PERMANENT WAVES

Released 01/1980


THE SPIRIT OF RADIO
FREEWILL
JACOB'S LADDER

ENTRE NOUS
DIFFERENT STRINGS
NATURAL SCIENCE

私的解説


スピリット・オブ・レイディオ

和やかな声で
一日が始まる
控えめな(ラジオの)友が
軽く流れていく曲をかける
そしてその魔法の音楽が
君の朝の気分を演出してくれる

コースから少しはずれて
空いた道路をたどる時
君の指に魔法が宿る
その『精霊』は君のまわりにただよい
君の楽しい孤独に
さりげなく接触してくる

 目に見えない放送電波が
 生命を持ってパチパチはじける
 輝くアンテナは
 エネルギーに溢れる
 時代を超えた波長にのる
 感情のフィードバックが
 価値のつけられないほど(貴重な)
 贈り物を届けてくれる──
 ほとんど何の見かえりもなしに‥‥

モダンミュージックを作り出す
この機材すべてには
それでもまだ率直でいられる
それほど冷たく計算されたものではない
それははただ、本当に君の誠実さ(だけ)の問題
人は音楽の自由を信じたがる
でも賞のきらめきと終わりのない妥協が
誠実さの幻想を粉々に砕いてしまう

  利益のための言葉が
  スタジオの壁に書かれている
  コンサートホールには──
  サウンドのこだまが響き渡る‥‥
  セールスマンのサウンドが

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自由意志

人生に偶然が入りこむ余地はない
そう思っている人がいる
僕らの目的のない踊りに方向性を与えているのが
多くはひどい恐怖であっても

おもちゃの惑星
認識することのできない力(神)の
糸に操られて、僕らは踊る
 星々は整然と並んではいない──
 さもなければ、神に悪意があるのだ
非難はされるより、する方がいい

 何かの天の声を聞いて
 決められた導きを選んでもいい
 もし君が何も決めなかったとしても
 それでも君は一つの選択をしたことになる

 目に見えない恐怖から
 それを消してくる優しさまで
 選ぶことができる
 僕の選ぶ道は、はっきりしている
 僕は自由な意志を選ぶ

負け札しか配られていないと
思っている人がいる
カードが不利になるように積まれていると
彼らは桃源郷に生まれたわけじゃない

すべては、すでに定められてしまったこと
鎖につながれた囚人
悪意ある運命の犠牲者

顔を踏みつけられながら
それでも天上のこの世のものならぬ楽園に
自らの場所を求めて祈ることもできる

僕たちはみな、一人一人
それぞれの意識を持っている
不完全で、未完成であっても

不確かな目的をもつ
遺伝子の調和(混合)
あまりに早く、遠く流れ去っていく
幸運を求めて

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ヤコブの梯子

暗く、ぐずついた沈黙の中
雲は戦いに備えるかのように広がり
傷つき、陰気な嵐雲は
日の光を翳らせる
早過ぎるたそがれの中
それは低く、不気味に垂れこめ
雷鳴が低くうなる
彼方の序曲のように

まったく突然に、
雲が二つに分かれていき
光が明るく途切れることのない光線となって
流れ落ちてくる

空を見ている時の
あの人たちの視線を追ってごらん
移りゆき、輝く光の糸が
彼らの夢を紡ぎ出していく

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アントレ・ヌ(私たちの間に)

僕らはお互いに秘密の存在
それぞれの人生が
他の誰もが読んだことのない小説
愛の絆に結ばれていたとしても
僕らをお互いに結び付けている糸は
こんなにも細い

僕らはお互いに惑星のようなもの
軌道を漂いながら
ほんの一時、重なってすれ違う
お互いに世界を隔てるほど遠く離れ
一人きりで、それでも一緒にいる
行き交う二隻の船のように

ただ、僕たちの間で
認める時が来たように思う
時にはあらわにするのを怖れていた
お互いの違いを。
ただ、僕たちの間に
気づく時が来たように思う。
お互いの間の距離
それは君と僕が成長するための
余地なのだということを

僕たちはお互いに他人同士
たくさんのスライドパネルを使った
幻想のショーを演じて
よくリハーサルを積んだ役割を演じているのか
それとも心からの振る舞いなのか
それを知るのは難しい

僕らはお互いに島のよう
波高い海に
希望にみちて橋をかける
焼け落ちたり、流されてしまったものもある
あえて選ばなかっただろうものもある
でも、僕らはいつも自由なわけじゃない

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異なる糸

誰がドラゴン退治にやって来るのだろう──
倒れるのを見るために、誰が来るのだろう?
あてつけの言葉は、的をはずれても傷つける矢
それは当面の、強大な敵

あまりに多くのから騒ぎと厄介ごとが
あまりの多くの反駁と混乱が
神秘を剥ぎ取っていく
そこに、本当の動機に至る手掛かりがある

 本当に存在しているものは
 僕たち二人だけ
 お互いに、どうしてここまで来たのか知っている
 何も説明する必要はない
 この歌の中にあるのは
 僕たちの一部なのだから

僕らの無邪気な心は、どうしてしまったのだろう
もう、時代遅れになってしまったのだろうか
お互いの純真さとともに──
もう、子供ではいられない

異なる目には、別々のものが映る
異なる心は、別々の糸の上で鼓動を刻む
でも君と僕にとって
そういうことすべてがわかりあえる
そんな時もある

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自然科学


T 潮だまり

海岸線の岩場を
引き潮が引いていく時
あとには潮だまりがいくつもできる
その短命な宇宙の中
それぞれの小宇宙の惑星は
完全な社会

僕たち自身を映し出す
素朴な鏡のようだ
すべての小さな生き物たちが忙しげに
それぞれの運命に追われている
水溜りの中に生きていると
彼らはすぐに海を忘れていくだろう‥‥

 らせん状の通路の中
 幾重にも重なり合う輪
 その模様は壮大で複雑
 何度も何度も
 僕らは途中で視界を失い
 原因は思わぬ結果を生み出す

U ハイパースペース

 時間と空間の中を
 量子が飛び出していく
 宇宙は拡散することを覚えた

 混乱と魔術
 勝利に満ちて、悲劇的に
 制御を失った、機械化された世界

 作り物のバンドに合わせて踊る
 高慢な皮肉屋たちのための
 コンピュータ化されたセミナー

 彼らのイメージに合わせて
 世界は作られているのだから
 彼らに理解できなくても不思議ではない

  らせん状通路の中
  幾重にも重なる輪
  その模様はこんなにも壮大で複雑
  幾度も幾度も
  僕たちは道を見失い
  原因は思いもよらない結果を生み出す

V 永遠の波

 科学も、自然のように
 その保護を常に視野に入れて
 制御されなくてはならない
 変わらぬ誠実さを持って接すれば
 それはきっと、僕らのためになってくれる

 市場戦略ではなく
 表現としての芸術は
 僕らの想像をかきたて続けるだろう
 変わらぬ誠実さを持って接すれば
 それはきっと、ずっと助けになってくれる

 もっとも絶滅の危機に瀕しているもの
 それは、正直な人間
 でも彼らは生き残るだろう
 他のすべてが滅びてしまったあとも
 世界を形作っているものは──
 尊厳ある誠実さ
 感じやすく、なにものにも捕らわれず、そして強く

  くりかえし押し寄せる波は
  潮流に乗ってあふれ
  当然のように世界を沈めていく

  繰り返す潮の流れは
  満ちては、また引いていき
  あるがままに生きていく生命を
  そのあとに残していく

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あくまで私的解説


THE SPIRIT OF RADIO

 80年代の入り口で、今までの大作傾向を止め、曲のコンパクト化をはかった時期の先駆け的な役割を 果たした曲です。いまでも、RUSHの代表曲の一つで、個人的には武道館でこの曲のイントロを 聞いた時のインパクトが、今だに印象に残っています。
 トロントにある、同名のラジオ局にヒントを得たとクレジットされていて、(今もあるのかな?)  ラジオのオンエアに象徴される現代音楽のあり方を、そのまま歌ったものです。この後ビデオ時代が 到来するわけですが、ビジュアルメディアが発達しても、依然ラジオの需要というのはあるわけで、 バグルスが歌っていたように、決してビデオに殺されてはいないし、クイーンが「RADIO  GAGA」で歌っているように、『ヴィジュアル時代が到来しても、君を必要としている人たちがい る』わけです。
(「ラジオ・スターの悲劇」のアーティスト名を、最初勘違いしてバングルスと書いてしまいました。 おにひろさん、ご指摘ありがとうございました。バグルスが正解ですね。後にYESに参加した、あの二人組です)

 ラジオを聞くのは、何かをしながら、と言う場合が圧倒的に多く、勉強しながら(ながら勉強は 効率が悪くなると、よく言われるけれど‥‥)、掃除しながら、お風呂に入りながら、眠る前に布団 の中で、そして、やっぱりドライヴ! というわけで、この曲も、そのシーンから始まります。 朝、一人でちょっとしたドライブを楽しんでいる時に、ラジオから聞こえてくる音楽──なんとなく 情景が想像できますし、その音楽がどんな感じなのかと言うことも、わかるような気がします。 私の想像では、AORとか(もう死語?)、ジェットストリームでかかっているような、ふわっとした 音楽を思い浮かべるのですが、みなさんはどうですか?

 ラジオでかかる曲、まあ、今ではMTVなどの視覚メディアも含めて──そういう曲は、耳あたりの いい、いわゆる売れ線的なものか、さもなければ今のトレンドものが多く、そしてそういうエアプレイ の多さがヒットに結びつくと言う構図は、今も昔も変わっていないわけです。売れることは、もちろん プロのミュージシャンであるならば、必要条件とも言えるでしょう。だって、生活かかっているから。 売れなければ、契約ももらえないし、ミュージシャンとしても、やっていけませんから。でも、かと 言って、売れることがアーティストにとって、真に幸せなのか。ことに、自分たちのやりたいことより、 『売れること』を優先して音楽を作ってしまったり、ヒットチャートに振りまわされて自分たちの本質 を見失い、崩壊したバンドもかなり多いと思います。カート・コバーンは、『売れすぎて、いや だ』と、自殺してしまいましたし。彼もそういう恐怖を感じていたのかも知れません。
 自分のやりたいことと、それが人にどこまで受け入れられるかということ、理想と現実の狭間で 問われる「音楽とは」という命題に対する、Neilの思いが、この曲の歌詞にも反映されているよう です。(“For the words of profit〜”の部分は、サイモンとガーファンクルの「Sound Of  Silence」のパロディーであることは、FAQにも書いてあった、比較的有名な話です。両方の歌詞の 比較が、FAQにあります。この部分、現代の音楽業界への、痛烈な皮肉とも言えますね)

 余談ですが、geddylee.netでの公開Q&Aで、「RUSHでの曲作りにおいて、自分たちが気に入っている けれど、一般受けはしそうにないと思った時、その曲を捨てますか? それとも、とっておきますか?」 と言うような質問をしたファンがいて、それに対するGeddyの回答が、『いや、まず自分たちの好みや 感性を優先させる。重要なのは、自分たちがそれを好きかどうかで、人の意見じゃない。もし自分たち がその作品に満足できるなら、たとえ商業的に失敗しても、それでもやり遂げたんだという満足と プライドは残る。でももし自分の意思に反した作品が失敗でもしたら、それこそ目も当てられない』と 言うような感じでした。
「あの〜、もしそれが成功しちゃたら、どうするんですか?」と、思わず突っ込みを入れたくなりました が、そもそもRUSHの場合は、自分たちの意に反した作品、というのはないのだろうな、とも思いました。 だからこそ、彼らはトレンディにはなれないのでしょうし、爆発的な成功もしないのでしょうが、それ でも欧米では、メジャーなステイタスを築いている──このあたりが、他のミュージシャンたちに 『ああなれたらいい』と言わせる一因なのではないかな、と思います。
 結局、どこまで音楽に対して誠実に向き合えるか、なのでしょう。



FREEWILL

 この歌詞、好きです。ファンの方たちにも、好きな人は多いようです。だからこそ、ちょっと訳し づらかった。主題は思いきりポジティヴなのに、ヴァースの部分はネガティヴなパートが多いから。要は、 「こうなることもあるだろうけれど、そう思っちゃいけないよ」的なニュアンスが入っているんです ゆえですが。
 この曲に関しては、Hossyさんの訳がお勧めです。行間の意味が上手く捕られていると思います。
   結局、運命は目に見えない、なにかの大いなる力で決められるのかもしれない。でも、それに甘んじていて 流されるより、自分の意思で道を選び取りたい。運命の導き手(神とか超自然的な力)が完全無欠なの にくらべ、自分自身は未熟で不完全な存在だけれど、その判断は誤ることもあるだろうけれど、そして 人生は短く、その栄光はあまりにはかないものであっても──それでも、自分自身で考え、選択をした い。自由な意志で。この曲の主題は、それに尽きると思います。私も若かりし頃、迷いの中にいた時、 何度この曲に勇気付けられたか、わかりません。
 自分の人生を決めるのは、自分自身なんだよ。自分の人生なんだから──そう言われているような 気がします。



JACOB'S LADDER

 「ヤコブの梯子」は、もとはたしかに旧約聖書の言葉です。曲と直接は関係ないのですが、 旧約聖書のヤコブの梯子について、少し説明したいと思います。
 ヤコブは、ユダヤ人(その当時はヘブライ人)の始祖とされる、アブラハムの孫に当たる人です。 アブラハムの息子イサクがヤコブの父親で、母親はリベカ、そしてエサウという双子の兄がいました。 エサウは狩りが得意で、イサクはその獲物の肉が好きだったので、父親はエサウびいきでした。でも 母親は繊細なヤコブのほうをかわいがっていました。
 イサクは死ぬ間際、エサウに神の祝福を与えようとし、(アブラハムが神にその力を賜ったので、 その祝福を受け継いだイサクにも、その能力があった)「その前に鹿の肉が食べたい」といいます。 エサウが鹿を捕りにいっている間に、ヤコブは母の助けを借りて、家で飼っているヤギを料理して 父親に食べさせ、(うーん、ヤギと鹿の味の区別、つかなかったのかなあ‥‥)目の不自由な父親を だまし、エサウのふりをして、兄の祝福を自分で受けてしまうのです。
 当然のごとく、エサウは激怒しました。ヤコブは身の危険を感じ、家から逃げ出し、放浪の旅に 出ます。その旅の途中、ヤコブが野宿をしていると、不意に闇の中、誰かが組みついてきました。 ヤコブは驚きながらも相手とレスリングをしたのです。さらに驚いたことに、その相手は神でした。 (何のために神様がレスリングなんか‥‥)
「おまえはこれから、ヤコブではなく、イスラエルと名乗るがよい」そう言って、相手が離れ、天へと 伸びる一条の輝く光の梯子が現われた時、ヤコブは相手の正体を知り、恐れおののきます。そして祈り を捧げ、その場所に石を立てて、言うのです。
「私は神に出会った。ここは神の家である」
 これがヤコブの梯子の、オリジナルの意味です。その後ヤコブは旅先で母の兄(つまり伯父)と 出会い、その娘たちと結婚して12人の子供をなし、その子たちがイスラエルの12部族の始祖となる わけですが、そのあたりの話は、今回関係ないので省きます。

 『天へ伸びる光の梯子』から転じて、『雲の隙間から光がさしこむ現象』を、ヤコブの梯子といい ます。この曲は、そっちの方の意味です。ですから、邦題のサブタイトルに『旧約聖書より』とつく のは、ちょっと違いますね。明らかに場面描写は、最初雲が低く垂れ込める光景、そこから突然雲が 割れ、光がさしこんでくる光景へと移るのですから、それ以外のなにものでもありません。
 でも、それだけではない。最後のフレーズで、その輝く光の筋を『夢、もしくは希望の象徴』として 捉えています。
"The shifting shafts of shining
Weave the fabric of their dreams"
──私のお気に入りのフレーズです。お気づきの方もいらっしゃると思いますが、このHPのタイトルは、ここから拝借 しました。



ENTRE NOUS

 タイトルはフランス語で、「私たちの間」──英語の"between us"と同じ意味で、曲中では、 もっぱら英語の方を使っていますね。(何のためにフランス語タイトルをつけたのかな? もしかした ら、曲のテーマになっている『相違』の概念を具体化するため?)
 主題としては、わかりやすいと思います。歌詞にひねりもなさそうですし。レトリカルな比喩の巧み さは、さすが、としか言いようがないです。「自分だけしか読めない小説」「軌道を回る惑星」 「行き交う二隻の船」「島」──個人のありかたと、他者との係わり合いが、見事にあらわされているよう です。

 人はそれぞれ独立した存在だから、他者との完全なる一致はありえないわけで、たとえ親子兄弟、 夫婦や親友といえど、完全に相手のすべてを理解できるとか、相手の心の中すべてを知っているとか、 お互いにあらゆる点で同じであるというのは、不可能なんですね。
 でも、人間相手を好きになると、相手によく見せたい、相手の期待するようなものでありたい、相手 と同じでありたいと思うわけで、相手の考え方や好みに対して、『でも自分はそうは思わない』と言う のは、けっこう勇気がいる。でも違っていて当たり前なんだから、まずそこのところを理解すべきだ。 お互いの違いを認め合うことができれば、より真の関係を築くことができる。
「Counterparts」の「Alien Shore」も、基本的にこの曲と同じテーマを展開していると思います。 「Hold Your Fire」の「Open Secrets」にも、一部通じるテーマです。
 人間関係って、難しいけれど、お互い幻想や期待を排して、ありのままを認め合う事が大事なん だよ、と言う感じでしょうか。



DIFFERENT STRINGS

 この曲も「ENTRE NOUS」に近いテーマなのですが、この曲はNeilの作詞ではなく、Geddyの詞です。 (本人はBurrn!のインタビューで、「RUSHで最後に詞を書いたのは『Cinderella Man』だ」と言って いたけれど、この曲は?)
 やっぱり言葉の積み方とか選び方が、Neilと違いますね。『My Favorite Headache』でも感じま したが、アプローチがヴォーカル的というか(まあ、ヴォーカリストですから、無理ないかも)、  センテンスの意味より、歌った時の響きや感覚重視のような印象を受けます。それゆえか、歌詞はより 抽象的な感じになるようです。それと、はっきり結論を出さない、オープンエンド的な終わり方をする ものも、多いですね。それはそれで、興味深いですが。
 この曲の終わりも、その手のオープンエンド形のような気がします。「曲の中に見つけられるのは 僕たち自身だ」って、もしかしたら体験談? (って、そんなことはないでしょうけれど)

 ちなみに頭のフレーズに言及されている、『ドラゴン退治』のテーマは、『A FAREWELL TO  KINGS』の「MADRIGAL」の冒頭でも出てきます。神話やおとぎ話、もしくは夢分析の立場に立つと、 ドラゴン退治の伝承は、『困難を打ち破って、自らを成長させること』の象徴なのだそうです。



NATURAL SCIENCE

 『自然科学』──抽象的なタイトルが象徴するように、この曲は、ものすごく幅広い事象を包括して いるようです。
 三章に分かれていますが、第一章では、岩場にできる潮溜まりを、私たちの社会の比喩として捉え、 第二章では、最初の一節がビックバン、後の三節は、機械化や産業化、過度の文明化が生み出した 社会のひずみ的なものが描かれているような気がします。

 各パートのブリッジ的に入る、"Wheels within wheels〜"のフレーズは、ちょっと訳し づらいイメージですが、直訳すると『輪の中の輪』つまり、同心円的に幾重にも広がる輪のイメージで、 水平方向の広がりを、"Spiral allay"は、直訳すると『らせん状の(裏)通路』』──私のイメージ としてはDNA構造のような、垂直にくるくるつながる感じなので、合わせて三次元、しかも双方が円に なっている、だとすればたしかにパターンは複雑で壮大になるだろうし、生み出された一つの原因が、 この壮大で複雑なスペースをくぐり抜けていく間に、思いもよらない結果に化けるというのも不思議は ない──と、ちょっと深読みし過ぎかもしれませんが、そんなイメージを感じます。世界とは、そう 言うようなものだと。

 そして第三章ですが、この曲の真の主題は、ここにあるのではないでしょうか。けっこうストレート な歌詞ですから、解説するまでもないかもしれません。キーになっているのは、"state of  integrity"──"integrity"は「正直、高潔、完全な状態」と言う意味で、"state"は状態ですから、 単なる誠実さというだけでなく、上のような意味も含んでいるわけです。重要なのは、それだという ことですね。

 "honesty"、"integrity"──これは、ともに「The Spirit Of Radio」のキーフレーズでもあり ます。『それはただ、君の率直さの問題』『誠実さの幻想を粉々に砕いてしまう』と。
 トップの曲とラストの曲が、同じキーフレーズ、同じ命題でつながっているように感じるため、もし かしたらこれが、このアルバムの重要なコンセプトなのではないのか、と言う印象を受けます。
 永遠の波、それはやってくると世界を覆い尽くすほど勢いを持つ(時勢、トレンドとか)けれど、 そう言う表面的な流行や傾向に流されるのではなく、自分というものをしっかり持って、率直で誠実な 心でいつづければ、その波に埋没することなく、生きていかれる。そうできれば、いいと思う── そう主張しているかのようです。



アルバムについて

 RUSHがワールドワイドなメジャーバンドとしてブレイクするきっかけになったアルバムですが、また 一大方向転換ともなった作品です。今までのファンタジー、SF路線から、現実を据えたものになって きたことが、最大の特徴でしょう。
 よく、この作品から曲作りがシンプルになり、短くなったと言われます。私個人の印象では、たしか に長い曲は作らなくなったけれど、短いコンパクトな曲は以前のアルバムにもあったわけだし、キャッ チーなメロディだって、なかったわけではないと思われるので、最大はやっぱり歌詞のコンセプト変化 ではないかと思うのです。それが発展していくにつれ、のちの「Signals」以降の、大幅なサウンド 改造になって現われていくわけですが。
 ただ、サウンドも変わったとは、たしかに感じます。コンパクトというより、タイトにシャープに なったような印象です。



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