議会活動

■2001年(平成13年)9月議会 一般質問

<子どもの虐待に対する取り組みについて>

木村 今年8月、親子が楽しく過ごす夏休み中に大変痛ましい事件が起きた。まだ記憶に新しい兵庫県尼崎市での小学校1年生男児の虐待死の事件である。つい先日は、栃木において若い父親が泣き止まない生後一ヵ月の男児に熱いミルクをかけ、平手打ちをするなどし、全治一ヵ月の重症を負わせた。どちらも実の父親または母親からの虐待である。

厚生労働省の集計によると、2000年度に全国175ヵ所の児童相談所が受けた虐待の相談件数は18804件で、これは前年度の1.4倍、10年前の17倍の数だという。

江戸川区を所轄している墨田児童相談所が把握している数値を見てみると、我が区では2000年度に60件の児童虐待の報告があった。99年度の53件、98年度の25件と比較すると、全国の傾向と同様、我が区においても虐待の報告件数は増加していることがわかる。

しかし、上記のデータはあくまで児童相談所が把握している件数だ。全国においても、江戸川区においても、実際に起きている虐待件数は児童相談所が把握している件数の倍以上であると言われている。しかし、だからといって、児童虐待という問題が最近発生し始めた新しい社会現象だというわけではない。むしろ、この問題に対する社会的意識の変化と認識の高まりが、その報告件数の増加に結びついていると理解すべきだ。

そうした虐待に対する社会的意識の高まりにより、衆議院に青少年問題特別委員会が設置され、国会の場において初めて児童虐待の問題が正面から議論された。そして、昨年の通常国会において「児童虐待防止等に関する法律」いわゆる児童虐待防止法が成立し、同年11月に施行された。新法により、法が対象とする虐待とは、親権を持つ者、後見人、または児童を監護する保護者による、18歳未満の児童に対する虐待である、と規定された。現実には、実母や実父ばかりではなく、その内縁関係にある愛人や養父母からの虐待も多く、同法の不十分さを感じないわけではない。また、虐待をした者に対する罰則規定の導入も見送られてしまった。しかし、そうした新法の問題点や課題については、同法附則第2条にある、施行3年後には現実に即した、法律見直しの検討作業が行われるという旨の規定に期待するところだ。その他、新法の中で、虐待の形態は、大きく①<身体的虐待>、②<性的虐待>、③<ネグレクト(養育・保護義務の怠慢・拒否)>、④<心理的虐待>の四つに分類、整理された。

昨日、区長は、同僚議員の質問に対する答弁の中で、区は現在、虐待についての実態調査の作業中である、と述べていた。その点も踏まえ、子どもの虐待に対する取り組みについて、私なりに検討してみたい。そこでは段階的にいくつかの分野に整理して考えることができる。それは、第一に<防止>、第二に<介入>、第三に<治療>、第四に<調査研究>、そして第五に<法的整備>である。私は以上の5つに分けて、子どもの虐待の問題に取り組むべきであると考える。

第一の<防止>とは、家庭・学校・保健所・地域などにおいて、虐待を防ぐ啓発活動や教育プログラムの導入や電話相談などを行うこと。第二の<介入>において中心的役割を果たすべきは、各都道府県と政令指定都市に設置されている児童相談所であり、同相談所にとっては警察・裁判所・保健所・医療機関との連携が欠かせない。第三の<治療>においては医療機関の役割が重要だが、外科的な治療もさることながら、虐待による子どもの心理的なダメージを治療できる経験を積んだ精神科医や臨床心理士の確保が焦眉の急である。<調査研究>では厚生労働省をはじめとした関係省庁、地方公共団体、諸研究機関が中心となって、虐待の原因究明と予防に必要なデータ収集と分析をしなければならない。最後の<法的整備>に直接係われるのは国と地方公共団体とを問わず、行政または議会であり、私たちは大変重要な立場にあると言える。

このように見てくると、私たち自治体として子どもの虐待に対して積極的に取り組むことができるのは、<防止><調査研究><法的整備>の分野である。その中でも今回は特に、児童虐待防止法の規定をフィルターとして、私たち自治体がなすべき虐待の<予防>という点に的を絞って質問をする。

同法で述べられている「地方公共団体」は多くの場合、児童相談所の設置者たる都道府県や政令指定都市を指していると解されるが、同法中には、他に、私たち区レベルの自治体にとっても重要な規定も少なくない。

まず、第4条には国や地方公共団体の責務が規定されている。ここでいう「地方公共団体」の中心はまさにいま触れた、児童相談所の設置者たる都道府県が対象と考えられるが、小中学校や、保育園・児童厚生施設等の児童福祉施設を抱える我が区としても当然、無関係ではあり得ない。私たちは諸関係機関の連携強化や体制整備、そして研修などを通じた関係職員の質的向上に努めなければならない。これは<予防>の観点からも重要な規定だ。

次に、第5条を見る。そこでは、児童虐待の早期発見が規定され、「学校の教職員、児童福祉施設の職員、医師、保健婦、弁護士その他児童の福祉に職務上関係のある者は、児童虐待を発見しやすい立場にあることを自覚し、児童虐待の早期発見に努めなければならない」と明記されている。

ここで、大阪市と葛飾区の先進的な取り組みを順次、取り上げてみたい。

まず、大阪市の例。同市では、児童虐待防止法の施行後、教育委員会が中心となって、児童虐待の防止に積極的に取り組んでいる。その動きは防止法第5条の通告の努力義務規定が拠り所となっている。同市教育委員会は、普段から子どもたちと接触し、児童虐待を発見しやすい立場にある学校の教職員に向けて『子どもの「安心」への支援』という四十数ページの手引書を作成し、配布している。その中で同教育委員会は「児童虐待を発見した者には、児童相談所等への通告の義務があ」ることを明記している。さらにまた、児童虐待を発見した場合、教職員が個々人で対処に悩んだり、また判断を誤ったりする状況を防ぐために、学校や園内に校長・担任教員・スクールカウンセラー等の複数人で構成される校園内委員会を設置し、委員会として対応を協議するシステムを構築している。そうした校園内委員会が中心となり、教職員向けに、児童虐待やその未然防止についての研修会も実施している。

そこで区長に伺いたい。児童虐待防止法の第5条の規定に鑑み、また子どもたちを虐待から守る立場から、大阪市のような区内教育施設での虐待防止の啓発活動に力を入れるべきであると考えるが、いかがか。大阪市の例で言えば、手引書の作成・配布、および校園内委員会の設置は大変示唆に富むと思われるのだが。東京都もまた大阪市作成のものと似た手引書を作成していると聞く。それを活用するという方法もあるかもしれない。

区長 いま本区の実情について様々な情報収集をしており、庁内に子どもの虐待問題に対応できるメンバーのチーム作りをしている。情報収集と調査をもとに、早急に区としての一つの対応策をつくりたい。虐待問題の発生原因は多角的、多面的であり、諸問題の関係の中で生まれていると思う。いずれにしても、こういった事態に素早く対応ができるようにすることが現在の緊急課題だ。そのための啓発活動、あるいは東京都作成のマニュアルの学校での活用などが行われるべきであり、現在も取り組んでいる。しかし、事象を発見した場合、児童相談所に持ち込めばそれでよいというものではないと思うので、一つの仕組みをつくりたいと思っている。

木村 次に、お隣の葛飾区。その前に、CAP(Child Assault Prevention)プログラムについて一言、触れなければならない。このプログラムは「子どもへの暴力防止プログラム」とも呼ばれ、1978年、アメリカのオハイオ州コロンバスで始まったものだ。文字通り、子どもたちへの暴力を防止するため、子どもたち自身が受ける研修プログラムである。現在、全米の半数以上の教育委員会が学校での虐待防止プログラムの提供を義務付けており、全米の子どもたちの三分の二がCAPをはじめとした虐待防止プログラムを受けていると言われている。また実際に、防止プログラムを受けた子どもたちの40パーセントが、プログラムの学習により各種暴力から逃れることができたという体験を述べている。

こうした子どもへの虐待を防止するCAPプログラムを都内で最初に本格的に教育現場に取り入れたのが葛飾区だ。同区では教育委員会が中心となり、2001年度には約400万円の予算をとって49の区内全小学校においてCAPプログラムを実施している。同プログラムが注目と関心を呼んでいる理由は、それが虐待の防止のみならず、子どもたちのいじめや誘拐などのさまざまな暴力や危険からの防止に有効であると言われているからだ。

そこで区長に伺う。学校という場、あるいは区内の他の施設を利用するなどし、ぜひCAPのような「子どもへの暴力防止プログラム」の実施に向けた検討作業を具体化させていただきたいと思うが、区長はどのように考えるか。

区長 情報収集や東京都作成のマニュアルの活用などとともに、区の対応作りを進めている。言及のあった大阪市や隣の葛飾区などは大変意欲的にこの問題に取り組んでおり、積極的に勉強していかなければならないと思っている。

木村 さて、児童虐待防止法の規定に戻り、最後に附則第3条について確認したい。そこでは、児童福祉法第45条にある児童福祉施設の最低基準について「児童の身体的、精神的及び社会的な発達のために必要な生活水準を確保するもの」という文言が加えられた。つまり、そよ風松島荘といった母子生活支援施設、保育所、児童館や児童遊園などの児童厚生施設といった、いくつかの児童福祉施設の設置者である私たち江戸川区は、その施設の水準を高めるためによりいっそう努力をしなければならなくなった、ということだ。特に虐待を受けた子どもたちにとって、児童福祉施設は重要な場だ。昨今、そうした児童福祉施設におけるいくつかの虐待事件が報告されているが、本来、子どもたちを守るべき場である児童福祉施設において児童虐待が起こるというのは言語道断である。私たちは、これまで以上に襟を正して、設置者として関係のある児童福祉施設の制定基準の確保と向上に努めなければならない。

区長 児童福祉施設の努力義務は当然のことであり、真摯に取り組んでいかなければならないと考えている。

木村 児童虐待防止法にうたわれている、私たち自治体にとっての基本的な責務と努力義務規定は以上述べた通りだ。その他、同法の規定にとらわれず、私たち自治体が取り組むべきことがある。

児童虐待防止法施行以来、増加する相談件数に対応しきれず、きめ細かなケアのできない児童福祉司の実態が数多く報告されている。新聞報道によると、厚生労働省は、そうした仕事を抱えすぎた児童福祉司や児童相談所のフォローのため、来年度から、特別区を含む全国63自治体において「子ども家庭支援員制度」事業を始める予定であり、そのための必要予算を来年度予算の概算要求に盛り込んだという。子ども家庭支援員となるのは児童福祉関係者、教員、保育士らの経験者と聞いている。同僚議員の質問において、地域の人々のネットワークを活用すべきであるという提案もあった。それらも踏まえ、今後、この子ども家庭支援員制度をどのように推進していくのか、具体的なイメージが出来上がっていれば、教えていただきたい。

区長 私も先般、東京都児童虐待対策課長の話を長時間聞いた。職員は手一杯ということで、職員のほうがノイローゼになりそうで、職員のケアまで考えねばならないような状況とのこと。昨今指摘されている児童相談所スタッフの不足などが、問題の解決を遅らせているという現状である。江戸川区のみならず、全国的な課題だ。区としても、そういった都の整備拡充を切望している。しばらく時間をいただきたい。

木村 児童相談所の職員が足りず、職員自身がつぶれてしまうといった陳情が国会の方にも出されているとも聞く。とはいえ、日々、虐待事件は起きており、構造的に言えば、問題の発生に対して社会的対策、政治的対策が間に合っていないという悪循環に陥っている。いっぺんに全ての問題に取り組むことはできないので、ここはできることから始めていくしかない。

 今回の質問の中で最も私が強調したかったのは、実はCAPと言われるプログラムの検討、導入についてである。江戸川区は子どもが特に多い。有用な虐待防止プログラムとなるはずだ。前述のとおり、葛飾区での同プログラム導入に対する予算計上はおよそ400万円。子どもの数の違いや費用対効果などを考えても、この額なら具体的な検討に値するものだと思う。子どもたちが学校で日本国憲法や世界人権宣言を朗読するのも大切だが、具体的に、彼らが自分たちで人間らしく生きていく主張をし、はっきりと嫌なことに対してノーと言える、そんなことを学ぶ研修プログラムとしての虐待防止プログラムを取り入れていくことも重要である。

 区長は召集挨拶の中で「子育て支援策の拡充」について述べていた。広い意味でとらえれば、子どもの虐待を防止することもまた、大切な子育て支援策であるはず。

東京都の社会福祉法人CCAP「子ども虐待防止センター」は、子どもの虐待防止のための豊富な知識と経験を持っている。区はそういった関係機関との連携を図りながら、住民に向けた児童虐待防止の啓発活動や広報活動に積極的に取り組んでいくことができる。私自身、子どもの多い江戸川区の一員として、積極的にこの問題について考えていきたい。

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