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   「……で、いったい何がどうなったんですか?」

   目が覚めてから第一声。あれだけ大騒ぎして血を流させた張本人は、のほほんと穏やかな笑みを

   俺に向けた。


   「大筋は本当。別に最初から彰吾を殺す気はなかった。でも彰吾の中の魔物の血の活性化を止め、

   薄れさすには京一の血が必要だった。そして、君の愛情を魔物の彰吾に知らせなければ

   いけなかったから」


   「で、俺を躊躇なく刺したんですか?」

   「そう。だって、あれが一番手っ取り早いしね。あ、そうだ。傷は治せたけど、血はまだだから。暫くは

   レバーを食べて増血にいそしんで」


   葉月も複雑そうな顔で自分の父親を見ているし、彰吾も少し怯えていた。ちなみに俺のお袋は衝撃的

   だったからとの沙羅の判断で、記憶を消され、自分のアパートに帰したそうだ。


  「話は判りました。俺は貧血気味だし、彰吾はあなたに怯えている。なので、俺たちは寝ます」

   「は?」

   「頭がふらふらしてて、考えがまとまらない。あなたを殴るか、どうするかは起きてから考えます」

   彰吾を抱き上げ、葉月の腕を掴み、沙羅を置き去りにしてさっさと寝室に引き上げる。


   「あ、部屋の片付けはあなたに任せました。自業自得なので、綺麗にしてくださいね」

   呆けている沙羅に片づけを押し付けた。でもそれぐらい当たり前だ。


   「ねえ、京一?」

   「父さん?」

   両脇にそれぞれ抱えてベッドに寝る。疲れたような溜息がそれぞれ漏れる。問いかけてくるふたりに、


  「いいか、俺は貧血だから頭に血が回らない。彰吾も葉月も疲れているだろう? いっぱい彼に聞きたい

   ことがあるけど、今は無理だ。なら、少しでも回復して聞く。他に質問は?」


   ふたりからの返事は無言。だから俺はふたりの体を引き寄せて温もりを確かめながら、目を瞑った。


   すぐにふたりから寝息が聞こえた。そっと目を開けて、ふたりの寝顔を見た。変わらない寝顔に安堵を

   覚えて笑った。


   なんだか、クリスマスからこっち波乱万丈だ。穏やかな日常がいい。非現実的なものが多すぎて

   俺の頭では理解できない。


   穏やかな日々がすでに懐かしい。今は無理なんだろう。少なくともあの綺麗で何を考えているのか

   わからない鬼天狗がいる限り。


   「明日、とりあえず一発は殴る!!」

   新たに俺は誓った。




                                           京一編 <後編>終わり




              

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