第七章 「 死線 」
第一節 【接触】

 フェンレード学院の中庭でフェリスと別れたクオンは、栗色の短い髪を揺らせてイノームの治療院へと急ぐメリルの後を追っていた。小走りに並んで進むのは貴族に仕える従者に扮して紅いドレスを翻す女護衛士のファル。職業柄なのか装飾性の強い衣服には馴れていない様子で、時折困った表情を見せながらドレスの裾を持ち上げたりしている。

 「ええと…、動きにくそうですけど大丈夫ですか?」

 「ああ、こういった格好は初めてなので…まだ動き方のコツが掴めない。しかし、なんとかついて行けそうだ。心配をかけてすまない。それから…」

 揺れる深紅の長い髪と同じ色の瞳が悪戯っぽく煌いて、端正な表情にわずかな笑みが宿る。

「上品な会話は少し苦手なので、わたしのことはファルと呼んでもらって構わない。」

 特に意識することはなかったが、本来なら気安く名を呼ぶことなど到底叶わない事だろう。念覚導師の護衛となれる程なら魔道貴族の中でもかなり高貴な身分と知れる。まして、華麗なドレスを纏った妙齢の佳人ともなればなおさらだった。

 「こ、こちらこそクオンと呼んでください。」

 ファルに高貴な女性を意識したとたんに恥ずかしくなったクオンは、頬を染めながら慌て気味に返事を返す。少し声も上ずったかもしれない。せっかくの申し出に気の利いた返答さえ返せない自分が情けなかった。

 けれどクオンが目の前にしたのは、今まで端正な表情を崩すことのなかったファルの輝くような優しい笑顔。

 「こちらこそ、クオン。」

 柔らかな女性の慈しみに溢れる表情が思わずクオンの視線を奪い続ける。必要以上に見つめ続けるクオンに気づいたかどうか。ファルは恥ずかしげに顔を伏せて、不自然に話を繋げた。

 「そういえば、フェリス様に剣を預けたままになってしまって申し訳ない。フェリス様は、幼少の頃からずっと魔鏡導師院に居られたので、少し世間の常識に疎いところもある。剣士を名乗るものならば、命の次に大切にする剣を他人に預けるというのは余程の事だと言うことも知らない程に。だからこの件で気を悪くされてなければ良いのだが…。」

 心地よいアルトの声音で響く言葉は、甘く可憐な外見とは裏腹に無骨すぎたが嫌な感じを受けない。

 「僕が自分から預けたのですから、構いません。それに、できうることなら人を傷つけたくはないので丸腰の方が落ち着きます。剣を持っていると、それだけの理由で手合いを挑む剣士も少なからずいますから。」

 「クオンは…変っているな、剣士なのに戦いが嫌いという。古神流二剣術の師範に伝説の剣を授けられる程なのならば、腕前もかなりのものであろう。強い力を持つ者は、たいがいにして力を行使し誇示することに情熱を傾けやすいものなのに。」

 「強大な力で人を捻じ伏せ意に従わせるなら、それは今この世界で魔道貴族が人々に対して行う行為と同じです。魔術が剣にとって代わるだけのことでしょう。クランスファード師範が教えてくれた剣のありかたは、創世の神意に背くことなく人を人として生かすためにだけに剣を振ることでした。人を殺めるための戦いは不毛以外の何者も生み出す事はなく、生きるものすべてに敵対する行為なのだと。」

 「そう…かも知れないな。」

 ファルはどこか寂しげな表情を浮べ、つぶやくように応えた。

 「魔鏡導師院の理念も、創世の神意に背く殺戮の闘いをくい止める事なのだと教えられている。敵を憎み害することは、やがて殺戮に繋がる道なのだと…。」

 深紅に沈む瞳が、街並みの屋根の上に広がる蒼穹を映す。きつく握り締められ、白く戦慄く繊細な手が抑えようとするのは、いかなる感情だろうか。

 「敵を憎むな、敵を滅するなと導師様たちは事あるごとに諭される。けれど…それは奇麗事に過ぎない。たとえば、とるに足らない目的で殺戮を繰り返す輩に…目の前で自分の大切な人々が殺害されていっても、まだそんな奇麗事を言い続けることが出来るのだろうか。…わたしには無理だ。許すことなど考えられないし、憎しみを忘れることなど出来るはずもない…。」

  端正な容姿に苦悶の表情が浮ぶ。ファルの見せる真剣な眼差しにクオンは掛ける言葉を失う。下手な同情や詮索が意味を為さない深刻な雰囲気が彼女を包んでいた。もしかすれば、その例えは本当に彼女の身に起こったことなのかも知れない。

 「…ところで、クオン。教えて欲しい。」

 互いの沈黙が不自然に長引くのを恐れるかのようにファルが慌ただしく問いかける。返す返事に、何故かためらいがちな言葉が続いた。

 「失礼でなければ、その…フェリス様とはどういった関係なのだろう?」

 答えは簡単だったが、クオンの脳裏にはフェリスが忘れられない程に大切な人と告げた言葉が蘇り、顔が赤らむのを感じた。

 「関係っていうほどのものではないのですが…。このまえ学院の中庭で殺されかけたところを助けていただいたのです。」

 「それだけ…ですか、本当に?」

 いかにも心外だとクオンの瞳を覗き込んだファルが小首を傾げる。

 「はい…。王子ライエルの護衛に取り囲まれ、攻撃魔術の鋼針に貫かれるところでした。あの時、助けていただけなければ、今頃はきっと死んでいたでしょう。」

 考え事をするときの癖なのか、ファルは整った唇に細い人差し指を近づけて、視線を荒い石畳の路面に落とす。学院内ではちょっとした噂になっていたから、事件そのものは聞き及んでいるのかも知れない。けれどそこにフェリスが関係していたとは知らない様子に見えた。

 「そう…フェリス様に救われたのですか…」

感慨深かげに瞳を伏せるファルの横顔が、何故かひどく寂しげな憂いに満ちていた。その理由が気になって言葉を探す。

「他にも助けられた人が居るのですね。」

思わず口にした凡庸な問いかけにも、真面目に答える生真面目さが実直な武人らしい。

「フェリス様はお優しすぎるから、自分の危険さえ省みずに困っている方を助けようとしてしまう。護衛士としてはとても面倒ですが、助けられる側から見れば言葉に尽くせないほどにありがたい事。わたしを含めフェリス様に救われた者はたくさんいて、誰もが感謝と敬愛を寄せ続けています。」

柔らかな微笑の先に向ける憧憬の眼差し。ファルにとってフェリスの存在はとても大きなものなのだろう。表情の片隅に見え隠れする憂いにさえ気に留めなければ、それっきり途切れてしまう会話。あまりに深く立ち入らない気遣いならこのまま黙って過ごすべきだが、一度芽生えた好奇心はそれを許さなかった。

「それで、名も知れない者を助けるために自分を危険に晒す事を心配されているのですね。」

「ええ、それもありますが…。一番憂慮しているのは、あの方を守るべきわたくし自身さえ助けようとなさる所なのです。護衛士というのは守るべき方を命に代えても守り通す者。守るべき方を危険に晒してまで生き延びようとは思いません。護衛士として背負う命の重みは、念覚導師たるあの方が背負う命の重みとは比較にならないぐらい軽いのです。ですから、フェリス様にはわたくしの命になど拘らず無事で居てほしい。それがわたしの切実な願いです。恐らく、優しいフェリス様がお聞きになったら本気で憤慨なされるのは間違いないのですが…。」

真剣な自分を隠そうと照れ笑いを浮べながら語るファル。フェリスにとっては恐らく彼女も失うことには耐えられないぐらいに仲の良い仲間なのだと感じた。

「フェリス様はきっとあなたも自分と同じぐらいに大切な存在だと感じているのではないでしょうか。ですから守るのはあの方だけではなく、あなた自身も守らなければならないのです。」

つい真剣な口調で真面目に語ってしまった自分が恥ずかしくなる。高貴な身分の護衛士に意見するなど傲慢に過ぎたのではないだろうか。気づけば赤く煌く瞳が不思議そうにクオンを覗き込んでいた。

「クオンもフェリス様と同じ事を語るのですね。」

「え?」

「わたしがフェリス様にこの話をするときは、いつもあなたのように答えてくださいます。一緒に生き延びなくては意味がないと…。」

ファルは、はにかんだようにフフフと笑う。

「フェリス様があなたを気にかける理由が少しだけ分かったような気がします。」

彼女が見せるとは思えなかった少女らしい表情に戸惑うクオン。きっとフェリスと一緒の時はそんな表情を見せているのだろう。端正に無骨な格好を見せているのは上辺だけで、本当は外見の年齢に相応しい同学年の女の子なのかも知れない。

優しげなクオンの目線を意識したものか。ファルは何かに気付いたかのように柔らかな雰囲気を消し、以前と変わらない端正な厳しさを身に纏った。

「もちろんご存知とは思うが…、フェリス様は星霜の魔鏡に純潔の誓いを立てた『創世の魔神』に仕える巫女の身。敬愛の情を示されるのは差し支えないが、くれぐれも普通の女性に抱くような愛情を示すのは控えていただきたい。」

有無を言わせないかのように、真剣な眼差しがクオンの瞳を覗きこむ。今まで特別意識したことが無いことのほうが不思議だった。もし、互いに心を通わせても肉体的には一緒になれない関係。二人の心がどれ程に近くても、絶対的に格差のある身分。まして、異性とは結ばれる故も無い聖職にある彼女。正気なら決して恋心など抱かないだろう相手。ファルが語った言葉を聞いて感じた寂しさを、フェリスは生涯感じ続けていかなければならないのだと思い当たった。

 クオンがファルに言葉を返そうとした時、今まで柔らかな雰囲気に包まれていた赤いドレスの優美な肢体が突然、緊張に強張った。彼女の目線の先を追うと、かなり先を進んでいた受付嬢のメリルの様子がおかしいことに気づく。イノームの治療院に急ぎ戻るため、小走りでフェンレード学院から進んできていたのに、どういった理由なのか石畳の道の真ん中で立ち尽くしていた。治療院までの道のりはまだ半分ぐらい残っている。メリルにしてみれば治療院と学院を往復しているのだから当然クオン達よりは疲れているのだろうが、それでも疲れ果てて倒れるような距離ではない。何か不測の事態にあって立ち止まったと考えるのが自然だった。

 目的地に一心不乱に小走りで向かっていたメリルから、互いに話し合いながら追っていたために追いつくまで少しの間があった。ファルは護衛士というだけあって緊張を全身に漲らせ、些細な変化も見逃さないように注意深く辺りに気を配っている。原因が分からない以上、用心に用心を重ね最悪の事態にも対応出来るようにする護衛士の習慣なのだろう。

 「…なんだろう、胸騒ぎがする。」

 小走りでメリルに近づきながら、ファルの艶やかなくちびるが、誰に向けるともなく低いつぶやきを漏らす。その感覚はクオンも微かに感じていた。定期的に学院から治療院に通ういつもの街路のはずが、初めて通るような奇妙に余所余所しい違和感。ちょうど住宅街を抜け平民街と貴族街を隔てる大きな第一水路沿いの道に出るこの場所は、貴族向けの物資が保管される倉庫が立ち並び昼では人影もない閑散とした場所。けれど水路の向こうに見える乱雑とした平民街の佇まいがクオンにとっては親近感があって、いつもならなんとなく安らげる場所のはずだった。

 「そう…だね、いつもの道じゃないみたいだ…。」

 同意したクオンにファルの少し驚いた瞳が向けられる。自分でも信じていいかどうか悩むほどに些細な感覚を、自分以外に感じる者がいることに驚いたらしい。陽光に煌きながら水路をゆったりと流れゆく水面を映す深紅の瞳が、つかの間不安に揺れる。

 「この感じ、確か…どこかで…。」

 ファルが遠い目で記憶の海を彷徨う間に、メリルの状況が分かるまでに近づく。そこで目にしたのは、立ちすくむメリルの視線の先にある緋色のマント。正確には緋色のマントを纏った人影が荒い石畳の上に倒れていた。

 「だ、大丈夫ですか?」

 クオン達が追いついたことで、自分を取り戻したメリルが慌てて倒れた人影に駆け寄る。受付とはいいながらも治療院に勤める身ならば、当然の反応なのだろう。けれど護衛士としてのファルにとっては危険この上ない状況だった。

 「近づいちゃだめぇっ!」

 相当に慌てたものか、いつも無骨なファルの口調からは想像つかない年相応の言葉で鋭い叫びが上がる。

 思いがけない静止に栗色のセミロングの髪を揺らせて振り向くメリル。同じ栗色の瞳に映したのは赤いドレス姿で短剣を握り締めたファルの端正な容姿。その深紅の瞳の先にあったものは象位の魔術師にして魔闘士である者を動けなくするに充分なものだった。

 いつの間に緋色のマントがざらついた石畳から離れていたのか思い出すことは難しい。ただ緋色のマントが持つ意味は、オルアス国の緋色の宮殿で年に一回、天樹月に行われる叙位典礼で盟約できた詠唱者だけが身に纏うことを許されるものではなかったか。それほどまでに格式の高い詠唱者が目の前に存在しているのだとすれば、当然そこには彼女と盟約を交わした強力な魔術師が居ることを意味する。

 白く細い腕がメリルの首に回されていた。反対の手に握られているのは短剣。わざと視界に入るようにと目の前に突き出されている。突然の事態に理解が追いつけないメリルはただ栗色の瞳を見開いているだけ。その影に短い赤毛に幼い顔立ちの少女が決死の表情を浮べてクオンとファルを睨みつけていた。

 「…。」

 凍りついたような沈黙。赤い髪に緋色のマントを纏った少女は緊張しているものか、痩せた体を細かく震わせていた。未だそばかすを残す容貌の額にはうっすらと汗が滲んでいる。どう見ても手馴れた動作ではない。やむにやまれぬ事情があっての暴挙と思わせるに充分な姿だった。

 「…なぜ、そんなことをするの?」

 ファルにしては優しい口調で対峙する少女に声をかける。魔闘士として、人質をとられる状況というのも珍しいことではない。瞬時に少女がプロフェッショナルではない事に気づいているのだろう。けれど、素人ほど予測が立てにくいのも事実。セオリー通りに動いてメリルを無事に助け出す自信はないために、交渉で説得するつもりらしい。

 「…。」

 予想された通りに沈黙で応える少女。ファルにしても答えを期待している訳ではない様子で、直ぐにあたりさわりのない言葉を紡いでゆく。クオンから見えるファルの背に回された左手の繊細な指がある決まった形に折り曲げられ、密かに呪印を結んでいる。

 あまり勤勉ではないクオンの魔術知識からでも、それが精霊神格を持つ魔術師の施術方法であることぐらいは気づく。本来なら両手で行うもののはずだが、片手でも可能らしい。ファルの指先は流れるような華麗さで、次から次へと呪印の形を変えてゆく。指先で形作る呪印は魔神の印と対応していて、その順番によって呪文詠唱と同じ効果を発揮するという。しかし、神聖神格や精霊神格の違いがあっても魔力に精気を贖って魔術を使う事に変わりはない。効率よく精気を消費しながら施術するには魔陣片を使った魔方陣の構築は不可欠のはず。それがなければ体の精気をそのまま使って魔術を使うしかない。魔方陣を使って周囲の精気を使いながらの施術に比べ、精気の消耗が激しく圧倒的に不利となる方法。今のファルにとっては、魔方陣を出現させて相手に魔術の脅威を突きつける訳にはいかない。素人同然の様子を見せる少女がどんなきっかけで逆上し、メリルを傷つけるか予測ができないからだった。

 凛とした額に汗の玉を浮かべながら少女と対峙するファルの繊細な指が動きを止め、最後の呪印を形作った。それは火の精霊神アグニを示す印。四精霊神の中でも攻撃的な魔術を得意とする火精霊魔術師であることを意味する。けれど、相手はメリルを盾に対峙する状態で、どのような火精霊魔術の攻撃が有効なのかクオンには思いつけなかった。

 次の瞬間、ファルと少女の間に魔術の赤い光が凝縮して波うち、ゼリー状に蠕動する球体が奇怪な姿を形作る。蝙蝠のような体に竜のような頭。小さいながら二本の腕と足を持ち、小さな三叉の矛らしきものまで手にもっていた。大きさは子供の頭ほどだが、全身が揺らめく紅い焔に包まれ尋常ならざる熱気を放つ。火精霊召喚妖精の火精サラマンが姿を現した。

 「!!」

 魔方陣の様子もなく、呪印も見逃していた赤いマントの少女は、忽然と姿を現したサラマンに栗色の瞳を衝撃に見開き微動だにすることも出来なかった。

 サラマンは燃え盛る焔の身体を揺らめかせると、思いがけない俊敏さで少女の短剣を持つ手に飛びつく。小さな手を守る為に呪術甲殻が水色に輝き、突き進んでいった火炎の怪異な塊を一瞬だけ激しく身動ぎさせて押し留めるかのようにみえた。けれど、完全に不意をつかれた少女にそれ以上の集中力はなく、見る間に彼女の手は紅蓮の焔に包まれてゆく。灼熱が少女の小さな手を焼き、異様な絶叫が倉庫の並ぶ街路に響き渡った。

 繊細な神経が集まる手のひらを襲った激烈な熱さに、思わず短剣を石畳に取り落とす。瞬時に姿を消したサラマンにも気付かず、狂気のように手を振り払い、やがて身体を小刻みに震わせながら呆然と焼かれた手を見つめ続ける少女。ファルは当然その時を待ち受けていた。

 俊敏に駆け出して、事態を飲み込めず立ちすくむメリルを抱き寄せ、少女から引き離す。恐らくどこかで様子を窺っているだろう彼女と盟約した魔術師への注意も忘れてはいない。

 「クオン、近くに魔術師がいるはず、注意して!」

クオンの近くまでメリルと一緒に近づいてきたファルが、鋭く叫びながら白亜の呪石を頭上に投げ上げる。いつ魔術攻撃を受けるのか分からない状況の中、魔力に輝く八枚の魔陣片は規則正しく彼女の足元に並び、その間に伸びる魔力の線が繋がって魔法陣を形作ってゆく。

 神経を集中させ、辺りの魔力に集中していたクオンは短く返事を返す。彼も同じく危惧していた存在。戦いの経験もなさそうな詠唱者に狂言をさせ、自らは姿を現さない魔術師の意図が理解出来ないために不安が募る。本来施術の補助が目的である詠唱者を無理に危険に晒して姿を現さない魔術師になんの利点があるのだろう。もし、単純に危害を加えようとするだけなら、詠唱者を使って攻撃魔術の不意打ちを仕掛ける方が理に叶っている。あえてそうせずに、大切な詠唱者を囮に使ったとするなら、その間に魔術師が致命的になりうる策謀を張り巡らせていたと考えるほうが自然だった。もちろん気のふれた詠唱者がひとりで事に及んだ可能性もあるが、注意するに越したことはない。この地で友好的でない魔術師に出会うことは命の危険さえも意味していたから。