Vapor Trails 私的解説と感想

2006年4月11日補足



One Little Victory Secret Touch
Ceiling Unlimited Earthshine
Ghost Rider Sweet Miracle
Peaceable Kingdom Nocturne
The Stars Look Down Freeze
How It Is Out Of The Cradle
Vapor Trail



VT 訳詞  VT Memorandum  Making VT  VT TOUR  Rush Top



ONE LITTLE VICTORY

 アルバムのオープニング曲でもあり、最初のラジオシングルでもあって、アルバム発売の1ヶ月ほど前からもう 耳にしていましたが、最初に聴いたときには、驚きました。いきなりツーバスドコドコ、 なんてワイルドなサウンドなのだ――と。
 躍動感に溢れたこの曲、とてもライヴ映えします。

 歌詞的には、結構繰り返しが多いのですが、「ある程度の〜」の繰り返しのところ、もうちょっと、うまい言い回しがないかなぁ・・などと思案しました。しかし、 結果的に今のところ、他の単語を思いつくことができませんでした。(すみません!)

 Neilのアルバムバイオによると、この曲は、最初からアルバムのトップを飾ることが、決まっていたそうです。
 「戻ってきたぞ!」という気迫にあふれるこの曲は、彼らにとっての小さな勝利――いえ、二つの悲劇と、それに伴うバンドの危機を乗り越えた、大きな勝利――RUSHとして、この場に再び戻ってこれたのだ、という 高揚感が感じられます。

 そんな彼らに、祝福あれ!!



CEILING UNLIMITED

 この曲に関しては、The Sphereの対訳プロジェクト上で、さまざまな議論が交わされました。
そもそも、「Ceiling Unlimeted」とは何か。「天井知らず」つまりは、「限界がない」と言う 意味なのだと思いますが、ネイティヴの方の意見では、「空」というものもありました。
「Ceiling Unlimitedという言葉は、空を連想する。そこに広がる飛行機雲。タイトルにつながる イメージだ」と言う書き込みを、海外の掲示板で見たこともあります。

「malice through the looking glass」は、ルイス・キャロルの、「鏡の国のアリス」(原題は 「Alice through the looking glass」)のもじりでしょう。「鏡」はまた、「テレビの画面」 への連想へもつながり、「この曲全体のイメージは、テレビの世界という印象を感じる」と言われた ネイティヴの方も、いらっしゃるそうです。
Test For Echoにも通じる「現代」の雰囲気、それでも、「限界はないんだ」と言いきる、 「Out Of The Cradle」と並んで、アルバム1、2を争う、前向きな歌詞だと思います。
そして、それが彼らの復活の決意を表しているようで、感嘆とともに、エールを送りたいです。

 「Cycle World Magazine」にNeilが語ったところによると、「Ceiling Unlimited」というのは 気象用語で、「快晴(雲量ゼロ)」を意味するらしいです。「抜けるような青空」、というところから転じて、 「晴れ渡って、はっきりと見える」「視界を遮るものはない」と言う意味にとれるのかもしれません。(2003年2月23日追記)



GHOST RIDER

 Neilの新しい本と同名タイトルのこの曲は、本の内容を歌詞に凝縮したようなものではないかと 思います。
 本のほうは、7月末にBackstage Clubから届いたので、それから1ヶ月半かけて読破しました。 (途中、ちょっとお休みしましたので。(^^;))
 これはJackieさんが亡くなって二ヶ月後の1998年の8月から、1999年11月、LAで 今の奥様、Carrieさんに出会うまでの1年3ヶ月間の、Neilの北米大陸放浪記です。
 家族をなくし、一人になってしまったNeilは、「ここにいてはいけない。動いていなければ」という思いにかられ、 愛用の赤いBMW(93年のクリスマスに、Jackieさんからプレゼントとして贈られたもの)に乗って、 一人北米大陸を旅します。北極圏へ、ヴァンクーバーへ、グランド・キャニオン、イエローストーン、アリゾナの砂漠地帯、カリフォルニア、メキシコ、 ベリーズ――ホテルに泊まり、時には友人や兄弟の家に身を寄せながら、あてのない旅は続きます。ただ、考えないために――思い出さないために。 それでも思い出は時折吹き上がってきて、Neilを苛みます。
 曲中に出てくる地名、White Sandはニュー・メキシコの観光地、Canyon Landsはユタ州南東部にある国立公園、 Redwood Standsはカリフォルニア州の沿岸地帯、Barren Landsはカナダ北西部のツンドラ地帯だそうです。いずれもNeilが旅の途中、 立ち寄った場所ばかりです。

 北米を駆け巡るバイクの旅、しかしそれはNeil自身が述べているように、「楽しい旅では、決してなかった」のです。 その走行距離は55000マイル。その間、何を見、何を感じ、何を考えたか――
「Ghost Rider」 この本から受けた感銘はあまりに大きかったので、 その内容を著作権に抵触しない範囲で、一部訳して、別ページで紹介することを、現在考えております。
(とてつもなく長いので、全部は無理ですが)

 ちなみに少々ネタバレになりますが、Neilは旅の途中、Alexの生地であるBritish Columbia州 Fernieに立ち寄り、ここから絵葉書をAlexに出そうと、絵葉書をドラッグストアで捜し求めます。 その時、「Ghost Rider」と言うキャプションの入った絵葉書を見つけます。それは、Trinity Mountainに レンズ状の雲のかかった絵で、地元ではその現象を「Ghost Rider」と呼ぶのだな、とNeilは思うわけです。 そして、はっとします。
「Ghost Rider」――亡霊ライダー、自分もまさに、そうではないか、と。亡き人たちの霊と 共に旅をする自分、回りの生きている人々が現実に感じられない自分は、まさにGhost Riderなのではないか、と。

 その後掲示板に出た投書によると、FernieのGhost Riderとは、山にかかるレンズ状の雲ではなく、山に落とす影が その様に見えるという現象なのだそうです。これは、昔この地を開拓したと言うCaptain Fernieが、インディアンの娘を口説いて宝玉を 手に入れた後、その娘を捨てたというので、怒ったインディアンの部族と娘から追いかけられている図だとか。そう見ると、 少々悲劇の様相が薄れますが・・。

 FernieのGhost Rider現象はともかく(今やRushのコメディアンであるAlexの生地ですから、伝承も多少おちゃらけるのか・・)、 Neilが自分を「Ghost Riderだ」と思う心情には、非常に心打たれます。
 この曲にこめられた、あまりに大きな心象風景と情感を、 とても私の拙い訳では写しきることなど不可能だと、はなからあきらめております。本のタイトルカヴァーのように、 灰色の空の下、果てしなく広がる荒野に伸びる一本道を遠ざかる、孤独なライダーの後姿。そのイメージが、すべてのような気がします。

 歌詞がかなりの部分、命令形で書かれていること、2人称を使っていることに、この放浪の旅が自分自身の意思ではなく、 激しい外部の(もしくは内面的な)衝動に突き動かされて、駆りたてられたものだということを、暗示しているような気がします。
 それは、つらい現実からの逃避かもしれません。しかし仮にそうだとしても、誰が責められるでしょうか。でもそれは決して 絶望の旅ではなく、癒しの旅だったのです。そしてついに、求めた希望を、心の平安を得ることができたNeil。
運命の輪が、再び上昇をはじめたことに、深い感動を覚えます。



PEACEABLE KINGDOM

これは、「ポスト9・11」として、インタビューやNeilのアルバムバイオを読まれた方には、有名な曲だと思います。
元はインスト曲として作られたそうですが、共同プロデューサーの、Paul Northfieldの勧めで、 歌詞をつけてできたとか。Northfield氏は、最初からこの曲を「9・11」の反映として歌詞をつけたら、という 意図だったのか、それともインストにするより、どんな形にしろ歌詞をつけて、歌モノとして完成させたほうが 良いという、単純な意図だったのかは、不明ですが。

a billonは、正確に訳すと10億なのですが、世界の大勢と言い換えても良いのかもしれません。 (もっとも、世界人口から見れば、5分の一くらいではあるのですが)

中間部、「Justice against 〜」と、「The Harmit against〜」のフレーズは、大文字で始まっている 所から、タロットカードのリファレンスと考えられます。「カードをシャッフルしてレイアウトする」と言うフレーズや、 塔の絵柄と9・11の関連から生まれた曲であることが、反映しているのでしょう。
では、何と何がagainstの関係なのか、大雑把なカードの意味を、見てみたいと思います。

「正義 : 公正、正義、自分の正当性を主張する、公平、裁判」
「吊るされた人 : 自己犠牲、停止、困難、考え方の完全な逆転」
正義を施行する側とされる側の象徴でしょうか。

「ワンドの騎士 : 突然の決断、出発、思いがけない行動、旅立ち、はやる気持ち」
 これは「今、しなければならない」という意思が強調されたカードですから、それに「時間」  が対抗する、というのはわかる気がします。
(ちなみに、「時間」というカードは、タロットにはありません)

「剣」これはタロットのスート(柄)の一つです。
 剣のスートは風のエレメントの象徴で、「理性」「コミュニケーション」そして 「力」(武力と言っても良いかもしれません)を表します。
「王国」と言うカードはないので、これは単純にその意味のまま捕らえてもいいと思います。 (法王や皇帝というカードはあるのですが)

「塔 : これはこの曲のキーカードですね。突然の災難、破局、爆発、大異変など」
 Timeというカードはないので、そのまま「時代」と捕らえても良いかもしれません。

「隠者 : 自らの内面と向き合う、真理の探求、智恵、慎重」
「恋人たち : 選択の時、コミュニケーション、恋愛、友情、結婚」
「隠者」は、「一人」に重点を置いたカードで、「恋人たち」は、「二人」を表します。

「悪魔 : 誘惑、邪な欲望、悪い動機、依頼心、曇らされた理性」
「愚者 : 無知の知、信念、直感、危険はあるが自由」
「悪魔」はさまざまな欲望に捕らわれることで、「愚者」は現実的な常識からの解放を表わすのではないでしょうか。

「運命の輪 : 思いがけない事態の変化、変化が近づいてきている、運命、ツキ」
 歌詞は、「The Wheel」だけですが、意味はこれだと思います。
 ruleは大文字ではないですから、一般的に「規則」や「法則」でも言いと思います。
 運命は、規則でははかれない、ということでしょうか。

平和な王国――Peacable Kingdomは、努力なしには築かれないのでしょう。Peacefulでなく、 Peacableには、「維持するために努めなければならない」と言うニュアンスがありますから。
世界を揺るがせた9・11から1年が過ぎた今、まだ世界には争いの火種はくすぶりつづけています。 「Peacable Kingdom」が築けることを祈りつつ、その行く末を見守りたいと思います。

★THMLなどで『Peaceable KingdomとHalf the Worldはイントロやコード進行が似ている』、『それはたぶん意図的だ。二つのコンセプトはつながるものだから』という議論を見かけました。言われて気づいたのですが、たしかに似ている…HTWは長調で、PKは短調という違いはあるものの…そして二つの曲のコンセプトはつながっているという意見には、個人的にとても頷けます。(2006年4月11日補足)



THE STARS LOOK DOWN

 The Sphereの対訳プロジェクトで、この曲において、「星は見下ろしている」とは、具体的に どういう意味なのだ、という議論がありました。その中で、ネイティヴの人の見方では、「星はただそこに 光っているだけで、地上のことにかまったりはしない」と言うような感じでした。
つまりは、 星は運命の象徴のようなものであり、「なぜこんなことが起きるのか?」と言うような、そしてそれだけでなく、 普段私たちが理不尽に思えることに出会うたびに日常発しているだろう、「なぜ?」と言う問いかけに対しても、 何も答えてはくれない。ただ、そこにあるだけだ――そこにあるのは神の意志というより、偶発的な、そして 私たちのスケールよりはるかに大きな、「運命」と言うものなのだ。

 Neilも旅の途中、何度も自分に問い掛けたといいます。
「なぜなんだ。これは罰なのか、神の裁きなのか、呪いなのか――」
しかし、答えは返ってきません。この切ない感じが、歌詞の中の呼びかけに良く出ているような気がします。
「なぜ、こんなことが起きるのか? なぜなら、起きてしまったから」という「Roll The Bones」的な 世界観を感じます。では、そこにおいて、個人は無力なのか――

戦車のカードは、そんな運命の力に引かれながら、なんとか制御を取ろうとする人を表しています。
つまりは、大きな運命に翻弄されながらも、なんとか自分の行く道を探ろうとする力なのでしょう。 それは、ほんのの小さな力、無駄な努力かもしれません。それでも、あきらめてはいけない―― そんなふうに、感じられます。



HOW IT IS

 How it is ―― 直訳すると、「そういうふうにあること」だと思いますが、つまり現実に そうであることで、How it ought to be は、「そうあってしかるべきこと」、つまり、そうであってほしいこと、自分の予測したこと、 もしくは理想なのでは、と思います。
 とかく世の中はままならないもので、その二つは、しばしばかけ離れる、現実はなかなか思うようにならず、その狭間で苛立って、 自分を見失いそうになることもある。そんな状態でしょうか。それがたぶんに、この曲の象徴カードである、「Hanged Man」の状態 (身動きが取れない。行き詰まり、試練に遭う)を示唆しているような気もします。

 歌詞だけ読むと、結構シリアスな状況だったりするのですが、曲は軽快で、「まあ、そんなに 悩むことはないさ。よくあることなんだから」という ような、結構ポジティヴな印象さえ受けます。歌詞的にも、つまりそう言うことなのではないかと。
 苛立つことも、イヤになることもあるけれど、 絶望的な気分にさえ襲われることもあるけれど、そう感じている自分自身を責めることなく、そういうものなのだと受け入れて、努力さえ続けて行けば、 いつか希望が開ける。曇りの日には、二度と太陽を見ることはないだろうと思えても、いつかは晴れるものだ。試練の中にいる人に対して、 そう呼びかけているような感じを受けます。

 「you can't tell how to feel」と言うフレーズ、「Ghost Rider」(本の方)にも、繰り返し出てきます。自分の心とは裏腹に、感情が動いてしまう。 驚き、戸惑うけれど、それを自分ではどうしようも出来ない。だから、そんな自分を受け入れよう――そう言い聞かせる、言葉として。
 この曲の主題は、「あらゆることを、受け入れること」なのかもしれません。そんな気もします。



VAPOR TRAIL

「飛行機雲」――アルバムタイトルにも、なった曲です。もっとも、こちらは単数ですが。(アルバムタイトルが複数形なのは、 他の12曲を含めて、という意味らしいです)
 飛行機雲とは、何のメタファーか。この曲に関して言えば、「はかなさ」の感覚を、ものすごく感じてしまう比喩だと思います。
 過去の思い出、美しい記憶。もはや記憶の中にしか存在し得ない、貴重な何か、もしくは誰か。(Neilにとっては、Selenaさんと、Jackieさんのことが、きっと念頭にあったのだと思います)自分にとってはかけがえのないものなのに、そしてもはや記憶の中にしか存在し得ないのに、その肝心な記憶が、時とともに、だんだん薄れていってしまう。かつては確実に存在し、自分の中に大きな意味を持っていたのに、その記憶が、だんだん遠くなっていく。

 歌詞には、かなり絶望的な感覚が支配しているような気がします。しかし聞いていて、切なさや悲しみは感じるけれど、不思議と絶望感は感じません。「剣の6」の含み、「苦難からの旅立ち」が、希望の訪れをも示唆しているようです。
 記憶が薄れることは、生々しい喪失の悲しみが薄れることでもあります。「時間が癒してくれる」と、いうことなのでしょう。
 それはまた別の悲しみを生んでしまうけれど、そして喪失感は決して消えることはないけれど、耐えがたい痛みは、やがて耐えられる痛みに変わっていくのでしょう。それが救いなのではないかと、感じます。

 この曲は、Vapor Trailsの曲作りにおいて、Neilが最初に書いた歌詞なのだそうです。過去を浄化するために、なのかもしれません。

★Counterparts掲示板において、比較的最近RushにはまったのでNeilの悲劇を知らない、という若い投稿者が、『この曲は世界の終わりを描いたものなのか?』という質問を投げかけていました。そういう風にも読めるのだな、と思うと同時に、Neilが「Ghost Rider」(本の方です)に、Selenaさんの突然の死を「end of the world」と表現していたことを思い出しました。ある意味、『世界の終わり』は、当たっているのだろうとも思えます。この歌詞はW.H.Audenの「Twelfth Song』に調子が似ている、という指摘もありました。そしてこの「Twelfth Song」の一節は、SelenaさんとJackieさんのお墓に刻まれているそうです。そういう意味でも、この曲は二人への追悼なのだろうか、と思えます。
ちなみにVapor TrailというのはHugh Symeが言い出した『記憶』の比喩だと、NeilがGhost Riderに書いていました。『追憶』と言っても良いかもしれません。そして、直接は関係ないですが、その後スペースシャトル・コロンビアが事故を起こした時、「Countdown」と同時にこの曲を思い出した、という投稿も見かけた覚えがあります。(2006年4月11日補足)



SECRET TOUCH

 この曲最大の謎は、「The Way Out Is The Way In」というリフレインでしょうか。
 Neilはバイオの中で、「謎のマントラ」と言っていますが、たしかに「出口は入り口」つまり、「出て行ったと思ったら、それは入り口だった」 というのは、謎めいた印象です。
 The Sphereの対訳プロジェクトでは、「出口のない堂々巡り」と言う印象を感じた、 と仰る意見があり、rushtour.comの掲示板では、「自分自身から脱出しようと図ると、結局自分自身と出会う」という 意見や、「仏教的な輪廻転生の思想を感じる」と言う意見がありました。
 私個人的には、最後の意見に近く、「一つの終わりは、また、一つの始まりである」「誕生はあの世の生の終わりであり、この世の 生の始まり、死はこの世の生の終わりであり、あの世の生の始まり。すべてに終わりはなく、始まりもない」という インドのバラモン的な思想を感じてしまいます。(キリスト教には、輪廻転生の概念はないので、Neilの意図からは, 多少外れてしまうのかもしれませんが)
「出口は入り口」「終わりは、また始まりである」という言葉からは、私的にはどうしても曼荼羅的なイメージ、 自分の尻尾を飲み込んで回るウロボロスの蛇のような宇宙観を感じ、それが隠者の掲げるランプ、智恵の光の象徴のように 思えてしまうのです。(それは、やはり私が東洋人だからかもしれません。)

   これも、かなりパーソナルな感覚を感じるのですが、(「Vapor Trails」は全曲、多かれ少なかれ、パーソナルな要素が入っていると思えます) 特に現実感を失っていく感覚、現実が狂っているように感じる思いの裏に、非常に大きな精神的衝撃を感じさせます。そしてNeil自身、 「There's never love without pain」と言うフレーズは、自分自身の体験から来ていると、バイオの中で明言しています。

 その痛みと絶望の中で、「心に触れてくる神秘のタッチ」とは、いったい何なのでしょう。「優しい手」ですから、「新たな愛」なの でしょうか。「苦難が終わり、新しい愛が始まる」というのが、「The Way Out Is The Way In」の意味合いなのでしょうか。  それとも、「すべてに終わりはないのだから、その考え自体が慰めになる」と言う思いなのでしょうか。
「Ghost Rider」によると、「secret touch of the heart」というのは、Joseph Conradの「Victory」という本の、一フレーズから の引用だそうです。主人公が荒れて、絶望の中にいるとき、Almaという少女が投げた優しいまなざしが、深い感銘を与え、「心に神秘のタッチ」を 残した、という。つまり、「なにか心に触れる暖かいもの。(特に女性からの思いやり、愛のような)」の象徴なのでしょう。



EARTHSHINE

 タイトルのEarthshine、つまり地球照とは、三日月の頃、月の光っている部分以外の所が、 うっすらと丸く見える現象のことです。
 地球の夜に月が見えるように、月の夜には地球が見えます。 太陽の光を反射して、地球から見る月の75倍ほども、まぶしく光っているそうです。
地球から見た新月の頃には、月からは地球が「満月」状態になって見えます。三日月の時にも、 地球は満月(というのもなにか変ですが)に近い状態ですので、かなり明るく、その光を反射して、 月の夜の部分も、地球からうっすらと見ることができるというわけです。これが、地球照です。
月齢が上がると、だんだん地球が欠けていってしまうので、光度が減って、見にくくなるそうで、 見ごろは大体月齢3日くらいまで、あとは明け方になりますが、月齢26、7日辺りでも見られるそうです。

「地球照」――これは、何のメタファーなのでしょうか。
地球からの光を反射して、 見えないはずのものが浮かび上がる。地球とは、月とは、何を象徴するものなのか。 さらに地球の光も、自らの輝きではなく、太陽の光の反射なのです。(月もですが)
昔の西洋では、地球照で浮かび上がった、月の見えない(けれど見えている)部分は、この世でもなく、あの世でもない 別世界だと信じられていたそうです。
また、イギリスでは「古い月に抱かれた、新しい月」とも、言われていたらしいです。

そう言う象徴すべてを考えてみると、非常な切なさを感じます。と同時に、「新しい月」からは、 希望の光を、感じ取ることができるような気がします。「恋人たち」のカードが示唆しているのは、 悲恋ではなく、祝福された愛ですし。
 個人的にはどちらか決めかねていたのですが、「Ghost Rider」によると、この曲は「Sweet Miracle」同様、 Carrieさんとの新しい愛の始まりを、歌ったものだそうです。

 Counterparts掲示板で、"my-borrowed face/and my third-hand grace/only reflect your glory"の、third-hand graceとは、「地球は太陽の光を受けて輝く、それがfirst-hand grace。その地球の光を受けて輝く月はsecond-hand grace、そしてその光を見ている自分がthird-hand graceなのだと思う」という解釈があり、とても個人的に納得できたので、紹介します。そしてたぶん、呼びかける相手「あなた」が太陽なのだな、と思えます。それゆえに、この曲の「あなた」は新たに見つけた希望、Carrieさんなのだろうな、とも。 (2008年6月11日追記)



SWEET MIRACLE

 絶望の只中から、新たな愛を見出し、再び人生を輝かせるために、「光の中へと、飛んで行く」 ――最初の一節は、深い絶望感、抗う気力さえ起きないほどの虚無を、次の一節は、深い憤りにせよ、感情を感じることができるようになり、そして最後は、希望を得て、再び力強く進もうとしている状態なのだと思います――
 簡潔な言葉の中にあふれる感情を秘めたラヴソング。普通に聞いても、ぐっとくるものが あるだろうと思いますが、その背後にあるものを知ると、もう感涙ものです。
 最愛の娘と妻を相次いでなくし、彼を支えてきた感情基盤がすべて崩れ去って、絶望の只中に いたNeilが、新たな愛を得て、再び前向きな力を取り戻した。まさに「Sweet Miracle」。
それ以外、この曲に余計な解説はいらない、とすら思えます。

★この曲も、Counterparts掲示板において、Vapor Trailで『世界の終わり?』と言った若い投稿者が、『この曲はニアデス体験みたい』という感想を寄せていました。これもなんとなく頷けた印象でした。究極の絶望から救いの世界へ行きつつあるイメージです。(2006年4月11日補足)



NOCTURNE

夢は無意識の想像物であり、夢に現れる事象は、無意識からのメッセージが、さまざまな象徴に置きかえられたものだ、というのが、フロイト、ユングなどの夢分析における、基本的な考え方です。
 冒頭に出てくる「夜の航海に出発する」と言うフレーズは、典型的な無意識への旅の象徴ですね。夢分析では、海は広い感情領域を表し、夜は意識されないもの、つまり無意識を表します。「夜の海」とは、意識化に広がる、広大な無意識領域の象徴で、そこを旅するというのは、自らの無意識の中を知ろうという試みです。よく、夢分析を始めたばかりの人や、その手の本を読んで興味を持った人が、「夜の航海」の夢を見たとしたら、それはイニシャル・ドリームと呼ばれる、「自分探しの旅」への、第1歩だということらしいです。
 ただ、無意識領域というのは、たとえば氷山の水面下に隠れている部分のようなもので、意識領域に比べはるかに強大で、強い力を持っているので、うっかり近づくと、逆に取りこまれてしまって、精神的なバランスを崩す、心を病む、という、危ない副作用もあるそうです。近づく時には慎重に、が、夢分析のセオリーだそうです。

 この曲における夢の心象風景は、奔放な可能性を感じさせながら、非常に混沌とした感覚と暗さが全体を支配しているのが、印象的です。
 最後のフレーズ、「朝は告げる、答えはイエス」――「Ghost Rider」によると、ある出来事に対して頭に浮かんだ考えなのだそうですが、(詳しいことはネタバレなので、省略) ここでの含みは少々違うのでは、と思えます。何に対してかの答えかというと、たぶん冒頭のフレーズ「僕は夢を見ていたのだろうか、それとも夢に取りつかれてしまったのだろうか?」という問いかけに対応しているのだと、感じられるのです。というと、どちらもイエス?

 この、冒頭の問いかけは、私には、荘子に出てくる「胡蝶の夢」を思い起こさせます。「自分が蝶になった夢を見た。それがあまりにリアルで、生々しい感覚だったので、目がさめてから、はたして蝶になった夢を見たのか、それとも本当は自分が蝶で、今人間だという夢を見ているのか、わからなくなった」と言う話ですが、まさにそれが
「Did I have a dream?  Or did a dream have me?」という感覚ではないかと、思います。

 夢と現実の境が混沌とする時、現実が悪夢のような気がする時――なんでもそこへ戻ってきてしまうのは、ちょっと抵抗がありますが、やはり、そうも思ってしまいます。

★この曲をヘッドフォンで聞くと、最後の最後でくぐもったような、デジタル処理をされたような声が聞こえます。『Help me...help me..』 オカルトでなく、本当に入っています。ちょっと怖いです。(2006年4月11日補足)



FREEZE (Part W Of Fear)

 この曲 「Part W Of "Fear"」という副題がついています。"Fear" シリーズ、第四部という わけです。MPからGUPにかけて、Fearシリーズが逆順に登場してきたわけですが、なぜ18年ぶりに"Fear"の続編が? それも、第4部なので、一応第3部の「Witch Hunt」の外側にある「恐怖」なのだろうし、それはいったいなんなのだろう。
 第四の恐怖とは、Neilの経験した悲劇のことだろうか、と、最初は考えました。突然襲いかかる災難、恐ろしい悲劇――これは、究極に近い恐怖に違いありません。それに、外から降りかかってくるものだから、一番外周でも、納得できる。
でも歌詞には、それらしき要素は、感じられません。
 9・11がらみか、とも思いました。突発的災難だし、しかも、戦うか逃げるか、という表現には、良くフィットします。でも、インタビューでAlexが、あの事件以前にこの曲は完成していると、言っていました。9・11は、Peaceable Kingdom だと。

この議題は、海外の掲示板でも話題になっていて、いくつかの意見がありました。もっとも納得できたのが、次の意見です。
「それは、恐怖そのものではなく、恐怖に出会ったときの反応ではないか。戦うか、逃げるか。たぶん、あまりに本質的なことだから、Neilも最初は、考えなかったのだろう」と。

恐怖そのものではないけれど、「The Enemy Within」でも触れているように、恐怖とは、知覚されて、初めて、恐怖になるわけです。「The Enemy Within」でも、「それを乗り越えられるのか、屈服してしまうのかは、君次第だ」というメッセージが含まれていると思いますが、Freezeは、それに的を絞ったものかもしれません。
 この曲には、「動的なイメージ・ポジティヴな反応」と、「静的なイメージ・ネガティヴな反応」が、一貫して対比されているようです。恐怖に対して、どう構えるか。

「恐怖に出会ったときの反応」に、Neilが改めて思い至ったのだとしたら、その背景には、たぶん彼自身の痛ましい経験があっただろうと、思います。飲み込まれるのか、戦うのか。追い詰められた獣になるのか、征服しつつある英雄になるのか。
The Enemy Within のように、「立ち上がって、恐れずに進んで行け!」というポジティヴなメッセージでなく、Freeze においては、「勝つか負けるか、どっちもあり」的な、アンビバレントなスタンスを取っているのが、興味深く感じます。
人間だから、恐怖に負けてしまうこともある。その弱さも、また認めているところに、Neilの心の変遷が感じられるような気がします。

 2003年2月、Rush.netに、パニック障害に悩む方から、「この曲を聴いたとき、私は必死になって一緒に歌おうとしながら、子供のように泣いた。 今まで、これほど私のもっとも奥深くの部分に、直接語りかけてきた曲はない。これは、私が感じてきたこと、そのものだ。 CDの他の曲を聞こうとしても、吸い寄せられるようにこればかり聞いてしまうことも、珍しくない。かりにこの曲がRush最後の曲で あったとしても、私は満足する」という投稿がありました。
 パニック障害というのは、突然名状しがたい、強烈な不安感、恐怖感に陥って、呼吸困難を起こしたり、 失神してしまったりするような、とても苦しい症状だそうです。その名状しがたい強烈な不安、恐怖と、それに抗おうとする自分、それでも時には その恐怖感に屈してしまう――その心情が、まさにこの曲そのものだと。
 ――名状しがたい恐怖に襲われる自分、それがまさに「Freeze」――歌詞とサウンドが一体化して現されるもの。 その視点から改めて聞いてみた時、「――本当に、そうかも――」と、思わず鳥肌が立ちました。 (2003年2月23日追記)

★この曲は"discordant(調和しない)"な雰囲気があちらのファンの評価を二分している印象を受けます。つまり、『ちぐはぐ感』『バタバタした感じ』を受けて、それが嫌いな人もいるようです。しかし、個人的に思うのですが、このちぐはぐ感というか、discordant feelこそが、この曲が表したかった”Fear”そのものではないかな、と。恐怖は決して心地よくはないですから。(2006年4月11日補足)



OUT OF THE CRADLE

「It」は、何か。特に意味を持たない仮主語か、「Cut To The Chase」で「Ambition」を 「it」に置き換えたように、 何か他の単語を置き換えたものなのか――良くわからないのですが、個人的な印象では、 「推進する力」、「前向きな原動力」なのではないかな、と思えます。
 タイトルの「Cradle」は、たぶん、「Rock The Cradle」の引っ掛けでしょうね。 (彼らのトシにして、ゆりかごから出てくるのでは、遅すぎる!! でもまあ、活動休止期間というのは、彼らにとって見れば、 ゆりかごに入っているようなものだったのかもしれませんが、いろいろな意味で。) Get Music のインタビューでGeddyが、
「この曲はポジティヴ感覚の強いものにしたかった。ゆりかごって、ポジティヴなものの象徴みたいだろ」的なことを言っていましたし、 たしかに誕生にまつわるものですから、非常に将来のある、前向きな感覚でありますね。

 Endlessly Rocking――このフレーズにグッと来た方、多いのでは? ゆりかごの揺れと引っ掛けて、ロックしつづける、という 意味をも内包しているに違いない、このフレーズ、彼らの決意表明のようで、思わず嬉しくなってしまいます。ゆりかごを揺らすのに、 手が必要なように、ロックしつづけるのにも、意志の力が必要で、それがNeilがバイオに書いていた、「まず自らに火をつけなければならない」と言う言葉の、 「火」なのだ、と思います。(「Hold Your Fire」も、連想させます)

 バンドの危機に直面し、長いブランクを経て、ついに戻ってきた彼らの新作が、この「Endlessly Rocking」というフレーズのリフレインで終わる、 非常にポジティヴで前向きな力を持つ曲で始まり、終わっているのは、彼らがこれからも力強く前進して行くことを約束してくれているようで、 聞いていて、非常に嬉しく、救われた気分になると同時に、彼らの前進するエネルギーを少し分けてもらったような気分になります。

Endlessly Rocking!



VT 訳詞  VT MEMO  Making VT  VT TOUR   RUSH TOP