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災害


田 敞


ここのところぽつぽつと健康体操に行く。先生が腰痛から復帰してまた教室が始まったのだが、今度はこちらが出かけるのがおっくうになってサボる日が多くなった。最近はたいがい生徒は二人だ。もう一人のおばさんは復帰後1回しか来ていない。私よりさぼりだ。4カ月休んだから、習慣がなくなったのだろう。

「西日本の災害の報道あんまりやらないでしょ」とまじめに来ている西村さんが言う。

「そうよね」と先生が応じる。

 いつもの準備運動だ。足の裏をコブシデトントンたたく。

「タイの洞窟の子供たちの救出をやって、西日本の報道が少ないって、あっちの人は怒っているとか言うわよ」

「へえ、そうなんだ」

 私も相槌を打つ。いつもそのニュースはすぐ切りかえるからよくわからなかった。

「NHKくらいしかちゃんとやってないって」

「あんまり暗いことは報道しないみたいだもんな」

 今までも災害の報道はすぐ切りかえるくせに、それを棚にあげて私は言う。

「どんなことになってるかみんなにちゃんと知らせなくちゃだめじゃない」と西村さんが言う。そして、

「首相なんか大事な時に大臣集めて飲み会やってたんでしょ」と言う。

「へえそうなんだ」

「そうよ、ひどいでしょ」

「災害があったからって海外歴訪取りやめたってニュースやってたから、へえ珍しいこと、なんて思ってたけど、東京で飲み会やってたんだ」と私。

「そうよ。それで足が痛いって言って災害地に行かないのよ。人命第一とか、迅速な救助救援活動とか、インフラの確保とか、かっこいい記者会見してるけど、命令だけして自分は宴会よ。口だけなの。かっこつけてるだけなの見え見えでしょ」

西村さんはますます憤慨している。

「確かにひどいわ。友達の学校作るためには尽力してるのに。まあ、仕方ないよ。権力を手に入れるために必死で生きて来た人間なんだから。征夷大将軍を目指して頑張ってる人間は下を見てるひまなんかないんだよ。上昇志向の人って大概、自分の立身出世に役立つ人しか見ないんだ。金も無いし力も無い人を見たって役に立たないから見向きもしないよ」

「そんな人がどうして支持率下がらないの」

「だよな。この前のNHKの世論調査なんか44パーセントだったかな。ほんとまあだよ」

「どうしてなの」

「なんにも見てないんだよ。支持者の一番の理由が他にいい人がいないからってのが断トツなんだから。不支持の理由の一番が政策が良くないだよ。見てる人はちゃんと判断してるけど、支持している人は単に首相という肩書だけで支持してるんじゃないかな。他にいい人がいるかいないかなんてのも見てないよ。首相っていう肩書を信頼してるだけだよ」

 準備体操は終わりだ。足を延ばして体を前に倒す。全然倒れない。手が足先に届かない。それでも必死で指を足先に伸ばす。

 昨日、チャンネルを変えると2つも民放の局で被災地のことを報道していた。おややってるじゃないと思った。どちらもボランティアの人たちが頑張っている報道だった。素晴らしいことだと思う。何にもしないで文句ばっかり言っている私と違って、なけなしの連休を使って助けに行っているのは本当に偉いと思う。でも、とまた文句を言う。報道は困った人を助ける素晴らしい日本人のことなのだ。悲惨な災害のことではない。マスコミはずっと、おそらく20年は素晴らしい日本の事ばかり放送している。ためしにチャンネルを変えてみるといい。必ず素晴らしい日本とか、美しい日本のことをやっている番組に出会う。中には、外国の人を呼んで、日本は素晴らしいと拍手させている番組まである。自慢話ばかりだ。自慢話をする人はうまくいっていない人に多い。実際に成功している人は謙遜する。昔の戦争当時、今から見ると悲惨な状態でも多くの人は日本は世界一の国だと思っていたという。マスコミの宣伝なのだ。今も日本は世界一だと思っている人はかなりいるだろう。そうでない人は、アメリカに次いで2位だ、くらいに思っている。

自慢話ばかりの日本はどうなのだろう。ひょっとして傾いてたりして。

 もう一つ文句がある。あの泥だらけの被災地に多くのボランティアが駆け付けて頑張っている。ボランティアはとても素晴らしいことだけれど、泥をかき出しこわれた家財道具を片づけ、家を住めるようにするのをボランティア頼みでいいのだろうかということだ。 

 日本は災害多発国だ。毎年、台風や、地震や、大雨などで大きな自然災害が何度か起こる。消防や自衛隊が駆け付けるけれど、個人の家の片づけなどや復興にはボランティア頼みのところがある。

 災害対策の組織をちゃんと作ったらどうなのだろう。自衛隊が何時も駆けつけるけれど、自衛隊の任務は本来自衛だ。だからいつも戦争の練習をしていて、救助や、災害救援や、復興の練習をしているわけではない。持っている道具も、ほとんど、軍艦や戦闘機や戦車やミサイルや大砲や銃などの武器だ。救難ヘリや、復興のパワーシャベルはおまけだ。

 そこで思うのだが、国が、2万人の災害救難部隊を作ったらどうだろう。平均、年500万円の給料だと、人件費に1000億円かかる。その他、ヘリや、パワーシャベルや避難テントや、食料などの必要な機器の費用に毎年4000億円かけるとすると、5000億円かかる。大変なお金だが防衛費の10パーセントを回したら出る。この部隊だと、最後の家が片付くまで現地で活動できる。災害がない時(それが一番なのだが)は、災害救助訓練をしていればいい。ボランティアは素晴らしいが、平日は働いていてこれない、また素人が多い。効率が悪い。それに比べても、いつもプロとして手際よく活動できる。機械もしっかりそろえられる。

 でも自衛隊の金を回すと国の安全はどうなるのだろうという懸念がある。どうだろう。日本はこの前の統計だと、世界の4番目の軍事力を持った国だということだ。すると、世界で日本より弱い国は150カ国以上あるということになる。それらの国は他国に攻め込まれているだろうか。確かに中にはあるがまれだ。そのうえ、日本が脅威と云っている中国や北朝鮮は、ここ数十年他国にミサイルを撃ち込んでいない。弱い国だからといって攻め込んだりしていない。だから、日本が1割軍事費を削減して、世界の15番目くらいの軍事力になったとしても、中国や北朝鮮が攻め込んでくる気づかいはいらないと思う。ここ数十年間、他国にミサイルをいっぱい撃ち込んでいるのはアメリカやフランスやイギリスと時々イスラエルくらいである。ロシアやシリアもこの前ISと戦争していたけれど、これはシリアに攻め込んできたIS軍に対しての自衛戦であるようだ。他国に攻め込んでいるわけではない。これらの、ここ数十年戦争を続けている欧米や中東の国やロシアが日本にミサイルを撃ち込んでくるとも思えない。

その上、2万人の安定した雇用が生まれる。また、アメリカの戦闘機や、ミサイルを買うのと違って、災害必需品は日本で調達できる。内需が増える。経済効果は抜群だ。困った人が助かり、経済効果も抜群であるこの政策はとても素晴らしいと思うがどうだろう。

防衛費から回すわけにはいかないというなら、消費税からはどうだろう。来年度は消費税を10パーセントに上げるといっている。今まで、消費税を作り、それを値上げしてきても国の借金は一向に減らないのだから、どうせ、2パーセントあげて10パーセントにした所で焼け石に水だろう(実際そういっているひとがいる。10パーセントに上げるのは将来の消費税増税の布石だとか)。庶民の生きる糧の、米や、味噌や、大根に10パーセントもの税金をかけるのだから、その金を金持ちたちに回すのではなく、ほんの一部を融通して、不幸にあった人たちのために救助部隊を作るのは理にかなっているのではないだろうか。