Vapor Trails Memorandum




Vapor Trails を読む
Clacking & Poping
Tarot Cards
VT & Tarots
Darkness & Light



VT 訳詞  VT 解説  Making VT  VT Tour   RUSH TOP



☆ Vapor Trails を読む

オリジナルは、AMR(alt.music.rush Newsgroup) に投稿されていた、ファンによる分析です。 曲順と内容から、Vapor Trails というアルバム全体で一つのコンセプト、「悲劇からのリカバリー」 を表現しているように読める、というものでした。

Neil自身は、アルバムバイオの中で、「特に統一コンセプトがあったわけではない」というようなことを 言っていました。しかし、やはりVapor Trailsにはコンセプトがある、いえ、それは最初からこうと設定された 明確なコンセプトではなく、アルバム制作中(それ以前からも含めて)ずっと心の中にあったものが、 紡ぎ出される言葉の背景として、常に存在していた。それが、「悲劇からのリカバリー」の感覚ではないかと。 そしてVapor Trails の曲順は、明確にそのコンセプトを反映しているようだ、と。

あくまで1ファンの分析なので、これが合っているかどうかは、わからないです。でも、その投稿を読んだ時、 「おお、こう言う読み方もあるのか!」と、軽い衝撃を受け、同時にたしかに興味深く、自分でも納得できる論だと 思いましたので、紹介します。

Vapor Trails Story

☆ 学んだこと。結論。
1.One Little Victory
2.Ceiling Unlimited

 アルバムの最初を飾るこの2曲は、「メインテーマ」の象徴と読めます。つまり、「いろいろ大変なことはあったけれど、 なんとか乗り越えた。勝利をつかんだ。今はとても前向きな気持ちでいる」と。

☆ 何が起こったのか。
3.Ghost Rider
5.The Stars Look Down
6.How It Is
7.Vapor Trail

 具体的な出来事そのものでなく、その後に起こった悲しみや絶望、そこからなんとか救いを求めようとする思い。
 Peacable Kingdom は、すべての曲が書かれてから最後に出来た詞であり、9・11がらみであるから本筋とは少々外れるけれど、 それでもこの場所に持ってきたのは、意味がある。これもやはり破壊(災難)のその後の模索を提示している曲だから。
 順番的には、Ghost Rider から Vapor Trail まで、だんだんと生々しい悲しみが、苦闘しながらも処理されて行く過程を 追っているような感じです。

☆ 救済 (新しい愛の萌芽)
8.Secret Touch
9.Earthshine
10.Sweet Miracle

 人は一人で、生きがいを持って生きていくことは難しい。生きる喜びを取り戻すためには、新たな愛の訪れが不可欠。Neilの場合は、Carrieさんとの出会いがそれに当たりますね。
 これも、Secret Touch から Sweet Miracleまで、 愛が徐々に深まって成就するまでを、順を追っていっているようです。

☆ それでも、忘れることはない
11.Nocturne
12.Freeze

 この2曲は、「夜」が主題になっている曲です。Ghost Riderで、放浪の旅に出たNeilは、ホテルの部屋で「よく夜中に目覚めてしまう」 と、書いていました。真夜中に目が覚めた時、脳裏をよぎることは、どんなことなのか――夜は隠された過去、心の闇を象徴するので、 出来事そのものが消えてなくなるわけではなく、心の「夜」の中に記憶として残りつづける。それはたぶん生涯最後の日まで負って 行かなければならない影なのかもしれません。

☆ でも、前に進んで行くだけ
13.Out Of The Cradle

   冒頭2曲の決意表明のリプライズであり、結論でもあります。
 「人生が我々の行く手に何を投げかけてくるにせよ、とにかく前に進みつづける。それが人生という名の旅なのだ。 Endlessly Rocking!」

オリジナルはAMRのThe Professorさんの投稿です。Thanks!

こうしてみると、VTの曲順も非常に重要に思えてきました。



☆ Clacking & Poping

 「お聞き苦しい点は、オリジナルマスターに由来します」と言うような帯の注意書きがあったほかは、ここ日本ではほとんど 話題に上らなかったようですが、欧米では、5月のリリースから6月くらいまで、非常に掲示板をにぎわせていた、 「Vapor Trails」のClacking問題。
 つまり、「ヴォリュームを上げると音が割れる、パチパチノイズが入る」という苦情が ファンから結構来たのです。「ノイズがうるさくて、曲に没頭できない」「ノイズなんか、ないじゃないか」「いや、ある! 絶対ある!」「ノイズなんかに気を取られないで、曲を聴け!」「だからノイズが邪魔で・・」「細かいこと気にするな」 などと、まあ、ものすごい論議(というか堂々巡り)が、あちらのファンサイトの、ほとんどすべての掲示板上で展開されていたのです。
 この議論が沸騰するまで、私はVTのノイズなど、気がつきませんでした。それに今でこそ新しいポータブルCDプレイヤーを買いましたが、 リリース当初はかなり年季の入ったプレイヤーで聞いていましたので、多少のノイズは機械のせいかな、と、気にもとめてなかったんですが、 意識して聞きなおしてみると、たしかに背後に時々、パチパチという小さくはじけるようなノイズが入ることに気づきました。
 アルバム全体に渡って聞こえますが、特に顕著に思えたのが、Secret Touch と Vapor Trail 。 たしかに意識すると、気になります。 ことに、「You can never break the chain〜」とか、「Washed away like footprints in the rain〜」のように、曲のクライマックスで パチパチッとなるのは、つらい。まあ、Vapor Trail の場合、雨の音(効果音)に聞こえないこともないですけれど。

 でも、なぜノイズが入ってしまったのか――AlexがCanoeのインタビューで、「最終ミックスの段階でデジタルディストーションが 起きてしまって、ミックスをやり直したり、大変だったらしい」と言っていたのですが、それがたぶん関係しているのでは。
 この時Alexは休暇を取ってハワイに行っていて、Geddyが最終ミックスに立ち会っていて、非常に苦労したという話ですが、しかし それにしては、完璧主義者のはずのGeddyがなぜ、ノイズを残したまま作業を終わらせてしまったのか――このあたり、少々疑問ですが、 CanoeやGet MusicのAlexのインタビューを聞く限りでは、Alexがハワイのビーチで、VTのデモ盤CDを聴いて、「とても良い!」と思い、 NYのGeddyに電話したところ、「ひどい音じゃないか?」と言われ、「ずっとそればっかり聴いてるからだ。少し聴くのをやめて、間を 置いて、聴きなおしてみろよ」――ということを言ったらしいです。
 この後、Geddyがどう言う反応をしたのかはインタビューに言及されて いないようですが、たぶんにありえるのは、Alexの忠告にしたがって少し間を置いて冷静に聴いてみて、「これで良い」と思えた、 ということなのではないかと。
 つまり、二人とも、多少のノイズより、曲のダイナミクスとか音の全体像とか、そう言うものを重視して、 ミックスを仕上げた、ということではないかと思えます。

 そして、この議論が沈静した頃、8月の終わりに、現役レコーディングエンジニアで、Rushファンでもある人から、非常に専門的見地による、 「ノイズの原因」分析が、その人のHPにのったのです。「Vapor Trails」は、MAXレベルでミキシングされたせいだ、と。 ミックスレベルが大きすぎて臨界を超えた結果、ノイズの発生や音象のゆがみを生んだ、というのが、専門家の見解だそうです。
 詳しい記事はこのエンジニアさんのサイトにのっていますが、 ミックスの録音レベルが大きすぎたために、ハイエンドやローエンドがつぶれ、 音像が歪んでしまった、そしてその副産物として、パチパチノイズが発生した、ということらしいです。
「Vapor Trails」は、「Louder is Better」と言うレコード会社の方針、業界のトレンドに殺されてしまったと、極端な話、そんな感じです。
 もちろん、Rushクラスのアーティストだと、レコード会社の方針だけでプロダクトが決定されるわけではなく、当然アーティスト側の 意思がなければ通らない話ですので、全面的にレコード会社だけの責任だとは、言えないでしょうが。

 ノイズの原因は一応こうして究明され、あるファンが作った「リマスタリング・プロセス」を経たVT(つまりノイズを除去したVTの 海賊盤)も出回っているそうです。でも私的には、個人的なレベルで、イコライザーをかけたりポップ音の除去レベルを上げて、調整することは かまわないと思うのですが、勝手にリマスタリングしてしまうことは、大きな抵抗を覚えます。
 将来的に、Rush側でリマスターの必要があると思えば、オフィシャルなリマスター盤が出てくるでしょう。今の音は、「彼らの選択」 の結果である、ということを、考えるべきではないでしょうか。

 かく言う私も、いつのまにかノイズは気にならなくなりました。曲に集中する、もしくはBGMモードの時だと、パチパチは忘れます。
 議論が沸騰している頃、誰かが、「ノイズの謎がわかった! きっとAlexがミキシングしている最中に、オムレツを作っていたんだ! バターを溶かして、 最後にたっぷりチーズを乗せて」と投稿していたのが、印象的でした。このくらいの余裕とユーモアで、受け止めたいですね。



☆ Tarot Cards



「Vapor Trails」のブックレットで、たぶんひときわ目を引いたタロットカード――それぞれの曲に対応するカードに、 何らかの意味を持たせたように見えるこのカード、占いに興味のある方には、おなじみでしょう。占い関係は、ネットで常に 人気のあるページですので、「タロットカード」、「タロット占い」で検索すると、ドドッと引っかかってきます。各カードの詳しい解説を しているサイトや、Javaを使った占いを無料でやってくれるサイトなどありますので、ご興味のある向きには、おもしろいと思います。

 ここはまぁ、タロットサイトではないので、簡単な解説のみ、あげておきます。

 タロットの起源は、諸説あるようですが、おおむね中世のイタリアで発祥した、というのが、今のところもっとも有力だそうです。 ゲームカード、つまりトランプのような遊戯用のカードとして誕生し、のちに占いに使われ出したらしいです。

 タロットカードは、22枚の大アルカナと、56枚の小アルカナ、合計78枚のカードで構成されます。
 小アルカナはトランプの原型となったもので、4つのスート(柄)に分かれ、それぞれのスートは、1から10までの数札と、 ページ、ナイト、クイーン、キングの、コートカード(宮廷札とでも訳すべきか)の、計14枚で構成されます。
トランプのジャックは、ページとナイトがいっしょになって生まれたものだとも、言われています。
小アルカナのスートは、以下の四つです。

Wand (ワンド・棒)
  火の象徴。理想  → トランプのクラブ
Cup (カップ・(聖)杯)
  水の象徴。愛、感情 → トランプのハート
Sword(ソード・(聖)剣)
  風の象徴。理性、知 → トランプのスペード
Pentacles/Coin (ペンタクルス・コイン)
  地の象徴。物質 → トランプのダイヤ

各小アルカナの意味は、興味のある向きには、タロットサイトで見られます、ということで、ここでは割愛させていただきます。

大アルカナはタロット特有のカードで、通し番号のつけられた、特定の名前を持つカードです。 全部で22枚あります。正(正しい位置)と、逆(絵がさかさま)では、意味が異なります。

0 The Fool (愚者)
 正:周りに無頓着、無明、規定の概念に縛られない、可能性
 逆:愚考、軽率、無謀な冒険、気まぐれ、独り善がり

1 The Magician (魔術師)
 正:強い意志、創造性、熟練、奇抜なアイディア、変化
 逆:意志の弱さ、優柔不断、詐欺、未熟さ、凡庸さ

2 The High Priestess (女教皇)
 正:隠されたものが明らかになる、深い学識、深い内面
 逆:晩婚、わがまま、思慮に欠ける行動、根気がなくなる

3 The Empress (女帝)
 正:良いインスピレーション、芸術、母性、結婚、発展
 逆:結婚や恋愛の不調、迷い、甘え、過保護、浪費、肥満

4 The Emperor (皇帝)
 正:実行力、指導力、決断、男性的な人物、建設
 逆:頼りにならない人物、無力、未熟、ワンマン、過労

5 The Hierophant (法王)
 正:精神的な指導者、慈悲の心、アドバイス、頑固、現状維持
 逆:視野が狭い、立ち往生、不活発

6 The Lovers (恋人たち)
 正:恋愛、選択の時、コミュニケーション、本当に大事なもの
 逆:誘惑、見とおしの甘さ、選択の誤り、優柔不断

7 The Chariot (戦車)
 正:困難を克服、自分の力を発揮する、勝利、意思、自己反省
 逆:暴走、コントロールがきかない状態、失敗、早合点

8 The Strength (力)
 正:信念、特性、束縛からの解放、自由、独立、内剛外柔の人
 逆:実力不足、あきらめ、努力を怠る、チャンスを逃がす

9 The Hermit (隠者)
 正:内向的な状況、内省、孤独、何かを探求すること
 逆:気難しさ、偽りの真実、現実逃避、落ち込み、不安、内気

10 Wheel Of Fortune (運命の輪)
 正:不可避の事態、変化が近づく、予想外の展開
 逆:タイミングを逃す、見こみ違い、アクシデント

11 Justice (正義)
 正:正しい判断、公正さ、正当性の主張、バランス、名誉
 逆:公正さを欠く、モラルの退廃、判断ミス、裁判で負ける

12 The Hanged Man (吊るされた人)
 正:中途半端な状況、自己犠牲、困難、犠牲は報われる
 逆:骨折り損、無駄な期待、目的を失う、犠牲は報われない

13 Death (死神)
 正:何かが終わる、破壊、死、失敗、新しく再生する、終焉
 逆:生まれ変わる、九死に一生を得る、新しい出発

14 Temperance (節制)
 正:自分を律することが出来る、忍耐、適応、巧みな管理
 逆:コントロールを失う、不器用、初心を忘れる

15 The Devil (悪魔)
 正:憎悪、嫉妬、誘惑、堕落、邪な心、逆境、悪循環
 逆:オカルト、迷信、腐れ縁を立ちきる、依頼心

16 The Tower (塔)
 正:突発的な事故やアクシデント、逆境、破局、革命、災難
 逆:突然の変化、現状の崩壊、解放、初心に戻れ

17 The Star (星)
 正:希望、ロマンティックな感受性、明るい兆し、明日への展望
 逆:理想が高すぎる、センチメンタル、失望、非現実的

18 The Moon (月)
 正:不安、裏切り、あいまいな状況、胸騒ぎ、夢、不安定
 逆:真実を見出だす、インスピレーション、再び手に入れる

19 The Sun (太陽)
 正:人生の幸福、自己表現の喜び、達成、勝利、成功、満足
 逆:活動力の衰え、計画性のなさ、一時中断、白紙に戻る

20 Judgement (審判)
 正:思いがけない洞察、インスピレーション、復活、信仰の勝利
 逆:過去が忘れられない、悪い知らせ、離婚、挫折、再起不能

21 The World (世界)
 正:完全な調和、成功、完成、完全、願望の成就、最後の変化
 逆:低迷、失敗、現状維持がやっと、スランプ、疲労、無力感

 本によって、またサイトによって、それぞれのカードの解説は微妙に異なると思います。さらにはカードの 種類によって、順番が違ったり、別の名前で呼ばれたりもします。
(ここでは、ウェイト版の呼び名と 順番を採用しました)
 基本的にタロットは、そのカードがあらわすコンセプトを、さまざまな視点から読み解くことによって、解説が生まれるので、人によって解釈のバリエーションがあったりするわけです。カードの絵柄から宗教を読みとる人もいれば、オカルトを読みとる人もいるし、分析的なもの、そして深読みはあえてしないで普通に解釈する人もいるわけです。
 ちなみに上の解釈、およびカードの概要は、「タロット大事典  (東條真人著 国書刊行会)」、「タロット こころの図象学 (鏡リュウジ著 河出書房新社)」の2冊から、紹介したものです。

 タロットに描かれている絵柄にも、さまざまな種類があります。Vapor Trails のブックレットに使われていたのは、ウェイト版、別名ライダー・タロットといい、もっともポピュラーなものですが、他にも、「魔女のタロット」「ラバーズ・タロット」「クローリーのタロット」など、かなりの種類があります。
 と言っても、やはりタロットといって、真っ先に頭に浮かぶのは、たいていはウェイト版でしょう。(特にRUSHファンは)
 ウェイト版タロットは、20世紀の初めの頃、イギリスのアーサー・エドワード・ウェイトという人(牧師さんだと記憶しています)の指導のもと、パメラ・コールマン・スミスというイラストレーターが5年かけて描き上げたものだそうです。実際描いたのはパメラさんなのですが、図案はウェイト師のものなので、ウェイト版と呼ばれているのでしょう。

 タロットカードの占い方(スプレットの展開の仕方)には、いろいろな方法がありますが、たぶんもっともポピュラーなのは、10枚のカードで占うケルト十字でしょう。そのほかに5枚で占うギリシャ十字、3枚並べるスリーカードあたりが一般的だと思います。使うカードの枚数が多いほど総合的に占えますが、枚数が多い分、解読はやや煩雑になります。本格的には78枚すべてを使うのですが、大アルカナ22枚のみの占いもあるようです。種類が多いと、解読も大変だからでしょう。
 ここではスプレッド(並べ方)の解説はしませんので、もしご興味がおありの方は、専門サイトを訪れてみることをお勧めします。(って、こればっかり)

 この中で、Neilがやったという(あら、ネタバレ)スリーカードは、簡単なスプレットですので、これだけはざっと説明を。
 まず、タロットカードを良くシャッフルし、一まとめにしたら、三つの山にカット、そののち、真中→右→左の順で山を取り、再び一つにします。さてここから、7枚目のカードを抜き取る方法と、自分でランダムに選ぶ方法があるのですが、(他にもあるかもしれません)ともかく3枚のカードを抜き出し、抜いた順に、左から並べていきます。テーブルの上には、3枚のカードが並ぶはずです。左側のカードは「過去」を、真中は「現在」を、そして右側のカードは「未来」を現します。
 その3枚のカードの意味と位置を考えて、解釈を出すのですが、ここではインスピレーションを大事にしてください。というより、実際タロットは、インスピレーション一発です。コーヒー占いのように、それだけではありませんが、カードの絵柄と意味を見て、頭の中にひらめいたこと、それがたぶん答えだと思います。(ただし、責任は持てません)

★補足:VTのブックレットのタロットは、厳密にはRiderタロットではありませんね。すみません。絵柄はライダー系ですが、色使いが違っていて、VTのはモノクロに近いです。これに類似のカードは、個人的には心当たりがありません。自分で昔使っていたものに近いような気もしますが、もうとっくに処分してしまったし。VTタロット、なんて自分で勝手に名づけてますが、見つけたら買ってみたいです。(2006年4月11日)



Vapor Trails と タロットカード

 なぜタロットカードなのか? Rushとタロットカード、ちょっと意外な組み合わせのように感じませんでしたか? たぶんにNeilは 占いなど、好きそうではないだろうという思いがあったので、私は少々びっくりしました。いろいろあったことが、彼をして運命論者に してしまったのだろうか、などと、チラッと勘ぐったりもしました。良く考えてみれば、星占いなどと違い、タロットカードというのは 偶発的な要素の強い占いですから、端的に言ってしまえば「運命とはさいころを振るようなもの」という、Roll The Bones のコンセプト に近いものなので、Neilの考えと矛盾はしないでしょうが。

 Neilの本、「Ghost Rider」を読んで、その答えがわかりました。それは非常に興味深い話でした。
(注意! ネタバレ! ここから先はすべて「Ghost Rider」に書かれていた話ですので、本をまだ読んでいなくて、 内容を知りたくないという方は、読まないほうが良いかもと思います)

 1999年の春、Neilは傷心を癒す旅の途中で出会ったGabrielleという女性と、カリフォルニアはVenice Beach(公園だと思います、 たぶん)を散歩していて、そこに何人かのタロット占い師がいるのを見かけます。Neilは以前からタロットに興味は持っていたらしい ですが、占いをしたことはなかったそうです。が、長い孤独と悲しみの中で出会った女性との、春の陽気の下で、そしてカリフォルニアの 開放的で明るい空気、催し物でにぎわう公園でのデートが、彼の心を軽くさせ、「初のタロット占いをやってみようか。おもしろいかもしれない」 と、いう気にさせたのでしょう。
 歩道に並んだ占い師たちのなかから、Neilは一人を選び、その人にタロット占いをやってくれるようにたのみます。 その占い師は、普通の格好をしたベトナム戦争の退役軍人で、60歳くらいの年配の人だったそうです。

 この人は3カードならぬ、5カード占いをやるんですね。カードを伏せたままNeilに5枚をランダムに抜き出させ、並べたといいます。 ギリシャ十字でしょうか? 5枚のカードは、次の通りでした。

死神・智恵(節制か?)・塔・運命の輪・女教皇

そのスプレッドを見て、占い師は数分の沈黙ののち、頭を振りながら言ったそうです。
「こんな変わった例は、見たことがない――」
 そして、占い師はリーディングを告げました。
「とてつもなく大きな悲劇と苦悩の後、あなたは自分自身と自らの人生を、もう一度構築しようとしていますね。別離の痛みが、あなたを 不幸にし、過去の軋轢に思い悩み、後悔しながら旅をしているようです。あなたの仕事は、なにか芸術を表現するような関係のものではありませんか? 俳優とか、ミュージシャンとか――あなたの職業は、あなたに多くのものをもたらしてくれましたが、あなたが別の方向へ行って しまったために、停滞してきていますね。あなたは故郷から遠く離れ、新しい人生のサイクルをはじめようとしています、でも、あなたにはまだ その準備が出来ていません。あなたには、もっと深い洞察力が必要です」

――この占い師が、Neilの事をなにも知らないで、上の五枚のカードだけから、これだけのことを言い当てたのだとしたら、ほとんど 超能力的な正確さですね。Neilが驚いたのも、無理ないです。
 この5枚のカードの組み合わせからは、「この人は、内面的な想像力や智恵に優れた人だ。でも、過去になにか破壊的な悲劇があって、 そこから再生しようとしている、その転換期にいるようだ」くらいなら、普通に解釈できるのですが、ここまでは・・・・60年配の、 ベトナム退役軍人さんがRushを知っていたかどうかとなると、うーん‥‥という感じですが。
 もしかしたら本当に、この人は、かなり霊感の強いタイプだったのかもしれません。このあと、将来について、もう一度5カードのスプレットを やっているのですが、2度目のカードの組み合わせは書かれていません。が、リーディングは次の通りでした。

「困難な時期、不幸せや財政的な問題を乗り越え、あなたはやがて新しく出会った人と(親密な)関係を築き、とても豊かな時を過ごすことが 出来るでしょう。この人はあなたに愛情を与えるだけでなく、今あなたが抱えている金銭的な問題をも解決してくれるでしょう。彼女は あなたにとって、真のパートナーとなる人です」

――Carrieさんのことですね、きっと。そのことに後で気づき、Neilは二度驚くことになるのですが。
 この占いによって、Neilは一気にタロットへの興味を倍増させ、自分でカードと入門本を買って、リーディングを試みます。

 ところで、Ghost Riderを読んでいなくて、ここを読まれた方、いくつか疑問を感じられたかもしれませんね。 冒頭に出てきたGabrielさんって、誰? Carrieさんでないの? とか、 「金銭の問題ってなに? Rushがお金に困っていたとは 思えないのだけれど」というような――前者に関しては、「Ghost Rider」をお読みください。もしくは、いずれ本の内容を 紹介したページを、後ほど作る予定ですので、そこで書きます。(いつになるのだか(^^;))
 後者に関しては、AMRやCounterpartsなどの掲示板を一時期にぎわせていたので、ここで簡単に書きますが、どうやら、 「Rushが活動していないので、今までの収入の投資による利子と、これから入ってくる印税だけでは、今の生活レベルを維持できない」と いうことらしいです。カナダは税金、高いそうですし。

 話を戻します。その年の夏、Neilはいったん旅を中断して湖畔の家に戻り、久々にドラムが叩きたくなって、悲劇後はじめて スティックを手に取り、スタジオに入ってプレイするわけです。そして演奏の喜びはまだ感じることが出来る、とわかるのですが、 仕事としてプレイするだけの準備はまだ整っていない、と感じるわけです。その印象を裏付けたのが、その後、Neilが自身で試みた スリーカード・スプレッドでした。その時のカードは、次の3枚だといいます。

愚者・聖杯の6(逆位置)・ワンドの9(逆位置)

――リヴァースカードは、あまり好ましくない結果であることが多いのですが、3枚中、2枚がそうですね。でも、聖杯6の逆位置は、 「希望」「未来への展望がひらける」で、決して悪いカードではないです。ただ、聖杯の6というカードは、正位置であれ逆であれ、 「ノスタルジー」がテーマになっています。で、最初の2枚のカードから、Neilは次のような判断を下すわけです。

「新しい冒険に乗り出そうとして、大胆に未来を切り開こうという気はあるのだけれど、まだその心積もりが十分に出来てはいない。 自分はまだ過去に捕らわれている。先へ進むためには、ノスタルジーから解放されなければならない」

 3枚目、ワンドの9の逆位置ですが、タロット本には次のように書いてあったと、Neilは書いています。

「ワンドの9の逆位置は、他者を守り、助けたいという意志を持ちながら、自分自身には無頓着な人をさす。ほとんどの場合、ワンドの 9の逆位置は、スタミナや体力が不足しているゆえに、物事を正しく見とおせないということを示唆している。あなたは精神的に、もしくは 肉体的にひどく痛めつけられ、来るべき困難な仕事をやり遂げるまでには、健康が回復していない。
 今は外に打って出て、もう一度戦いを挑む時期ではなく、休息と回復が必要な時である。あなたは、まだ準備が出来ていない。 次の行動に移る前に、念入りなチェックが必要。あなたは傷つきやすくなっている、もしくは戦うには弱りすぎているか、単に消耗して、 疲れすぎているのかもしれない。このカードは、誰かの振る舞いに対して落ち込んでいたり、なにか心配事のある時に、出現することがある。 ワンドの9の逆位置は、新しい段階に移る前に、物事を再編し、冷静になることが必要だということを教えている」

――何か心にわだかまりや迷いがある状態でタロットを引くと、時にあまりに心情にフィットしたカードが出てきて、ギョッとすることが 自分でもあります。これが、タロット占いの面白いところかもしれません。
 この場合のリーディングでも、Neilはきっとあまりに自らの内面を言い当てられたような気分になったことでしょう。
「まだ時間がかかるのだろうな」と彼は思い、その後のGeddyへのBirthday Letterにも、「プレイは出来るんだ。でも、まだ仕事として 取り組む準備は出来ていない。まだ時間がかかるよ」というようなことを、書き送っています。

――ところでNeil、今もタロット占い、ツアーの合間に、やっているのでしょうか?



☆ Darkness And Light

「光と闇」――ゾロアスター教みたいですが、ある意味普遍的、根源的なコンセプトだと思います。この光と闇の概念は、 「Vapor Trails」の歌詞全般にも、現れているように思います。ただ、VTの場合、闇は邪悪さの象徴ではなく、悲しみや絶望、混沌、迷い といったものの象徴で、「心の闇」と言っても良いかもしれません。
「Reading VT」のところで、「Nocturne」と「Freeze」は、 夜の主題である、と紹介しましたが、個人的には、「Ghost Rider」から「Freeze」まで、「夜の中」だと感じられます。 夜の中で光を求めている、そんな印象を持ってしまうのです。光は、希望、愛、生きる意味、喜び、そう言ったものの象徴だと 思います。

「A wandering hermit racing toward the light」/ Ghost Rider 
 (A wandering hermitとは、Neilのことでは、と思えます)
「Rising up from the surface to fly into the light」/
 Sweet Miracle
「Sometimes I freeze until the light comes」/ Freeze

こういった直接的表現のほかに、How It Isの「It's such a cloudy day seems we'll never see the sun」という 光の象徴としての太陽、The Stars Look Downの「星の光」、Earthshineの「月の輝き」(地球照も含めて)など、夜、 もしくは闇の中の光、という概念を現しているように思えます。さらには、Peacable Kingdom の homeward angel、 Secret Touch の「A gentle hand, secret touch of the heart」なども、間接的な「光」の表現のように思えますし、 完全に夢の世界(それも夢魔に近い)であるNocturneでも、闇の中に微かにさしそめる光の感覚を感じます。
 「Ghost RiderからFreezeまで、ずっと夜の中」と書きましたが、正確には、How It IsとVapor Trailの2曲は、 「昼間」を感じるんですね、私的には。薄日のような昼間、でも外は明るいのに心の中は闇に沈んでいる、そんな感覚を感じています。

 これだけならば、別に1コラム設ける必要性はないと思うのですが、「『光を求めて』というのは、単なる希望の象徴だけでなく、 宗教的な救済を意味しないか」というような投書が、たしかTri-Netだと思ったですが、あったんですね。
 Neilは過去、無神論者というか 懐疑主義者であり、いわゆる宗教をあまり信じない、運命は偶発的な要素が大きい、という、『Roll The Bones』に象徴されるような 考えの持ち主だったことは、ファンの間では結構有名で、それゆえ、赤いペンタグラムのシンボルとあいまって、 「Rushは悪魔崇拝のバンドだ』などとあらぬことを、あちらでは言われたりもしたわけです。

 Neilは宗教的な人間になったのか? ――
 Selenaさんの誕生日に、メキシコシティのカトリック教会に入り、泣いたというシーンが 「Ghost Rider」に出てきますが、(ネタバレすみません!) 具体的に「信仰を取り戻した」というような記述はなかったと思います。
「なぜこんなことになったのかと、繰り返し問い掛けた」とは書いていますが。「罰なのだろうか、悪い星回りなのだろうか、 誰かの悪意なのだろうか」と自問自答を繰り返した、と。The Stars  Look Downのコーラスの部分に、この感じが良く反映されて いると思いますが、それでいくと、やはりNeilは「神は救済の手を差し伸べてくれるわけではない」と感じているように思えます。
 しかし、そのTri-netの投書によると、「Sweet Miracle」の歌詞など、端的に宗教的だと言うんですね。

「I wasn't walking on water/ I was standing on the reef」
「I wasn't walking with angels/ I was talking to myself」
「I wasn't pray for magic/ I was hiding in plain sight」
 いずれのフレーズも、過去の自分は決して宗教的な人間ではなかった、 という告白であり、そこに「Oh Sweet Miralce」のリフレイン、そして「Oh Salvation」とくれば、かなりの部分、宗教的な救済を 想起するのは事実です。
 miracleは、「奇蹟」と訳すと、たぶんにイエス・キリストの起こすような、宗教的な奇蹟になってしまいますし、 salvationというのも、『宗教的な救済』と言う意味合いの強い言葉です。そして「Fly into the light」――「光のただ中へと、 飛んで行く」――この光が「神の栄光」と読めなくもないわけで、それゆえ「Sweet Miracle」は、たぶんに宗教的と言う人がいても、 不思議はない歌詞だと思えます。

 実際のところ、この曲はCarrieさんとの愛の成就を称えた曲だというのが、Rushファンの認識で、たぶんそれは絶対間違いないと 思うのですが、ただそれだけでなく、Neilがあえてそう言う宗教的ともとれる含みの言葉でこの曲を書いたのは、かつて自分を 絶望と悲しみのどん底に叩き落した「運命」――神でなく、運命と読んだ方が、適切だと思えます。その中に神の概念が入っている 感じで――だけれど、再び自分を立ちあがらせてくれた、Carrieさんという女性の形をとって、その感謝の気持ちが、反映したのでは、 と私的には思っています。

 苛酷な運命の前に、己の無力さを思い知り、「かつての自分が、どれほど不遜な人間だったか、わかった」と書いていたNeil。 彼にとっての信仰、神は、自然や運命という形をとるのかもしれません。でも、それは決して無神論ではないと思えます。




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