メッセージ   加速と重力は同じか  どちらが動くか



「アインシュタインが考えたこと」について8

(「アインシュタインが考えたこと」佐藤文隆、岩波ジュニア新書31)

著者 高田敞

 

(以下{ }内は上記本からの引用です)

 

問題

{重力というのは、そういう加速運動、速度の変化する座標系に行けば、ひとりでに現れてくるのです。}

この理由が、{重力も何もない宇宙空間にいって、乗っている箱をロケットでググッと加速度をつけて引っ張ってもらったとします。そうすると、ちょうど列車が動くときのように、グッと後ろに押されるような力をすべてのものが感じるのです。ちょうど重力がすべてのものに働くように、この慣性力は、すべてのものに働くのです。箱の中の人にとっては、この慣性力は全く重力と区別がつかないはずです。}ということです。

考察

重力は地球に押しつけられている感覚がある。慣性力も、{グッと後ろに押されるような力をすべてのものが感じるのです。}だから、{この慣性力は全く重力と区別がつかないはず}、ということが、慣性力が重力であるということのようです。

万有引力とは違い、重力はそのようなものなのかも知れません。

物は重いから落ちると長い間考えられていました。人間の感覚はかなりあいまいです。小さなことは区別できません。だから、そう考えるのは当然です。しかし、ニュートンは、知性で考えました。物は引き付けあう力がある。それが万有引力である、と考えたのです。

そこで、ニュートンの万有引力と、慣性力を比べてみましょう。

1 似ているところ

{グッと後ろに押されるような力を}感じる。この感じが地球に押しつけられるような感じに似ている。

2 違っているところ

違い1 「引く」と「押す」の違い

ア 箱の中

この箱の慣性力は押す力である。作用反作用の法則から、押し合う力であるともいえる。

イ 地上

万有引力は引き合う力である。

違い2 慣性力には、引き合う力がない。

ア 箱の中

箱の床に押されている。反作用の法則から、同じ力で押し返している。しかし、箱の中の人は箱を引っ張っていない。箱の中の人も、自分の持っている万有引力で箱を引っ張っているといえる。しかし、中の人は床だけではなく壁も天井も万有引力で引っ張っている。慣性力で引っ張り返しているのではない。

イ 地上

 地球と人が引き付けあっている。

人が地上に押しつけられていると感じるのは、地球と人が引きあっている引力のためである。人も、小さな力だが地球を引っ張っている。

 

違い3 手から離したリンゴの運動(慣性力は空間を伝わらない)

箱の中で手に持ったリンゴを離す。すると、中の人には、リンゴは床に落下するように見える。地上でリンゴを離したときと見かけは同じだ。区別がつかない。したがって、慣性力と、重力は同じである。これが、相対論者の言い分だ。

そうだろうか。

ア 箱の中

加速する箱の中で手から離れたリンゴは等速直線運動をする。

(加速する箱の中の人が手に持ったリンゴを離す。あたかも床に落下するように見える。しかし、このリンゴには新たな力が働いていない。したがって等速直線運動をしている)

イ 地上

地上の人が手に持ったリンゴを離す。このリンゴには地球の引力が働いている。したがって、加速運動をする。

 

箱の中へ箱に触らないで入ったとしよう。彼は浮いている。その彼に箱の床が、加速しながら近づく。床が触れたところから、彼は加速運動をする。

箱の加速は、箱に触っていないもの、空間にあるものには影響しない。万有引力は空間を伝わるが、箱を加速させているエネルギーは空間を伝わらない。床が直接押しているものにしか{グッと後ろに押されるような力を}感じさせない。また力を伝えない。

このとき、上に書いたリンゴのように、彼は、床が加速しながら近づいているのか、自分が加速しながら床に落下しているのか区別がつかないから、重力があるということにするのが相対論だ。

ニュートン力学では、地上に立つ人の手に持ったリンゴは、手から離れた瞬間から地表に向かって加速しながら動いていく。箱の中のリンゴは、手から離れた瞬間から、離れる瞬間の速度で等速直線運動を始める。それを加速しながら床が追いかけていく。

このとき、地上にいる人の離したリンゴには、万有引力の力が働いて、リンゴを加速している。箱の中の人が離したリンゴには、新たな力が働いていない。だから等速直線運動をする。

見かけは同じようでも、力学的現象は違う。中の人は区別がつかないというのが、どちらも同じだという根拠である。しかしそれは中の人の錯覚にしかすぎない。人間的根拠にはなるかもしれないが(噂話の類)、科学的根拠にはならない。

動いているのは箱である。{乗っている箱をロケットでググッと加速度をつけて引っ張ってもらったとします。}という前提条件なのだから。この本では、ロケットエンジンのエネルギーで箱は動いている。箱の床に接している物質は、その力を床から受け取るが、箱の中に浮いている物質はそのエネルギーを受け取るすべがないから、等速直線運動、ないし静止する。

違い4 箱の慣性力はいつまで続けられるか

ア 箱の中

慣性力は持続時間に限界がある。

イ 地上

万有引力には持続時間に限界はない。

 

慣性力を起こすためには、箱は、その周りのものに対して、加速運動をしていなければならない。{乗っている箱をロケットでググッと加速度をつけて引っ張ってもらっ}ているのだから。すると、1年後、光速を越えることになる。それでも加速しなければならない。10年後、100年後、箱は光速の何十倍何百倍の速度にならなければならない。万有引力の場合、加速の必要はないのだから、何億年でも同じように働き続けることができる。

慣性力には、時間に限界があるが、万有引力には限界がない。

違い5 影響範囲

ア 箱の中

慣性力は箱の中だけである。それも、箱にくっついて、慣性力をもらっている物質だけに影響する。

イ 地上

万有引力は宇宙の果てまで届く。

 

慣性力は箱の中だけである(外から見れば単なる加速運動にしかすぎない)。箱の外には何一つ影響しない。しかし、万有引力は、宇宙の果てまで届くということだ。

 箱の外の空間に人がいるとする。

箱から見れば加速しながら後方に人が動いていくように見える。それは落下と同じだというなら間違いである。その人には、加速させる力が何一つ働いていない。あるのは、箱を引っ張るロケットのエネルギーだけだから、加速するのは箱しかない。だから力学的には、引っ張られた箱が加速しながら飛んでいくということだけだ。

箱の外の人が落下しているとすると、その先に引力源がなくてはならない。それがない。引っ張る力が働かないから、箱の外の人が加速することはない。

違い6 潮汐力

ア 箱の中

加速する箱は、床に垂直に押される。端にいても、真ん中にいても、力の方向は同じである。離れた人の押される方向は平行である。

イ 地上

人と地球が引き合うとき、地球の中心に向かって引っ張られる。離れた人の引き合う方向は、斜めである。地球中心で交わる。

 

加速する巨大な箱の中に、天井からロープで球体をぶら下げる。その上に人が立つ。

球の進行方向のてっぺんに立つ。すると、球に押しつけられたように感じる。では、そこから4分の1周してみよう。押しつけられる方向は、球の進行方向に反対だから、立っていられない、しがみつくしかない。半周してみよう。球から離れるように押しつけられる力を感じる。球にぶら下がるしかない。

ロケットに引っ張られているのだから。押しつけられる方向はどこも同じ方向であるからこのようなことが起こる。

では万有引力はどうだろう。

地球を4分の1周すると、引きつけられる向きは90度変わる。半周すると、180度変わる。ちょうど反対向きだ。地球の反対側の人はちょうど頭と足が反対向きになって立っている。地球にぶら下がる必要はない。箱の中の球体上の人とはまるで違う。

この、万有引力が中心に向かって引っぱるというのを潮汐力という。加速する箱はこの潮汐力がない。

違い7 距離と力

ア 箱の中

巨大な箱の中に浮いているとしよう。床は同じ加速度で近づく。慣性力は、どんなに離れていても弱まることはない。

地上

万有引力は距離の2乗に反比例して弱まる。

違い8 エネルギー

ア 箱の中

この場合の慣性力のエネルギーは、ロケットの燃料である。

イ 地上

万有引力の力は、重力子である。

 

ロケットの燃料はエネルギーを出した後化合物として放出されるが、重力子は化合物を出さない。ロケット燃料は減っていくが重力子は使ったからといって減ったり変質したりしない。

 

 このように慣性力と万有引力は多くの違いがあります。

相対論ではなぜこの違いが現れないかというと、計るのは人間の感覚、判断範囲は小さな箱の中だけという条件設定にしているからです。人間の感覚はかなりあいまいです。そのうえ、外の見えない箱の中という閉鎖空間に閉じ込めて判断しろというのです。正しい判断ができる方が奇蹟です。

たとえば、地球を自分も引っ張っているということを感じる力は人間には備わっていません。また、箱の中の人は周りが見えないから、自分は押されて加速しているのか、引きつけられているのか区別ができません。区別できないのは、慣性力と重力が同じであるということではなく、人間の感覚には限界があるということの証明です。

 人間の感覚を中心にする学問は心理学に任せればいいのです。物理学は、実際の現象を計って知性で判断しなければなりません。

このように、相対論に不利なことはすべて目隠ししているというのでは、科学とはいえません。

 もう一つは重力です。アインシュタインの重力は引き合う力ではなく、物は重いから落ちる、という地面に押しつけられる力であるということで慣性力に一致するのです。

万有引力は引き合う力です。必ず、互いに引き合います。慣性力は床が一方的に押す力です。万有引力の互いに、では困るのです。

結論

 慣性力と、重力が同じであるという根拠は、{箱の中の人にとっては、この慣性力は全く重力と区別がつかないはずです。}という、人間の感覚だけです。一方、違いは、かなりたくさんあります。それも感覚ではなく、科学的事実です。

 慣性力は重力であるということを言うために、有利な条件だけを使って、丸めこもうとしているにしかすぎません。だから、せっかくニュートンが見つけた万有引力を、また旧態然とした、物は重いから落ちるに変えたのです。

 言葉巧み学、ではあっても、物理学ではないといえます。