プラントハンター   猫背  メッセージ



  


高田敞


 パンジーが真っ盛りだ。去年の9月に種をまいた。暮れのころには、ポツリポツリと咲き出したが、きれいに咲きだしたのは3月になってからだ。

今までもずいぶんパンジーは育てているが、店で売っているように、秋から咲かせることはいまだにできない。でも、どうせ冬は寒そうにいじけているからいいやと、隣の家の買ってきて植えたパンジーを横目で見やったりしている。

 プランターや、庭や、塀と道路の間や、義母の庭にも植えるので、7、800本ほどの苗を育てる。だから自分で種を取ってまく。今の花は三代目だ。あの大地震の年、放射能のことでほとんど庭仕事をしなかった。だから、その年は種まきもしなかった。そのためそれまでのパンジーは途絶えた。翌年の春、苗を買ってきて少し植えた。その種を取ってまいたのが今のパンジーの始まりだ。何種類か植えたから、交雑してか、もとの花とは違った色や模様の花が咲いた。白、黄、えんじ、水色から濃紺。黒の花まである。模様も、白に水色の縁取り、黄に紺の縁取り、ミッキーの顔のようなのから、髭面の猿のようなの、さまざまに変化した。大きさも、野にある菫くらいの小さな花になったのもある。原種がえりなのだろうか。背丈も、コンパクトにまとまるのから、伸び放題に茎をのばすものまでさまざまだ。

咲く時期もまちまちになった。パンジーは普通の菫のように元は春咲きで、日が長くならないと花が咲かない長日性という性質があったのが、秋から咲くように改良されている。その性質がよみがえったのだろうか、株は大きくなっても春にならないと咲かないのがでてきた。

庭やプランターで、こぼれ種から勝手に芽が出て育つのがあるが、大概は花が小さい。ほっといても勝手に芽が出て育つのは、野生の性質がよみがえったものだからかな、と考えたりする。

 パンジーの種まきのコツは二つある。

一つは覆土だ。

 種の袋の説明には土をかけるように書いてあるが、そのとおりに土をかけると芽が出ない。私も以前はそのとおりにやっていたが、いつも芽が出ないのでパンジーは難しいと思っていた。あるとき、まいた鉢の一つを蹴飛ばしてひっくり返してしまった。その土を鉢に戻したら、その鉢からだけ何本か芽が出た。それでひょっとしたらと思って、まいた後に土をかけずに置いた。そうしたら芽が出た。発芽するのに光がいる好光性種子だったのだ。今は土をかける代わりに新聞紙をかけている。光は通るが乾燥は防げるからだ。それ以来、パンジーの種まきに失敗したことはない。

もうひとつは土だ。庭や畑の土ではほとんど芽が出ない。畑に直播きしても、出すぎるほど出る野菜の種とは違う。種まき専用の土でなければ駄目のようだ。

 

 昔、やはり種を取ってまいた百合が今年も芽が出た。数十本出たのが、だんだん減って今年は10本ほどだ。少し大きくなっている。葉っぱ1枚から始って今年は小さな葉を数枚つけている。でも、ひょろっとして、小さな葉しか出ていないから、伸びてもせいぜい10センチほどだろう。もう4,5年になるのにそんな状態だ。この分では花が咲くまでこちらの命が持つかどうか。それなのに懲りずに百合をまいている。一昨年まいた百合も今年初めて芽が出た。去年まいた4つの鉢の内2鉢からも芽が出た。普通二冬越さないと芽が出ないのに、と、早く出たのを喜んでいる。

芽が出るまで時間がかかるのにクレマチスがある。今まで、クレマチスの種も採って何度かまいたがいつも出たためしがない。今年、片付け忘れていた植木鉢から勝手に生えている野生の菫の間から見たことのない芽が10本ほど出ている。指してある名札はクレマチスだ。そうかもしれない。いつまいたのか分からない。おそらく野生の菫が出てきたので、捨てずに置いておいたのだろう。やはり冬を越さないと芽が出ないのだろう。けがの光明、それとも待てば海路の日和、かな。

何でも種をまく。百日紅の種がなったらそれをまく。さつきの種が見つかったらそれをまく。松の種やら、姫柿の種やら手当たり次第だ。だから、それらの小さな木が、いっぱいある。植えるところもないので、ぎっしりになって育たないから、花も咲かない。

 

昔、ときどき思ったものだ。今の仕事じゃなくて、園芸家になって、植物を育てる仕事をしていたら良かったなあ、と。「仕事になったら大変よ。趣味だから楽しいのよ」と久美子はそのつど言いいいした。たしかにそのとおりだろう。それで家族とともに食っていくのは私のような怠けものには至難の技だと思う。でも、と今でもときどき思う思う。

そんなときも、もう遠い昔のことになった。上では桜も椿も木瓜も満開だ。パンジーやチューリップや、庭中花だらけだ。その中に、そこのけそこのけと、百合や、芥子や、千鳥草や、おだまきや、ジキタリスや、いろいろな花が、芽や葉をわれがちに伸ばしている。春真っ盛りだ。