THE BIG MONEY
タイトル通り、お金の力を主題にした歌です。
『Mystic Rhythms』で指摘されていましたが、曲中、聖書からの引用があります。
『汝の支配する王国、その力と栄光が永遠に続きますように、アーメン』
神とマンモン(金の神)と、両方に使えることはできない、と聖書にはあります。
が、上の引用は、現代ではマンモン──お金が、神になっているということでしょうか。
お金はたしかに大きな力をもち、様々なことができます。しかし、基本的にお金自身には魂はない。
つまり、何の意図も性格ももたない。持ち主次第ということでしょうか。
☆主の祈り
GRAND DESIGNS
『Subdivisions』などのテーマにもあったように、現代は大量生産、画一化の時代です。
人と違うことは好まれません。巨大な風潮に乗り、物事の本質とか、真に貴重なこととかはほとんど省みられない。
しかし、それではいけない、ということでしょう。
最後のフレーズはほとんど意訳になってしまいましたが、原文では“static(静的な)”と、
“kinetic(動的な)”は対語となっています。“surface tension”は「表面張力」です。 直訳すると、こうなります。
月並みに逆らって
静的に見えても
表面張力を破ろう
僕たちの野生の動的な夢で
原語のニュアンスは、この方が出るかな‥‥
MANHATTAN PROJECT
「マンハッタン計画」とは、第二次世界大戦当時、原爆を開発していたプロジェクトだ
そうです。そしてタイトル通り、これは「核の脅威」と、「そしてそれを生み出したのは、ほかならぬ人間自身である」
ということを訴えているようです。
戦争に勝つため、より強い武器を──太古の時代から、その願いのもとにより強力な兵器が開発されてきたわけですが、
それはとうとう「核兵器」という、一つ間違えば地球から人類を一掃してしまいかねない、恐ろしい武器を誕生させてしまいました。
脅しのために持っているが、実際には怖くて使えない──では、なぜそんな愚かなことが生まれてしまったのかといえば、
「戦い」があるからなのでしょう。これは、「TERRITORIES」にも相通ずるテーマなのではないかと思います。
ご存知かと思いますが、エノラ・ゲイ号というのは、1945年8月6日に、
広島に原爆を投下した戦闘機の名前です。ビッグ・バンは宇宙の始まりの大爆発、と言う意味で有名ですが、
広島と長崎で炸裂した原爆も、それと同じくらい衝撃的な爆発だったのでしょう。少なくとも、地球人類にとっては。
MARATHON
主題そのものはわかりやすい。タイトル通り、ずばり「マラソン」ですね。そして、これもわかりやすい、「人生」の比喩でしょう。
ただ、歌詞の細かいニュアンスは案外出しにくくて、ちょっと悩んだところもありました。
“in the long run”は「最後には、結局は」と言う熟語ですが、文字通り「長い走行の果てには」と言う直訳も「マラソン」
という主題に引っ掛けて、意味を持っていると思います。サビの部分、"glory rolls on by“というのは、直訳すれば、
「栄光がそばを通りすぎていく」ですが、わたしのイメージでは、ランナーが走っている時、沿道の観衆たちが「ガンバレー!」とか、
「わー!!」と声援を浴びせるような感じに取れたので、こんな訳になりました。
TERRITORIES
これも主題はわかりやすい。領土意識、国家意識、民族意識──自分たちが特別で、異なるものは認めない、
それでいて領土は拡大したがる。その意識が、終わりのない戦いの歴史を生み出してきている。
そんな境界線なんて取り払って、みんな仲良く、世界市民として生きればいいのに、と言うところでしょうか。
詞自体さして難しくはないのですが、最後の一文だけ、少し引っかかりました。
“When a colourful rag is unfurled”──「華やかな旗がひるがえる時」と言うのが原対訳です。“rag”にはたしかに
旗の意味もあるのですが、どちらかといえば「ボロ布」的なニュアンスが強い感じの言葉です。
もし「旗」の意味ならば、もっと一般的な言葉の“flag”を使わなかったのは、“colourful”と“rag”の言葉の落差が、
自分は正しいと思ってやっている領土争いの虚しさのようなものを象徴しているのかな、とも思えます。(深読みしすぎ?)
ただ、“unfurl”は一般的には「広げる」と言う意味なので、一枚の大きな、いろいろな色に塗り分けられた(ボロ)布を広げたという意味にも取れなくはないです。
つまりそれが、各国家の領土として、固有の色に塗り分けられた世界地図の比喩なのかも──
この最後の4行に関して、8月の初めに、Kamiya Tosirou様よりメールをいただき、詳しい解説と共に、
「世界地図を広げたときに、庶民が抱く「この世界に住む一人なんだなあ」という感慨と、権力者が抱く「その領土(territory)を分断して統治するのだ」という高慢さを対比させているのではないか」
というご意見をいただきました。最後の4行、Kamiyaさんが訳された行がとても的確と思えましたので、ほんの少し
改定(注釈)を加えて、訳に取り入れさせていただきました。ありがとうございました。
MIDDLETOWN DREAMS
この曲も「Mystic Rhythms」に解説が載っていましたが、歌詞を読んでも、ある程度主題はわかると思います。
MIDDLETOWNを地方都市と訳してしまいましたが、大都会のベッドタウンなども含まれるわけで、要するに大都会ではなく、
田舎でもない小都市、町と言う感じでしょうか。彼らは都会に憧れ、そこでの成功を夢見ているわけです。
たとえ現実の暮らしが自分で思うほど超みじめなわけでないとしても、夢は現実を耐えやすくする妙薬というわけでしょうか。
夢を見すぎて現実を見ないのも、多少困るでしょうが。
ところで、冒頭のセールスマンの夢というのが、訳していてはっきりわからなかったのですが、
“But he still heading down〜”のくだりが、そうでしょうか。とすると、「仮想のドライブを楽しむ」と言う感じかな。
ちなみに、“heartland”は「中心部、中央地帯」と言う意味ですが、この場合ストレート訳の「心の国」と両方かかっている
言葉のような気がします。
この曲を「叶わない夢を見ながら暮らす小市民を描いている」と見るか、「今は街で冴えない暮らしをしていても、いつか夢が叶うと信じている人たちを応援している」と見るかは、聞き手がどのくらい自分の夢を信じているかのリトマス試験紙のようなものだ、とNeilが語っているインタビュー記事がありました。(リンクを失ったので、出自は不明です。すみません。たぶんPower Windowsサイトにあるかもしれません) そしてNeil自身は「この詩は人性の半ばを過ぎてもなお夢を失わず、その夢を開花させた人たちへの賛歌として書いた」と言っていました。(2005年11月13日追記)
EMOTION DETECTOR
タイトルを直訳すると、「感情の発見者」もしくは「感情探知機」となります。少々抽象的な歌詞ではありますが、
表面的なこだわりとか面子、欲望などではなく、もっと感情の本質を見つめてみては、と言うようなことではないかと思うのですが。
サビは意訳です。“right to〜”は、直訳すると、それこそ「〜に正しく」で、辞書では「〜は正しい」とか、
「〜の権利がある」と出ているのです。最初は「〜に忠実に」と訳したのですが、それもちょっと抽象的かな、と思えて、
「〜を求めて」としてしまいました。結局そういう意味ではないか、と思えたので。
MYSTIC RHYTHMS
何度も言及されている、歌詞解説本のタイトルではなく、その元となった曲のほうです。って、あたりまえか。
神秘のリズム。それはたぶん宇宙のリズムとか、地球のリズムなのでしょう。地球の自転、
公転、宇宙の星の動き、それはまるで一定のリズムを刻んでいるように見えます。では、
そのリズムを作り出すものは、いったいなんなのでしょうか──
偉大な自然のリズムの中で、私たち人間の存在は、なんだか小さく感じられます。
この曲の直接的なインスピレーションは、Neilがアフリカに旅した時、テントに寝ていたら、遠くから原住民の太鼓の
ような音が聞こえてきたことからだそうです。
ところでこの曲、本のタイトルになっていながら、解説本には解説、ありませんね。
アルバム全体について
前作から一転して、ポップになったアルバムです。さらに多用されるシーケンサーやシンセサイザーが、非常にモダンで
きらびやかな印象を与えます。(今となっては、逆に多少古いかもしれないけれど)
聞きやすさやメロディックな方向性はますます増していき、昔の『一見、とっつきづらい印象』から抜けた感じもあります。でも、
でも――やっぱり独特なんです。ユニークなんです。いわゆる第三期、シンセポップ期のRUSHの個性の形が、完成された、そんな
印象です。 ★
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