雑談目次
仲良きことは美しきかな
春に向けて

ゴシップ


田 敞


「眞子さんと圭さん結婚式上げないんだって」

 今見たニュースを久美子に伝える。

「今どきだから」久美子はあっさり答える。

「そうかな、結婚式にあこがれる女の人って多いんじゃない」

「そんなことないわよ。博さんとこだって、娘さん誰も結婚式上げなかったって言ってたわよ」

「そんなもんなんだ」

「そうよ」

「だけど、天王家の親戚だろ。変だよ。結婚式くらいさせてやってもいいだろうに」

「やりたくないって言うんだからいいんじゃない。圭さんが変なのよ。何かいばって会見して。お母さんだって、400万くらい返せばいいのよ」

「母子家庭だろ。金ないんじゃない」

「他にもいっぱい変なのよ」

「人間は神様じゃないから、誰だって突っつけばぼろはいっぱいでてくるよ。俺なんかだってつつかれればぼろぼろ。俺のあら書いても誰も見やしないから相手にしないだけ。週刊誌なんて有名人のあら探しして、それを記事にして金儲けしてんだろ。人の弱み突っついて稼いでいるやつにろくな奴いないと思うよ」

「週刊誌ってそればかりじゃないわよ。政治家や権力者の悪だって暴くでしょ」

「まあ、中にはそういう週刊誌もあるかも」

「アメリカで暮らすんでしょ。他の人の考えも聞かずに自分の都合だけじゃない」

「自分の都合じゃないと思うよ。あれじゃ日本じゃ暮らせないよ。日本にいたら、毎日あら探しの記者らが、うろうろ付きまとうもの。なにか見つけたら記事にして、それをみんなが見て後ろ指さす暮らしだよ」

「それなら、いいとこ見せればいいんじゃない。逃げだすのは卑怯でしょ」

「ゴシップは売れても、いいことは売れないから週刊誌はいいところなんか書かないから。だいたいマスコミににらまれたら終わり。勝てる奴はいないって」

「そうかしら、良いことだって書いてるわよ」

「まあ、そうかもしれないけど、見るほうだって、ゴシップを見たがってるんじゃない。いいこと書いてあってもそれは絶対広がらないから」

「そうかしら」

「そうだよ。小保方氏のスタップ細胞騒ぎのときだって、彼女を肯定する記事もあったけど、みんなが信じたのは悪口の方だけだよ」

「ホントだからじゃない」

「違うよ。あんなチャラチャラした小娘にないができるなんてことで判断してるだろ。科学じゃないよ。不倫なんてデマまで流しておとしめてるし。みんなはそれで判断してるんだから、本当のことなんかわかってないよ」

「圭さんの場合は本当よ」

「そうかもしれない。でも、人のあらほじくり出しておとしめるなんてやり方は卑劣だよ。やった方の人格を疑うね」

「マスコミはきれいごとばっかり言うのが仕事じゃないんじゃない」

「汚い仕事だと思う。あれって丸っきり集団いじめだろ。職場のボスがやっつけたい人を見つけてあら探ししてみんなに触れまわって、みんながそうなんだ、と言って後ろ指差していじめてるやつ。職場のボスが悪口を流すか、報道の自由を標榜するマスコミが正義面して悪口流すかの違いだけで、やってることはおんなじだよ」

「同じかしら」

「違いはあるよ。マスコミは金儲けのためにやってるから、余計悪だよ。職場や学校ならそこを出たらいじめから逃れられるから少しは救いがあるけど、マスコミはそうはいかないから。日本中に悪口を流してるだろ、どこに行っても後ろ指さされるんだよ。それに、家の前に張り込んでるし、つけまわすし、一日24時間見張ってて悪口のネタ探ししてるし。一日中見張られてんだよ。日本国中の徹底的ないじめだ。良く耐えてると思う。たいしたもんだ」

「最初にお金のことちゃんとけり付けたらこんなことにならなかったんじゃない」

「おんなじだと思う。それがなくても、なにか違うこと見つけて攻撃したと思う。問題は金のことじゃないと思う。一番の問題は、母子家庭で、しかも借金があって何のとりえもない家庭だということだと思う。もし圭さんが、徳川家や、元貴族の血縁だとかで、金持ちだったら、こんな問題は絶対起こらなかったと思う。マスコミも賛辞を送ってとっくに結婚してたよ。盛大な結婚式上げて、支度金もらってもだれも文句言わないと思うよ。」

「でも美智子さんも、眞子さんも、紀子さんも平民でしょ」

「そうみたい。でも家柄がまるっきり違うもの。何のとりえもない母子家庭の子だもん。身分が違うって考える人が結構いるんだよ。平民て言葉がいまだに普通に使われているだろ。国民は平等だって憲法にはあるけれど、地位や家柄や金やなんかで普通に上下は付けてるから。特に、天皇は男でなくちゃならないって言ってる人たちは天皇家は由緒正しくなくちゃならないと考えてるから、母子家庭で、借金してる貧乏小僧が、天皇家の親戚になるどころかゆくゆくは天皇の義兄になるなんて、許せないんじゃない。」

「そうよね、だからかしら、学習院じゃなくて、キリスト教の大学に進学させたのが間違いだっていってる人もいるわよ。だからあんな人選んだんだって」

「そういうこと。なんだっていちゃもんつけるの。そういう人が裏で暗躍していると言ったら都市伝説か。ま、そこまでではなくてもそう人たちはなんとしてもこの結婚を破談にしたかったと思うよ。眞子さんが粘ってねばって、やっと少しだけ勝ったみたいだ。愛の勝利だな」

「先は長いから、うまくいくかしら」

 たぶん、久美子は、あんな人とうまくいくわけがない、と思っているのだろう。週刊誌をいっぱい読んでいるから。他に良い男はいっぱいいるだろうに、引く手あまただろうに、って。

 婚姻届出せばもう誰も手出しできないし、アメリカに行けば悪口も遠のくし、自分たちの暮らしに専念できるのじゃないかな。マスコミもすぐ次のゴシップ追いかけるし、マスコミが取り上げなくなったら、みんなもすぐ忘れるから。でも、天王家を奉らせようとしている人たちは忘れはしないだろうな。やがてどうしても彼が天皇の義兄になる日が来るのだから。その日の前になんとしても別れさせようとするかもしれない。

「彼女だって、皇族としてでなくても普通に結婚式くらい上げたかっただろうけど、この状況じゃ許されないもんな。支度金だって、貰ったら週刊誌は飛び付くよ。国中大ブーイングが出るんじゃない。みんなと関係ない400万だって大騒ぎなのに、それを税金が1億越えだよ」

「そんなに出るなんて困っている人いっぱいいるのに」

「だから、ここはできるだけひっそりとアメリカに逃げだすしかないと、本人も、家族も考えたんじゃない。ほとぼりが冷めるまで長いわらじを履け、ってとこじゃない」

「かわいそうよね。せっかく皇族の家に生まれて、将来は天皇の姉だったのに」あんな男のために、と続けたかったのかも。

「ま、定めよ。誰もいろいろ大変なんだから。結婚してアメリカで暮らせるんだから、凡人に比べたら、よっぽど恵まれてるよ」

「普通の人に比べたらそうかもしれないけど」

「今どき結婚したくてもできない若者がいっぱいいるっていうから、それに比べたらよっぽどましだよ」

「それは実力がないからでしょ」

「そ、実力。弱肉強食、自由社会なんだから。圭さん頑張れ、世論なんかに屈するな、だね」

「愛は強しね」          

 

(注:令和3年10月1日記