4ページ目/全5ページ目 「はーちゃん、おきないよ。やっぱり彰吾をたすけたから?」 「大丈夫だよ、彰吾。お医者さんにも言われただろう? とっても上手に撥ねられたから、打撲と 足の骨折だけですんだって。彰吾がずっと泣いていると、葉月が落ち込むぞ」 「だって……だって……」 「猫さんだって助けただろう? 葉月はお前を褒めるし、お父さんだって同じだ」 声が聞こえる。優しい人達の声だ。待っててくれてずっと呼んでくれる。ああ、目覚めなければ。 優しい人達の所へ帰らなければ……。 「……京一、……彰吾……」 目を開ければ、不安そうな気遣わしげな顔。よく似た二つの顔があった。 泣きそうになっている二人の顔に手を触れる。節々がとても痛かったが、 それでも二人の顔に触れる。生きている。 父からもらった守護の力を込めた羽根が、かなりの衝撃で受け止めてくれたようだ。 「よかった。お前、二日間も眠っていたんだぞ。本当によかった」 「よかった。はーちゃん。気づいてよかった。ごめんね。ごめんね、はーちゃん」 「何言ってるの。猫はどうしたの? 彰吾はどこも痛くないの?」 「うん、どこも痛くない。猫は家でばーちゃんといっしょにいる。 ばーちゃんもしんぱいしているよ。はーちゃん」 静香(京一の母親)さんには嫌われていると思っていた。僕が京一の家へと引っ越したとき、 それと同時に静香さんが出ていってしまった。同性同士だから……認められる事はないと思っていた。 ふと京一を見ると、愛情溢れた眼差しで頷いて肯定した。ああ、少しは希望をもっていいのだろうが。 温かい何かが渦巻いて競り上がってくる。涙ぐみながら、 「そう、よかったね。よかったね、彰吾。二人が無事でよかった。 ……京一、もう面会時間は過ぎてるんじゃないの?」 「ああ。でももう少しここにいる。お前が目覚めたし、看護婦さんにももう宿泊の許可はもらっているんだよ」 優しく頬を撫ぜられる。目を閉じると、瞼にキスされた。目尻に溜まった涙を優しく吸い取られる。 触られると安心感が広がる。彰吾の前なのに……でも止められない。キスが気持ちいいから。 触れ合った唇を溶かすほどのキスを。舌を搦めて甘くて深い口づけを交わす。 「……言っただろう、葉月。子供の前では控えなさいと。全く、仕様のない子だね。我が愛し子よ」 興味津々と覗き込んでいた彰吾の目を塞いでいたのは、父だった。 ドアの開いた気配も何もなかったはずなのに。素早く京一が離れ、僕は羞恥で父に叫ぶ。 「父さん、どうしてっ」 「おやおや。そんなに大きな声を出すと、痛みが……ほらほらちゃんと横になりなさい。 ベッドを起こしてあげよう。初めまして加藤葉月の父親です。血は繋がってはいませんが……」 「話は聞いていますよ。昔のことも少しは……」 「そうですか。本当にいい伴侶に巡り会えたようだ。野中さん、この子をよろしくお願いします」 僕の肩に手を置いて頭を下げる父に、慌てたように頭を下げて、 「いいえ、こちらこそ。渋るこいつを口説き落としたのは、俺です。 過去のことも気にならないとはいえないけど、俺はこいつと彰吾の三人で未来を生きていきたいです」 「ふふっ。よき方だ。折りしも世間はクリスマス。久方ぶりに愛し子にも会えたことだし、 サービスをしよう。愛し子よ、これがクリスマスプレゼントだ」 ガタンッ ピューッ 窓が開き、風が吹き込む。冷たい風と一緒に雨が入ってきて、思わず目を閉じた。 次の瞬間身体が熱くなって慌てて胸を押さえた。 「彰吾? 彰吾はっ」 「落ち着きなさい。言ったでしょ? 今日はクリスマスで、プレゼントだって」 目を開けると窓の外へ向ける。そこには厳かな雰囲気で真っ白な翼を広げて、 穏やかな眠っている彰吾を胸に抱き宙を浮いている。京一は唖然としている。 「沙羅? 何をやっているんですか」 「プレゼントだよ。大サービスってやつかな。身体は治してあげたし、盛り上がっている二人の 邪魔者はこないし、彰吾君は連れ帰ってあげよう」 揶揄するように笑いながら、父はそのまま飛んで行ってしまった。 病院のあちこちから驚愕の声が聞こえてくる。 確か翼を不用意に見せるのは、どうしても生理的嫌悪が拭えないから 絶対にやりたくないって言っていた。 ……本当に大サービスのような気がする。でも、どう収拾するつもりなのかしら。 ……では後のことは父に任せ、僕はさっきからの熱を冷ますことにしよう。 唖然としている京一に父親の正体を話し、そして父のプレゼントを受け取った。 |
![]() ![]() 3ページ目に戻る 5ページ目に進む ![]() |