<治水事業の進め方について>
まず、区民との対話を大切にした治水事業の進め方についてです。区は二〇〇六年半ばより、北小岩一丁目東部地区におけるスーパー堤防事業の協議を地域とスタートさせてまいりました。キティ台風時に辛酸を舐め、今も面積の七割がゼロメートル地帯といわれる自治体として治水対策を模索することは当然のことであり、その方針を理解しないわけではありません。しかしながら、今般の、治水事業たるスーパー堤防事業およびそれに付随する区画整理事業については、その進め方において私なりに疑問を感じるところがあります。
区は当該事業を、北小岩一丁目東部地区いわゆる十八班地区を対象に先行して推進しようとしてまいりましたが、当初より、地域住民との話し合いを進める場として予定されていた協議会の設置はうまくいきませんでした。一時的にせよ住み慣れた土地からの転居を余儀なくされる計画ゆえ、根強い反対論があったことが大きな原因であったと思われます。かわりに、区はまちづくり懇談会を設置し、これまで七回開催してまいりました。十八班地区の八十八権利者の中で賛否がどのように分かれているのか公式なデータは存在しませんが、少なくとも住民同士の態度が賛否に大きく二分化してしまっていることは確かなようです。意図的ではないにせよ、行政の計画が発端で住民同士のコミュニティにひびが入ってしまっているのはとても残念なことです。
スーパー堤防事業や区画整理事業に限ったことではありませんが、昨今のまちづくりにおいては住民との対話や合意形成づくりというものが非常に重要視されてきています。一九九七年の改正河川法の「河川整備計画」の規定部分に住民意見の反映の義務という文言が加わったのも、こうした時代の流れを反映したものです。どんなに土木工学的に有効かつすぐれた技術であっても、住民の理解と合意がなければ事業を進めることは困難ですし、また混乱を避けるためにも進めるべきではありません。今定例会に北小岩一丁目東部地区にかかる区画整理事業施行規程が上程されています。昨年の都市計画決定を受け、区なりに事業スケジュールを示し、進めていることであろうと思いますが、当該地区の住民の考えが二極化した状態の中での上程です。以前、区長は予算委員会の中で、今はまだ違うと思うが、状況次第では直接住民と話し合う機会があってもよいかもしれないという趣旨の話をされていました。行政の長が自らの言葉で施策の必要性を説き、直接住民に語る、また逆に住民の意見にも耳を傾けるということには大きな意味があると思います。官民問わず、組織が重要方針を示す時や異論が生じ合意形成が求められる重大局面を迎えた時には、組織のトップたる者が自ら出、関係者と直接対話することには重みがあると考えます。六十七万区民を抱える巨大な自治体ですから、万般にわたって首長が出向くことはもちろん不可能です。しかし、地域住民を二極化してしまっているこの事業をめぐる現在の状況は、行政の長が受け入れ派も懐疑派もともに集まるまちづくり懇談会などを利用し、区民と直接対話するに値する場面であると考えます。この事業をめぐっては、賛成・反対を問わず、各会派が一度ならず、住民との丁寧な合意形成の必要性について言及してまいりました。首長と住民との直接対話についてどのようにお考えか、区長のご所見をお聞かせ下さい。
<発災時の医療救護について>
次に、発災時の医療救護についてお伺いいたします。
災害医療の専門家によれば、災害発生後四十八時間から七十二時間を救出・救助期と呼び、この時期を逃すと救助できる負傷者の割合が一割以下になるといいます。災害医療におけるこうした緊急性と集中性の特徴を理解したうえで、より実際的な被害想定に基づくマニュアルづくり、態勢づくりへと改善を積み重ねていくことが、災害医療対策の常道であろうと考えます。区では昭和期から地域防災計画を策定し、防災会議を中心に、計画の修正を重ねてきました。また、関係団体の協力を得、総合防災訓練、総合水防訓練などの大規模な防災訓練を実施しています。
区が行なうこれら大規模な防災訓練とは別に、各地域においても大小さまざまな防災訓練が町・自治会や学校などにより自主的に実施されています。私の住んでいる宇喜田・小島地域においても毎年十一月、複数の町・自治会が協力し合い、町・自治会合同防災訓練が実施されています。実施にあたっては、協力関係にある町・自治会が持ち回りで実行委員を務め、近隣の小中学校、消防署、消防団の協力を得ながら準備を重ね、訓練を行っています。私も地域のこうした防災訓練に参加するなかで、参加者や実施者からいくつかの課題の指摘と提案を受けてまいりました。
さて、先の地域防災計画において、災害対策本部は医師会、柔道接骨師会、歯科医師会などとの協力協定に基づき、医療救護班の編成および各救護場所ヘの医療救護班の派遣を要請することになっています。計画の中では、区内医療機関以外に、医療救護所を設置する場所として保健所・健康サポートセンター、小中学校などの避難所、都指定の広域避難所、あるいは災害現場などが想定されています。このうち、健康サポートセンターは区民の健康づくりや各種保健相談を主な業務としており、医療救護所として想定されるのは自然なことですが、サポートセンターは六十七万区民に対し八カ所しかなく、これらだけでは災害の規模や様態によっては、負傷した区民の救護をすべて賄うことは困難です。そこで、健康サポートセンターから相対的に遠距離にある地域においては、避難所として機能することが期待されている小中学校の中に、医療救護所も設置されることになると予測されます。小中学校は豊富な教室数を抱える大型建築物であることから、医療資材を置く部屋や救護班の控え室の確保、またいざとなれば交通網のマヒした発災直後には臨時の病室を複数確保することも可能な有蓋施設です。しかし、健康サポートセンターから離れた地域における小中学校の救護所としての機能が期待される割には、そうした地域の学校との具体的調整にはまだ手がついていないように思われます。例にあげました宇喜田・小島地域も葛西健康サポートセンターまでの距離は遠く、地域の医療関係者からは、阪神・淡路で経験された陸路交通網のマヒを想定すると、身近な小中学校に即救護所を設置するのが自然であり、そうと分かっていれば、事前に区と学校が調整、確認しておくべきことがある、という指摘も聞かれます。こうした健康サポートセンターから離れた地域にある小中学校と事前に相談しておくことが重要であると思われますが、区長の考えをお聞かせください。
第二に、救護活動初動期における隣接自治体の医師会との調整についてお尋ねします。我が区との協定により積極的に医療救護にあたって下さる医師会の方々ですが、江戸川区医師会に所属していたとしても必ずしも全員が江戸川区在住の医師ばかりとは限りません。例えば、江戸川区医師会の方でも、江東区民や葛飾区民の方がいらっしゃるでしょうし、また逆に、江戸川区民でありながら勤務地の関係で江東区医師会に所属しているという方もいらっしゃると思います。そのような交差した状況でも基本的には、医師の方々はそれぞれが所属する医師会が締結している、自治体との協定書に基づき、発災時には勤務先の自治体にて救護活動を行うことになると考えられます。しかし、阪神の震災時のように広域交通網がマヒすることを前提とすれば、最も救護活動が求められる発災後七十二時間までの初動期に、勤務地に向かえない医師や移動することに半日費やしてしまう医師が自治体間で相互に発生することが十分に考えられます。これでは、七十二時間という貴重な救出・救助期に本来活かせるかもしれない医療人材を無駄にしてしまうことになります。こうした場合には、発災から七十二時間までの救助期に限っては、無理に時間をかけて勤務先へ移動しようとせず、自身の住む地域での救助活動に当たることが可能となるような柔軟な対応が求められます。これはもちろん医師会間での協議事項でもありますが、医師会による医療救護班の編成は区との協力協定によるものです。江戸川区と江戸川区医師会、ならびに隣接自治体とそこの医師会との四者で協議するのが望ましいと思われます。こうした、救護活動初動期における隣接自治体の医師会との調整についてどのようにお考えか、区長のご所見をお伺いいたします。
次に、発災時のヘリコプター発着可能地点のさらなる確保も課題ではないでしょうか。現在、区内では、篠崎公園、臨海公園、河川敷など九カ所を発着可能地点として指定しています。しかし、地域の人口規模や地理的なバランスを考えると、もう少しヘリコプター発着可能地点が確保されてもよいのではないでしょうか。ヘリコプター機の規模に応じた発着場基準から判断すると、まだ指定可能な地点があるように思われますが、いかがでしょうか。区長の考えをお聞かせください。
<クラッシュ症候群について>
最後に、クラッシュ症候群について触れておきたいと思います。クラッシュ症候群は被災した人の救済後に、その圧迫され続け挫滅した筋肉が解放され急激にカリウムなどが体内に広がり、心不全を起こすというもので、その致死率は高いと言います。目立った外傷もなく、救出時に元気であった人でも筋肉の圧迫と血流の遮断を受け、手足に麻痺を感じたり、血尿が出始めれば、非常に危険な状態にあると言います。阪神・淡路大震災においてケガで入院した患者二千七百十八人のうち実に一割以上の三百七十二人がクラッシュ症候群患者であり、入院患者の中の死亡原因に占める割合が最も多かったと言われています。実際には病院に搬送される前に突然死してしまった人のほとんどにクラッシュ症候群が疑われており、その死者数はもっと上回るものとも言われます。神戸の震災時、医師の間でもクラッシュ症候群は今ほどは知られておらず、ましてや一般市民の間ではほとんど知られていませんでした。そういった知識不足がクラッシュ症候群による死亡者を増やしたとも言えます。
災害の規模が大きくなれば、消防署や消防団の手だけで被災者の救出を行うことはできなくなります。阪神の震災では、救出作業の実に八割が市民によるボランティアで賄われたとも言われています。もし多くの災害の現場においてその救助活動が市民の共助と協力によって賄われることが想定されるなら、広く一般市民もまたクラッシュ症候群を理解しておくことは、一人でも多くの人命を救助するという点において重要となります。少しでも知識が共有されていれば、たとえ救出後に外傷がなくとも血尿が出たとき、クラッシュ症候群を疑い、早期に治療を受け、結果的に助かる可能性が増します。まず、クラッシュ症候群そのものについてもっと広く一般区民に知ってもらうよう、広報やホームページなどを利用した意識啓発や地道な広報活動が必要と考えますが、いかがでしょうか。
以上で、第一回目の質問を終わります。