MOVING PICTURES

Released 03/1981


TOM SAWYER
RED BERCHETTA
YYZ
LIMELIGHT

THE CAMERA EYE
WITCH HUNT
VITAL SIGNS
私的解説


トム・ソーヤー

現代の戦士は、控えめに歩みを進める
現代のトム・ソーヤーは
ほどほどのプライドを持っている

彼は心を誰かにゆだねたりはしない
でも、彼を傲慢だと非難してはいけない
感情を表に出さない静かな防御で
彼は日々の出来事を乗りきっていく
川のように──

彼の仲間について語るのは
その社会について語ること
雲をつかめ──神話を理解し
神秘をつかみ──傾向を捉えろ

世界がある、ここにある
愛と人生は深くにある
たぶん彼の空が広がっているように

現代のトム・ソーヤー
彼は君のことを
そして彼が侵入した場所のことを
気にかけている
彼は君のそばを通りすぎる

違う、彼はその心を誰にもゆだねたりはしない
いかなる神にも、政府にも
いつも希望に満ちて、まだ満たされず
彼は変化が永久的でないことを知っている
でも、変化は存在する

彼の仲間について語るのは
その社会について語ること
──証拠をつかみ──機転を利かせろ
──真髄をつかみ──軽蔑も受けとめろ

世界はある、ここにある
愛と生命は深い
たぶん彼の目が見開かれているように

戦士は出ていく
現代のトム・ソーヤ
彼は君のことを
君が交換するエネルギーのことを
気にかけている
日々の軋轢に
彼はたしかに気づいている

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赤いバーチェッタ

僕の伯父は田舎に土地を持っている
誰も、そのことを知らない
モーター法ができる以前は
そこは農場だったと伯父は言う
日曜日、僕は『監視の目』を上手く避けて
タービン貨物列車に飛び乗る
鉄線を越えてはるか遠く
白髪の伯父が待っているところまで

境界線を越える時、ターボはスピードを落とす、
その時地面に飛び降りるんだ
風のように走りながら
興奮が背中を駆け抜けていくのを感じる
納屋に降りていくと
僕のためにとっておいてくれた古いマシン
五十年以上もの間
それを新品同様にしておくことが
伯父の一番大事な夢なんだ

輝く車体を覆い隠している古いガラクタを取り去ると
消え去ったより良き時代から姿をあらわす
眩しいばかりの赤いバーチェッタ
やる気満々のエンジンに火を入れると
うなりを上げて答えてくれる
タイヤが砂利を跳ね飛ばす
僕は今週もまた、罪を犯してしまう

髪を吹き抜ける風──
ギアを入れ替え、方向転換──
マシンの奏でる音楽──
アドレナリンが吹き上げてくる──

良く乾いたレザー
熱い金属とオイル
田舎の空気の香り
クロムのボディに反射する日の光
景色がぼやけていく
すべての神経が目覚めていく

突然、僕の行く手に、山腹を横切って
一台のぎらぎら輝く合金のエアカーが
二つのレーンを占領しながら
こっちをめがけて、すっとんできた
僕はタイヤをきしませながら
スピンして向きを変えた
恐ろしいレースの始まりだ
谷を必死で駆けぬけているうちに
もう一台も追跡に加わってきた

風のように車を走らせる
マシンと人間の限界を引き伸ばしながら
恐怖と希望に、声を上げて笑いながら
僕はいちかばちかの計画を思いついた

片道車線の橋で
あの巨大な連中を川のほとりに立ち往生させ
僕は走り去る
急いで農場に戻るんだ
暖炉のそばで
伯父と一緒に夢を見るために

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YYZ

インストゥルメンタル

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ライムライト

光の当たるステージで生きていると
非現実に近づいていく
この金メッキされた檻の向こうにある
いくらかの現実に触れていると思い、
感じている人たちにとっては

似合わない役割を振り当てられ
ちぐはぐな衣装で、
演じる十分な技量もないから
そのままの自分でいるためには
バリアを築くしかなくなる

 ライムライトの中で生きること
 そんな風にみられたいと思う人にとっては
 それは、普遍的な夢

 そうありたいと思う人は
 疎外感を追いやって
 魅惑的なものと
 上手く付き合っていかなくては
 真実の関係
 それは基本的なテーマ

魚眼レンズの中で生きる
カメラの目に捕らえられて
嘘をつくつもりなんかない
見知らぬ人を
ずっと待ちわびていた友だという
そんなふりは、できない

世界中は、たしかに一つの舞台
そして僕らは、単なる演奏者
演劇者、そして描き出す人
金メッキの檻の外で
お互いの観客になっている

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キャメラ・アイ

I  厳しい顔つきで険しく
  固い排他的な表情で
  ニューヨーカーたちのぎこちない集団は
  リズムを刻んで歩みを進め
  近づいてくる夜と競争している
  彼らはマンハッタンの通りを駆け抜ける
  先走る人間性
  光のもとで立ち止まり
  やがて都市の通りを流れ抜けていく

  彼らは気づいていないようだ
  軟らかい春の雨に
  イギリスの雨のように
  とても軽く、それでも決して止むことなく
  鉛色の空から落ちてくる雨を

  際限のない建設の中
  ビルディングは埋没していく
  僕の足は鼓動を捉え
  目的を持って歩みを運んでいく

  可能性の感覚を感じている
  厳しい現実のねじれを感じている
  この街の、フォーカスはきれいに絞れている

U ロンドンの歴史の中に染まった
  いにしえの物語のような人生を
  広い視野で観察する人
  鬼火のような白いベールの中の
  緑や灰色の色彩
  ウェストミンスター通りに立ちこめる霧
  満ち足りず、風化していても
  プライドは、なお支配している
  街の通りに、息づいている

  彼らは気づかないのだろうか
  この特性に?
  それぞれの街に特有の
  光の特性に

  歩道は激しいエネルギーに
  満ちあふれているかもしれない
  でも、この激しい海の中
  街は静穏に佇んでいる

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魔女狩り

月もない、闇に染まる夜
空気は重く淀む
自警団員たちが集い来る
松明をかかげ、人里離れた丘に

揺らめく光のもと、その姿は歪み
その顔はねじれ、グロテスク
蒸し暑い夜の静寂と厳粛さの中
暴徒たちは魔にとり憑かれたように動く
良心はいささかも波立つことなく
彼らの正義は決して揺らぐことはない
自らのやり方が最善と確信しているから

 『高潔な人々』は立ちあがる
 憎悪と悪意の炎を
 その目に燃えあがらせて

 狂人は恐怖と嘘をその糧とする
 叩きのめし、焼き払い、殺すために

彼らは言う、移民たちや異端者たちの中に
我々を脅かす者がいると
彼らは言う、劇場や書店の陳列棚に
あまりに危険な未知のものがあると
何が我らにとって最善かを知るものよ
立ちあがって、我ら自身の手から、
我らを救いたまえ

 判断を下すのは早く
 怒るのも早いが
 理解するのは遅い

 無知と偏見と恐怖が
 手に手を取って闊歩している

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ヴァイタル・サインズ

情緒(体調)不安定:
精神的、および環境的な変化の中で起こる
生命の兆候

かき乱された気分とは──
人との相互接触や交流における
流動的変化に伴う興奮状態

 衝動は純粋なもの──
 時には外からの干渉によって
 僕らの(思考)回路はショートする

 信号が交差する──
 そして内部的な不調和によって
 バランスが崩れる

疲れた心は、見るものを変形させる
みんな、気分を昂揚させてくれるものが必要
みんな、極性を反転させたほうがいい

機能や形態について
誰もが複雑な感情を抱いている
みんな、規範から逸脱した方がいい

一オンスの認識──
一ポンドのあいまいさ──
ハーフスピードで
情報が処理されていく

静止:
巻き戻し──再生──
暖かい記憶のチップ
ランダムサンプル──
必要なものをとっておくといい

 虚構の世界から離れるんだ
 事実は;
 この干渉(妨害、軋轢)は
 粘り強く頑張り続けることでのみ
 少しずつではあるが、消えて行くだろう

 状態にとらわれるな
 勇気ある信念が、
 夢を現実のものへと引き寄せるだろう

疲れた心は、見るものを変化させる
誰もがみな、軟らかいフィルターが必要
みな、極性を反転させた方がいい

その機能と形態について
誰もが複雑な感情を抱いている
みな、規範より高みを目指したほうがいい

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あくまで私的解説




TOM SAWYER

 『トム・ソーヤー』は、マーク・トゥエインの有名な同名小説の主人公から取られたタイトルです。もともとは同じカナダのバンド MAX WEBSTERの『LOUIS THE WARRIOR』と言う曲として産声を上げたものらしいですが、作詞者PYE DUBOISがRUSHに詞を提供し、 Neilそれをもとに書き上げたのが、この曲だということです。このあたりの事情は、RUSH FAQやSOEさんのホームページに、 詳しくのっています。
 『現代のトム・ソーヤー』──それは、『ニューワールドマン』でも触れられているとおり、この現代社会を理想的に渡っていく人間 ──まわりに無用な軋轢や迷惑を引き起こすことなく、なおかつ自分の主体性を失わず、純粋性も失わず、己の芯をしっかり持って生きて いく人、その理想形であると思います。

 訳上、二、三気づいたこと、もしくは原対訳との違いですが、まず一つcompanyは会社でなく、仲間と訳すほうが適切で、これに関して はライヴ盤で、修正されて出ていました。もう一つ、初めのフレーズ“mean,mean pride"を『けちなプライド』と訳すことに少々 引っかかりを感じました。”mean“には、たしかに卑しいとか、けちなという意味はあるのですが(mean streakと言うと、いやな奴という 意味です。『The Big Money』にも出てきましたが)、現代の戦士、理想像というイメージと、『けちなプライド』というのは、どうも しっくりこない気がするのです。『Exit‥‥』盤では、『とるに足らない自惚れや』となっていましたが、これもいまいちイメージが ‥‥‥‥もしかしたら、meanはもう一つの語、中庸とか、ほどほどと言う意味の言葉ではないかと推測し、「ほどほどのプライド」と訳して みました。うーん、それで本当に意味が通るか、いまいち自信はないのですが。
 “The world is, the world is/ Love and life are deep”というライン、歌では一つながりで流れるため、 つい『世界とは、世界とは、愛と人生が深く』と、両方で一文のように訳してしまいそうになるのですが、よく見ると、それぞれ独立した 文章のようです。それで、『世界はある』という訳になりました。『変化は存在する』と同じ意味のbeだと解釈したのです。

 これは、もしかしたらDubois氏の傾向かもしれませんが、“Catch the sprit〜”のリフレインや、“He gets high〜”“He gets  by〜"と、似たような音を重ねているところ、内容もさることながら、かなり音の響き重視で書かれているような印象です。直訳すると、 かなり妙な訳になってしまいそうなので、ほとんど意訳になりました。(意訳は常に解釈ミスのリスクも付きまとうので、 『それは違うよ』と思われたら、どうかメールをください)
 この曲に書かれているヒーローの姿は、たぶんに自分自身のことでもあると、Neilは言っていたそうです。Neilに、そしてRUSHという バンド自体に、『現代のトム・ソーヤー』の姿が、見えるような気がします。



RED BERCHETTA

 一見、赤い車でレースする歌、なのですが(それも間違いじゃない) これはSFです。レースする相手が、エアカーなのですから。
 以下、「Mystic Rhythms」(以下、MR)からの参照ですが、この曲の舞台は近未来、車が道路から締め出され、移動はすべて電車などの 公共施設を使わなければならない時代なのだそうです。車の所持はエネルギーの浪費であり、個人主義を助長させるという意味で、 禁止されています。道路は人が歩くだけで、車は走ることができません。エアカーは、治安維持のために使われている警察の車です。 人々は都市やその郊外圏に一括して住み、田舎の地区には人が住むことを禁止されています。(農業はどうなっているのだろう? すべて機械化されているのでしょうか?)
 そんな時代に住む主人公は、居住禁止エリアに隠れ家を持っている伯父を、毎週末にこっそり訪ねます。(タービン貨物列車に密航して) 伯父は隠れ家に、昔の愛車である赤いバーチェッタを持っていて、それをいつもぴかぴかに磨き、整備しておくことに生きがいを感じて います。そして、もう二度と走ることができなくなったこの車を、もう一度走らせたいという悲願を持っています。でも、自分自身は もう年老いてできない。それで、若い甥にその夢を託し、主人公であるその甥は伯父の夢に答えて、毎週、赤いバーチェッタを無人の 道路に走らせるわけです。
 しかし、この時には警察のエアカーに発見され、追跡されます。主人公は必死のカーチェイスの末、見事逃げ切って伯父の元に戻る ‥‥‥‥でも、そんなことができるの?
 『MR』の作者は、そこで疑問を呈しています。そこで警察の車を振り切ったとしても、他にも警察の車はたくさんいるだろうから、 次から次へと追跡の手は迫ってくるのでは。第一、伯父の隠れ家がそう長く発覚しないでいられるわけがない。となると、これはすべて 甥の空想の中の物語ではないか。年老いた伯父とともに、赤いバーチェッタを走らせるという悲願が見せた幻、暖炉のそばで見た夢では ないのだろうか、と。

 私も実は、一つ単純な疑問を感じたものです。相手はエアカーなのに、一車線の狭い橋で振りきるなんて変だな、と。両側が断崖絶壁なら ともかく、エアカーなら道幅関係なしに、川の上を飛んでしまえばいいのではないか、それとも、構造上無理なのかな、と。
 しかし、最後の結末(の推論)は、多少ショックでした。まあ、これはPriceさんの結論であって、本当かどうかはわかりませんが。
『伯父さん、僕は今あなたと同じ夢を見ているんだ/今、同じ思いを感じているよ』
 私が昔、この曲を訳した時、最後にこんなフレーズを思わずつけてしまったものした。きっと主人公はそう思っていると感じたからなの ですが、Priceさんの結論にも通じる、赤いバーチェッタを通しての、伯父との感覚や夢の共有──本当にドライブしたかどうかはわから ないけれど──それが、『伯父といっしょに暖炉のそばで夢を見る』と言う最後のラインに現われていると言う気がします。 (SFに暖炉と言うのも変だけれど、暖房装置、だと、ちょっと気分壊れるかなと言う感じですし)

「Exit Stage Left」のビデオでは、車は自由や個人の尊厳、セクシュアリティ、そう言ったもののメタファーだと言うようなことを、 Neilが語っていました。BerchettaはFiat社の車種名で、Ferrariの旧タイプ・スポーツカータイプのオープンカーだそうです。

 訳に関して、一つよくわからないことを白状しますと、”well-weatherd leather”非常に語呂の言い響きのこの言葉、 直訳すると『日にさらされて乾いた皮』名のですが、実際これが何を指すのか、いまいちピンと来ないのです。車のパーツなのでしょうが。
(t-nabeさんより、ご指摘をいただきましたが、これは車のシートのことだそうです。革張りのシートで、オープンカーですから、日に照られて熱い、という感じですね。 t-nabeさん、ありがとうございました。)

 ところで、この曲のもとネタというか、インスピレーションになったというRichard Fosterの“A Nice Morning Drive”を 個人的に翻訳してみました。近未来を描いた短編(もっとも、舞台は1982年なので、今では近未来とは言えないけれど)で、 Red Berchettaの世界と通じるものが、たしかにあります。特に、カーチェイスのところは、この曲を彷彿とさせます。
「A Nice Morning Drive」



YYZ

 この曲はインストなので、本来歌詞解説はいらないのですが、タイトルについて一言。
この曲のタイトルは、トロントのピアソン空港の認識コードから取られていて、イントロはそこから発信されるモールス信号だという ことは、かなり知られている事実です。余談ですが、カナダの都市は、Yで始まるコードが多いですね。バンクーバーは「YVR」、 カルガリーが「YYC」、モントリオールが「YMX」、そして「YYZ」がトロント。
「YYZが荷物タグにつく日は、僕らにとって幸福な日なんだ」と、Neilがツアーブックに書いていました。長いツアーを終えて故郷に 帰る彼らの姿を想像して、思わず和んだ記憶があります。

 まったく私的なことで恐縮ですが、私はこの文を読んで以来、『いつかは私の荷物にもYYZのタグをつけたい』と言う悲願を抱き、 ついに新婚旅行で、それを実現させたのでした。タグは空港につくと、添乗員のお兄さんが切ってしまうため、それより前に自分の トランクを探し当て、しっかりゲットしたYYZのタグは、今も私の宝物です。本当に私的なことで、申しわけありませんでした。
 わたしは楽器のことはよくわかりませんが、この曲がRUSHのインストの代表曲(La Villaと並んで)だというのは、とても よくわかる気がします。凄い曲です。



LIMELIGHT

 ライムライトというのは、直訳すると、石灰光──石灰を入れたシリンダーの中で水素を燃やし、レンズを使って集光する照明機器の ことで、19世紀の初めから、電気照明が使われるまで、舞台照明装置として使われていたものだそうです。舞台照明という意味から転じて、 『注目を浴びる』と言う意味にも使われ、“in the limelight"で、「脚光を浴びる」という意味です。
 歌詞にそれほどひねりはないので、『ああ、これはつまり芸能界についての歌だな』と、察しがつくと思います。『Superconductor』も そうですが、あれほどシニカルではないかも。

 ライムライトの中で生きること、それは、そう見られたい人にとっては普遍的な夢であるけれど、その中は非現実の世界であり、 本当にその中で生きようと思い、なおかつ現実の上に立って、真実や本質を見失わないように生きていこうとするならば、世間からの 疎外感を、上手く克服していかなければならない──疎外感はなぜ起きるかというと、それは現実ではない、非現実を生きているからだ── そんな気がします。って、まんまの解説ですね。(解説にもなっていない。失礼しました!)
『ライムライトの中』つまり芸能界を生きている彼ら──Neilの視点であるから、よけいにそのメッセージは重みを増すように思われます。



THE CAMERA EYE

 自らの観察を『カメラの目』にたとえ、そこに映る風景を描写した──『現実を見つめていきたいと思う』と語っていたNeilの意図が もっとも具現化された曲かもしれないと思います。『MR』では、この曲は『Limelight』と同一線上にあり、Part2とも言える、とありま した。たしかに、『Limelight』の中には“caught in the camera eye"というフレーズが出てきますが、(RUSHのアルバムにおいて、 いくつかの曲にまたがって、特定のフレーズが繰り返し出てくることは珍しくなく、ある種キーフレーズとなっている)あちらは『見られる こと』が主で、こちらは『見ること』が主のような気がします。こちらは芸能界、関係ないし。

 いわゆる一番はニューヨーク、二番はロンドンについて歌われています。どちらも代表的な都市ですが、それぞれの描写のしかたが興味 深いです。ニューヨーク、ちょっとあまりな書かれようじゃない? (私の訳が悪いのか?)とも、思ってしまいますが。言ってみれば 東京(もしくは大阪。せかせか度が)と京都のようなイメージ?──いえ、もっと大きな、アメリカとイギリスと言う二つの国の描写に つながるのかもしれません。

 ところで、二番の最後のほうに出てくる、ささやき声と言うか台詞が、何を言っているのかとFAQで話題になっていましたが、結局 はっきりとはわからないようです。ネイティヴの人たちの聞き取りでは、もっとも有力なのが、“Allo──Mornin' Guv"── コックニーアクセントで、『やあ、おはよう』的なニュアンスだということでした。うーん、まあ、そう言われればそうかも、でも 違うような──わかりませんね、やっぱり。すみません。でも二番の舞台はロンドンですから、ロンドンの下町言葉であるコックニーが 出てくると言うのは、わりと頷けるような気もします。



WITCH HUNT

 Fear三部作のPartV──でも、一番最初に出てきた曲です。Fear三部作については、FAQでも『MR』でも出てきたのですが、 解説は『Enemy within』の方に書きましたので、そちらを参照してください。

 「Witch Huntが最初になったのは、アイデアがまとめやすかったから」とNeilが語っていたとFAQにありました。同心円の外周は、 もっとも目に付きやすい現象だけに、まとめやすいのかもしれません。Witch Huntに描かれている恐怖とは、未知なるもの、自分とは 異なるものへの恐怖と、それを排除しようと動くことが、また新しい恐怖を生み出しているのだ、と言うことでしょう。それが、中世では 魔女狩りを生み、近代ではホロコーストやKKKを生んだわけです。それほど規模が大きくなくとも、極端でなくとも、異端を排除しようと する動きは、ほとんどすべての社会に存在しているのかもしれません。

 この曲のレコーディング時の興味深いエピソードがFAQに(VISIONSにも)載っていました。凍りつくような寒さの中、外へ出て頭の 『暴徒の声』を録音したとか。雰囲気を出そうとしたのでしょうが、大変ですね。



VITAL SIGNS

 タイトルは直訳すると、『生命兆候』で、脈拍、呼吸、意識の有無などをチェックする、医療用語ですね。この曲は、 『Natural Science』同様、レコーディング段階になって、『自然発生的なプロセス』を狙って、スタジオで作られた曲だそうです。

 作詞面では、意図的に『テクノスピーク』つまりコンピュータとか機械工学的な専門用語を使って、人間の感情や働きを描いてみる、 人間を一つの機械にたとえたような描写をしてみた、というようなことを、Neilが解説に書いていました。のちの『The Body Electric』 に通じるものも、あるかもしれません。でも、機械的専門用語を多用し、メカニックに描写しようとしているにもかかわらず、人間性という ものが、かえって浮き彫りにされている──たしかに脳はコンピュータのようなもので、感情の流れや身体反応は電流刺激を通した反射 作用でしかないとしても (このあたり、『Prime Mover』にも通じる雰囲気がある)それでも人間的な温かみと言うか、機械とは違う のだと言うことが、感じられる気がします。それは最終ヴァースの、非常に肯定的な歌詞のせいでしょうか。
「this friction will only be worn out by persistance」は、直訳すると、「摩擦はそれを繰り返すことでのみ、磨り減ってなくなる」、 つまり摩擦(抵抗)があっても、繰り返しこすり合わせ続ければ、そのうちに面が滑らかになって、摩擦係数はゼロになる、という 意味ではないかと、思われます。つまりはがんばってやり続けるしかない、それでしか障害は乗り越えられない、という意味ではないかと。 そのたゆまぬ努力を支えるのは、「必ず夢を叶えるんだ」と言う強い確信なのでしょう。

『気分が落ちこんだりイライラしたり、体調が狂ったりするのは、生きている証拠だ。生きているからこそ起きる、生物反応だ。 当たり前のことなんだ。乗り越えようと、気を強く持てば、きっと乗り越えられる。夢を捨てずにがんばり続ければ、きっと夢は実現 できる』そんなメッセージを感じます。
『RUSHは難しいことを言っているようだけれど、本質はかなり楽天的。過ぎるぐらいに』と言う見方は、けっこう当たっているのでは。 だからこそ、力づけられることも多いのでしょう。



アルバムについて

 彼らの最大のヒット作であり(今のところ)、「2112」と並んで最高傑作との呼び声も高く、根強い人気を誇る作品でもあります。 個人的な見解では、非常に『濃い』アルバムだと言う気がします。サウンドも歌詞の意味性も、ぎゅっと凝縮されている、その密度の高さ はハンパじゃありません。テクニックとメロディの融合も、美しいとさえ言えます。Dream Theaterなどの、RUSHに影響を受けたとされる グループは、実はこの「Moving Pictures」の再現を目標にしていたのではないかと、Burrn!に書いてありましたが、なんとなく納得。

 RUSHの音楽性の変遷を考える時、よくライヴアルバムを一区切りとして数えられますが、(その分類でいくと、第二期の最終作品)  Permanent Wavesと本作は、それ以前のプログレ大作嗜好の彼らと、それ以降のよりシンプルに、洗練されていった彼らを分ける、分水嶺 のような作品に感じられます。



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