと、俺も何とか保っていた意識が遠のいていった。彰吾を

   抱えたまま後ろに倒れたそうになったが、誰かが抱きとめてくれた。


   「……よくやった、京一。これで封印は成功したよ」

   「どういうことなの、父さん」

   「待ちなさい、葉月。京一を治療しなければ、死んでしまうからね」

   そんな声を聞きながら、肩に押し当てられた手から何かを注ぎこまれた。ぎゃんぎゃんと泣きながら喚く

   葉月の声を聞きながら、眠りについた。




                          
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