議会活動

■2011年(平成23年)9月議会 一般質問

<低線量被ばくにおいては予防原則の適用を>

 通告に従い、区の放射線対策について質問してまいります。すでに質問も二日目中ほどになり、これまでの質問と趣旨の類似したものもあろうかと思いますが、私は放射線対策のみを取り上げております。どうぞ端折らずに、ご答弁をお願いいたします。

 

 低線量の被ばくをめぐる人体への影響については、専門家の間でさまざまな見解が示されています。専門家の見解が分かれているということは、とりもなおさず、統計学的な裏付けが乏しいということです。過去に十分な事例があり、統計学的にも他に解釈のしようがないというほどの優位性が確立されていれば、専門家の見解が食い違うことはまずありません。

 現在、放射線の安全な取扱いや基準作りを目指す学術組織である国際放射線防護委員会(ICRP)は、この低線量被ばくの発がんリスクについては、閾値なし直線仮説というものを採用しています。この仮説の内容は分かりやすいものです。がんの原因には喫煙、生活習慣などさまざまあります。放射線量が100ミリシーベルト以下と少なくなればなるほど、その人のがんの原因を科学的に特定することが難しくなります。それゆえ、科学的に証明できない低線量被ばくでの発がんリスクについては、とりあえず線量に応じて増減するとみなす、という立場、これが閾値なし直線仮説です。江戸川区で招聘した中川恵一氏が「哲学」の領域と説明していた部分の理屈です。

 この低線量被ばくとリスクの関係という「哲学」領域では、直線的かつ確率的にリスクが増減するということですから、ここには閾値という考え方も存在しなければ、当然、放射線に対する許容限度値も安全基準なる値も存在しません。基準値が出ないのがおかしいのではなく、基準値は存在しないのであり、それを望むのはないものねだりということになります。

 区長は、第二回定例会において同僚議員に対する答弁の中で「測定すればそれでいいというものではないということは、皆さんよく御存じだろうと思うんです」とおっしゃっていました。しかし、私はむしろ逆だと思います。低線量被ばくリスクについては科学的に証明されていません。放射線研究の専門機関ではない行政が、測定値について妙に「安全」「危険」という評価を採用することこそ危険だと思います。数値を評価することに意味があるのではなく、住民要望にこたえ、数値を測定し、それを迅速に公表することにこそ意味があるのだと思います。

 中川氏は低線量被ばくとがんリスクのグレーな関係部分を「哲学」と表現していますが、同氏がこのように表現しているということの意味を正しく理解しなければなりません。繰り返しますが、中川氏はこの部分を「科学」とは言っていません。「哲学」と呼んでいます。低線量被ばくとリスクの関係に統計学的裏付けが乏しいことについては、放射線の専門家である中川氏も一番よく知っているお一人です。それゆえ、このグレーな領域を「科学」ではなく、「哲学」と表現しているのです。ここを正しく応用するなら、中川氏が「安全だ」「安心して生活できるレベル」だと言っている現在の低線量被ばくリスクは、科学ではなく、哲学だということです。「安全だ」というのは中川氏の理念、解釈であり、科学者の口から語られた科学ではなく、科学者の口から語られた哲学の部分だということです。

 江戸川区は、中川氏の主張する、現在の低線量被ばくは安全という解釈を強く採用してきました。しかし、すでに述べたとおり、現在の低線量被ばくを危険と評価する逆の専門家も少なくありません。現況の放射線レベルについて、大人には影響は少なくても、子どもへの影響は気にすべきという見解もあります。中川氏は放射線の専門家であり、そのアカデミックな場における主張を素人の私がとやかく言う立場にはありません。しかし、専門機関ではない行政が、安全宣言派だけの一方の見解ばかりを採用するということは適切なことなのでしょうか。疑問が残ります。

 では、専門家によっても百家争鳴の様相で主張が異なり、科学的にも証明されていない低線量被ばくのリスクについては、どのように考え、対応したらよいのでしょうか。答えは、統計学的にも安全か危険かの判断を下すのに時間や労力がかかる事例においては、安全・危険の判断をいったん中止し、むしろ将来の健康被害が広がらないように予防原則に則って、リスクを疑わせる要因の除去に向けて対応していくという姿勢が求められているということです。これが、いま国においても自治体においてもとるべき対応だと言えます。この主張は、東大の児玉龍彦氏や中部大の武田邦彦氏らが唱えています。

 この予防原則が求められる事例は決して少なくないと思われます。特に、ある事業者と公害問題との関連性などが疑われる事例においては、この予防原則の適応が期待されます。例えば、水俣病、イタイイタイ病などでは、実際に大きな健康被害が観察され始めていても、その原因と健康被害に対する因果関係の科学的な証明に長い年月を要するため、原因と疑われる汚染物質の拡散防止措置が講じられぬまま、被害者だけが増加し続けるという事例です。こうした場合、原因と健康被害について科学的に証明された時にはもはや取り返しのつかない健康被害の拡大が生じているということになります。健康被害を最小限にくいとどめようとするなら、安全・危険の判断にこだわるのではなく、むしろ原因を疑われる要因の排除対策を推進しておくということになります。これが予防原則です。

 放射線による十年後、二十年後の健康状況は分かりません。将来に起こるかもしれない健康被害を防ぎ、現実の社会的対応を考慮に入れるなら、安全・危険の判断に腐心するよりも、予防原則に基づいて行動すべきと考えます。この予防原則による対応について、区長はどのようにお考えでしょうか。ご所見をお伺いします。

 

<砂場の線量調査実施基準の矛盾の改善を>

 次に、砂場の放射線量測定の基準について伺います。

 区は、多くの区民や各会派からの声を受け、6月下旬から空間線量の測定と結果の公表を始めました。8月下旬からは、さらに規模を拡大し、小中学校、幼稚園、保育園、公園などおよそ540カ所の砂場の放射線測定が開始されました。先月から今月にかけての調査において、すでに年間1ミリシーベルトの基準値を超えてしまう時間当たりの測定値、毎時0.25マイクロシーベルトに抵触したのは西瑞江、西葛西、平井などに8カ所ありました。

 江戸川区は、守谷市・柏市・松戸市・葛飾区と続く放射線ホットスポットの最南端であると言われております。総人口の15パーセントにあたる9万6000に及ぶ年少人口という子どもの多さを考えても、充実した測定をはじめ、適切な放射線対策が求められてしかるべきと考えます。

 区では、毎時0.25マイクロシーベルト以上を記録した場所では、さらに1~2回の測定、つまり合計2~3回の測定を実施し、対策が必要ならば、砂の入れ替え等を実施するとしています。実際、9月13日の測定で毎時0.33マイクロシーベルト、二度目の9月20日に毎時0.38マイクロシーベルトの測定値が出た西瑞江公園については、表面から20センチメートルの砂を取り除き入れ替える除染対策を施しています。この対応は結構なのですが、第六葛西小学校のように最初に毎時0.25マイクロシーベルトを記録し、その後の二回目、三回目で0.25を下回る結果が出ているケースでは、必ずしも砂の入れ替えを行うとはかぎらないと聞いています。

 ここで生じる疑問は、なぜ最初の測定で毎時0.25マイクロシーベルトという、砂の入れ替えが要請されるかもしれない場所だけ、複数回の測定を実施するのか、という点です。おそらく、複数回実施するのは、測定の度に空間線量の測定誤差が生じるため、できるだけ複数回実施したほうがいいという考えによるのでしょう。この考え自体は一見、理にかなっています。しかし、そこには矛盾があります。それは、ではなぜ最初の測定値が0.25を下回ったところでは、これについても測定誤差が生じる事情は同じであるにもかかわらず、平等に540カ所で複数回の測定を実施し、その平均を基に除染対策を実施しないのでしょうか。どう考えても、そこにはダブルスタンダードが存在します。

 測定の実施基準にこうした矛盾があるままでは、毎時0.25マイクロシーベルトを超えた高い地点だけ何度も測定を実施するのは、対応する必要がない低い値が出るのを期待しているのでは、と疑われかねません。単純に考えても、この実施方法には少し首をかしげてしまいます。やみくもに540カ所、あっちもこっちも除染せよと申し上げているわけではありません。除染した場合、その土の処理の課題があることも認識しています。しかし、実施ルールが恣意的に見えてしまうのはよいことではありません。ぜひ統一的な整合性のあるルールに修正し、区民が広く「実施してもらってよかった」と納得できるような方法で測定していただきたいと思います。現在の540カ所の砂場の線量測定ルールの改善についての区長のご所見を伺います。

 

<学校給食をめぐる対応の改善を>

 次に、教育委員会にお尋ねします。

 放射性物質の拡散による、牛肉をはじめとした食品の汚染が判明して以来、大人よりその健康リスクが2~3倍高いと言われる子どもたちが食べることになる学校給食のあり方をめぐって、保護者から大きな不安の声とともに、仕組みの改善を求める声があがっています。放射性セシウムに汚染された稲わらを食べていないとみられる牛の肉からも、8月に放射性物質が検出されたことは、その不安を具体的なものとしました。個体識別番号の確認だけで食品提供の安全性はコントロールできるとしてきた国の理屈には明らかなほころびが生じました。学校に子どもたちを通わせる保護者が不安を増大させたとしても無理はないと言えます。子どもたちの命を差し出すことはできないという保護者の立場を考えれば、理屈以前に、親としてごく自然な改善の欲求であると言えます。

 以下、学校給食をめぐる三つの点についてお尋ねします。

 第一に、給食食材のサンプリング調査についてです。生産地において危険な食材がないかどうか検査するというのが現在の国の食品検査の基本です。この仕組みの基本構造を否定するものではありません。しかし、現行の仕組みでは、放射性物質の汚染に関する限り、十分にカバーしきれていないのも事実であり、結果的に、消費者に近い立場にある自治体側が対応を迫られる事態になっています。まず、生産都道府県による検査という現行の国の食品検査体制にほころびが見られる状況下では、消費者側でもある各学校が調理前に食材のサンプリング調査を行うべきと考えますが、いかがでしょうか。杉並区、市川市、宇都宮市など、独自検査に乗り出している自治体が少なくありません。一日およそ千種ある食材全てを検査せよとは申しません。それは不可能に近いことです。できるところからでよいと思います。文科省も都道府県が給食食材の線量検査機器を購入する際に、その経費の半額程度を助成する方針を決めたといいます。また、国の食品検査だけでは消費者の信頼をかちとれないとし、民間では大手牛肉チェーン店、焼肉チェーン店、大手スーパー各社が独自の食品検査実施を開始しています。こうした現状も考慮し、サンプリング調査に対する教育長の考えをお聞かせください。

 第二に、食材の安全性および信頼性確保と保護者の心理的不安を軽減する意味でも、食材の産地表示を徹底し、詳細をホームページなどで提供するという対応についてです。すでに、9月5日から瑞江小学校では朝9時半にその日の給食食材を学校の掲示板に表示する対応が開始されました。大変大きな前進ではありますが、これは学校単独の対応であって、区内小中学校全体の対応ではありません。給食への信頼性確保と保護者の不安解消のため、教育委員会のイニシアチブにおいて食材の産地表示を推進して頂きたいと思いますが、いかがでしょうか。考えをお聞かせください。

 最後に、弁当や水筒の持ち込みについてです。現在、区内小中学校においては給食食材のサンプリング調査も食材の産地表示も統一的には実施されていません。しかし一方で、現行の食品検査にも問題があります。もちろん、食品検査はまちのスーパーマーケットに出回っている食材に対しても同じ仕組みが適用されています。「弁当を自宅で作っても、結局は同じじゃないか」という声があります。しかし、ここには大きな見落としがあります。まちのスーパーマーケットではほぼすべてに産地表示がなされています。これは放射能問題以前から、輸入食材の残留農薬問題に対する消費者の不安にこたえるためなどの理由から、実施されてきました。産地表示がなされていれば、消費者は少なくとも食材の選択が可能であり、不安なものは自分の判断で避けることができます。給食が教育の一環として取り入れられていることは承知していますが、危険性が疑われる汚染食材を食べることは教育にふさわしいとは言えません。

 現在、ほころびの見られる国の食品検査の下、市場の民間業者の間では消費者の要望にこたえるため、独自のサンプリング検査を実施し、また産地表示することが広まっています。しかし、江戸川区の給食では統一的にそのどちらも実施されていません。食材の選択が可能で、透明性の確保されている、自宅で作った弁当と、サンプリング調査も産地表示もされない給食とでは、ここに大きな違いがあります。

 次に、水筒についてです。現在は、熱中症対策という位置づけもあり、水筒持ち込みの要望が個別にあれば、学校ごとの判断で認めていると聞きます。しかし、これも決して統一的な対応ではありません。3月の、放射性ヨウ素検出の発表以来、今のところ都内の水の汚染は確認されていません。私自身も東京都の水には不安は持っておりませんので、そのまま利用しています。しかし、子どもに飲ませることに不安を感じる方もいます。そうであれば、選択権の一つとして持ち込みを希望する子どもたちのため、統一的に水筒持参を認めても、水行政の大義が崩れるとは思いません。

 国の食品検査の改善を今日明日のうちに見込むことは困難です。また、区ではサンプリング調査も産地表示も実施していません。そうであれば、少なくとも、子どもたちの選択権と健康に生きる権利を確保するためにも、弁当や水筒の持ち込みは緊急避難的に認めるべきと考えます。教育長の考えをお聞かせください。

 

 以上で第一回目の質問を終わります。

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