The Sacred Mother Part2 - the 11 Years’ Sprint

二年目(10)





 本当に眠ってしまったことがわかると、僕は思わず深いため息をついた。やれやれ、これで彼女と呼ばずにすむ。約束どおり、目がさめた時にセディフィが消えてくれていたら。ああ、その時にはエアリィの人格が戻ってきているだろうか。それとも、また別の誰かなのだろうか。第一、彼らはいったい何者だ。多重人格? どこかファンタジーの世界を生きているつもりになっている、妄想狂の? いや、違う──この思いだけは、不思議なほどはっきりと感じられた。彼らは、本当に別世界の住人なのだ。どこなのかはまったくわからないが、少なくとも僕らが実在しているのと同じように存在している、どこかの。
 突拍子もない考えだと、自分でも思う。普通に考えれば、最初の方がずっと理屈に合っている。たとえばエアリィが子供の頃、そう──非常につらい思いをした時期のどれかに、ファンタジー世界に遊ぶことを、唯一の慰めとしていたなら。もっとも本人はそんなことを一言も言わなかったし、僕の知っている限りでも、ロビンならともかく、エアリィにそういう趣味があったとは思えない。彼はホラーとサスペンス、アダルト系以外なら、ジャンルを問わずなんでも読むが、ファンタジー系の小説を『好き』と言ったのを、聞いたことがないから。でも、言わないだけだということも十分あり得る。二歳のころから本を読んでいたというし、その中にファンタジーっぽい話があって、それがお気に入りだったとしても不思議ではない。重いトラウマから自我を守るために、無意識に切り離した領域がそれだとしたら――彼はあの夜、子供時代の経験を話してくれた時、外からは決してつぶされまいとずっと思っていて、それで自分を保っていられた、と言っていた。でもその過程で、深層心理的に相当無理をかけたのかもしれない。無意識の強い防御が働いて、心を乱す感情や記憶を封じ込め、意識から強制的に脱落させたものが、何らかの形で潜在人格として残り、何か大きな精神的衝撃とともに浮上してきた──解離性人格障害。心理学者やカウンセラーなら、そう言うかもしれない。似たような症例を本でもいくつか読んだし、たとえばロサンゼルスの病院で会ったメイヤー先生なら、そんな診断をするかもしれないと思う。
 でも僕の心は、なぜかこの一見合理的な説明に納得しきれない。もしその症例が正しいなら、切り離された彼の人格はもっと暗い、破壊的なものになるはずだ。もしくは非常に厭世的か、絶望的なものに。そういう潜在人格は、表に出ているものとは補完的に働くはずのものだから。でもアヴェレットもセディフィも、そんな要素は微塵もない。むしろ根幹的には、エアリィと同じ強くしなやかで前向きな精神の根を共有しているような印象を受ける。第一、人格分裂を起こす強いきっかけとなる外的要因とは、いったいなんだ。強い精神的衝撃やストレスが、引き金になるのだが──礼拝の異様な雰囲気というだけでは、原因にはなり得ない。それによって誘発された何かが、非常に強い精神的な衝撃を引き起こした。では、その何かとは──?
 それが、モンスターの覚醒なのかもしれない。自我の殻を破ること。自我を脅かす、深刻な一撃。でもモンスターの覚醒とは、具体的にはどういうことなのだろう。彼の中のモンスターとは――それがあの人なのか。あの寺院で僧侶たちに『神がかりだ』と言われたあの人。あの人は、彼の中で眠っていたのか。それが目覚めたのか。その“彼女”はまた、アヴェレットやセディフィと同じく、エアリィの中にいる人格なのか。この子は“彼女”なのだ――セディフィもそう言った。でもあの存在は、なにか恐ろしく高次元な印象を受ける。非常に力の強い、巨大な潜在人格。彼の自我には、とても対抗できないものなのかもしれない。だから、エアリィの自我が最後に言ったのか。『僕には負いきれない』と。
 再び、激しい震えを感じた。それに、いや……そもそも、モンスターの覚醒というのは、フレイザーさんの言葉だけに過ぎない。エアリィの内に目覚めたあの超人格が、仮に彼のモンスターであったとしても、たしかに雰囲気は非常に高次元的ではあったけれど、それだけだ。具体的には何もしていない。光を発したりしたわけでもなく、何か不思議なことが起こったわけでもない。アヴェレットやセディフィにしても。別人格ではなく、すべてはただの妄想ということもありうる。心の内側から声が響くとアーディスが言った時に思ったこと――幻聴だったら、危ないと。心のバランスを崩し、正気をなくして、自分は誰か他の別人だと思い込んでいる。そういう診断をする精神科医もいるに違いない。
 深いため息が漏れた。ああ、この旅がまさかこんな風になるとは、思いもよらなかった。エアリィが今後どういう状態になるにせよ、これ以上旅行を続けることは出来ないし、その意味もない。フレイザーさんの目的は、一応達せられたことになるのだから。
 フレイザーさんとローレンスさんは再び管理棟に出かけていき、このロッジの延泊手続きをしたようだった。部屋に戻ってきて、フレイザーさんは告げた。「アーディスが帰れる状態になったら、トロントへ帰ろう」と。
 もちろん僕も異論はなかった。そしてエアリィが再び目覚めるのを待った。目がさめたらセディフィはいなくなると言ったが、それでまた別の誰かになるのか、それとも本来の彼に戻るのか――どういう状態になるのかは、起きてみなければ見当もつかない。

 しかし、なかなか彼は目を覚まさなかった。夜が来ても、まだ眠り続けている。その晩は、途中で起きてまた変な言動をしないよう、フレイザーさんとローレンスさん、僕は、交代で見守っていた。
 僕が見ていた明け方四時ごろ、エアリィは一度目を開いた。そして上半身を起こし、何か言った。それは、またあの異言――どこの国の言葉かも、わからないものだった。それを、まるで叫ぶように二、三文言い、それからまた目を閉じて、ベッドにぱたんと倒れるように寝た。まるで夢遊病のようだ。声をかけたが、あいかわらず反応はない。
 翌日はどこへも出かけず、みなロッジに留まって、本を読んだりして過ごしていた。食事も、ここは基本自炊だが作ってくれる人がいないので(エアリィはここでも食事係で、食材を買ってきては、いつも僕らに料理を作ってくれていたのだ)、前日のお昼から、管理棟で売っている、または行商人が売りに来る、出来上がった食事を買っていた。割高だが、今は仕方がない。そして前日の寝不足のせいか、時々誰かが、僕も含めて、まるで交代するように居眠りをしていた。静かすぎるせいもあるのだろう。この旅行に出てから、何もせず宿泊先で一日過ごしたことなどなかったのだし。
 時計だけが時間を刻んでいく部屋で、僕らはアーディスを見守っていた。しかし彼はその日もずっと、眠り続けていた。時々寝言のように声を発するから、その時は夢を見ているのだろか。でも彼が漏らす言葉は、相変わらず理解できなかった。何度か声をかけて起こそうとしても、起きる気配もない。夜が来て、眠さに耐え切れなくなった僕は、ベッドに引き上げて寝た。それはフレイザーさんとローレンスさんも、同じだったようだ。ただ、もし夜中にエアリィが目覚めた場合を考えて、枕元の目につくところにメモを書いておいた。【目が覚めたら、僕らを起こしてくれ。外へは行くなよ】と。

 次の朝、目がさめた僕は半身を起こして、隣のベッドを見た。エアリィはまだ目を覚まさないのだろうか、と。しかし目に入ったのは、空っぽのベッドだった。薄い布団が返されて足元にたたまれ、枕がベッドボードに立てかけてある。
 たちまち眠気は、どこかへ飛んでいった。僕は飛び起き、ベッドに走りよった。昨日書いたメモが床に落ちている。僕はそれを拾い上げ、ぐしゃっと握りつぶした。
「起こせって言っただろうが! ちゃんと読めよ!!」
 思わず悪態をついた。部屋の中を探し、それから外に走り出た。どこにもいない。僕はロッジに戻り、隣の部屋で寝ていた講師たちを起こした。
「エアリィがいなくなった! ここにも、外にもいないんだ!」
「なんだって!?」フレイザーさんとローレンスさんも目を覚まし、もう一度みんなでロッジとその近辺を探したが、見つからない。
「あの子の荷物がなくなっている」
 部屋中を探したあと、ローレンスさんがため息を吐くように言った。
「パスポートもお金も着替えも、バッグごとなくなっている。たぶんアーディス君は我々が寝ているうちに起きて、出ていってしまったんだ」
「どこへ!?」僕は思わず我を忘れて叫んでしまった。「ここはインドなんだ! 北アメリカじゃないんだ! こんなところからどこかへ行ったなんて、冗談じゃない! どこを探したら良いんだ!」
 二人の講師たちも困惑した表情だったが、やがてフレイザーさんが首を振った。
「少し冷静に考えてみよう。アーディスが今どういう状態なのかは、さっぱりわからないが、少なくともパスポートと金を持って出たのなら、現在のあの子は、ある程度状況把握が出来ているのかもしれない。少なくとも、それが自分のバッグであることはわかっていた、ということだからな。一昨日のようなわけのわからない状態で、無一文で放浪されるより、はるかにましだ」
「そうですね。寝具もたたんで出ているわけですし、ある程度は把握できていると言えるのかもしれませんね。そしてパスポートがあれば、帰ろうと思えば帰れる。それに帰りの切符もとれるわけだし……」
 ローレンスさんは考え込んでいるような表情で少し黙り、そして付け加えた。「まあ、帰れると言っても、彼自身に帰る気があれば、ですけれどね。あなたがおっしゃったように、今のアーディス君がどういう心理状態かわからないし、元のあの子に戻っているという保証も、まったくないわけですから。いや……元の彼なら、ジャスティン君が書いたメモを見て、でも僕らは起こさないで、このロッジ前のベンチに座って外を眺めているか、朝食を作っているか、洗濯をしていそうですね」
「おかしくなる前のアーディスだったら、そうだろうな」
 フレイザーさんが腕組みをしながら、ため息とともに首を振る。
「ということはやっぱり、元のエアリィには、まだ戻ってないっていうことか」
 僕は頭を掻きむしり、そして思わずうめくように続けてしまった。「ああ、眠るんじゃなかった……」と。
「そうだね。はじめの晩のように、交代でみていれば良かったんだろうけれど。つい睡魔に負けてしまった。彼がメモの指示に従ってくれるとも思ってしまったし……僕らの予測が甘かった。でも今それを言っても、しかたがないよ」
 ローレンスさんが慰めるように、僕の肩をぽんと叩く。
「とにかく、手がかりを集めよう。他のキャビンの連中や管理人に聞いて……英語のわかる連中ばかりではないが」フレイザーさんが提案し、
「もう一回、通訳さんに来てもらいましょう」ローレンスさんも頷いた。

 話を聞いて回った結果、僕らの三つ隣りのキャビンに泊まっていた、インドの東海岸近くの町から来たらしい一家の父親が、こう言っていたという。
「ああ、あのプラチナブロンドの、ものすごい美人のお嬢ちゃんね。今朝早くに会ったよ。私が洗濯をしていたら、街道のほうへ歩いていった。『一人かい? お連れさんは?』と聞いたら、『用が出来たから』って言っていたよ。『気をつけなよ。あんたのような若くてきれいな娘さんが一人歩きをしているのは、危ないからね。早くバスが拾えるといいね』って言ったら、『ありがとう』とだけ、答えていたよ。ほんの少し笑って。でも元気はなかったな。人が変わったみたいだった。私はずっと見ていたが、一度も振り返らずに街道へ出て、それからハイデラバード方面にずっと歩いていった。それほど急いでいる風ではなかったがね」と。
「何時ごろですか?!」僕は勢い込んで聞いた。
 通訳が質問を伝え、ひげを生やした恰幅のいい、中年のインド人がそれに答える。でも、その言葉は通訳が翻訳してくれるまでわからない。もどかしい間だ。
「五時半過ぎだそうです」
「どうもありがとうございました」
 僕らは礼を言って立ち去った。エアリィを女の子だと思っているいつもの誤解はともかくとして、とりあえず必要な情報は得られた。今はもう八時をすぎている。彼がここを出ていったのが朝の五時半過ぎなら、もう二時間半がたっている。街道をずっと歩いていったのだろうか。  僕たち三人はとりあえず目撃者が言った方向に、街道を歩いて行ってみた。両側にはほとんど農地や草むらしかないところだが、二十分ほど歩いたところに、ポールの錆びたバスストップがあった。三人で座ったら崩れそうな木のベンチが、そのそばに置いてある。ポールの途中に時刻表があったが、文字はかなりかすれていた。でも、ハイデラバード行き、とは読めた。朝、昼、夜――その三便しかない。そして朝の便は六時半、昼は十一時、夕方は四時。とはいえ、このあたりの時刻表は、一時間程度前後することはざらだろうが。
「この朝便に乗って行ったんだろうか、あいつ……」
 でも、本当にそうだろうか。エアリィは腕時計をつけていないし、携帯電話も充電が切れているから、ロッジを出る時に時計を見ていなければ、正確な時間はわからないだろう。そもそも時間感覚があるかどうかも、はっきりしないのだ。明らかに普通の精神状態でなく、どちらかと言えばぼんやりしていたかもしれない時、この街道を歩いて行って、バス停を見つけたとしても、そこで止まって、いつ来るかもわからないバスを待っているだろうか――?
 ローレンスさんもフレイザーさんも、同じことを考えているようだった。
「バスに乗ってハイデラバードまで行ってくれれば、まだ安心なんだが……」
 ローレンスさんは街道の行く手――その街の方向に目をやりながら、首を振った。
「まあ、街道をずっと歩いていくよりは、ましだな。ハイデラバードまで、歩けば二、三日かかってしまう。それこそ途中で、誰かに襲われたりする可能性もあるな。あの親父さんが、懸念していたように」フレイザーさんは少し顔をしかめている。
「えっ」僕は思わず冷や汗が出た。
「アーディス君の心理状態がまったくわからないから、何とも言えないが……彼の無事を祈って、僕らもハイデラバードへ行こう。車を頼んで、この道を通って。もし彼がバスに乗っていなくて、街道をずっと歩いているなら、途中で見つけられるかもしれない」
 ローレンスさんの言葉に、フレイザーさんも頷いていた。
「そうだな。それが最善の手だと思う。それで、もし目的地までにアーディスを見つけられなかったら、カナダ領事館に行って、相談してみよう。連れがはぐれてしまって、連絡が取れないからとね」
「はい。そうですね……」
 僕は頷いた。確かにそれが、今の僕たちの取れる最善の策だと思いながら。

 僕たちはロッジに引き返し、手早く荷造りをすると、管理棟へ行ってチェックアウトの手続きをし、車の手配を頼んだ。そして十時前に、そこを出発した。車の窓から僕は(おそらくローレンスさんやフレイザーさんも)、ずっと目を凝らして見ていたが、エアリィを見つけることはできなかった。たぶんバスに乗って行ったんだ――不安を押さえつけるように、そう自分に言い聞かせながら、ハイデラバードについたのは、お昼の二時過ぎだった。僕たちはそこからタクシーを拾い、カナダ領事館まで行った。そして簡単に事情を説明し、彼に関して何か情報があったら教えてくれるよう頼んだ。
「わかりました」職員は奥に引っ込み、僕らはしばらく待たされた。
 他に何も手が思いつかないから、とりあえず領事館に来てみたものの、はたしてエアリィはここを頼っただろうか。途中で正気に返ったのでない限り、領事館に連絡などしないだろう。正気でも、領事館を思いついたかどうかは怪しい。仮に僕がもし彼の立場で、ハイデラバードへ向かうバスの中か、歩いていて、ふと自分を取り戻したら、どうするだろうか――歩いていたなら、戻ろうとするだろう。そうすれば必ず僕らとすれ違ったはずだから、僕らも気がつくはずだ。この線はない。バスの中なら、とりあえず目的地まで行くしかないが、その後は――ロッジの管理棟へ電話をかけて、僕らと連絡を取ろうとすると思う。車で四時間かかる道だから、バスでも同じくらいとして、エアリィが六時半のバスに乗って行ったのなら、到着は十時半。僕らはもう出発している。ロッジへ電話をかけても、僕らはチェックアウトした後だと告げられるだろう。そうすると、携帯電話にかけるかも――。
 僕は領事館の人に頼み、電源を貸してもらって携帯電話を充電した。しかしエアリィからの着信はなかった。同じように思ったのだろう。ローレンスさんとフレイザーさんも携帯電話を充電し、確かめてみたようだが、やはり連絡は来ていないようだった。
 やがて職員の人が現れた。「お連れの方からは、なにも連絡は来ていませんね」
 やっぱりそうか。僕は思わず深くため息をついた。
「それに何かあって、お連れの方がそれに巻き込まれたという連絡もありません」
「そうですか……」僕はいくぶんほっとしながら頷いた。
「わかりました。出国記録を調べてもらうわけにはいかないでしょうか?」
 ローレンスさんがかすかに懸念をにじませた口調で、そう頼んでいた。
「出国記録ですか。普通、一般の方に照会はしないのですが……どういう事情ではぐれてしまったのか、お教え願えませんか?」
「ああ……」フレイザーさんが少し考えるように黙ったあと、口を開いた。
「昨日、連れの彼と(と、僕を指差して)ちょっとケンカになったのですよ。それで先に帰ると言って、いつのまにか出ていってしまったのです。少し短気な子なので。パスポートや旅費は持っているのですが、本当に帰ったのかどうか気になりましてね。何といっても未成年ですし、もし途中で事件にでも巻き込まれたら困ると思いまして」
「そうですか。ご心配なこととは思いますが、警察でもない限り、個人の記録は公開できないんですよ。お身内でもないようですし。ご本人も、きっとそのうちにみなさんに連絡をされるのではないですか? 私どもも、もし何かご本人に関する連絡がこちらにあれば、みなさんにご連絡をいたしますから」
「そこをなんとか」
 僕らは食い下がったが、それ以上詳しい情報は得られなかった。それこそ警察に届けを出して介入してもらわない限り、もしくは近親者でない限り、個人の出国情報を公開することはできないのだろう。しかし、ことをそこまで大げさにするのは、まだためらわれた。

 僕らは領事館を出、飲食店(座席は野外だが)に入り、遅いお昼を取りながら話し合った。アーディスの状況がわからない限り、僕らが先に帰国できるはずもなく、かといって広いインドのどこを探していいのか、まるで雲をつかむような話で皆目見当もつかず、最終的には警察に捜索を要請しようかという話になった時、ふとローレンスさんが思いついたように、バッグから飛行機のチケットを取り出した。
「世界一周航空券。これを使えば、状況がトレースできるかもしれない。もしこれで新しいフライトが出てきたら、彼は無事に空港へついたのだとわかる。一応確かめてみよう」
 今回、移動範囲が世界中に及ぶため、そして、できるだけ交通費を安く抑えるために、僕ら四人は世界一周航空券を利用していた。そのチケットは、二ヶ月間の有効期間内ならば、十六回まで飛行機の乗継ぎが出来るものだ。これを使って、必要な航空券を空港のカウンターやインターネットで予約できる。ネットのサイトにログインして、チケット番号を打ち込めば、それまでの経歴もトレースできた。サイトには今回限りのことなので、代表者をフレイザーさんにして、四人とも同じIDとパスワードを共用している。エアリィのチケット番号はわからないが、一緒にとっているので、連番のはずだ。
 僕らは食事を終えるとすぐに店を出て、ネットカフェを探した。幸いインドでも都会では、その施設はすぐに見つかった。そこからサイトにログインし、チケット番号で検索した。僕ら三人のチケット番号の連番になっている中の、空白の番号を。今までの履歴から、これがアーディスのチケット番号だと確認できた。最後はイスラマバードからハイデラバード――いや、違う。次のフライトが出てきた。ハイデラバードから香港乗り継ぎで、ロサンゼルス行きだ。最初の香港行きの便は、すでにチェックアウト済みになっている。空港の搭乗ゲートからチケットを通して、出て行ったということだ。僕は深く安堵のため息をついた。フレイザーさんとローレンスさんも、同じだったようだ。
「この飛行機の出発は……二時間くらい前だね。定刻に出ている」
 ローレンスさんが別画面を開いて、そこに表示された便名を確認した。
「ということは、もう出国しているのか。今ごろは飛行機の中か」
 フレイザーさんは、しんからほっとしたような口調だった。「とすれば、我々も、これ以上インドに留まっている理由はないな。少なくとも搭乗ゲートを通過して、飛行機に乗っていないということはないだろうから、アーディスはもうインドには、いないということだ」
「そうですね。それなら我々も、とりあえずロスに行きましょう。そこでまた、新しい情報が得られるかもしれませんし」
「そうだな」
 僕らは空港に向かい、とりあえずシンガポール行きの飛行機に乗った。そこで飛行機を乗り継いで、ロサンゼルスへ向かう。だから少し飛行ルートが違うが、エアリィが香港で止まったり、そこからまた別の便に乗ったりしていない限り、目的地は同じだろう。到着は、僕らは四時間ほど遅れるが。
 長いフライトのあと、ロサンゼルスに着いた僕らは、空港内のネットサービスを利用して、再びチケット番号で検索した。ハイデラバード―香港―LAの飛行機の、さらに次が出てきた。LA−モントリオール。それも、すでにチェックアウト済みになっている。二時間ほど前に、ここを出発した便だった。僕らもあとを追い、その次の便でモントリオールに行った。モントリオールに到着後、再びネットサービスを見つけてチケットを検索したが、それ以上のフライトはなかった。そして気づいた。LA―モントリオール間のフライトが、このチケットでの十六回目のフライトだと。仮にエアリィがその後飛行機でどこかへ行ったとしても、このチケット番号でトレースすることはできない。
 一日飛行機を乗り継いで来たので、僕はかなり疲労を感じていた。おそらくフレイザーさんとローレンスさんも、同じだったのだろう。モントリオールについたのは夜だったので、ローレンスさんが空港からホテルに予約を入れ、僕たちはそこで一泊した。
 領事館で充電させてもらった携帯電話を、空港での待合中にも充電し、フライト中以外はずっとつけていたが、エアリィからの連絡はない。僕はホテルで改めて充電しながら、彼の携帯電話にかけてみたが、つながらなかった。電源が切れているのか、電波の届かないところにいるのか――メールを送っても、返事は来ない。とりあえず、これ以上は追いかけようがない。それでもとにかく、カナダまで戻ってきたことであるし、マネージメントのオフィスに戻って詳しい報告をした方がいいというローレンスさんの提案に従って、翌日お昼ごろの飛行機で、僕たち三人はトロントへ戻った。

 トロントへ帰りついた僕たちは、空港からタクシーでまっすぐマネージメント会社へ向かった。マネージメント側には、インドでエアリィとはぐれてしまって、彼が一足先にこっちへ帰ってきているようなので、追いかけてモントリオールまで来た、とだけ報告していた。
「それで、エアリィとは結局、合流できなかったんだな……」
 ロブは僕の顔を見て、苦笑を浮かべていた。「困ったものだな。モントリオールまで帰ってきたのなら、携帯電話も充電できるだろうし、連絡を入れればいいものを。それになぜ、わざわざモントリオールに行ったんだろうな、トロントではなしに。まさかトロント便がすべて満席だったはずはないだろうに」
「そう。なぜあのルートで彼がモントリオールに行ったのかは、僕らにも謎なんだ。彼はハイデラバードから香港へ行き、そこで飛行機を乗り継いでロスへ向かっている。そこからまた、モントリオールへと乗り継いでいったんだ。ロスからトロントへのフライトは、たくさんあったのに。いや、そもそも香港からだって、トロント直行便は出ているんだ。東回りでなくとも、ドバイやヨーロッパ経由の西回り便もある。なのにどうして、あのルートなのか。インドからロスアンゼルスへ向かっていると知った時、僕は一瞬驚いた。しかもダイレクト便もあるのに、わざわざ香港で乗り継いで。直行便が満席だったわけじゃない。たしかに今の季節は混んでいるが、あとから照会してみたんだ。おまけにロスもまた中継地で、そこからモントリオールだ。あの子はどこを目指しているのか……そもそも最初から、どこか明確な目的地があったのかどうかも……」ローレンスさんは微かに首を振り、小さくため息をついた。「もしあの子が自分自身を取り戻したなら、その謎も解けるんだろうけれどね。そしてここや僕らに連絡を入れるか、自力でトロントに帰ってくるだろうが……どうやら、やっぱりまだそうではないようだ。不幸なことに」
「どういうこと、ですか……それは?」
「ほんの三、四日前まで、彼は本当に楽しそうにしていた。あの子は異なる環境や人にもまったく物怖じしないし、なんでも前向きに楽しもうとする子なんだね。そう……僕らが合流してから十日あまりは、そうだった。自炊施設では率先してお湯を沸かしてコーヒーをいれてくれたり、料理を作ってくれたりしたし、なんでも珍しがって、興味を持って、現地の人たちと積極的に交流して、旅を楽しんでいるようだった。でもその彼は、いなくなってしまった。精神的にも、物理的にも。果たして戻ってくるのかどうか、今の段階ではわからない。戻ってきて欲しいと切望しているけれどね、僕たちみんな」
「どういうこと……ですか、アーノルドさん。それは……?」ロブは再び繰り返した。明らかに顔色が変わっている。
「私の賭けは、現実に動き出してしまったんです。成功か失敗かは、今のところわかりませんが。非常に危険な賭けであることは、私も予測していた。しかし、現実は私の予想を超えてしまいましたね。アーディスのスケールの方が、私の予測より大きかったのでしょう。こうなった責任は私にありますから、結果はぜひ見届けたいですが」
 フレイザー氏が首を振り、少し乾いた声で答えていた。
「しかしフレイザーさん、二週間後からロンドンでミュージカルの仕事が入っておられるのではないですか……?」コールマン社長が気遣わしげな口調で問いかける。
「ええ、ですからぎりぎり、あと一週間はこちらで待ってみます。ここのホテルをとって、次の仕事の準備をしながら。しかしそれ以降は待てないので、ことがはっきりしましたら、のちほど連絡をください」
「ご迷惑をおかけしまして、本当に申しわけありません」
「いや、ことによれば、許しを請わねばならないのは、私でしょう。場合によっては、せっかくあなたが期待をかけた前途有望なアーティストを、潰してしまったことになるかもしれないからです。その場合は、本当に申し訳なかったです。あなたにもビュフォードさんにも、バンドの他のメンバーにも、そしてなによりアーディス本人に対して、私は取り返しのつかないことをしてしまったことになりますから。ですが、私はまだ希望を捨ててはいません。もし彼が再び自分自身を取り戻すことが出来たなら、コールマンさん、あなたも覚悟をする必要があるかもしれませんよ。彼と彼のバンドは、今にとてつもなく大きくなってくるでしょうから」
 フレイザーさんの言葉に、社長氏はしんから不思議そうに考え込んでいるようだった。ロブもぽかんとした表情だ。
「ローリー、本当に、いったい何があったんだ?」
 社長はローレンスさんに向き直り、問いかけた。その声は当惑と懸念に満ちていた。ローレンスさんは少し困ったような表情で、首を振った。
「フレイザーさんのおっしゃるとおりさ、レイモンド。僕は何と言ったらいいかわからないが……あの子はモンスターの卵だった、と言うか、内なる超人を秘めていた。それを覚醒させることができれば、彼はもう一段階、大脱皮する。これまで、どのアーティストもたどり着いたことのない領域へ。フレイザーさんはそう判断されたんだ。ただし、それは非常なリスクを伴う行為で、もし失敗すると、あの子は人格崩壊してしまう可能性がある。実際、かなり異常な行動を起こしたんだ。そしてそのまま行方不明……この集中練習は、求めたもの以上のなにかを、引き出してしまうかもしれない。もし成功できたなら、あの子は未踏の領域に行けるアーティストになるかもしれない。その場合は、バンド自体もその領域に引っ張られることになるだろう。そして今に彼自身が、業界を揺るがすモンスターになる。でも失敗したら……バンドに復帰は、たぶん問題外だろう。アーディス君本人のために、最善の方法を取ってあげたい。なにより、無事に見つかってくれたらと……それしか言葉がないよ」
 コールマン社長もロブも目を丸くし、しんから当惑したような表情を作った。
「私は……まだ良く意味がわからないんだが……あの子に何が……?」社長が当惑した顔のまま、そう言いかける。
「ああ、僕らでもう少し詳しい事情を説明するよ。だが、ロブ……」
 ローレンスさんは社長氏に頷くと、ロブに向き直った。
「君はジャスティン君と一緒に、とりあえず合宿先に帰って、他の三人のメンバーとも話しあったほうがいいと思うよ。詳しい話は、ジャスティン君が説明できると思うから」
「あ……ええ」ロブは当惑した表情のまま、頷いた。「そうですね……ジャスティン、帰ってきたばかりで、疲れているところを悪いが、このまま僕と一緒に、みんなのところへ戻ってくれるか? 向こうに残っている三人にも、寝耳に水の話だろうから」
「ああ、すぐ行くよ」僕は再びバッグを取り上げた。

 そのままロブの車で、僕はマネージメントオフィスを後にした。ランドローバーの後部座席に座ると、思わず深いため息が漏れる。窓の外の見慣れた景色。異郷を旅してきて、戻ってきた故郷はたしかに安堵感を覚えさせる。
 一ヶ月前、この車にロブを含めて五人で乗り、練習所からトロントへ戻った。飛行機のチケットを買い、ビザの手続きをし、空港へ向かった。あの時には、荷物と人で一杯だった。空港でロブと別れ、出発ロビーでエアリィとフレイザーさんとも別れて、ローレンスさんと二人で旅行を始めた。でも帰りは、もともとあとのスケジュールが控えているフレイザーさん以外の三人で、あの練習所に帰ってくるはずだった。あと四日後に。この道を、ロブと僕だけで帰っていくことになるなんて。それに合宿先で待っているロビンやジョージ、ミックは、こんなふうに帰ってきた僕を、どう受け止めるだろうか。
「僕にも、まだ事情が良くわからないんだが……」ロブが運転席から、そう話しかけてきた。「エアリィに……いったい何が起きたんだ? なんだかとんでもない事態だということは、フレイザーさんやローレンスさんの話しぶりでも、わかったが……どうして、そういうことになったんだ? 僕はまだ信じられないんだ。はぐれて先に帰ってきたと聞いた時には、まったくしょうがないな、何か行き違いか連絡ミスか、とは思ったが、それでもこっちへ着いたらおまえや講師さんたちには、なんらかの連絡を入れていたのかと思ったんだ。彼は人に心配や迷惑をかけて、平然としているような子じゃないはずだから……いつものことで、そこまで考えが至らなかったのかと思ったのだが」
「わからない。一時的な錯乱なのか、精神のバランスを崩したのか、それとも……ああ、あいつはそういうものには、一番遠いと思っていたのに。でも理由はたぶん、フレイザーさんがおっしゃっていたように……モンスターの覚醒なんだ」
 僕はしばらく考え、答えた。「フレイザーさんとローレンスさんが話していたことを、偶然僕は聞いてしまったんだ。この旅行に出た本当の目的をね。ローレンスさんは僕にいろいろな体験をさせて、感情に深みを与えたかった、そう言っていた。でもフレイザーさんは違っていて、僕にはそれで良いけれど、エアリィには意識の外郭を破壊することが必要だって、言っていたんだ。彼のうちに眠る、ものすごく巨大な才能を解放してやるためにね。ただ、それにはひどく大きな危険が伴うって。そして、その言葉通りになってしまったんだよ」我知らず、ふうっとため息が漏れた。
「何がどうなったのか、僕にはさっぱりわからない。でも……ああ、みんなにも説明しなければならないから、その時に詳しく話すよ。なんだか僕も、ひどく混乱した気分なんだ」
「そうか……」ロブはちらっと振り向き、頷いた。
 それから彼は運転に専念しているように見え、僕も頬杖をついて、車窓を流れていく風景を見ていた。やがて建物がまばらになっていき、窓の外に見えるのは木々の影ばかりになって一時間ほど走ると、練習所になっている家が見えてきた。
「個別の強化練習は、もう終わったんだ」ロブが前を見たまま、口を開いた。
「モントリオールからローレンスさんに連絡をもらった時、状況はともあれ、もうここまで帰ってきたのだから、ようやく本格的な合同練習に入れるな、と思ってね。残留組のほうは十日ほど前から合同練習になっているし、もう切り上げても何ら差し障りはないと講師たちも言うから、今朝の十時をもって終わりにしたんだ。僕は講師たちをマネージメント事務所に送っていって、そこでおまえたちの帰りを待って、二人を――まあ、エアリィともいずれ合流できると考えていたからね、その時は――連れて戻ってくると、ミックやジョージたちに約束をして出たんだ」
 車は正面の駐車スペースに停まった。その音が聞こえたのだろう。僕が荷物を取り上げている間に、建物のドアが開いて、ロビンとジョージ、ミックが出てきた。車から降りると、三人は一斉に駆け寄ってくる。
「おお、やっと帰ってきたか」ジョージが口を開くと同時に、
「お帰りなさい、ジャスティン」と、ロビンが僕を見上げ、笑みを浮かべる。
「疲れてないかい?」ミックは僕の腕に触れて、そう気遣ってくれた。
「うん……ただいま。帰ってきたよ」
 僕はそれだけ言い、ちょっと首を振って彼らを見た。予想していた帰還とはかなり違う状態に、やはり戸惑いを感じずにはいられない。三人も、僕の後ろから誰も降りてこないのを見て、怪訝そうな表情をしている。
「おまえ一人だけか、ジャスティン? エアリィとは結局、はぐれたままか? 連絡はついたのか?あいつはいつ合流できるんだ?」ジョージが不思議そうに聞いてきた。
「ああ、そのことについては、ちょっと込み入った事情があるようだ。これからジャスティンが話してくれるだろう」ロブは首を振り、僕の背中を押した。
「そう……ともかく中へ入って。ビッグママとレオナがコーヒーをいれて待っているから、とりあえずひと休みして、それから詳しい話を聞かせてくれないか」
 ミックが僕を促し、ロブと僕は他の三人と一緒に食堂へ入った。ロブの母親とレオナが迎えてくれ、テーブルには湯気の立つコーヒーポットと人数より一つ多いカップ、砂糖とクリーム、そしてクランベリーマフィンを盛ったカゴが置いてある。

 しばらくみんな黙ってコーヒーを飲んでいたが、やがてジョージが口火を切った。
「それで、結局どういう事情なのか、説明してくれよ、ジャスティン。インドでエアリィとはぐれた、あいつはとりあえず、モントリオールまで戻ってきている。俺たちはそう聞いたんだが、でも、一緒じゃないんだな。モントリオールでは会えなかったのか。あいつはいったい、どこへ行ったんだ? まあ、旅先ではぐれるってのは、ありえない話じゃないが、携帯を充電できるところなんてたくさんあるだろうし、おまえらなりマネージメントなりに連絡するのが、普通だろうが。なんであいつはモントリオールまで、勝手に行っちまったんだ? それを帰ってきたら、言ってやろうと思ってたんだよ、俺は。おまえ、いくらなんでも、マイペースすぎるだろ、ってさ。一人でインドから出国なんてしないで、連絡を入れて、待ってればいいじゃないかってな。しかも、どうしてモントリオールなんだ? トロントじゃなくて」
「どこから話していいか、わからないけど……今、あいつは行方不明だ」
 僕はため息をつき、カップを下に置いた。
「今までの彼は、いなくなってしまった。精神的にも物理的にも。ローレンスさんがそう言われたとおりだ。今だけだ……と、僕は信じたいけれど」
「なんだって?」三人はそう言ったきり、絶句していた。
「ねえ、ジャスティン。最初から詳しく話してくれないか。君たちが一ヶ月前にここを出てから、何があったのか。いや、君とローレンスさんがエアリィとフレイザーさんに合流してからでいいけれど。僕らはその間のことを、ほとんどなにも知らされなかったから、いきなり結果だけ言われても、ただ面食らうしか出来ないんだよ」
 しばらくの沈黙のあと、ミックが少し乾いた声で言った。僕は頷いて、話し出した。イスタンブールで合流してからの行程と、その間に起こった出来事を簡単に言ったあと、高原でキャンプをした夜の出来事を、僕は詳しく話した。『未踏の領域への可能性とモンスターの覚醒』についての講師たちの会話と、エアリィと僕がお互い夢に起こされて、真夜中の高原で語り合ったことを。ただ、アーディスの前半生の話をするのは、一瞬躊躇した。彼が僕に話してくれたということは、僕だけにしか話したくなかったことなのだろうか、それとも他の三人がいなかったから、僕だけに話した形になったのだろうか、と。前者だったら、ロビンたちに話すのはちょっとまずいのかな、とも思えた。でもバンドという共同体である以上、そして三人が彼のことを気にかけ、心配している今、僕だけにカミングアウトしたという考えは捨てるべきだ。それでロビンたちが否定的な反応をするはずはない、と僕は信じている。エアリィ自身も『今は知ってくれて、良かったと思ってる』と、言っていた。彼は『みんなに』と言っていたから、僕だけではないはずだ。
 一応そのあたりの事情をことわった上で、僕はすべてを話した。さすがにその壮絶な起伏の多さに三人とも絶句していたが、ロビンもジョージもミックも、基本的にはあの時の僕と同じ反応だったと思う。その翌々日に起こった大転換も、僕は出来るだけ省略せずに話した。目が覚めてからの彼の異常な言動も、僕たちが寝ている間に、出て行ってしまったことも。





BACK    NEXT    Index    Novel Top