DISTANT EARLY WARNING
タイトルは、SDI以前のアメリカでの『対空早期警戒システム』の名称だそうです。(かつてTHE SPHEREの掲示板で、話題にもなっていました)
『レーダーのもとで巡航し』など、歌詞の航空用語は、おそらくここからきていると思われます。そう言えばこの曲のプロモビデオは、
ミサイルに載って飛ぶ少年でしたっけね。(ちなみにこの少年、Geddyの息子のJullianだという説が一般的でしたが、FAQによると、違うそうですね)
ちなみに、レッドブックは、The Sphereの掲示板で指摘されていましたが、いわゆる「赤本」もしくは、「軍事マニュアル」的なものだということです。
Sweep the floorが、床を掃除するという意味ではないということも、既出でした。『おーい、掃除が不充分だぞ!』と言うわけではないのですね。
最後の歌詞、『アブサロム』はRUSH FAQに言及がありましたので、そちらを参照されるとよいかと思います。究極の哀れみの表現だそうです。
聖書のダビデとアブサロムの物語を、個人的にも少しまとめておきました。
☆ ダビデとアブサロム
ところで、"you"は、何をさしているのか、何(もしくは誰)を心配しているのでしょう。若者たち? 世界? 指導者たち?
それとも子供たちなのでしょうか?
AFTERIMAGE
この曲は、Le Studioのエンジニアであり、バンドの友人でもあった、Robbie Whelanの追悼のために書かれた曲だといいます。
彼は事故で突然、なくなってしまったのだそうです。
タイトルは『残像』──実体はないけれど、網膜に残った像を意味します。誰かを失うというのは、そういうことなのですね。
もう実体はなく、生きている本人を見ることも言葉を交わすこともできない。すべては残像──記憶の中にのみ、死者は生きつづけるわけです。
冒頭のフレーズはDifferent Stagesのインナースリーヴにも書かれていました。JacklineさんとSelenaさんへの追悼の言葉として。
死はそれを見送る人たちにとって、『ただ本当に、とても理解できない、受け入れられないこと』なのだと思います。
RED SECTOR A
『アフターイメージ』は個人の悲劇ですが、『レッドセクターA』は、人類の悲劇といった感じです。SF的でもありますが、過去にも戦争捕虜の収容所や、
ホロコーストなどで、似たようなことが起きたのではないでしょうか。そう言う人類の狂気が生み出した悲劇、
それを目の当たりに見、己の無力さに苦しみ、ついには立ちあがろうとする。NeilがインタビューやFAQで言っていた通り、
これは時代を超えた人類の悲劇なのだと思います。
そう言えば、Geddyのご両親はアウシュヴィッツ強制収容所の生存者だったそうですから、ある意味彼にとってNeil以上に実感の
湧く心象風景かもしれないですね。収容所の地獄から解放されたとき、Weinrib夫妻は思ったそうです。
「世界で生き残ったのは、私たちだけだろうか」と。極限状態の中では、外の世界と言う認識は抜け落ちてしまうのでしょう。この心境が、"Are we the last one left alive"という歌詞に反映
されていまのだと思います。(本当に最後の生き残り、と言うわけではないと)
タイトルのRed Sector Aというのは、メンバーがスペースシャトルの打ち上げを見学したエリアの名称だそうです。
で、そのタイトルと歌詞の意味のずれというかギャップは、何か意味があるのでしょうか? テクノロジーがまた新たな地獄を作り出す可能性を生むとでも?
(いやいや、これは深読みし過ぎですよね)
THE ENEMY WITHIN
なぜか逆順に製作された「FEAR三部作」のPart1です。FAQによれば、アイデア的にまとめやすい順番らしく、「Mystic Rhythms」(以下「MR」)によると、
本質、つまりパート1は一番中にあり、2、3と行くにつれて同心円を描くように、外側へ広がっていく。それを外から描いて行ったからだろう、
と記述していました。言い方は違いますが、意味は同じような気がします。恐怖というものの、目に付きやすい一番外の円から内側の、
より本質的な部分へとさかのぼっていく、それゆえ逆順にできてしまったのだ、と。
ENEMY WITHIN──内なる敵、それが恐怖の正体というわけです。「MR」に興味深いたとえがあったので、紹介します。
昔のアメリカのテレビシリーズに『プリズナー』という番組があったそうです。ストーリーは、おおよそ次の通りです。
ヴィレッジと呼ばれる隔離されたコミュニティに閉じ込められた主人公が様々な苦闘を経て、ついにヴィレッジの支配者、
『ナンバー1』を倒します。彼自身があらたな『ナンバー1』となるわけですが、支配権を手にした後、彼はもとの『ナンバー1』
に対面します。相手は仮面をつけていましたが、彼がそのマスクを取り去ると、なんとその下にあったのは、自分自身の顔
だったのです。ヴィレッジの支配者は、彼自身でした。あらゆる苦難、制限、恐怖のすべては、自分自身が生み出した世界に
過ぎなかったのです──。
恐怖は私たちの行動や考えを脅かし、苦しめます。苦痛の恐怖は実際の苦痛以上に恐ろしかったりするわけです。
誰もいない場所に人の気配を感じて恐ろしく思うのも、相手がよからぬ考えを抱いているのではないかと怖れるのも、結局自分自身の心というわけです。
「幽霊の正体見たり、枯れ雄花」──
心の中のファントムを打ち破るには、極限への体験も必要なのだ。恐れず積極的に行動する勇気も必要なのだ──それが、この曲の主張であると、「MR」では結論付けられています。
心を強く持たないと、内なる恐怖は破れないということなのでしょう。
THE BODY ELECTORIC
歌詞をそのまま読むと、ロボットが自分で制御を取り戻そうと苦闘する話ですが、Mystic Rhythmsによると、ロボット自身が実は人間、
自分の意思を持たないロボット人間のことだそうです。そう言えば、この曲のプロモビデオの主人公って、人間でした。
(個人的にけっこう好み──あっ、まったくの余談ですみません) 一緒に働く同僚や管理者たちのほうが、みんなロボットのようでした。
つまりは、没個性集団の中で『個』に目覚めること、自分を持とうとすること、それを阻む社会システムとの軋轢、苦闘、そう言うものを描いている。
RUSHの普遍的なテーマの一つであると言えるでしょう。
サビのリフレイン『1-0-0-1-0-0-1』が、アスキーコードで「I」つまり、『私』という意味があることは、決して偶然だとは思えないのですが。
語呂がいいから、と言うのも当然あるのでしょうが、アイン・ライドの小説「ANTHEM」(2112のもとネタとなったとされている)の主人公が発見した言葉が
「I」──すなわち『私』であるということとの類似性を感じてしまいます。
KID GLOVES
皮の手袋といっても、レザーでなく、キッドですから、軟らかいものですね。Handle A with kid glovesというのは、
Aを気をつけて扱えという成句ですから、この場合、Aに当たる部分が抜けていても、意味は同じだと思います。手袋をはめてそっと、
壊れないように、と言う感じでしょうか。で、何を気をつけて扱えばいいのか、いわゆるAに当たる部分ですが──なんでしょう。
怒りでしょうか。フラストレーションでしょうか。
そこにもう一つの『皮手袋』の意味が生きてくると思うのです。皮の手袋をはめて殴り合う。力と力のぶつかりにおいて、
強いことはかっこいいことだと思い知る。でも、かっこよくありつづけるのは、さらに厳しいということも知るわけです。力は万能ではない、と言うことでしょうか。
ちなみに黄金律とは、『沈黙は金なり』と言うあのことわざのことで、『雄弁は銀なり』と続くわけです。『茨の冠』は、
イエス・キリストが磔刑の時にかぶせられた、文字通り茨で編んだ冠のことで、人々は彼を自分で王と名乗ったのだからと揶揄して、かぶったら血がだらだらの痛い冠を、
わざとかぶせたわけです。でも怒りが茨の冠をかぶるというのは、どういう意味でしょうか。痛みを伴う苦い勝利、それとも嘲笑なのでしょうか。
いずれにせよ、困難な時代だからこそ、怒りや欲求不満が暴走しないようにする必要があるのでしょう。
RED LENSES
I see red ── 直訳すると『赤を見る』ですが、『頭に来る。怒る』と言う成句です。ここでも、怒りなわけですね。
赤いレンズをかけたら、世の中真っ赤に染まって見えます。
赤は何を象徴しているのでしょう。カラー心理学によると、赤は生命力、情熱、活力、短気を意味するそうです。
血の色からの連想なのでしょう。牛は赤い色を見ると、興奮するらしいですし。「アカ」と言うと、共産党や、いわゆる左系の団体を指しますし、
『赤軍』はゲリラです。対照的に使われる『青』の方は、落ちつき、冷静さ、理性を示すと表わすといいます。「憂うつ」と言う意味もあります。
そして、白は純粋さ、善、黒は不純、邪悪、不正を意味する(そう悪い意味ばかりではないけれど)──特に、black and whiteという対比で
使われる場合、そうですね。この言葉、『Distant〜』にも出てきました。
なんだか少々混乱したような気分を感じる歌詞です。余談ですが、ソヴィエトって、今はもうないですね。ロシアは憂うつ?
BETWEEN THE WHEELS
CATHODE RAY TUBEと言うと、ブラウン管のことなので、PRIME TIME(日本流に言うと、ゴールデンタイム。今ではプライムタイムでも通じますね)とともに、テレビ用語ですね。
「セルロイドの(フィルム)に巻き取られ)という一節ととともに、現代情勢をテレビ的に見たもの、のちのTEST FOR ECHOに通じる見方もあると思います。
車輪の間──走っている車の車輪の間にいるウサギ──歌詞に出てくるこの一節が、タイトルの由来でしょうか。いつひき潰されるかわからないこのウサギは
私たち自身、現代社会の象徴で、猛スピードで転がる車輪は、運命──いや、この場合、戦争かもしれません。『ロスト・ジェネレーション』というのは、
第一次大戦後に、戦争によって今までの価値観を失ってしまった人々のことを指すわけですから。
現代は二つの戦争の間を生きている──今のところ、第二次大戦以降世界規模の戦争は起きていませんが、これから起きる可能性があるというのでしょうか。
全体として、このアルバムは終末イメージの強い作品です。この曲は、『レッド・セクターA』と並んで、その際たるもののような気がします。ちょうど
この作品がでた年、1984年が、ジョージ・オーウェルの同名タイトル小説と同じだったことが影響したのか、と「MR」に書いてありました。
でも『1984』はたしかに救いのない世界が描かれていますが、世界の終焉ではありません。このアルバムを作った時のバンド内での
軋轢とか試行錯誤が作品のムードに反映したという記述もありました。個人的には、思わず『ノストラ〇ムスの大予言』が頭を掠めました。
問題の年は無事過ぎましたが、『また新たな戦争』が起きないことを祈るのみです。
アルバムについて
全体の印象は前作「SIGNALS」の延長線上というか、前の作品でつかんだ方向性を、さらに煮詰めたような感じです。
このあたりから、随分聞きやすい作品になってきたな、という感じを受けたものです。テーマは重いのですが、音はそれほど重さは
感じさせません。全体には非常にクールな印象を受けます。
個人的には、ファンになって最初に出た新アルバムであり、今では唯一の来日公演もこの時期だったので、かなり思い出深い
アルバムです。エピック・ソニーもこの時期かなりプロモーションに力を入れていたらしく、テレフォン・サービス(指定の番号へ
かけると、レコード会社お勧めのシングルのさわりが聞ける)で「AFTERIMAGE」が、『かっこいい曲でしょ?』と、紹介されて
いた記憶があります。 ★
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