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   「ただいまー」

    なんだかんだで日が沈んでしまった頃に家へと帰宅。わざとらしく明るい声で家へと入る。


   「? 彰吾? お袋、いないのか?」

   いつもなら葉月目当てに玄関先まで駆け出してくる彰吾が、こない。いないわけではない。

   玄関には彰吾の靴もお袋のもあるんだから。不安そうに葉月が俺の手を握る。


   「っーーーーやっ」

   彰吾の小さな叫び。そして何かが割れる音。一瞬、互いに顔を見合わせてそのまま走る。

   不安で握られた手に力を入れた。


  「彰吾っっ」

   駆け込んだリビングでは家具が散乱し、お袋が蹲りながらも彰吾を抱きこんで庇っている。

   彰吾は頬に切り傷を付けられ、目を見開き口は呆けるように開いたままだった。そして沙羅が、

   朗らかにいつも笑みを浮かべていたのが嘘のように、一切の感情を切り捨て厳しく…ただ厳しく彰吾を

   見据えていた。その手に剣を携えて。


   「俺の息子に何をした!」

   彰吾に駆け寄り傷を確かめ、青ざめているお袋の背を撫でた。葉月は呆然としていたが、我に返ると

   彰吾とお袋を庇うように立ちふさがった。


  「沙羅……いや、お父さん。何故?」

  「……我は鬼天狗がひとり、沙羅。我の使命は人間界のほか世界からの侵入を阻み、

   この世界を護ること。我が愛し子よ、邪魔をするならお前も一緒に」


   すっと剣を突きつけられながらも、葉月は怯むことなく俺たちを護るように両手を広げた。お袋が

   落ち着きを取り戻すと、彰吾を抱き上げた。葉月をやんわりと押しのけ、彰吾を手渡す。


  「下がっていろ。お袋と彰吾を頼む」

   頷く葉月に、頷き返して、ひたりと沙羅を見やる。沙羅は何の感情も見えない瞳でただ、俺を見つめた。


   「どういうことだ? お前の使命と彰吾を傷つけたことに何が関係ある?」

   「……この世界は幾つもの次元が重なっている。次元の層は脆い。はるか昔から異次元世界から

   魔物など他生物から攻撃を受けていた。



   それを憂いていたのは、魂の再生を司る『天界』と、生前の行いの罪と罰と魂の浄化を司る『冥界』と、

   そして天界と冥界の間にある死した魂がおのずと導かれ、魂の休息を与えられる『幽界』の長たちだ。

   そして幽界の王と人間の間に生まれた皇子が、眠りっている至上界の神々に祈った。自らの時を代償に

   取られ、異次元でありながら地球に重なり、包み込む世界を創造した。創造された世界は『御山』と

   呼ばれ、その時地球を侵略していた我ら鬼天狗一族が聖別された。魔物でありながら聖なるもの

   『聖魔』となった。我らは侵略の代償にこの地球を守護する者となり、時の皇子を主と敬った。



   そして今から
100年ほど前、我らの監視網を潜り、侵入を果たした魔物がいた。我らの追跡し、倒した。

   だが、魔物は女の中に次代を残した。その女は魔物の子とは知らずに、たった一人で生み、育てた。

   やがて、その子は成長し、子を宿し、その子もまた子を宿した。魔物の血は薄くなり、我らにも存在は

   判らなかった。


   だが、6年ほど前にその血が活性化した。その血が人間としての意識を蝕み、やがて完全なる

    魔物となる。その前に我はその魔物を排除しなければいけない」


   剣を喉許に突きつけられ、語られる。
6年ほど前だと? それはまさか……。




                          
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