Part 3 of the Sacred Mother's Ring - In the Abyss of the Worlds

第5章 新天地 (2)




 シルバースフィアに落ち着いて一ヵ月が過ぎ、世界崩壊後二度目の冬が訪れた。十一月上旬、鉛色の雪が空から落ちてきた時、アーケードの両方の入口にシャッターがおろされ、施錠された。でも冬の間の食料はすでに運びこんであったし、近くのガスステーションからLNGもサテライトに補給したので(幸いなことに、アイスキャッスルの施設関係者や観客たちの中に、タンクローリーの運転やその助手をした経験者が十数名いた)、動力も順調に稼働している。冬の間に、もう二、三回は補給しないといけないが、それ以外は外に出ることはない。ここは幸いアイスキャッスルのような北極圏ではないから、いくら核の冬とはいっても、マイナス百度などいう、ほとんど気違いじみたレベルではないので、室内暖房もある程度十分に効かせられる。館内も氷点下などということは、今年の冬はないだろう。環境は去年より格段に良くなっている。
 でもシルバースフィア最初の冬も、大きな試練だった。アイスキャッスル時代は別にしてだが、この冬ほど病人がたてこんだ時はなかった。一年近くに及ぶアイスキャッスルでの避難生活。その苛酷な環境に体力を奪われ、放射線に身体を蝕まれた多くの人たちが、次々と病に倒れていく。アイスキャッスルからオタワまで、六千人近くの大移動のために、かなり負荷がかかったのだろうか。半数近い九人のパイロットさんたちを初めとして、この冬の間に八百人近くが生命を落としたのだ。未来の記録にあったとおりに。

 母が亡くなったのは、十二月の半ばだった。その終わりは父と同じく、非常にあっけなかった。ある日の朝、体調が優れないと訴え、ベッドに休んでいたが、夕方には発熱と下痢を起こし、二日後の夜中に心不全状態になって、亡くなった。あまりに急だったので、僕もしばらく実感がわかなかったほどだ。母も年齢的にもう若いとは言えず、もともとそれほど丈夫でもなかったのだが、ここに来て落ち着いたことでほっとしたとたん、張り詰めていた気が緩んで、今までの無理や放射線の影響が、一気に来たのかもしれない。黒かった髪は半分白くなり、しわもかなり増えてしまったが、目を閉じたその顔は、僕が覚えている優しい母の顔だった。ありがとう、母さん。安らかに――世界があったころも、そしてアイスキャッスル時代から今までも、あなたの思いやりと優しさがどれだけの慰めをもたらしてくれたことか。感謝と敬意は尽きない。
 かつて母がジョアンナと一緒に寝ていたセミダブルサイズのベッドは(もともとこの部屋は書斎だったらしいのでベッドはなく、後から入れたものだが)、姉一人が使うことになった。そして彼女は母が死んだ十日後、ベッドをシングルに変えてほしいと求めた。アイスキャッスルからシルバースフィアに来るまでずっと、泣き言も要望も言わなかった姉なのに。
「母さんがいなくなって、眠る時に寒くなってしまうし、広すぎるのが嫌なの」
 姉はそう訴えた。そしてベッドがシングルになった一週間後、彼女は再び言った。
「ベッドが小さくなった分、部屋がやけに広く感じるわ。もともとそんなに広いお部屋じゃなかったのにね」と。
 クリスマスソングを少しと、僕らのCD演奏という簡単なクリスマス集会が終わり、やがて新しい年が開けた。混沌の中で最初の一年は終わり、再生と希望の光はまだまだ遠い二年目が始まった。

 年が明けても、病魔は容易に去らなかった。一月下旬にジョージが、二月初めにミックが相次いで倒れてしまったのだ。だが、幸いなことに、二人とも致命的な症状ではなかった。放射線障害らしき症状で倒れても、程度がそれほど重くなければ、おおむね三分の一強は助かっているのだが、ジョージとミックも幸運にも、その中に入ることができた。一時期はかなり重くなったが、春とともに、ほぼ同時に二人は回復した。そして病院から再びアパートメントの居室へ戻り、普通の生活をすることができるようになったのだ。
 二人が戻ってきた時、どんなにほっとしたことだろう。これ以上仲間が減ったら、とても耐えられない。もう一回再発したら助からないだろうという時限爆弾つきの帰還ではあったけれど、ともかく二人が生きて部屋に帰ってきたことが、どれほどの喜びを与えてくれたか、うまく言えない。たとえ二人とも、冬の間の苦しい闘病ですっかり髪が抜け落ち、げっそりと痩せて、いっぺんに四十才くらいも年をとったようになってしまっていても。
「ずいぶん、みっともなくなったなあ。もともと俺、ルックスは自慢できなかったが、これよりはましだったよな」
 ジョージが紺色の帽子を取り、ほとんどむき出しになってしまった頭に触りながら、少し淋しそうに苦笑いを浮かべた時、僕は思わず彼に抱きついて叫んだ。
「そんなことはない。そんなことはないよ! 本当に、生きていてくれて、良かった!」
「おまえがいてくれて、うれしいよ、ジャスティン」
 彼は僕の肩をぽんぽんと叩き、笑顔を浮かべている。
「おまえは、俺の弟みたいなもんだからな。本当に小さい頃から、いつもロビンと一緒にいたから。もっともおまえには、ちゃんと今も立派な本物の兄さんがいるし、俺はあまり兄貴としては、できはよくないがな」
「そんなことはないよ!」
 僕は夢中でそう繰り返した。ジョージは僕の兄だ。血のつながった兄以上に僕を理解し、いつも励ましてくれた。彼が入院している間ずっと、僕はからっぽになった隣のベッドを見るのが怖かった。彼を失わずにすんで、本当に良かった。
 
 ミックには僕以上に、心から本復を喜んでくれる人がいる。言うまでもなく、奥さんのポーリーンだ。もともとポーリーンは、あまり感情表現をあらわにしない。彼女は歓喜のあまり夫に飛びついたり、抱きついたり、ましてや人前でキスしたりなどということはしないし、大声を上げもしなかった。でも彼がこのアパートの部屋に帰ってきた時、真っ先に出迎え、その腕にそっとかけた手が少し震えていたこと、夫の顔を見上げた時の目の輝きと喜びの表情は、居合わせた誰の目にも強烈な印象を焼き付けたに違いない。その控えめながらも強い愛情に、僕は大きな感慨を受け、同時に少し羨ましくも思った。ともかく今“夫婦”という単位をもっているのは、彼らとロブたちだけなのだから。

 ミックが帰ってきた時、たとえポーリーンが抱きつきたかったとしても、そうはできなかっただろう。彼女はすでにその時臨月に入っていて、大きなお腹をしていたから。
 夫が部屋に帰ってきてから一週間後、彼女は産気づいた。夜病院へおもむいた彼女だったが、かなりの難産だったようで、やっと子供が生まれたのは、翌日の夜だ。三千四百グラムの女の子で、生まれた時仮死があってしばらく泣かなかったそうだが、無事蘇生したようだった。病み上がりにもかかわらず、ずっと妻に付き添って病院に戻っていたミックは、赤ん坊が生まれた日の夕方、一人で居室に帰ってきた。
「おめでとう!」そう祝福する僕らに、彼は少し照れたような笑みを浮かべて答えた。
「ありがとう。なんとか無事に、娘が生まれたよ」
 だが、彼の顔に宿っていたものは、百パーセントの喜びではなかったようだ。もちろんこんな状況なのだから、絶対無事に成長するとは言いきれない。心配なのはわかる。だが、それから一週間たってポーリーンが赤ちゃんと一緒に退院してきた時、僕はなぜミックが娘の誕生を手放しで喜べなかったのか、その理由の一端を理解できた気がした。
 赤ちゃんはやわらかい鳶色の髪と、母親ゆずりの少し切れ長な黒い目の、ちょっと愛嬌のある顔立ちをしていた。白い産着の袖から、ちっちゃな手がのぞいている。でも、それは片方だけだった。左のほうは袖が力なく垂れ下っている。
「ウイングベイビーって、聞いたことあるかい?」ミックが少し寂しげな微笑を浮かべた。
「腕のかわりに、肩のところに翼のように、少しだけ突起がついているんだ。この子の左腕は、生まれつきないんだよ」
「え!」
 夫妻は僕らの驚きを、冷静な眼差しで見つめているようだった。そして、ポーリーンが静かに口を開いた。
「最初は、わたしもショックだったわ。どうしてこんなことにって、そんな気分だったの。でもね、この子はわたしたちに授かった、大事な宝物なの。あんな厳しい状況で、無事に育って、生まれてきたんですもの。腕の一本くらいなくたって、たいしたことはないわ。この子は少し不自由でしょうけれど、ちゃんと自分で生きていけるように、わたしたちで努力してあげれば、いいことですもの」
「天使の翼だよ……」ミックが娘の肩を撫でながら、微笑していた。
「これが、この子の持って生まれたハンデだ。僕らはそれを丸ごと受け入れて、この子が立派に生きていけるように、がんばるしかないよ」
「そうだね」僕は頷いた。残酷なように見える運命でも、受け入れて、乗り越えていくしかないのだろうと思いながら。たしかにこんな状況の中では、この程度の障害はあっても、不思議ではないのかもしれない。妊娠初期の厳しい環境と、そして放射線の下では。
「お祖母ちゃんに、聞いたことがあるわ。昔の日本ではね、身体の一部が欠けて生まれる子は、幸せの神さまのお使いだって、言われていたって。だからきっと、この子もそうなのよ」ポーリーンが赤ん坊を抱き締めながら、優しい口調でそう付け加えた。
「この子は確かに、わたしたちみんなの、幸せのお使いね。初めての赤ん坊ですもの」
 レオナが微笑みながら優しい口調で言い、そして尋ねていた。
「それで、名前はもう決めたの?」と。
「イヴっていうんだよ。イヴ・ローラ・マリ・ストレイツ。ローラとマリは、僕らの母親の名前からとったんだ」ミックが微笑を浮かべて答えた。
「イヴはひょっとして、アダムとイヴからとったのか?」
 ジョージがちょっと肩をすくめて笑う。
「そうだよ。新しい世界に向かっての、最初の生命なんだ。他に考えられるかい?」
 ミックの答えは、喜びと誇らしさにあふれていた。
「ああ、そうだね。新しい世界に生まれた、最初の女の子だ。これほどふさわしい名前はないね」僕は深く頷いた。
「本当に良かったな、おまえの子供が生まれて。皮肉なもんだよな……おまえは以前、もう子供は諦めたって言っていた。俺らの子供たちを見て、もちろんみんなかわいいけれど、良かったなとも思うけれど、少し寂しさもあった――アイスキャッスルで、そんなことも言っていたよな、ミック。そのおまえが今、子供を授かったんだ。立場が逆転したな」
 ジョージは寂し気な笑いを浮かべていた。
「おまえだって、まだ若いんだ。これから嫁さんをもらいなおして、作ればいいじゃないか」ロブが励ますように、その肩を叩いていた。
「無理なことを言うなよ、ロブ。俺はこんな身体になってしまったんだ。きっと長生きは出来ないだろうし、ましてや子供なんか作れっこないさ」
 ジョージはふっとため息をつき、首を振った。「それが残念だな。結局、俺はスタンフォードの血を、あとに残すことが出来なかったんだ。祖父ちゃんが誇りにしていたスタンフォード一族も、俺で終わりだ。親父もおふくろも兄貴もロビンもみんな死んでしまって、もう誰も残っていない。子供たちも、みんな死んでしまったしな」
「僕は、そう思うと幸運だね。この子が授かった……僕らにとって、最初で最後の子供がね。僕たちは子供ができにくかったし、僕もこんな身体になってしまったから……この子は僕らの宝物なんだ。多少の障害なんて問題じゃない。無事に育ってくれたなら、それ以上は何も望まないよ」
 ミックは小さな娘を抱きしめた。その口調は静かだが熱心で、祈るようでもあった。
「そうだね」
 僕も彼の祈りが叶えられることを、強く望まずにはいられなかった。初めて誕生した生命だ。初めて人数が増えた。あの大破局の日以来、減ることしかなかった人が。子供たちよ。どんどん増えていけ。再び僕らに希望の光を与えてくれ。

 三月の半ばに生まれたイヴは、シルバースフィアの中で初めて生まれて育った生命だった。それからゆっくりとではあるが、子供たちは確実に増えていった。四月には二人、五月の頭に一人と、一般グループの中から三人の赤ちゃんが無事に生まれて育ち、五月下旬には、エアリィの忘れ形見が無事この世に生を受けた。しかも、この奇蹟の子は双子だったのだ。
 アイスキャッスルを去る直前に妊娠がわかってから、シルバースフィアに移り、月が満ちて生まれるまでの長い苛酷な戦いを、アデレードは戦い抜いてきた。彼女自身が予感したとおり、オタワに移ってまもなく、激しいつわりが始まった。僕はステラの妊娠初期を見てきて、またセーラやポーリーンをアイスキャッスルで見ていたので、つわりというものが、わりと大変なものであることを理解していたつもりではあったが、アデレードの場合は桁違いだ。ともかく体が食べ物を受け付けない。飲み物すら、ゆっくり飲まなければならない。すぐに疲れ、眠りがちになり、しょっちゅう吐きそうになって、洗面所へ走る。転んだら大変なので、僕らは彼女の部屋に洗面器を置いた。『固形物は無理だわ。とても入らない』彼女はそう呟き、ゼリー飲料やジュースのパック、スキムミルクやキャンディで栄養を取っていた。そういえばエアリィも現役時代、疲れがかなり溜まってくると固形物を受け付けなくなり、寝てばっかりいたな、と思い出してしまったが、同じような症状を引き起こしてしまうというのが、やっぱり彼の血筋なのだろうか。
 アデレードはそれでも、食べることは諦めなかった。流動食や飲み物ですら吐き気を催すようで、しかもなかなか落ちていかない中、懸命に戻すことをこらえ、肩で息をしながら、休み休みミルクやジュースを飲んでいる。彼女の身体だけを頼りに育っている、小さな命。それは夫が最後においていってくれた贈り物であり、彼女の生きる希望なのだ。彼女自身、何度もそう言っていたように。その命の火を消さないように、少しでも自分の体に力をつけ、生きて行こうとする、それは母の聖戦なのだ――そう思えた。
 そんな状態も年が明ける頃にはようやく落ち着き、やっと安定してきたなと思ったら、妊娠八ヶ月になった三月の終わりに、切迫早産の危機に見舞われた。絶対安静にすることで、なんとかそれは回避出来たが、超音波検査の結果、なんとお腹にいるのは二人だということがわかった。妊娠中毒にもなりかかって、それからはほとんどベッドに横たわって過ごしていた。だが彼女は悲観もしなければ、取り乱しもしないようだった。出来るだけ楽な姿勢で休もうとしながら、膨らみを増していくお腹をいとおしそうにさすり、絶え間なく話しかけている。生きては会えない運命になってしまった父親のこと、母である彼女自身のこと、在りし日の世界、未来の希望などを低い声で飽きることなく、まだ生まれ出ぬ我が子たちに語りかけ続ける。その姿は、かつてロンドンで瀕死の夫に(当時はまだ正式に結婚する前だが)語りかけていた彼女を思い起こさせた。今、彼女はその夫の忘れ形見である、まだ見ぬわが子たちに語りかけ、何度も祈るようにこう繰り返していた。
「がんばってね、赤ちゃんたち。あなたが出来るだけ楽なように、ママもできるだけのことをするから、元気に育ってね。無事に生まれてきてね。ママはあなたたちに会える日を楽しみにしているわ」
 アデレードの呼び声にお腹の子供たちも時おり反応するようで、ポンとキックを返すのを感じると、彼女は顔をほころばせていた。
「そうよ、その調子よ。どんどんけっ飛ばして、ママにあなたたちが元気なことを知らせてちょうだい。それが、なによりうれしいわ」
 そんな母の思いに応えるかのように子供たちは順調に育っていき、臨月を迎えた。同時にアデレードもベッドを離れ、リビングで一緒に食事をとり、雑談にも良く加わった。食事の支度などの、簡単な家事作業も始めた。休んでいるようにと僕らが言うと、彼女は笑顔で首を振って答えていた。
「いいえ、もういつ生まれても大丈夫だから、安静にしていなくても平気よ。それにあまり休んでばかりいると、お産の体力がなくなるわ。殊に今度は二人分よ。動かなくちゃ」

 子供が生まれたのは、予定日の二週間以上前、五月二七日のことだった。その朝、彼女は朝食の手をときどき休めてちょっと妙な顔をし、時計を振り返っていた。どうしたのかな、と気にはなったが、具合が悪いわけではなさそうだからと、そのまま僕らは食事を続けた。そして、朝食の片付けがすむころになって、アデレードは不意に宣言したのだ。
「陣痛が三分間隔になってきたから、わたしそろそろ部屋に行くわ」と。
「え!」僕は仰天した。その部屋の全員がそうだっただろう。そうか、時計を振り返っていたのは間隔を測っていたんだと、その時気がついたが、痛そうなそぶりがなかったから、わからなかった。
「じゃ、病院へ行かないと」僕とレオナが同時に促した。
「いいえ、ここで生めるわ。大丈夫よ」彼女は微笑を浮かべながら首を振る。
「病院へは行かないわ。部屋の方がいいの。エアリィも見ていてくれるような気がするし」
「ダメだよ、病院へ行かないと。気持ちはわかるけれど、双子なんだよ。普通のお産じゃないんだから!」僕は思わず声を上げた。
「そうよ。そうしなさい。何かあったらどうするの!」レオナも熱心に勧める。
 だがアデレードは意志強固だった。ロザモンドの時もティアラの時も、夫に立ち会ってもらった。今度もそうしたいのだと。たとえ写真のみの参加でも、彼女は今までと同じように、夫に見守ってもらいたかったのだろう。その思いに僕らは負け、仕方なく、病院の医師と看護師が部屋に出張してきた。レオナとエステルも付き添い、僕らはお産の準備に走り回った。すべての準備が整うと、それから二時間近く、僕とロブ、ジョージとミックはリビングのソファに座って待っていた。時おりかすかにうめき声が聞こえてくるほかは、比較的静かだ。
 お昼近くになったころ、突然絶叫が聞こえた。
「がんばって! ママもがんばるから! そうよ、出てきて!!」
 やがて高い叫び声が続けざまに起こった後、不意に大きな赤ん坊の泣き声が聞こえた。生命誕生の産声をきいた時、僕は思わず胸が熱くなった。自分の子では聞けなかった誕生の瞬間――それはなんと力強く、神聖な声なのだろう。
 十分ほどたって、エステルがドアを開けて飛び出してきた。
「生まれたわ! 元気な男の子!」
 彼女はそう叫び、ドアのそばにいた僕に抱きついてきた。バンドがデビューする前、アパートメントの部屋で一度、彼女が僕に抱きついてきた、それ以来だ。
「うれしい! ほんと感激……」
 エステルはわっと泣きだしている。僕はちょっと面食らいながらも、「良かったね」と、その背を軽くぽんぽんと叩いた。彼女も、はっと我に返ったらしい。後ろに飛びずさって真っ赤になった。
「ごめんなさい。あたし興奮しちゃって……つい夢中になっちゃったの。あたし服汚れてるのに……あなたの服まで汚しちゃったわ」
「別にかまわないよ。洗えばいいから」僕はエステルに笑いかけた。
「君もよくやったね。君の甥っ子が無事に生まれて、本当に良かったよ」
「ええ。あとでみなさんも見にきてね。本当にかわいい子なんだから! それから、あともう一人来る予定よ」
「ああ。アデレードさんに、がんばるように伝えておくれ」
 僕はそう声をかけ、エステルは笑顔で頷きながら、もう一度部屋に入っていく。
 それから一時間ほどは、また静かだった。かすかに聞こえる赤ん坊の泣き声は、最初に生まれた子のものらしい。アデレードの小さなうめき声も聞こえる。そして突然、彼女は「あああっ!」と、振り絞るような声を上げた。同時に新たな声が起きる。もう一人の赤ん坊の泣き声が。
 もう一度エステルが走り出てきた。頬を真っ赤に染め、感極まったように叫ぶ。
「来たわ、もう一人! 女の子よ! 元気よ!」
 彼女はその場に跪き、再び泣き出した。
「良かったね、エステル。本当に良かった。僕も嬉しいよ」
 僕も胸に熱いものを感じながら、少女のそばに跪いて、そう声をかけた。
「ええ、ええ……」エステルはしゃくり上げながら頷く。
「なぜ泣けるのかしら。ごめんなさいね。嬉しいのに……なんだか感激しちゃって……」
 僕は少女の背中を撫でた。そう、エステルもシルバースフィアに来てからずっと、義姉をサポートして頑張ってきたのだ。ベッドが足らなかった最初の数日は、『義姉さんがベッドを使って』と主張して、ずっと居間のソファで休み、十月の食料運びでは、『義姉さんは大事な身体なんだから、休んでて。あたしが全部やるから』と、何度もカートを押してマーケットに往復していた。つわりで食べることのできない義姉に、『少しでも食べてね。大丈夫?』と気遣いながら、その背中をさすったり、キャンディやゼリー、コーンフレークのかけらやドライフルーツなどを差し出したりしていた。ふくらみを増していく義姉のおなかにそっと頬を近づけたり、優しく撫でたりして語りかけ、二人で微笑みあっている姿も、何度も見ている。亡き兄の忘れ形見、エステルにとっての甥姪を、無事この世に送り出すことは、彼女にとっても聖戦だったのだろう。

 それから一時間くらいたって、僕らは母子を見舞いにいった。生まれたての赤ちゃんはたいていくしゃくしゃなものなのだが、この子たちはあまりそんな感じがしない。そういえば最初の子供ロザモンドが生まれた時に、エアリィがメールに添付してきた写真も同じようだったが、それも彼の因子ゆえなのだろうか。
 アデレードが左手に抱いた男の子は、大きな深い灰色の目をパッチリ開けて、僕らを見ていた。瞳孔は黒で、父親のように濃い青ではない。まつげと眉毛も、薄い茶色のようだ。体重は二一〇〇グラムと小さめで、逆子だったためにちょっと時間がかかり、最後は足を掴んで引っ張りだしたそうだが、元気よく手足を動かしていて、五体は満足なようだ。髪の毛がもうかなり生えていて、ふわふわと綿毛のように頭をおおっている。髪質はアデレードの髪に近いような巻き毛になっているが、その色は銀色だった。エアリィもかなり淡い金髪で、黄色がちょっと程度の色素しかなかったが、この子の場合はそれすらない。完全に色素が抜けている。父親ほどきらきら光りはしないが、輝きのある銀――プラチナの髪とでも言えばいいだろうか。そして左側の耳の上から一房、違う色の毛が交じっている。鮮やかな青だ。この位置のこの髪は、完全に父親と同じ――エアリィがロンドンの病院で仮死状態になった時から出てきた、青い髪束。それが息子にも伝わっている。同じ位置で。量は少しだけ少ないようだが。ただ父親の方は、この色違いの髪は髪質も他と違ってまっすぐだったが、子供はほかの髪と同じように、巻き毛になっている。
 右手に抱いている女の子は最初眠っていたが、途中でぱちっと目を開いた。ああ、この目は完全に父親譲りだ。濃いヘヴンリーブル―。やはり瞳孔が黒く、黒目がちの度合いが少しだけ小さい、という違いはあるが。この子の眉やまつげは、兄より少し色の濃い茶色のようだ。二千グラムちょうどと兄よりさらに小さいが、逆子ではなかったために、比較的スムーズに生まれたという。妹の方にも髪が生えていた。兄と同じように銀色で、ウェーブは兄より緩い。いや、父親よりも緩くて、ストレートに近い。そして同じように一束青い髪が、兄よりちょっと少ない量で、この子の場合は、右側の頭頂から生えている。エアリィに右側の青髪が出たのは、本当に最後の最後だけだったが、それが娘に受け継がれたように――。
 生まれたばかりの幼い兄妹に現れた、コバルトブルーの髪。他の部分の青い色合いは、潜在化したようだが(そういえばロザモンドとティアラも、普通の色だった)、それでも髪に現われたその色を見た時、僕は不思議な思いとともに、アーディス・レインから『夜明けの大主』アルシス・リンクへと続く、揺るぎない流れを見た思いだった。あの大主は、この子たちのどちらの子孫だろう。ローゼンスタイナーという姓を継いでいるところを見ると、男の子の方だろうか? いや、未婚の母と言うこともあるから、わからない。四五を過ぎての高齢出産は厳しいだろうが、完全に不可能ではないと思う。孫という可能性だってある。いや、たぶんその可能性の方が高い。その答えは、未来が語るのだろう。
 でも造形の悪戯で髪の毛が風変わりであろうと、二人の赤ちゃんの愛らしさは、少しも損なわれていなかった。むしろおもしろい個性のようで、もしエアリィが今生きてこの子たちを見たら、『わぉ、銀髪! しかも青いアクセントつき? クールだなぁ!』などと笑ったかもしれない。そして双子を宝物のように両手に抱え、誇らしさと喜びに目を輝かせたアデレードの顔も、思わずどきりとするほど、崇高で美しかった。
「最高の……最高のプレゼントよ。それも男の子と女の子、二人もよ! ああ、本当に幸せだわ。わたしこの子たちがいれば……これからずっと、生きていかれる……」
 うつむいて泣き出した、その涙も。
「エアリィがもし今この子たちを見たら、なんて言っただろうな……」
 僕は赤ん坊たちを見つめながら、思わずそんな呟きをもらしてしまった。
「それは、聞いてなかったわ」
 アデレードが哀しげに微笑して答えた。少し奇妙な答えだ。
「でも、彼は知っているはず。ああ、それでも、この子たちは生まれた時から、父親を知らないのね。親子二代で、父親不在で生まれるなんて、悲しい運命ね。でもね……」
 彼女は二人の赤ん坊に頬ずりし、低く言葉を継いだ。
「あなたたちのお父さんがどんな人だったか、ママは知ってる。みんな知ってるわ。あなたたちは、シルバースフィアの人たちの祝福を受けて生まれてきたのよ。アーディス・レイン・ローゼンスタイナーの血を受け継ぐ子供たちとして……」
「うん……その通りだよ」僕たちはみんなその言葉の真実に、重々しく頷いた。
 実際、玄関を出た廊下側にある、通路に面した窓を開けると、大勢の人たちがそこにいたのだ。病人以外のほとんどが、そこへ出てきたといっても過言ではないほどの人だった。ロブが放送塔から双子の出生をアナウンスしてから、三十分とたたないうちに。もちろん普通の人たちの出生、それに死亡も日々の放送で報告していたが、今回は五月半ばを過ぎたころから、『どうなっているの?』『無事に生まれたら、すぐ知らせて』という問い合わせや要望が多かったため、臨時放送となったのだ。
 集まってきたみなは口々に言っていた。「おめでとう!」「本当に良かった!」と。帽子やスカーフを振り、祝福の言葉を書いた紙を掲げている人もいる。紙吹雪を飛ばしている人も、クラッカーを鳴らしている人もいた。個人コールも起きた。まるでコンサート会場か、空港での送迎のようだ。
 僕はミックやジョージとともに窓を開け、彼らに向かって叫んだ。
「ありがとう! 君たちの思いは、本当にうれしいよ! エアリィもきっと、そう思っていると思うよ。ありがとう!」と。
 僕たちが中に入ってからも、通路での騒ぎは続いているようだった。産室――アデレードとエステルに赤ん坊たちも加わったその部屋に入ると、もうほとんど聞こえないが、それでもかすかなざわめきは伝わってくるのだ。
 アデレードはまだ子供を産んで二時間足らずしかたっていないが、それでももう動けるようだった。かなり動作はゆっくりだが、そっと赤ん坊たちをおろし、起き上がると、用意してあったベビーベッドに寝かせた。自分のベッドから、すぐ手が届く場所に据え付けられたそのベッドに並んで寝ているわが子たちを、しばらく愛しそうに見守ったあと、彼女は自分の首にかけていた、透明な結晶がついたペンダントをはずした。そしてまずその結晶を、そっと男の子の頬に触れさせる。それは赤ん坊の柔らかい頬に触れると、ふわっと光を発した。アデレードは微笑み、今度は女の子の方に当てる。結晶は光らない。
「そう……わかったわ。じゃあ、これはお兄ちゃんにあげましょうね。大きくなったら。あなたには他のものを上げるわ。ママが初めてパパにもらったティファニーのペンダントを。がっかりしないでね。あなたも大事な、大事な子に変わりはないのだから」
 アデレードは優しく娘に向かってつぶやくと、もう一度ペンダントを自分の首に巻いて、再びベッドに横たわった。その透明な結晶はアデレードが触れても、光ることはない。
 僕は不思議に思って問いかけた。それには何か意味があるのだろうか、と。
「わからないわ」アデレードは微笑して首を振った。
「でもね、わたし、三日前に夢を見たの。エアリィの夢を。アイスキャッスルで別れた頃の彼が、わたしの前にいたわ。白い寝巻きみたいな服を着ていたけれど、にこっと笑って、『久しぶり、アデル。がんばってる? っていっても、あんまりがんばりすぎるのも良くないけどね。君はホントにひとつのことに突っ走っちゃうから、それが心配なんだ』なんて言うのよ。生きている頃と同じにね。わたしは夢中で駆け寄ったんだけれど、ある程度以上には近づけなかったわ。わたしは話そうとしたの。彼が逝ってしまってから、ずっと話したかったことを、いろいろと。でも、彼は手を上げて、『わかってる。でも、今は時間がとれないから。僕から伝えたいことだけ。一方的でごめん』って。『子供たちが生まれたら、君が持ってる僕のペンダントを当ててみて。光った方が、次の持ち主だよ』って。『どういうこと?』って聞き返したら、『うん。その子は僕の後継者っていう印だから、ペンダントが光るのは。でも、もう一人の方も生まれるべくして生を受けているんだから、その子はその子なりに、重要な役割を果たすよ。ただ、僕の後継者じゃないだけさ。その方が幸せだしね』って、答えたの。もうすぐわたしたちの双子が生まれるって、知っていたのねって聞いたら、『僕のいるとこから、みんなを見ることが出来るんだ。で、他にやることがないから、ずっと見てる』って。『アデル。君が話したいこと、あとで聞くよ。君がこっちへ来た時に。心配しないで。子供たちは運命に守られているから。大きくなるまで』そう言って……」彼女は目を閉じ、一筋の涙をこぼした。
「そう……そうなんだ……」
 僕は頷いた。死んだあとさえ、言っていることは相変わらずエアリィらしいな、と妙に納得しながら。そして思った。彼女は今、この話をしていても泣く。きっと起きた時には、相当に泣いたのだろうと――そういえば、三日前の朝、起きてきた彼女の目は、妙に赤かった。それは罪作りなのだろうか、それとも幸いなのだろうか。それはステラやクリスが僕の夢に出てきた時の思いに、似ているのかもしれない。そして同時に、『エアリィがこの子たちを見たら……』という僕の言葉に、『それは聞いていなかった』と、彼女が答えた意味を、改めて納得した。
「でも、お兄ちゃんが死んじゃって半年……いえ、八ヵ月ね。九月二六日が、お兄ちゃんの命日だもの。昨日で、ちょうど八ヶ月だったわ。それなのに、その子供が今生まれているなんて……考えてみると、すごく不思議な気がするわ」
 エステルが半ば感嘆しているようなトーンで、そう呟いていた。
『だから僕は、男になったんだ。そして、君に会ったんだ。今、はっきり納得した』
 エアリィがあの最後の晩に言っていた言葉が、不意に思い出されてきた。彼がオタワで奇跡を起こさなければ、僕らは今ここには来られなかった。しかしその奇跡は、命と引き換えになる。彼がもし女であったら、その子孫は残せない。仮にアイスキャッスルで子供を産んだとしても、きっと育たない。アイスキャッスルでの一年近くの間に、何度か出産はあった。妊娠も。しかしあの厳しい冬を妊婦のまま、もしくは赤ん坊として生き抜けた人は、誰もいなかった。ミックとポーリーンの間の娘イヴが、生きて成長できた最初の赤ん坊なのだ。それゆえ、あの『夜明けの大主』も誕生できない。エアリィの血縁にはエステルもいるが、彼女は別の系統だ。今ははっきりとそう感じる。
 エアリィの内なる人は『彼女』。あの幻影も、何度もそう呼んだ。だが、彼の本質が女だったとしても――小さい頃は男の人が大の苦手だったジョージの娘プリシラが、女として認識し、懐いていたのは、外見のせいばかりではなかったのかもしれない。そしてロザモンドやティアラがパパではなく、パミィと呼んでいたことも。子供たちは、その本質を感じていたのかも――だが彼は、男として生まれる必然があった。その理由が、これだったのかもしれない。自分の子供を育める因子を持った女性、アデレードに後を託すために。ふと、そんな思いを感じた。そして、かなりどうでもいいことかもしれないが、僕は彼が男として生まれてきてくれたことに、ひそかに安堵を感じてもいた。もし女だったら、ステラのやきもちをかわすのに、大変な思いをしたに違いない。『もしあの人が女の子だったら、わたしはもっと真剣に、ジャスティンにバンドを抜けるように迫ったわよ』と、言っていたほどだから。
「男は、そういう芸当ができるんだよな。女性が残っていたら」
 ジョージが苦笑して首を振った。そして寂しげに言葉を継ぐ。
「だが、女房がいなければ、どうしようもないな。男は種は残せても、子供は産めないからな。だから俺もパムが死んだ時、絶望のどん底に落ちたよ。子供たちは二人とも死んでしまった。女房もいなくなったら、これから先、子供がまた生まれるっていう可能性もない。俺一人でどうすればいいんだ。俺は、何を生きがいにしたらいいんだって思ってさ。でもそのうちに、誰か良い娘がいないかな、なんて気になってきたんだよ。ここへ来てさ。愛せる人ができて、また俺の子ができたらいいな、なんて思いはじめた矢先に病気になっちまった。利己的なことを思った罰かな」
「でも、それは利己的なことだとは思わないわ、ジョージさん」
 アデレードは静かな眼差しで相手を見つめ、首を振った。
「人は生きる希望が必要ですもの。あなたにとっても、たとえお子さんはもう無理だとしても、誰か他に愛する人を見つけることは、必要なことだと思うわ。それが、あなたの希望になりうるならば。パメラだって、絶対そう望んでいたはずよ」
「ああ……そうできたら、一番いいんだがな……」
 ジョージは寂しげな笑みを浮かべたまま、頷いている。
「そうだよ。アデレードさんの言うとおりだと思うよ、ジョージ。君が支えを望んで悪いはずがない」僕は思わず強く同意した。
「おまえは人のことが言えるのか、ジャスティン?」
 ジョージにからかうように返されて、僕はうつむいてしまったが。

 男の赤ちゃんは、アールと名付けられた。アール・ランディス・ローゼンスタイナー。ミドルネームのランディスは、アデレードが子供の頃、事故で死んでしまった弟の名前だという。ファーストネームはEarlではなくArele――赤ちゃんの父親アーディスの、ニューヨーク時代の呼び名だった。“Little Arle”――それが、彼の最初の愛称だったのだ。浮き沈みの激しい不遇な幼年時代を脱した頃から、この古い呼び名を使わなくなった。それをアデレードは忘れ形見の息子に付けた。
「アールという名前はニューヨーク時代の逆境を暗示するから、エアリィ自身は嫌っていたという話も聞いたことがあるけれど、でもいつかわたしが聞いたら、彼は答えていたわ。そんなことはない。リードさんがそう呼ぶ時の響きは好きだった。ただ、自分は住んでいる場所が変わると、呼び名が変わる宿命なんじゃないかなって、笑っていたの。だから、この子に名前をもらっても、いやがりはしないと思うの」
 彼女は微笑み、赤ん坊の柔らかな頬を、いとおしむように撫でていた。
 女の子の名前はオーロラ。この命名に説明は不用だろう。アイスキャッスルへの追想が、その名には込められている。オーロラ・ロゼット・ローゼンスタイナー。ミドルネームと姓がダブルローズになってしまうところはご愛敬だ。ミドルネームのロゼットは最初の子供、ロザモンドに通じる。姉が『この世のバラ』なら、妹は『小さなバラ』だ。銀色に青がひと筋入った、小さなバラの花。そして兄も妹もイニシャルはA・R――A.R.ローゼンスタイナー。
「はじめて彼の部屋に行った時、504というルームナンバーの下にかかっていた『A・R・Rosensteiner』というプレートを、よく覚えているわ。結局その時には、名前を聞き損ねて……でも、そのプレートが、とても印象に残っていたの」
 妊娠中、アデレードが義妹エステルにそう語っていたのを思い出した。そういえば僕が彼の名を最初に目にしたのも、この『A・R・Rosensteiner』という表記だった。学校のクラス分け名簿で。この子たちも二人して、同じイニシャルになる。アデレードはあえて夫と同じイニシャルに、その子供たちを揃えたのだろう。彼への思いと、そしてその血を受け継ぐ子供たちとの絆として。
 偶然かもしれないが、そういえば彼らはみな、同じAというイニシャルでつながっていると、僕はふと思った。アリステア・ジョン――アグレイア・レナ――アーディス・レイン――アール・ランディス。A.J――A.L――A.R――A.R。オーロラ・ロゼットでも、同じA.Rだ。そしてアルシス・リンク――A.L。アール、オーロラとアルシスの間には、誰かまた入るのだろうか。その人も、イニシャルAなのだろうか。それとも、ストレートにつながるのだろうか。未来の糸は、まだわからないけれど。




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