<区行財政改革への取り組みについて>
木村 周知のとおり、地方財政の問題は地方自治の根幹をなす大切な問題である。民間経済では全うできない部分や財の不公平感をなくすため、区民ニーズや時代状況の変遷にあわせ、区の行財政運営はなされていかなければならない。財政においては「入るを計りて出ずるを制」しつつ、いっぽう、行政施策においては公正な意味での区民意思を広く反映させていくことが必要。いよいよ21世紀を迎える時期に当たり、そして予想以上に長引く不況、都区制度改革の施行、少子高齢化社会やIT時代の到来という現実の時代状況に当たり、私たちは区の行財政運営や施策について、このままでよいのか、見直すべきところはないのかどうか、真摯に検討を加えていく必要がある。
9月10日に発行された広報の「区財政の現況と今後の取り組み」と題する記事の中で、区は、直面しつつある財政危機の状況を訴えていた。平成11年度の区税と財政調整交付金が100億円近くも減り、さらに各種基金も減る一方で、人口、特に子どもの増加、そして高齢化の進展、あるいは都区制度改革の施行や都の福祉施策の見直しによって行政支出は逆に増えている。財政収支のバランスはすでに崩れており、今年度は85億円の不足だ。このまま現行施策の見直しを行わなかった場合、2年後の財政収支バランスにみる不足額は現在の倍近い160億円に達するだろう。広報に「区の財政は今、黄色の信号が点灯しはじめたといえます」とあったが、財政収支のバランスがマイナス化している現況を見ると、限りなく赤信号に近い状況下にあると言っても過言ではない。行政改革、施策の見直しが必須であることは、もはや火を見るよりも明らかだ。
区長は、第三回定例会召集挨拶の中で、こうした区財政の置かれた厳しい状況を受けて、健全財政の維持および安定化した行政運営のために、さまざまな課題の再検討が必要であると訴えていた。区の厳しい財政状況を率直に踏まえた上で、区の諸施策の見直しについて問題提起する姿勢は的確なものであると評価する。
まず、熟年者激励手当の見直しと福祉先進区としての新制度の創設、長寿入浴券や長寿祝金の再検討など、福祉事業の見直しが第一に挙げられる。福祉先進区としての精神は堅持しながらも、これら福祉事業の施策の見直しを行うことは時代の要請であろう。次に、受益者負担の考えに基づき、施設使用料、保育料、学童クラブ育成料などの再検討が必要だ。さらに、諸関連事業の一元管理化、あるいは諸事業の民間委託化なども検討されるべきだ。もっとも、現在働いている職員に不安を与えるようなことがあってはならない。一時的に人件費が膨らむことにはなるが、長期的に見れば、こうしたなお一層の内部努力による行政運営のスリム化が支出の削減に結びつく。
こうした施策の見直しはいずれも財政収支の増減に直結すると見込まれるが、これを実践せんとする区長の決意の程をお聞きしたい。区長は、これらを躊躇することなく、果敢に実践する決意をお持ちか。
区長 健全な自治体として今後も持続的な発展をしていくためにやらなければならいないことは勇気を持って断行していく決意だ。
木村 先に述べた具体的な見直し事項のように財政収支の増減に即時に直結はしないものの、重要な諸課題が他にもある。区長が召集挨拶の中で言及した今日的な環境問題への対応、子どもの教育のあり方の検討、ボランティア社会づくりなどがそれである。情報化の推進とあわせ、こうした、時代状況に応じた行政施策の継続検討がなされることを強く期待する。
区長 環境問題、教育問題についても、時間はかかるが、多くの方々の知恵を頂きながら前向きに努力していきたい。
木村 さて、厳しい区の財政状況における施策の見直しという課題とは別に、財政の「入り」の部分で大変重要な区の仕事がある。それは、都区間の財政調整問題において、特別区としての率直な立場を都に対し引き続き主張していくということだ。財政調整交付金の総額を決定する配分割合は差し当たり52%ということになったが、今後も状況に応じて都と見直しの協議を行っていくことになっている。清掃事業費、小中学校の増改築費、都市計画交付金などが、都区間配分の課題として残っている。我が区としても特別区の立場で都に対する強い主張を行っていくことは間違いないと確信しているが、都区財政調整の問題について、改めて区長の決意を伺いたい。
区長 財政調整の問題をはじめ、様々な東京都との関係の諸課題が残っている。財政調整交付金の52%という配分は、都区協議のあり方、あるいは決着のつけ方において、大変不本意であった。われわれ23区側としても、さらに継続協議していかなければならない。
都区協議会でひとまず決着をつけた際、5つの事柄について確認をし、将来の課題として残している。簡単に言うと、ひとつは、清掃事業費において財調に含まれていない745億円が都に留保されている問題。他に、小中学校の老朽校舎の改築経費の問題、都市計画交付金のあり方の問題、都区間における大都市事務の役割や財政の分担についての問題、そして財政調整交付金の52%の問題。
区長会とともに、私も強い決意を持って東京都との協議に臨んでいく。
木村 行財政改革に関し、最後に、今年度から導入されるバランスシートについて、簡単に言及する。
昨今、多くの地方自治体の財政危機が叫ばれるようになるのと平行して、バランスシート、つまり貸借対照表の作成の必要性が指摘されるようになってきた。単式簿記だけでは、土地建物などの財産の経年価値の把握や、ストックとフローの関連性を掴むのが困難であり、自治体の総合的な決算状況を把握するのには自ずから限界があった。そんな中で、民間企業の決算で利用されるバランスシートでは固定資産を含めた資産の一覧と、借入金や退職手当引当金を含めた負債残高の一覧とが対照表示されるので、一見して正味資産の把握が可能だ。また、毎年、バランスシートの決算を作成していけば、経年ベースでの正味資産の変化が把握でき、財政状況とその変化がより一層把握しやすくなる。財政状況の悪化している自治体にとってバランスシートの作成は、歳入歳出決算では起こせない部分を明示できる有効なものと言える。さらに、バランスシートでは区の正味資産が金額で示されるため、職員や議会のコスト意識が高まることも期待できる。
我が会派としても区のバランスシート作成を大きな進歩と評価している。まずは、初めてのバランスシート作成ということを受けて、それに対する区長の目途や考えをお伺いしたい。固定資産の減価償却の算出方法などの苦労や試行錯誤はあると思うが、少しずつ改良を重ねる中でよりよいバランスシートの作成を目指して頂きたい。
区長 バランスシートはいま作成準備をしており、12月ごろに公表できると思う。これまでの財務諸表では表現できなかった投資効果の問題や資産と負債の関係などが明らかとなり、区民にも財務状況の実態がより正確に把握してもらえる。区の職員にとってもコスト意識が得られ、バランスシートから得られるものが多々あると思っている。
<ドメスティック・バイオレンスの実態と対応状況について>
木村 昨今、「ドメスティック・バイオレンス」という言葉を頻繁に耳にするようになった。新聞や雑誌等でもしばしばこの問題が取り上げられている。「ドメスティック」という語は英語で「家庭内の」「家族の中の」という意味。いっぽう、「バイオレンス」は「暴力」を意味する。つまり、「ドメスティック・バイオレンス」とは、「家族の中の暴力」のことを意味する。「ドメスティック・バイオレンス」を「女性に対する暴力」という狭い意味で使用する時もあるが、広義には「家族の中の暴力」を指す。
一般的に言って、「家族」というものは愛情と信頼で結びついており、暴力とは最も縁遠いものであると思われてきた。あるいは、他人の家庭内のことにはむやみに立ち入るべきではないという内政不干渉の考えも根強くある。そういった理由から、これまで<第三者から切り離された家庭という密室内での暴力>は物理的にも、心理的にも明らかにされにくいものだった。しかし、事実は、家族の中に暴力が存在しないのではなく、「発見」されにくいだけであったということだ。
「家族の中の暴力」には主に四つのパターンがある。第一に<夫から妻への暴力>、第二に<親から子どもへの虐待>、第三に<思春期の子から親への暴力>、そして第四に<高齢者に対する虐待>である。兄弟間の暴力、あるいは妻から夫への暴力などもないわけではないが、絶対数において類別するなら、大きくは前述の四つのパターンに分けることができる。今回、第一のパターン<夫から妻への暴力>を私は取り上げたい。
<ドメスティック・バイオレンス>あるいは<夫から妻への暴力>というと、とかく女性が取り上げる問題、あるいはフェミニストが扱う問題というステレオタイプ化された考えがまだ一部にはある。しかし、それは全くナンセンスだ。<夫から妻への暴力>の問題を見るとき、その構図は、腕力のより強い夫による暴力の被害者が<妻という家庭内の弱者>であるということであり、本質的に言えばこの問題は女性問題ではなく、むしろ加害者としての男性の問題であるとさえ言うことができる。いや、さらに正確にとらえるなら、女性問題であるとか男性問題であるとかということではなく、看過できない人権侵害問題ととらえるべきものである。女性が論じようが、男性が論じようが、もはや問題ではない。
<ドメスティック・バイオレンス>あるいは<夫から妻への暴力>において指摘されているのは、その暴力のほとんどが、女性蔑視や性別分業意識などを持った夫やパートナーが自分の意見が通らなかったり、気に入らないことがあった場合に、その解決手段として使われているということだ。暴力の原因は貧困や教育レベル水準とは必ずしも関係がない。むしろ、暴力を振るう夫は会社員や公務員や教員など社会的地位の決して低くない人たちである場合のほうがはるかに多いとさえ言われている。
こうしたいくつかの特徴を見てくると、<ドメスティック・バイオレンス>あるいは<夫から妻への暴力>は、単なる一家庭の問題または一人の暴力的な夫の問題ではなく、時代錯誤的なジェンダー意識に発する社会的問題、あるいは地域社会の中で取り組んでいかなければならない人権問題であると指摘できる。
85年の「女子差別撤廃条約」の批准、93年の国連総会における「女性に対する暴力の撤廃に関する宣言」の採択、94年の「男女共同参画審議会」設置、95年の第四会世界女性会議開催、あるいは99年の男女共同参画社会基本法の成立などを経て、日本における女性の人権意識が高まってきた。今年6月にはニューヨークにおいて「国連特別総会・女性2000年会議」も開かれた。
そうした人権意識の変化の中で、昨年5月には小渕前首相のもとで、男女共同参画審議会が『女性に対する暴力のない社会を目指して』と題する「我が国における女性に対する暴力に関する基本的方策に係る初めての」答申を提言した。その答申の中では「現状と問題点」として、「不十分な実態把握」、また「被害者に対する援助・救済の充実の必要性」などが指摘されている。「不十分な実態把握」という点に関しては、前述の第4回世界女性会議の行動綱領においても同様の指摘がなされた。すなわち「暴力の発生に関する男女別の十分なデータと統計の欠如が、入念な計画の策定と変化の監視を困難にしている」のだ。
残念ながら、我が国においては警察庁による犯罪統計書の他には、女性への暴力に関する国による本格的あるいは全国的な統計調査はまだ一度も実施されていない。97年に東京都が都民を対象に行った「女性に対する暴力に関する調査」が公的な調査の最初であると言われている。
実態調査をすることの意味は、第一に、先の指摘にもある通り、問題解決のための確かな対応策を作り上げるために必要なデータの収集である。そして、第二に、問題に対する啓発である。そうした二つの意味においても、ぜひ我が区においても<ドメスティック・バイオレンス>あるいは<夫から妻への暴力>に関する、またはそうした項目を含んだ暴力による人権侵害問題に関する実態調査を実施してほしいものである。
さて、東京都による調査には、<性別役割意識調査><夫の妻に対する行為についての意識調査>の他に<52人の被害体験者への面接聞き取り調査>等が含まれている。そこからは夫の暴力による具体的な被害の状況やそれに対する警察や自治体などの対応の実態などを伺うことができる。52人の被害体験者の中には骨折に至ったケースが7件、歯を折られたケースが4件、脳しんとうまで起こしてしまったケースが2件など、かなりの深刻な状況を窺い知ることができる。
同様のデータは、日本弁護士連合会が91年より女性を対象に実施している「女性の権利110番」という電話相談からも得ることができる。同110番には多くの女性から<パートナーからの暴力>に関する相談が寄せられている。30代から50代にかけての女性からの相談が最も多く、また結婚生活10年以上の夫婦間の暴力が半数以上であるという。
転じて、江戸川区においては、女性センターが開設された平成11年4月から今年8月までの17ヵ月間の実績記録によると、同センターに寄せられた夫の暴力に関する相談の合計は123件。平成11年度の12ヵ月間に寄せられた相談件数が76件、そして今年度はこれまでの5ヵ月間ですでに昨年を上回るペースの47件の相談が寄せられている。すでにこれだけ多くの女性が夫やパートナーの暴力の恐怖に脅かされているわけだ。区長としては123件という数字をどのように評価されるのか。私は、これまでの調査の結果からも類推されるとおり、数字は氷山の一角であり、看過できない人権侵害問題が確実に発生していると考える。
区長 大変ゆゆしき問題である。女性センターの開設後、指摘のとおり123件の相談があった。そのように現れた数字は確かに氷山の一角であり、潜在化しているものがどのような状況であるのかわからない。そこを明らかにしていく必要がある。
木村 次に、公的機関に助けを求めた被害者によるその対応への評価である。都の調査によると、公的機関に助けを求めた被害者の半数以上が、「夫婦げんかだ」「家庭のことには立ち入らない」と言われ、その不十分な対応に不満を抱いている。日弁連の電話相談の蓄積データによると、暴力に悩む女性のうち警察に通報したことがあるのは約四分の一だが、そのうちの7割は警察の対応が全く不十分であったという思いを持っているようだ。
さらに、夫の暴力から避難したことがある女性は約6割だが、避難先は実家や知人宅がほとんどであり、公的機関への避難はわずかに2.82%にすぎない。これは公的機関が何もしなくてよいということの証左ではない。そうではなく、夫やパートナーの暴力に悩む女性の少なからずが「どこに相談したらいいのか分からない」という不安状況にあるということだ。公的機関の対応とあわせ、公的機関の広報のあり方、さらにシェルターの確保の問題等について考えていかなければならない。
現在、各都道府県に設置されている婦人相談所内の一時保護所は売春防止法34条1項に基づくものであり、同施設が設けられた時代と現代との社会状況が大きく異なっている。そのことを考え合わせると、現在指摘されているドメスティック・バイオレンスはこれまでの婦人保護事業政策では十分に対処できない。
我が区において平成11年4月に開設された女性センターは大変重要な一歩であると評価している。しかし、多くのドメスティック・バイオレンスが現在進行形で発生しているという現状を考えると、区の対応が、女性問題に関する啓発活動や資料館の機能を持った女性センターだけだとしたら十分ではない。長期滞在用の公的シェルターを自治体内部で設置することには様々な難しさがあるとしても、例えば、その日の暴力に脅え駆け込んできた女性に対し、緊急避難用の短期の安全な滞在先の提供や区内外の民間シェルターとの連係システムの確立などは、これまで以上に求められてしかるべきだろう。
暴力の被害者に対する援助・救済制度の必要性は確実に高まっている。冒頭に取り上げた答申の中では、相談窓口の利用しやすさのアップ、被害者をケアする担当者の養成、公的機関による対応の充実などが求められている。女性センターのあり方も含め、区としては、増え続ける<暴力に悩む女性>に対し、どのような充実化を図っていく用意があるのか。
区長 さしあたり女性センターで相談を受け付けているので、PRも行いながら、女性センター中心に対処していきたい。意識啓発も進めていかなければならない。
木村 特に深刻な場合には、その日の暴力におびえて駆け込んでくる人もいる。そういった人のために、一時的な滞在場所の提供があってもよいと思う。それは女性に対してだけではなく、虐待を受けた子どもやお年寄りに対して提供される場合もあるだろう。人権問題という大局的な視点から、福祉先進区である江戸川区として一時保護の場の提供を検討して頂きたい。
区長 のところ区としての独自のシェルターの用意は考えていないが、現行制度を活用しながら取り組んでいきたい。将来的な課題だとは思っている。
木村 総理府の男女共同参画室が96年に発表した「男女共同参画プラン」では、「女性に対するあらゆる暴力の根絶」が政策目標として掲げられている。そして、自治体の中には、女性に対する暴力の根絶を政策目標として掲げるに至っているところもある。人権問題に対する、区長の毅然とした態度と正義感に今度とも期待する。