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濡れ衣２
髙田 敞
セイタカアワダチソウが咲いている。そこここのちょっとした道路沿いの空き地にも、捨てられた畑にも我がもの顔だ。背よりも高くなって咲き乱れているところもあれば、背丈が腰くらいにそろってお花畑のように咲いているところもある。夏に一度刈られたのだろう。一面の淡い黄色が秋の日に映えているのは美しいものだ。しかし、これを美しいと見る人はほとんどいない。私にはススキと混ざっているところではススキが邪魔に思えるのだが、やはりほとんどの人は、この黄色い花が邪魔だと感じているのじゃないだろうか。
なぜなら、この花は嫌われ者だからだ。先日も、知り合いのひとがブタクサが咲きだした、と言っていた。豚というのは蔑称だ。あだ名としたら最低のあだ名だ。それくらい嫌われているからだれも美しいとは思わない。
この花がよくない花だと知ったのは、私が、おそらく中学か高校生のころからだからもう５０年以上昔になる。新聞に、この草が、異常に速く日本中に広がった不思議について書いてあった。ミツバチ業者が蜜を取るために、行く先々で植えていったからだということだった。もうひとつの理由は、根から毒を出して、他の草をやっつけるということだった。日本の在来の草をやっつけてはびこっているということだ。日本のふるさとの景観である、ススキのなびく野原が壊される。悪い帰化植物だということだった。蜜も、味がよくないので、ミツバチの越冬用の蜜にするということだった。いいとこは一つもないのだ。
今、この町では、夏になると、外来植物のオオキンケイギクを抜き取ろうということが回覧板などに載っている。実際抜き取っているから、この町の道路沿いにはオオキンケイギクはない。車で隣町との境界を超えるととたんにキンケイギクの群れに出会う。テレビでも池の水を抜いて、外来生物を退治している番組が流行っている。
あの頃はまだ外来生物という言葉はなかったような気がする。帰化植物だった。当時も、昔からある帰化植物のハルジオンやヒメジオンはびんぼう草などといわれて、嫌われていたから、まあ、よそものは昔からあまりよくは思われていなかったのだろう。ハルジオンやヒメジオンを外来植物と思っている人は今はほとんどいないから、わが町でも抜き取ろうというキャンペーンはしていないからか、道路沿いにはわがもの顔だ。
セイタカアワダチソウが嫌われたのは、黄色くて鮮やかなオオキンケイギクが目立つから嫌われたように、花が目立ちすぎたからではないだろうか。同じように荒れ地に生える外来植物のアレチノギクなどは、花らしい花をつけないからだろう、だれも見向きもしない。子供のころ、茎が長いので、チャンバラごっこのときに刀にしていた。あたっても痛くないからだ。また、真っすぐなので弓の矢にして飛ばしたりしていた。子供以外見向きもされない草だ。チャンバラごっこも弓もやらなくなったこのごろでは子供も見向きもしないだろう。だから、抜き取ろうというキャンペーもない。
でも、目立つ花はたくさんあるのだから、目立つから嫌われるというだけでは理由にならない気がする。ちょうどアンポハンタイとかの運動があったころで、アメリカから渡ってきたセイタカアワダチソウは嫌われたのかもしれない。それとも戦後も１０年を超えてそろそろまた愛国の考えを広めようとしていた時期なのかもしれない。それとも、アメリカから来た得体のしれない草のくせに地味なススキより派手で、日本の草をやっつけて日本の野の景観を奪っている草に、戦争に負けた悔しさが重なったのかもしれない。もちろん、このあたりの理由は私の勝手な憶測だ。しかし、誰かが何らかの意図を持って始めたのじゃないかという気はする。
何にしろ、その当時は、この草は毒を出して日本の素晴らしい草をやっつける悪者という感じで新聞には書いてあった。そしてそれは形を変えてポツリポツリだけどずっと続いていた。
それが濡れ衣であるのは「濡れ衣」で以前書いた。言えばこの草は、道路工事や、空き地や、耕作放棄地などの荒れ地に生える。自然が豊かなまま残されている山や野原にはほとんど生えない。在来植物のガードが堅いのだ。一番は植物が生きていく方法に、道徳を持ちこんで悪いの良いのという方がおかしいのだ。牙を持たない縞馬を食べるライオンは悪党だというのと同じことだ。
最近は、ブタクサというあだ名がついてさらに嫌われている。この名を知ったのはまだ在職中の頃同僚から聞いたのが最初だから。もう２０年以上も前のことになる。花粉症の原因であるといっていた。「あれはブタクサでもないし、花粉症にもならないよ」と言っても、怪訝な顔をしていた。杉花粉症が流行り出したからかもしれない。この花粉は、花粉症にならないという実験結果が出たということを新聞か科学雑誌かで見たことがある。それ以前に、この草の名はブタクサではない。杉花粉がはやる以前から花粉症の一番の原因である草として有名であったブタクサは別の草だ。先日、テレビで秋の花粉症というのをやっていた。原因の草はススキと、ヨモギと、ブタクサとあとイネ科植物あげていた。そのとき紹介されていたブタクサの絵は、あだなではなく標準和名の方、本物のブタクサの方だった。このセイタカアワダチソウは入っていなかった。でも、それを見ていた人の中に、ブタクサと似ていない、下手な絵だ、と思った人もかなりいたのじゃないだろうか。
では、何故ブタクサという名がこの草につけられたのだろうと考えてみる。悪者の噂を知っている人が、いかにも花粉だらけそうで花粉症になりそうな花だと思ったのじゃないだろうか。そして、たぶん、あの草の名がセイタカアワダチソウというのを知らない人が（かなりの人が知らないだろう）、それまで花粉症で有名であったブタクサという名を聞いてそう思い込んだのだろう。もちろん本物のブタクサも知らない人だろう。本物のブタクサを知っている人は１０００人に１人もいないだろうから。悪者につける蔑称としてこれほど、マッチしたものはない。
今では、ひょっとしたら１０００人に３００人くらいはセイタカアワダチソウをブタクサといっているのではないだろうか。一人はセイタカアワダチソウと思っていて。あとの６９９人は、秋の七草にも、秋の花粉症にも興味がなくて、セイタカアワダチソウという名も、ブタクサという名も知らない人だろう。そしてこれからも、この、ブタクサとあだ名をつけられた（改名された）セイタカアワダチソウは、花粉症の原因として口コミで広がっていくだろう。
ところで、何故、テレビでは本物のブタクサが出てきてセイタカアワダチソウはあだ名のブタクサとして出てこなかったのだろう。簡単である。花粉症の専門家が出てきて話したからだ。だから、本物のブタクサを知っていたし、セイタカアワダチソウが花粉症にならないことも知っているからだ。
普通の人は、噂話を伝えている。噂話ほど根拠のないものはない。ネットで流れている話で、本当と嘘のどちらが早く広く伝わるかを調べた結果を何かの記事で見たことがある。嘘の方が速く広く大勢に伝わるということだ。嘘が本当を凌駕しているのがネット社会である。ネット社会は、素人が流す噂話が跋扈している世界だからだ。だが、ネット社会がない昔から悪者として世間に知れ渡っていたから、あながち、ネットばかりが嘘の出どころではないようだ。私が初めて悪口を見たのは、大手の新聞だからだ。大手だからといってすべて他足位情報を伝えているとは限らないようだ。世間でもセイタカアワダチソウが花粉症の原因であるという間違った情報を信じている人の方が圧倒しているのは、口コミなのかもしれないけど、それをもともと流したのはだれなのだろうという疑問はある。
世間でも、ネットと同じように、ひょっとして、嘘の方が本当のことより速く、広く、広がり、多くの人に信じられている可能性があるのじゃないだろうか。
身近な例は、集団いじめだ。いじめる側が流す悪口は、あっという間に広がる。いじめが発覚すると、先生まで、いじめられる方にも原因があるなどという。根も葉もない悪口も、３人目に伝わると、本当だと信じられる。大きな話では、アメリカのトランプ大統領がマスコミの報道をフェイクだと息まいている。日本ではそれほど気にする人もいないが、ブッシュ大統領が、イラク戦争に攻め込むために大量破壊兵器があるとか、テロ支援国家だとか言ったのがフェイクだったということが、イラクをやっつけた後で発覚した。
日本のマスコミもこの嘘を本当として流したために、私の知り合いはこの嘘を信じ切っていて、アメリカはフセインをやっつけるべきだと言っていた。おそらく多くの日本人もそう信じ切っていたのではないだろうか。その結果、イラクでは罪もない人がおそらく１００万人を超えて殺された。女も子供も、それを守ろうとした男たちも殺された。そして、石油会社の大物でもあったブッシュ大統領は、イラクの石油を手に入れた。軍需会社の社長でもあったチェーニー副大統領は武器を売って大もうけをした。
今も、日本人の多くはイラクのフセインが悪いと思っているだろう。そしてあのとき、イラクに行った自衛隊が戦争の手伝いをしたことを何とも思っていない人がほとんどだろう。あれが戦後初の日本の戦争であったということを知っている（日本の裁判で戦争であったという判決が確定している）人はどれくらいいるだろう。日本のマスコミは、ブッシュの嘘を本当だと大々的に報道したが、あれが日本の戦後最初の戦争だということは一切報道しないから、ほとんどの人は日本が戦争をしたとは思ってもいない。きっとあれが戦争だと言ったら、嘘コケと言うだろう。本当だけど報道しないという嘘もあるのだ。メディアのその取捨選択が、強い力を持った人の損得に一致しているということがあるのではないだろうか。
先日平成は戦争がなく平和であったという投書が新聞に載っていた。日本の裁判所の判決を真っ向から否定している記事だ。健康食品のコマーシャルは、個人の意見で実際とは異なりますと必ず小さく断りがある。朝日新聞にはこの断り書きはない。投書にそんな断り書きはいらないのかもしれないが、非常に多くの人がこの投書を見て信じる。事実と異なる個人の思い込みが裁判所の判決より真実として広がっていく。嘘の拡散は、ネットや、口コミの噂話ばかりではない。大手メディアが率先して流していることもある。それはたいがい、強い力（富と権力）を持った人の意向に沿っているように思う。噂の忖度だ。いや、もしそれが忖度以上の力が働いていたとしたらどうなのだろう。「１３面を読め」といった人がいる。１面は強い人たちに支配さえているというのだ。その言葉が本当かどうかは分からない。ただ、科学の方法論では、すべて疑って読めという。どんなにみんなが信じている定説であっても、である。科学の世界ではみんなが信じていたことが次の時代には完全に否定されることがよくあることだからである。本当かどうかは自分でしっかり考えろというのだ。
事実より嘘の方がはるかに信じられるのが世の中だ。
知り合いの二人はいくら大量破壊兵器があるというのは嘘だといってもだめだった。マスコミがそういっているのだから。平和主義者の二人が、マスコミの流す嘘に騙されて、アメリカはフセインをやっつけるべきだと言っていた。戦争をやるべきだといっていた。戦争は平和主義者が後押しするものなのだ。（実際、フセインが殺されてから、イラクに大量破壊兵器はなく、テロ支援国家でもなかったとマスコミは報じていた。その時はイラクはぐうの音も出なくら意にやっつけられアメリカの支配下にはいっていた）
セイタカアワダチソウがブタクサであると信じようが信じまいが、今のところ私たちの暮らしに特に関係ないことだが、時として、いじめや、金もうけのために、嘘が意図的に流され、それで数え切れないほどの罪もない人が死んでいくとしたら、やっぱり本当とは何かを見抜く努力をしなくてはならないと思う。かつて、弱虫朝鮮、匪賊中国、鬼畜米英という嘘を信じ切って正義の戦争だとこぶしを振り上げ、他国に攻め込み、罪もない２０００万人もの他国の人を殺し、３００万人もの日本人が殺された歴史を持っているのに、また権力者（経済と政治を握っている人）に騙されて、自衛隊がイラクに攻め込んだ。力のある人がその気になればいつも国民はころっとだまされるのだ。
（注：これは個人の意見です。自分で考えてください）