SIGNALS

Released 09/1982


SUBDIVISIONS
THE ANALOG KID
CHEMISTRY
DIGITAL MAN

THE WEAPON
NEW WORLD MAN
LOSING IT
COUNTDOWN

私的解説



サブディヴィジョンズ

幾何学的な秩序で
はびこり広がっていく都市の周縁
明るい光と
光の当たらぬ未知なる彼方とを
隔離する境界線

その発展はひどく一方的に思える
大量生産地帯で
分離され、細分化され
すべては決められた意見
すでに決定されてしまった未来

夢見る人々や
適応できない孤独な人々の
いるべき場所は、どこにもない

細分化──
ハイスクールのホールで
ショッピングモールで
順応するんだ
さもなければ、居場所がなくなる
細分化──
地下のバーで
車のバックシートで
クールに決めなければ
さもなければ、放り出される

さえない現実から逃避することは
いくらかの慰めには、なるかもしれない
でも郊外には、若者たちの落ちつかない夢を
満たせるだけの魅力は、ありはしない

灯りに引き寄せられる蛾のように
僕らは都市へと流れていく
昔と変わらぬ、時を越えた魅力
何か面白いことを求めて、遊びまわりながら
夜に生きている、ただそれを感じるために
蛍のように灯りをともして

小さな欲望のために
自らの夢を売り払ってしまう人もいる
卑劣な競争に敗れ
わなにかちりと捕らえられて
再び夢を見はじめる
絶え間ない逃避に安らぎを与えてくれる場所の夢を

記憶の底に沈んでしまった場所
明かりの灯った道と静かな夜の‥‥‥‥

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アナログ・キッド

暑く、風の強い八月の午後だった
木々はたえずさざめき動き
風に枝を揺さぶられるたびに
銀色の葉(の裏)が、ちらちらと光っていた

少年は一枚の葉っぱを歯の間にくわえ
草の上に寝転んでいた
漠然とした感情のざわめきが
その若く落ち着かない心をときめかせ
はっきりとした、しかし名もない幻が
旅立ちを熱望させていた

心が動く──
心が動く──
多くのビルディング、その目に
秋の森と冬の空に
心が動く──
心が動く──
どこまでも続く海と、街の明かりが
混雑した通り、目のくらむ高さが
僕を呼んでいる──
僕を呼んでいる──

琥珀色の瞳と日に焼けた脚の少女が
夢の周縁で踊っている
その声がまるで天上の音楽のように
耳に響き渡っている

少年は草の上に横たわり、身じろぎもせずに
空を見つめている
鷹が空を舞い上がっていくその時
母が呼ぶ声が聞こえた
少年は野球帽を深く引きおろし
目の上まで覆い隠した

あまりに多くの干渉
あまりに多くの感情
心に渦巻くことがあまりに多すぎて
僕がここを去る時
何を見つけようとしているのか、わからない
僕がここを去る時
何を残していくことになるのか、わからない‥‥

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化学

信号は伝達され
メッセージが受信された
反応は衝撃を生む──
目には見えずに

基本的なテレパシー
エネルギーの交換
反応は接触を生む──
神秘的に

『目』から私に
反応は熱く燃える
2から1に
水に映る反射
HからOへ
片方が欠けては流れない
ああ、でもどうやって
彼らはお互いに接触するのだろう

強烈な電流?
生物学?
僕には化学(反応)のように思える

感情は伝達され
感情は受信される
抽象的な音楽のように──
好意的に

要素の感情移入
相互作用の変化
音楽は接触を生む──
自然に

1,2,3
減じることなく、数を加えろ
音の上に音を重ねて
多重的反応
HからOへ
片方が欠けては、流れない
ああ、でもどうやって
僕たちはお互いに接触するのだろう?

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デジタル・マン

彼の世界は監視下にある
中継基地を通してモニターしている
人々の表情やその場所から
彼はその視点(の中心)がどこにあるのかを探る

彼は会話のスクラップブックから
話題を取り上げる──
ラジオと、ダンサーや恋人たちの熱気から
答えはある──でも、そこまでの筋道はない

彼はシオンで過ごす夜を、愛してやまないだろう
彼は長い長い間、バビロンにいたから
彼はアヴァロンの南国の島々に
恋人の翼にのって飛んでいきたいと願うだろう

彼の世界は麻酔下にある
細分化され、統制されている
現代科学という巨人に
彼は絶対的な信頼を置いている

彼は情報のスクラップブックから
必要なものを取り出す
彼は順応には熟練している
よそ者や調整者たちにとって
絶え間なく変化していかなければ
今、ここにいられなくなるから

彼には力の影響圏があり
柔軟性に富んだ計画がある
彼は黒いセダンに乗って
運命とデートする
彼はできるかぎり、早送りで生きる
でもベッドはいらない
彼はデジタルマン‥‥

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恐怖兵器

我々に、怖れるものは何もない──
恐怖そのもの以外は?
苦痛や失敗ではなく
致命的な悲劇でもなく
狂った機械社会における欠陥部品でなく
感情の化学反応で壊された接触でもなく

ヴェルヴェットの手袋に鋼鉄のこぶしを包み
銃のもとで、保護されている
権力争いという栄光のゲームにおいて
汝の王国は成就されるであろう

そして僕らが恐れるものは
僕らに対して向けられた武器

彼はあなたの審判を怖れはしない
あなたの地獄より、ひどい恐怖を知っている
死ぬことは、少しは恐ろしいけれど
あなたの嘘の方が、より恐ろしい

そして彼が恐れるものは
彼に対して向けられた兵器

人生の一部に過ぎないものが
人生そのものより重大だなどと
そんなことがありえるのだろうか?
愛でさえ、時の制限を受ける
自分が登るために人を押しのけたとしても
彼の罪より重い殺人者など、いるのだろうか

絹のさやに収められた鋼の刃のように
本当の実体は見えない
彼らは愛について叫ぶ
でも、いざ大混乱が始まったら
彼らは自らが恐れるものに頼って生きる

そして彼らが恐れる知識は
彼らに対する武器となる

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ニューワールドマン

彼は反抗者、そして走者(ランナー)
青に変わっていく信号
大きな車を走らせたがる
落ち着きのない、若いロマンチスト

彼は自らの毒を持て余している
でも、彼は癒されるだろう
自身の本質を純粋に保つために
彼は自らのシステムを浄化する

旧世界人の鼓動に合わせることを覚え
第三世界人の熱気をつかむことを覚えて

彼は自ら間違いを犯し
その結果引き起こした騒ぎを
収束することを学ばなければ
彼は何が正しいかわかる大人だが
あえてそれを選ばない若さがある
彼は世界を勝ち取れるほど気高いけれど
それを失くしてしまうほど弱い

彼は新世界人‥‥‥‥

彼はラジオの受信機
工場や農場にチューニングを合わせる
彼は作家で編集者
武器を持って巡回している
武装した若者
彼は自分の力を持て余している
だから慎重に行動して
自己統制を身につけなければ

旧世界人のために栄誉を勝ち取ろうとし
第三世界人のために道を開こうとして

彼は昨日のことにはこだわらない
今日、ここで絶えず変化が起こっているのを知っている
彼には何が正しいかを知る気高さがある
でも、あえてそれを選ばない弱さもある
彼は世界を勝ち取れるほど賢いけれど
それを失くしてしまうほど愚かだ

彼は新世界人

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失われた夢

苦痛と絶望の中
踊り子はその狂ったようなペースを緩めた
わき腹はずきずきと痛み
うつむいた顔は汗で上気している

ほんの一瞬の休息
鋼に締め付けられたように
その胸は熱く燃え苛む
記憶が溢れ出してくる
かつての称賛のこだまが

彼女は重い足取りで部屋を横切り
寝室のドアを閉めた

作家はうつろな目で見つめている──
真っ白なページと対峙している
そのあごひげは白く、顔には皺が刻まれ
そこに憤怒の涙がしたたり落ちる

三十年前、言葉は情熱的に、そして適切に
あれほどあふれ出てきたのに
今、病いと迷いのために
彼の心は暗く鈍ってしまった

彼は台所のドアごしに、外を見つめる
そこに日が上ることは、もはやない

世界を動かすために生まれてくる人もいる──
おとぎばなしの住人のように
でも、僕らのほとんどは
そうなればいいと夢を見るだけ

何も知らずに終わるより
消えていくのを見ているほうが
よけいに悲しい
あなたのために──
かつては見ることができた
今や盲いてしまった人よ──
汝のために、鐘は鳴る

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カウントダウン

期待に胸を躍らせながら
僕らは発射台に到着した
空はまだ暗く、夜明けの近い
フロリダの海岸に

旋回するサーチライトの光が
回る斧のように夜を切り裂く
超科学と輝かしい夢が交わる
この魔法のような日に

もやに煙る彼方に
洪水のような光に照らされて
この世のものとも思われない
ショウのスターがそこにいる
まるで眠れる白い竜の吐息のように
もくもくと蒸気を吐き出しながら

スピーカーのボリュームは上がり
声は緊張を帯びる
最後のカウントが再開する
すべてのシステムチェック、Tマイナス9
太陽が昇ると同時に
ドラマも最高潮を迎える

空気は張り詰める──
(興奮に)上気し、身動きもしない人々
群集、そして無数のカメラ
見物人を満載して、通りすぎる自動車
興奮の密度は上がっていく
ナイフで切り裂けるほどに
技術は──最先端を走る高みに

低く、黒い雲が広がっていくにつれ
足もとの地面が震え始める
まるで世界中が爆発したように
雷鳴のような轟きが空気を震わせる

絶大な力で引き離されるように
ゆっくりと地上を離れていくにつれ
金色の炎が吹きあがり、地面を焼き焦がす
恐ろしいほどの音響で、大気は吹き飛ぶ

雲の柱のように
噴煙は空高く尾を引いて上る
熱狂の中──
世界中が見守る中
僕らもじっと見つめている

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あくまで私的解説


SUBDIVISIONS

 規範にはめようとする現代社会と個人の葛藤、と言うのはRUSHの普遍的テーマの一つです。この曲には、ハイスクール時代、 人と同じ事をするのがいやで自分のスタイルを貫こうとし、その結果まわりから疎外されがちになったという、Neil自身の経験が反映されていると、 「Port Boy Story」という彼の自伝に書かれていました。

 曲タイトルの「Subdivision」──細分化とは、郊外地区の細かい道路によって仕切られ分化されている町並みと、それぞれの階層、職業、年齢などによる、 求められる役割の細かい厳密な規定を意味するのではないか、と思っています。
 郊外族、と言うと日本人にはあまりピンと来ない感覚かもしれませんが、言ってみればニュータウンのようなものでしょうか。団地や社宅などに一定の暗黙の ルールがあり、地域社会にとけこむために必要な通貨儀式や条件のようなものがある。人と違うこと、目立つことは好まれない。ある意味、窮屈な社会とも言える でしょう。

 「Mystic Rhythms」(以下「MR」)によると、冒頭の一句で、sprawlというのは雑草がはびこるような、無秩序な拡大を意味し、それがgeometric order──幾何学的な秩序で というのは、非常に矛盾した言葉だ。でも、郊外の発展のしかたを考えた場合、非常に当を得た言葉だと書いてありました。都市部の周辺地域は無秩序に、しかし 幾何学的な秩序を持って拡大する。たしかにそうかも、と思ったものです。
 そして郊外の生活、ある意味窮屈でいまいち刺激のない生活に飽きた若者たちは、都会へと出ていく。そしてそこで激しい生存競争にもまれ、敗れ、傷ついた時、 初めて自分の生まれ育った郊外地区を懐かしく思い出す──皮肉なものだとも、書いてありました。

 歌詞そのものは、比較的ストレートです。自分はmisfitだと思っている人には、切ない歌詞かも。実は私自身、学生時代にこのmisfit感に悩んだことがありました。 (もしかしたら、今もmisfitかもしれない(^_^;) だからこの曲の歌詞を読んだ時、ドキッとし、また切なく思った記憶があります。



THE ANALOG KID

 もう今や、アナログというのは旧時代的な、と言うのと同義語でしょうか。ASDL以外は。不器用で、時代に染まらない純真性のようなものも、 象徴しているような気がします。
 舞台は「Subdivisions」の郊外よりもっと都会から離れた地方、草むらに寝転んで、飛んでいく鷹を見られるほどの自然の残った場所、そこに暮らし、 都会に憧れる少年が描かれています。
 「ビルディングと目」と言うちょっと妙な組み合わせの意味ですが、「MR」によると、 ライトアップしたビルディングのことで、都会の象徴らしいです。うーん、窓から漏れる明かりが眼だとしたら、高層ビルには、ものすごく たくさんの眼があることになりますね。

 この『アナログ・キッド』と『デジタル・マン』は、対語のような印象です。アナログにデジタル、子供と大人──「MR」では、 アナログキッドが成長してデジタルマンになると解説されていました。少年の日に、自然の中で想像をめぐらせた都会の姿と、現実での生活はあまりに違っていて、 彼は次第にかつての純真さや無邪気さを失い、生きるために、ただその場に適応するだけで、感情の動きが少ない人間になってしまう。故郷を捨てた時に残してきて しまうものは、かつての生き生きとした感情や純朴さ──そうだとしたら、やっぱり切ないですね。



CHEMISTRY

 日本にこんなグループが、って、違う。コミュニケーションを化学反応にたとえた曲です。 この曲には、NeilのほかにGeddyとAlexが作詞に参加しています。三人で詞を書いた? これも、ケミストリーでしょうか。
 A+BがCになる。水素と酸素が合わさって水ができる。化学反応は、しばしば要素を変質させ、異なるものを生み出します。 が、決して思いもよらないものではなく、まあ、ちょっと量が多かったり少なかったり条件が悪かったりして失敗もするけれど、 おおむね結果はわかっているわけです。人と人との感情の交流も、そのようなものなのでしょうか。
 大事なのは、自分と相手の間に、それ以上のものを生み出すことなのかもしれません。



DIGITAL MAN

 「MR」によると、デジタルマンはアナログキッドの続編なのだそうです。都会生活に適応するために、完全に自分自身を失ってしまった状態、 周囲に気を配り、同調し、そして忙しく生きる。現代都会人の姿は、『GRACE UNDER PRESSURE』の「BODY ELECTRIC」のようなロボット人間にもたとえられます。 両者は同じようなものだ、ともにこの大量生産時代の落とし子、没個性的な、主体も感情も失いかけている人間として描かれていると。

 それでも、彼の心は完全に死んだわけではないのです。『彼はシオンで過ごす夜〜』のくだりは、古代ユダヤ人のバビロン捕囚がもとになっています。ユダヤの王国はバビロニアに滅ぼされ、人々はバビロンに連れ去られ、 長くそこで暮らしたあと、バビロニアを征服したペルシャによって解放され、エルサレムへ帰ることができたのです。シオニストと言う言葉があるように、 シオンとはエルサレムにある神殿の丘のことです。
 現代のバビロンに暮らすデジタルマンは、シオンに帰ることを喜んでいるのでしょう。

 ところで、このバビロンという言葉で連想するのは、同じく聖書の黙示録── 『倒れた、大いなるバビロンは倒れた。汝は災いだ』という文句で、バビロンは大都会の象徴なのです。それも滅ぶべき運命の──今の世界に未来はあるのか、 などとつい思ってしまうような一句です。



THE WEAPON

 『恐怖兵器』などと妙な邦題がついてしまいましたが、普通に訳せば、単なる『兵器』です。そして、ご存知『Fear三部作』のパート2です。 『Fear トリロジー』は逆順に製作されたのですが、これはどっちにしろ真ん中、恐怖の本質であるパート1と、もっとも外側の偏見や無知との間に来る本作は、 宗教上の恐怖がテーマになっています。

 これも「MR」からの参照なのですが、この曲にはかなり聖書からの引用がちりばめられ、内容も非常に宗教的なのだそうです。 『汝の王国は成就されるであろう』と言う一句は、『THE BIG MONEY』同様、主の祈りからの引用です。
 良い行いをせよ、神を信ぜよ、そうすれば魂は救われる。さもなければ地獄に落ちて、永劫の炎で焼かれるであろう──これが宗教における脅しであり、 恐怖であるわけです。でも、キリスト教の本質とされる愛の概念でさえ、生きている間にしか実行できないものなのに(愛も時間の制限を受ける)、 人生の一部であるにすぎない犯した罪によって、人生そのもの、果ては永遠の命まで失って、地獄の責め苦を受ける(命そのものよりも重いその一部など、 ありえるのだろうか)──永劫の罰という恐怖は、悪事を働こうとする誘惑からの防波堤になるわけですが、同時に私たちの行動を縛る枷ともなるわけです。 うっかり、もしくは不本意に罪を犯してしまった場合、一生恐怖に怯えなければならない、それは理不尽ではないか──
 本当なのか? 人を怯えさせて、それが嘘だったらどうするんだ──それが、『死ぬことより、嘘の方が怖い』という意味ではないでしょうか。 結局、宗教のあり方とはなんなのか。それを問いかけているようです。

 ちなみに冒頭の一句はもとアメリカ大統領、フランクリン・ルーズベルトの有名な言葉なのだそうです。



NEW WORLD MAN

 これは、デジタルマンの一歩進化した形、もしくは自己に目覚め、没個性から脱出したデジタルマンの姿であるとされています。(Mystic Rhythmsより)
 「TOM SAWYER」にも通じる、現代の戦士──というより、この曲で描かれている人物像はもっとしたたかで、自分をしっかり持っていながら、まわりの情勢を 見て必要なことはとり入れ、修正していくことができるという人のようです。でもデジタルマンと決定的に違うのは、自分の主体性をはっきりもっていること、 自分の弱さや欠点も、しっかり把握しているということでしょうか。

 「新世界」は、この場合、北米大陸を意味します。RUSHはカナダのバンドですから、まさに『新世界人』ですね。『旧世界』はヨーロッパ、『第三世界』はその他、 つまりアジア、アフリカ、オセアニア、中南米です。『新世界』は『旧世界』と『第三世界』の良いところをとり入れ、両者の橋渡し的な、取りまとめ的名な役割を 果たす、といったところでしょうか。

 余談ですが、この曲、RUSH唯一のTOP40ヒットです。『三分間プロジェクト』で、ほとんど即興で作られた曲ですが、それが最大のヒットになるなんて、 皮肉といえば皮肉なものかもしれません。わかりやすいから? POLICEっぽいから?



LOSING IT

 直訳すれば、『それを失っていく』ですが、歌詞を見る限り、『それ』とは邦題の『夢』と言うより、『かつて自分が持っていた、貴重な、誇れるもの』と いうような気がします。同時に、『平静を失う」と言う成句でもあります。

   この曲については、Modern Drummer誌のインタビューで、Neil自身が答えていました。ダンサーは肉体的な破滅、作家は才能の破滅だと。 FAQにもありましたが、作家のモデルは文豪、アーネスト・ヘミングウェイです。その代表作である『日はまた昇る』、『誰がために鐘は鳴る』が、歌詞の中にも 登場しています。ヘミングウェイは晩年、何も書けなくなっていた。それでもなお書こうとした。それはまさに悲劇だ。初めから何も持たないでいるより、 素晴らしいものを持っていたのにそれを失ってしまう方が、はるかに悲しいとNeilは言っていました。生まれた時から目が見えない人は、初めから視覚という概念を 欠いています。でも、途中で失明してしまうと、失った光、視覚が、それがなんであるかを知っているだけに、より深い悲しみを起こさせてしまう。 才能の喪失も、同じかもしれません。それは才能だけでなく、愛であっても、幸福であっても、悦びであっても、同じでしょう。

 ところで、他のHPのレビューに、この曲についてこう触れていました。『自分たちもやがてそうなるだろうということを予測しているのが伝わってくる曲』だと。 うーん。いずれは彼らにも、そういう時が来てしまうのでしょうか。あまり想像したくないけれど。

 余談ですが、この曲には当時FMと言うバンドにいたBEN MINKがゲストプレーヤーとして、エレクトリックヴァイオリンで参加し、曲中、かなり重要な役割を 果たしています。この人、去年Geddyのソロで共同製作者として活躍していました。(ギターはちょっと地味かなと、思うけれど) FMはMOVING PICTURES ツアーの時、 RUSHのサポートアクトを勤めていたから、この頃から交流があったわけですね。 (ドキュメントビデオで初めて見た時、ちょっと小林克也似の、あまりに普通のおじさんだったので、 少々驚きましたが)



COUNTDOWN

 これは、メンバーがスペースシャトル、コロンビア(第一号シャトルですね)の初打ち上げを見学した時の体験を元にした曲です。
 歌詞はけっこう、そのまんまです。この時彼らが見学したエリアが『レッド・セクターA』なのだそうですが、この曲には直接その単語は触れられていません。
 この曲のプロモビデオには、NASAの映像がふんだんに使われていて、迫力があります。NASAに、お友達かファンの人でも、いたのでしょうか。

 この曲でアルバムが終わっているのは、この頃から近未来に視点を移し、人間とテクノロジーとの共存、葛藤を描き始めた時期を象徴しているとも言えるでしょう。 テクノロジーの進歩は、ついに宇宙へ飛び出すに至った。まあ、その前からアポロ計画で月に有人飛行が実現してはいましたが、スペースシャトルはまた新たな 宇宙時代の一ページを開いたわけです。この後、チャレンジャーの爆発事故もありました。コロンビアも事故で、宇宙飛行士の命と共に失われて しまいました。技術はやはり、諸刃の剣なのでしょうか。



アルバム全体について

 RUSHの一大方向転換、と話題になった作品です。サウンドはシンプルになり、聞きやすさが重視され、曲はコンパクトに、 歌詞は現在及び近未来の視点になっている。言ってみれば、今までのRUSHのイメージを全て覆したような感じで、ファンの間で 賛否両論を呼んだらしいです。実際、『第二期までのRUSHが好きだった』という声はよく耳にします。

 でも、こういう声って、出てくるのはだいたい次の作品が出る時なんですよねぇ。私もこのアルバムが出た当時を知っていますが、 少なくとも当初はそういう意見は聞いた覚えがありません。(まわりにRUSHファンはいなかったので、あくまでメディアの意見しか 知りませんが) 『GRACE〜』になってから、『SIGNALS』はイマイチ、という声が聞かれだしたのです。
 私個人の意見では、やっぱり最初は、『やっぱり今までのRUSHと違う』と、違和感を覚えたものです。でも聞いているうちに、 『これはこれでいいか』という気になってきたものです。聞いていると、味が出てくる。全体的に重いけれど、でも妙な浮遊感と透明感が あって、慣れると癖になります。




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