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鈴虫

田 敞

 

鈴虫を貰った。同じクラブの人の娘さんが飼っているという。何でも、いっぱい孵ったからおすそわけだそうだ。ちゃんとケースに専用の土を入れて、止まるための薄い板も爪楊枝で支えて土に立て、それにいっぱいとまっていた。鈴虫というよりゴマ粒だ。餌も付けて、至れり尽くせりで、箪笥長持ちをしょってきた嫁さんのようだ。それが2週間たつと、ハエくらいに大きくなった。大きくなるとうじゃうじゃ足の踏み場もない状態だ。

 餌は、専用の餌をペットボトルのふたや、栄養ドリンクのふたに入れて置いてやっている。それにナスと、キュウリを爪楊枝で刺して土に突き刺している。2日位でかびるからというので、2日に1回取り替えている。まあ、ナスやキュウリを切って楊枝に刺したりするのはちょっと面倒だが、犬の散歩に比べれば面倒みるうちにも入らない。

 最初の頃はどこを食べたのか分からなかったが、今は餌は結構なくなるし、ナスもキュウリも、かじった跡が穴になっている。

 昔は、犬や猫や、インコなどがいてにぎやかだったのだが、今いるのは、メダカに、熱帯魚だけだ。静かなものだ。

 メダカは、かなり前からいる。ときどき行く大きな花屋で変わったメダカを売っていたので買ってきた、10匹はいたろうか。それが今はずいぶん増えた。水連が増えて、スイレンを入れている鉢が増えたので、そのボウフラ退治が目的だったのだが、赤やら銀色やらまだらやらのメダカだったので、増やした。メダカは自分の子供を食べてしまうのでそのままではなかなか増えない。そこで、水草を入れておくとそれに卵を産む。いくら見ても卵があるかどうかわからないから、10日ほどしたら、その水草をほかの入れ物に移すと、次の日くらいから次々と生まれてくる。子供用の餌を日に何回も与えると、少しずつ大きくなってくる。ボウフラくらいになるのにひと月ほどかかる。2カ月もするとメダカっぽくなってくるのだが、そこまで育つのは半分もいない。死んじゃうのか共食いするのか、分からないが、消えていく。それでも今は、バケツが10個ほどある。100円ショップのバケツだ。

 グッピーは、メダカの餌を買いに行っていたホームセンターで売っていた。メタリックで、いろいろな色がいて、メダカよりよほどきれいなのだが、メダカより安い。で、つい買ってきた。最初はバケツと並んで、外にいたのだが、秋になって、寒さで死に出したので、水槽を買ってきて、家の中に入れた。グッピーは卵胎生のメダカで、次々に子どもを産むので、どんどん増えて、うじゃうじゃ泳いでいる。メタリックな体と、身体より大きい赤い尻尾をひらひらさせて泳いでいる。やはり親は子供を食べてしまうのだが、金魚藻が繁殖して茂っているので、その中に逃げ込んで、生き残るのがいるので、勝手に増えている。最初は、グッピーとネオンテトラとメダカを入れたのだが、メダカはいなくなった。グッピーはメダカの仲間だから、勢力争いに負けたようだ。ネオンテトラはまだ3匹生き残っている。共存しているようだ。

生物学ではニッチというのがある。普通は隙間という意味だが、生物学では隙間ではなく棲みかというくらいの意味だそうだ。同じ棲みかには一種しか住めないというのが自然界の掟だという。だから、同じメダカの仲間は、どちらかが生き残るしかないようだ。同じ水槽でも、まるで違う種類の魚は、食べ物が違ったり居場所がちょっと違うと、共存できる場合があるという。人が居間にいて、天井裏にネズミが住んでいるようなものだ。

同じメダカの仲間はどちらかしか生き残れないようだが、違う種類のグッピーとネオンテトラは共存できるようだ。初めは同じようにキラキラの体だから、仲間同士と思っているのかなと思ったのだが、そうではないようだ。メダカの方が近い仲間なのだから一緒に仲良く暮らしたらよさそうだがそうはいかないようだ。近親憎悪とでもいうのだろうか。ほとんど毎日のように親子の殺人のニュースをやっているようなものか。

 ヒトも、地球上には今ホモサピエンスしかいない。1種類だけだ。いろいろいたほかの人類はみんな死に絶えている。この広い地球にいくらでも住むところはあるだろうにことごとく滅びてしまったようだ。そのホモサピエンス内でも、殺し合いは果てしなく続いている。もう少し、何とかならないものだろうかと思うのだけど。ま、テレビを見ると、アニメも、ドラマも、戦争だらけだ。子どもも大人もそれ行け頑張れと大量殺人を応援している。まあ、少なくとも5億年くらい前から、生きものは食うか食われるかの生活を送り、ニッチの奪い合いを日常茶飯事に暮らしてきた。その進化の果てがヒトなんだから何とも仕方がないのだろう。知恵があるのだからもう少しうまくやれるのではとも思うのだが、知恵があるだけ、簡単にいっぱい殺せるようになった。そっちの方が大きな顔をしているようだ。

 

「あんな小さな目でよく見えるわね」と久美子が言う。

「ほんとよくわかるよ」

 私は応える。

 私がグッピーの水槽の近くに行ったので、こちらのガラスにみんな集まって、乱舞している。

「餌がもらえるって思うのよ」

「餌は向こう側にやるのにこっちに来るんだよ」

 それでちょっと餌をやる。でもあんまりやらない。以前はいっぱいやっていたのだが、そうすると水が汚れて腐敗するのだろう、次々に死んでいくグッピーが出たので、最近は集まって乱舞してもたまにしかやらない。

 庭のメダカは踊ったりしないでおとなしく餌を待っている。鈴虫は人間など目に入っていないようだ。そこに餌があるから、勝手に食べているという感じだ。

 昔はイヌがいて、散歩に連れて行けだの腹減っただのうるさくしていたが、静かなものだ。

 もう、あんまり面倒な生きものは飼えない。これくらいでも多い。足の踏み場もない鈴虫に、入れ物を買ってきてやらなくちゃと思いながら、買いに行けない。少しでも用事にかこつけて動いたほうがいいいのだが。

 でも、こんなにいっぱいの鈴虫が鳴き出したら、とても寝てられないんじゃないかと取り越し苦労をしている。