世界は踊る(あるピアニストの迷演奏会)
(すべては相対的)
 アインシュタイン氏の相対論では、すべては相対的に動くと定義されています。
 そのわけは、こんなことだそうです。
 宇宙空間で、二機のロケットがすれちがいます。ほかになにもありません。すると、このロケットの動きは、決めることができないというのです。
 Aのロケットから見れば、Bのロケットが動いています。Bのロケットから見れば、Aのロケットが動いています。だから、どちらが動いているかは決められないというのです。基準の取り方しだいで、どちらも動くそうです。
 アインシュタイン氏は、宇宙空間には、何もないので、絶対静止点は存在しないと考えて、このような結論がでたそうです。
 ニュートンは、宇宙には絶対静止があると考えて、運動は、そこから測る事ができるので、おのずときまっていると考えました。
 そこで、アインシュタインの言うように、物事は全て相対的に動くとすれば日常生活がどうなるかを考えてみたいと思います。
 ピアノのコンサート会場のことです。無名のピアニストがピアノを演奏しています。とても上手です。とても上手でも、有名になれるとは限りません。ピアノを上手に弾く人はたくさんいるのと、ピアノが、ふだん時間を割いてまで聞きに行こうという人が少ないということもあって、とても上手だからというくらいではなかなか有名にはなれないのです。
 それでも、コンサート会場はほぼ満員です。これはかなり矛盾した話ですね。
 それはおいといて、これから本題です。でも、もっと矛盾した話になるかもしれません。
 まず、ピアニストの左人差し指を考えます。見事に移動しながら鍵盤をたたいています。無名でも技術はなかなかいっちょまえです。
 そこで相対論です。左人差し指を基準にすると、左人差し指は静止していて鍵盤が左右に動いて、すばやく上下して左人差し指をたたいていることになります。すばらしい鍵盤です。地方の小さな町の小さな文化ホールだけど、バブルのころに買い込んだピアノだから、それなりにお金は積んでいるのでしょう、見事なリズム感です。
 今度は右手人差し指も考えましょう。やはり鍵盤は、左右に動きながら見事に右手人差し指をたたいています。流れるように見事な鍵盤の動きです。
 ところが突然困ったことがおきました。両手が同時に左右に開いてしまったのです。左手が左に、右手が右にです。したがって左人差し指を基準に取ると鍵盤は右に動きます。右人差し指を基準に取ると、鍵盤は左に動きます。鍵盤は動こうにも動けません。
 いかにバブル期に金に糸目はつけず、と買ったピアノでも、同時に右と左に動けといわれてもさすがにこれには対応できません。とたんに今度は、両方の指が鍵盤をたたきながら近寄りだしたのです。今度も、また同時に右と左です。それどころではありません。その間にもほかの8本の指も動き回っています。そのそれぞれの指に合わせて激しく上下しなくてはいけません。それも、上がる下がるがほとんど同時なんだからたまりません。指は軽いからさほど力はいらないけれど、鍵盤はピアノがくっついているから重いの何の、それを十本の指の動きに合わせて上下左右に同時に震動させるのだから、もう、大変。その上、ペタルを押す脚の動きにも答えなくちゃならないし、体の動きに合わせなくちゃならないし、高ぶってドコドコ動く心臓の動きにも合わせなくちゃならないし、流れ落ちる汗の動きにも合わせなくっちゃならないし、(汗の場合はどうなると思いますか。体を基準に取ると、汗が下に落ちます。普通です。ところが、汗を基準に取ると、汗はじっとしていて、体が上っていくのです。もちろんそれに合わせて、ピアノも、ステージも、その他もろもろもです。相対論はすごいこと考えますね。)身一つではとても持ちません。その上まだ演奏家の体内を流れる血液の赤血球一つ一つに合わせて、ぐるぐる演奏家の体の形に動かなくてはならないのだから、それも、からだはひとつもじっとしていないのだからたまったものではありません。特に、激しく動いている指の中の赤血球の動きに合わせるのは至難の業です。
 ところがこればかりではなかったのです。何百人もの聴衆がいるのです。聴衆はじっと聞いているだけだからいいかと思ったら、これが少しもじっとしていないのです。リズムを取ったり、もそもそ動いたり、咳をこらえて、喉がびくびくしていたりと、まあ百人百様なんです。なんてったって、この人たちの鼓膜の振動に合わせて反対方向に震えなくてはならないのが大変です。どの鼓膜も、少しづつ向きが違うから、これの全てを満たすためにあらゆる向きの振動を同時にこなさなくてはならないときています。
 そのうえかれらは息をしています。その空気のゆらゆらと動く流れにも合わせて動かなくてはなりません。激しい動きばかりならまだしも、そこにほとんど不確定に近いゆらゆらした動きを取り入れなければならないんだからこれは大変です。
 子供は「ピアノは一つも動いてないよ。」と言いました。でも、物理学者は答えます。「それは、君もピアノとそっくり同じに動いているからピアノは動かずに演奏者が動いているように見えるだけなんだよ。」と。
 そうなんです、踊っているのはピアノだけではありません。子供が踊ります。周りの人もみんな踊っています。会場まで踊っています。会場がくっついている地面も踊っています。そして、世界中がピアノに合わせて踊りだします。人も、鯨も、象も踊ります。南極海の氷の間に生んだ卵を守っている小さなはぜも音楽は聞こえないけど踊っています。3千メートルの深海の漆黒の闇の中でも、かすかに光りながらくらげがめまぐるしく踊っています。そのくらげを、今まさに食べようと、口ばっかりになった深海魚も踊っています。なんと平和なことでしょう。ポントトンデケ。めでたしめでたし。
03年12月12日 並刻記
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