FORCE TEN
この曲は、「TOM SAWYER」と同じく、PYE DUBOIS氏との共作です。タイトルは「第十部隊」ではなくて、RUSH FAQにもありましたように、
ビューフォート風力階級の、「風力10」が正解です。
思わず「最大風力」と訳してしまいましたが、最大は12です。ごめんなさい。でも11以降は、陸上で起こることは非常に稀だそうですから、
「風力10」は、陸で起こりうる最大と言ったところでしょうか。
風力10は「全強風」、英語で言うとstormで、風速24.5から28.4m。木が根こそぎ倒れる強さだそうです。
プロモヴィデオでは、アニメの羊さんが飛ばされていましたが、たしかにこの風力だと、羊も飛ぶかもしれませんね。
現代社会情勢の勢いや速さを、「風力10」にたとえたのかな、と言う印象です。
☆ビューフォート風力階級
TIME STAND STILL
この曲、意味的には前の曲とつながっているような感じを受けてしまうのですが。
時間は止まりませんし、瞬間も凍りません。でも強風で飛ばされて、立ち止まることも困難な世の中だからこそ、
立ち止まり、息をついて、自分と回りを見つめるゆとりが欲しい、と言ったところでしょうか。
『FORCE TEN』では、“look in、look out、look around”『TIME STAND STILL』でも“see more of the people〜”
両方とも『見ること』が強調されているように感じます。TSSはさらに、『感じること』の重要性もありますね。
時は過ぎてみれば速いもの。“children growing up──old friends growing older”と言うフレーズは、本当に実感します。
私、個人としては。
タイトル訳ですが、Time stands stillではないので、命令形のニュアンスかなと思い、『時間よ止まれ!』などと、
山下達郎(違った?)のような訳になってしまいました。
OPEN SECRETS
この曲は特にひねりも抽象もないと思うので、歌詞をストレートに読めば、言いたいことはわかると思います。
秘密を打ち明けるのは勇気がいるが、秘密のままにしておくと、二人の距離が遠くなる──『PERMANENT WAVES』の
『ENTRE NOUS』のテーマに近い気もします。あれは秘密ではなく、『お互いの違いを認めること』でしたが。
ところでこの曲の国内盤対訳に、『頭の回りは春一面』などという有名な誤訳がありましたが、あれは“spinning”を“spring”と
間違えたのかも、と疑っています。最初読んだ時には、どこかのラリったおじさんが、頭の周りに星ならぬ花をぐるぐる飛びまわらせて、
ハラホレヘレ〜となっているイメージが浮かんでしまいました。(歌詞とは、何の関係もないのに)
SECOND NATURE
この曲は『Mystic Rhythms』で解説を読むまでは、正直に言うと、抽象的過ぎて、「?」でした。
が、あの本を見て、目からうろこが落ち、『なるほど!』と思ったのでした。
お偉いさんたちに、今の世の中について、いろいろと言いたいことはある。でもそれは結局『第二の自然』の問題で、
もっと大事なのは『第一の自然』──
「僕らが生きているこの場所のことさ」──つまり、地球だ。
今の状態は
「火を消そうとする一方で、火を煽る」──環境改善を目指しながら、その一方で環境を汚染し続けている、ということですね。
これのより直接的なヴァージョンが『PRESTO』の『RED TIDE』なのだそうです。このくらいダイレクトに言えばわかる、
つまり事態はより切迫してきた、とも言えるわけなのでしょう。と言うことは、今は?
ちなみに、『今、この身を夢の国に横たえ〜』と言う一節は、キリスト教の就寝前の祈りだそうです。
PRIME MOVER
タイトルは『原動力』と言う意味です。
生きるということ、その根底には生きるための本能があり、その本能に動かされる自分自身の感情と体があり、
その上により高次の感情──自己実現や向上心、知的探求心などがあって、連動しあっているわけですね。
『交流電気』と言うのは、脳からの伝達信号でしょうか。
ちなみに、この曲にも単語を取り違えた誤訳が、ありました。“cloud”を“crowd”にしちゃっているので、
『雲』が『民衆』になってしまっているわけです。まったく同じ取り違えを『TAI SHAN』でもやっていますが、
ううーん──まあ、変なイメージが浮かばないだけ、ましですが、なぜこういうミスが起きるのだろう。不思議。
Rush.netに、この曲の解釈についてのスレがありました。それによると、この「Prime Mover」とは、
「神」のこと、という解釈が、あちらの人たちの間では、ポピュラーなようです。世界を動かしている原動力は、「神の力」
でも、神様はただ起動させるだけで、あとは後ろに隠れて見守っているだけ――これは、「I set the wheels in motion〜」
からのフレーズに、端的にあらわれている、とのことでした。このフレーズ、特に後半は、「これは神の視点だな」と、
私も思ったのですが、全体像の把握までには至っていませんでした。神は原動力、世界を起動させる、でも
動いたあとは、ただ見守るだけ、そこで「どんなことが起こるか」までは、神がコントロールしているわけではない。
だから、「anything can happen」――それがNeilの宗教観であり、運命観なのだ。と言う論に、私も非常に納得したので、
ここで紹介することにしました。 (2003/04/25)
LOCK AND KEY
この詞はけっこうダイレクトなので、あえて解説はいらないかも。人の持つ「殺人本能」についてです。
最近では、しっかり封印していない人が少しずつ増えていそうで、ちょっと怖いかも。
MISSION
「想像力を持つ魂は、使命を持つ夢」
このフレーズに尽きますが、原語からのニュアンスを少々補足します。“spirit”は「精神」と言い換えてもよく、
“vision”は単なる“creativity”ではなく、「頭の中で想像の翼を広げ、明確なイメージを描くことのできる人」
と言うニュアンスを感じます。
何かを想像し、構築できる力を持つ人が、その力を与えられたのは、何かをなすべきためだということでしょうか。
才能ある人は、その才能ゆえに苦しみます。それでも彼らは自らのすべてを、その力を与えたもうた何かが課した使命のために、
捧げなければならない。「天才」の運命でしょうか。
でも、この詞は「天才」の側からは書かれていません。そんな天才たちを仰ぎ見、感嘆し、
理解しようとする一般人の側から、書いています。(私から見ると、Neilは前者ではないかと思うのですが)
TURN THE PAGE
これは『TEST FOR ECHO』のもう少しクールで平和なヴァージョンかな、という気がするのですが。
あちらは『ビデオ』なら、こちらは『本』ですね。
世界を、そして時の流れを歌っています。
『私たちは過去から来て未来へつながる今を(お気楽に)生きている』
TAI SHAN
『泰山』ですね。RUSH FAQにもありましたが、Neilが中国に自転車旅行をして、泰山に登った体験を詩にしたものだそうです。
尺八には、ちょっと笑ってしまいますが、(尺八は中国ではなく、日本古来のものだったような気が‥‥‥‥東洋のイメージが
ごっちゃになっているのかな? 中国なら胡弓のほうが、らしいと思うけれど) ゆったりしたサウンドと歌詞で、
文字通り『風景が見えてくる』ような気がします。
HIGH WATER
生物は海からやってきた。海は生命の起源であり、水は空気とともに生物には必要不可欠なものです。
人間の体液濃度は海水の塩分濃度とほぼ同じだそうです。
人間は、この世に生まれ出るまでは、羊水に浮かんで生きています。胎児は受精卵の段階から、
進化の過程をそのまま再現し、人間の赤ん坊となって生まれてくるそうです。なんだか、神秘を感じてしまいます。
サウンド面でも、水の湧き立つ感じがよく出ていると思います。
アルバム全体について
いわゆる第三期の締めくくりにふさわしく、シンセやシークエンサーがきらびやかに走り回り、曲調も思いっきりポップで、
『うわぁ、RUSHがこんなにポップになっちゃうなんて!』と、私は最初に聞いた時、腰を抜かしたものでした。それでもやはり
彼らの個性はしっかり生きていて、普通のポップスとは一味違う、聞いていて非常に心地よく、軽いわりには密度の高い作品です。
聞いていると、なんとなく元気づけられるアルバムです。
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