「重力とは何か」について目次
重力とは何か13 加速は重力の本性
重力とは何か15 ローレンツ収縮が縮めるもの

重力とは何か(大栗博司・幻冬舎新書)について14


著者 田 敞


(以下{ }内は上記本からの引用)

 

遠心力と重力


問題

{アインシュタインの等価原理によると加速度や遠心力によって生じる引力は、「見かけの重力」ではなく「重力そのもの」です。}

{遠心力によって生じる引力}は{「見かけの重力」ではなく「重力そのもの」}でしょうか。考えてみます。


考察
(1)遠心力は引力か?

{遠心力によって生じる引力は}とあります。遠心力によって引力が生じているでしょうか。ここに取り上げられている、回転している宇宙ステーションを考えてみます。

{回転させると遠心力が生じるので(加速するエレベーターと同じく)重力があるのと同じ状態になります。外側に引き付けられるので、・・・}とあります。

ア 言葉の使い方

「回転させる遠心力=加速するエレベーターの重力=外側に引き付けられる(すなわち引力)」という言葉の言い替えがあります。

 まず、「回転させる遠心力=加速するエレベーターの重力」の式が成り立つかを証明しなければなりません。できていません。

 そして、「加速するエレベーターの重力=外側に引き付けられる(すなわち引力)」を証明しなければなりません。できていません。そして、「回転させる遠心力=引力」を証明しなければなりません。ありません。

 似ている感じ、では科学ではありません。似て非なるものは普通にいっぱい存在します。そっくりさんなんて結構います。

 そこで、考えてみます。

イ 遠心力と加速

 遠心力は、直線運動をしている物体が、曲げられるときに発生します。ここでは中の人が真っすぐ進もうとしているのに、宇宙ステーションの壁が回りこんできてその進路を曲げているので、まっすぐ進もうとする人が壁を押す力が働いています。エレベーターの加速は、中の人をエレベーターの床が押し上げていることで発生しています。ともに、等速直線運動をしている人を、壁や床が押していることから起こっているk所とですから、原理は同じであるといえるかもしれませんが、真っすぐ押すのと、曲げるのとでは少し違いがあります。同じであるとはいえないでしょう。まあ、この押す力が重力だというのですから、それは相対論の定義ですから、そうなのでしょうとしか言えません。

ウ{外側に引き付けられるので}について

 {外側に引き付けられるので}を考えてみます。

 中の人は、宇宙ステーションの外側の壁に押し付けられています。壁が引き付けているのではありません。壁は中の人を引き付ける力をなに一つ持っていません。

宇宙ステーションの壁と共に動いている人は、本来等速直線運動を行います。慣性の法則です。ところが宇宙ステーションの壁がその行く手をさえぎっているので、壁にぶつかり、壁に沿って曲げられます。壁に引っ張られるのではなく、さえぎっている壁を中の人が押しているのです。進行方向が交わる壁と体が押し合っているのであって、壁が体を引っ張っているのではありません。{外側に引き付けられる}とはいえません。

エ 遠心力は{「見かけの重力」ではなく「重力そのもの」}

相対論ではそう定義するようです。宇宙ステーションの壁と中の人が押し合う力が遠心力で、それが{重力そのもの}ということのようです。

オ 遠心力(重力そのもの)は万有引力か

力の種類が違います。地球に立っている人は、地球と万有引力によって引っ張りあっています。その大きさの力を生じるためには、地球大の質量が必要です。主体は地球の引力です。一方、宇宙ステーションの壁を押し付ける力は、その人の体が持っている運動エネルギーです。力の主体は体です。遠心力と万有引力は押し合う力と、引き合う力の違いがあります。似ていません。遠心力は相対論では「重力そのもの」かもしれませんが、万有引力とは完全に違うものです。

カ 宇宙ステーションの回転と、月の公転

 月は動いています。本来等速直線運動をしなければなりません。ところが、地球の周りを公転しています。これは、宇宙ステーションの壁のような月の進路を遮る空間の壁があるからではありません。

一方、宇宙ステーションと共に回転している人は、壁によって進路が曲げられています。空間の壁によって月の進路が曲げられているのなら、良く似た現象といえるかもしれません。しかし、月の進路を遮っている空間の壁は存在しません。相対論では地球の存在によって空間が曲げられてその曲がりに落ちているというのでしょうが、その空間の実態はありません。何もないものが月の進路を変えることはできません。重力がその証拠だというのでしょうが、そうでしょうか。空間の曲がりが重力を生むというのが相対論だけれど、何もない空間が曲がるといっても、なにもないのは何もないのです。手を振り回しても空気には当たるけれど、空間には当たりません。飛んでいる飛行機は空気抵抗は受けるけれど、空間の抵抗はありません。わくせい探査機も空間の抵抗で速度を落としたりはしません。いや重力によって速度が変化しているから、それは空間の曲がりによっている証拠だというかもしれません。月や地球の進路を曲げるほどの壁があったら、それに衝突してしまいます。宇宙ステーションのように実態のある壁とは違うのです。もし空間がなにかであるなら、飛んでいる飛行機は、その何かにぶつかってもよさそうです。

もちろん万有引力も実態は何もありません。引き付ける力だけです。しかし、これは、空間の曲がりに沿って動かしたり、曲がりのへこみに転げ落としたりするのとは違います。磁力のように、ただ引き合うだけです。

遠心力は「重力そのもの」といえるかもしれませんが、作用の仕方が違うもので、万有引力とはまるで違うものです。

(2)宇宙ステーションの中の人の動き

 上に書いたように宇宙ステーションの中の人が壁に押し付けられるのは、万有引力ではなく、壁と押し合う力、物体の運動エネルギーでした。そこでもう少し中の人の動きを考えてみます。

 人が宇宙ステーションの壁と共に回転しているのは、人が壁に押されて壁の速度と同じ速度を保存しているからです。壁から運動エネルギーをもらっているのです。

宇宙ステーションの中に浮いている人を考えてみます。

 この人は壁に向かって移動しません。体は重いのに壁に落ちていかないのです。宇宙ステーションと一緒に動いていても、壁の回転速度は持っていないので、宇宙船の中に浮いているだけです。自由落下する飛行機の中の人がフワフワ浮いているという現象と同じです。宇宙船と同じ速度で動いているので、地球の引力を同じように受けているから同じ軌道で地球を回っているのです。人が宇宙ステーションより速く動くか遅く動くかして壁に接触して、壁の速度をもらわない限り宇宙ステーションの遠心力は働きません。壁と共に動かなければ遠心力も働かないので、壁に向かって動いていかないのです。

 では万有引力はどうでしょう。消えているのでしょうか。宇宙ステーションの壁も人も万有引力を持っていますが、壁の質量が小さいので、引力も小さいから目に見えて人を引き付ける力はありません。万有引力が小さいだけで消えたわけではありません。

 宇宙船の壁を蹴って壁から離れてみます。飛びあがる力と、それまで持っていた壁の速度とで体は等速直線運動をします。飛び上がった後は、他からの力が加わらないからです。やがて曲がってきた宇宙船の壁によって行く手を遮られますが、それまでは等速直線運動です。

 では地球でジャンプしてみます。真っすぐ上がって同じ所に着地します。万有引力が働いているので、体は減速しながら上昇します。そして、止まって、今度は反対方向に速度を変えて加速しながら地球に着地します。等速直線運動ではありません。加速運動です。空中にいる間も、地球と引き合っているからです。宇宙船の中の人のジャンプと大きく異なる運動になります。

このように、遠心力は離れた物には作用しませんが、万有引力は離れていても作用します。遠心力と万有引力は働き方が大きく違います。

 宇宙ステーションの遠心力(=重力そのもの)には壁がいります。しかし、壁は空中にまで力を及ぼしません。一方、地球と月のように、万有引力は空間を突き抜けて伝わります。だから、月は地球の周りを公転できるけれど、人は宇宙船の壁の周りを公転できません。ただ押されるだけです。

(3){遠心力によって生じる引力は、「見かけの重力」ではなく「重力そのもの」です。}の問題提起の問題。

ちょっと見には遠心力は「見かけの重力」に見えそうです。問題はそのことではありません。何気なく言っている{遠心力によって生じる引力は}が問題なのです。遠心力は引力であるということは、証明されていません。肝心なのは、そのことのはずです。おそらくそれは証明できないので、うまく逃げるために、「見かけの重力」と「重力そのもの」の問題であるかのように、装っているのでしょう。うまいやり方です。

遠心力=見かけの重力=重力そのものかもしれません。しかし、見てきたように、遠心力は壁を押す力でした。引っ張る力ではありません。引力とはいえません。証明しなければならないのは、{遠心力によって生じる引力}の方です。「見かけの重力」か「重力そのもの」か、ではありません。あたかも遠心力が引力であることは自明であるかのように言っていますが、それはまやかしです。証明できないから、他の問題を持ちだして、肝心な方をあたかも問題ではないように装っているのです。

 

結論

このように、{遠心力によって生じる引力は}とありますが、宇宙ステーションの中の人の遠心力には引っ張る力はありませんから、引力とはいえません。遠心力は、宇宙ステーションの壁を押し付ける力だけですから、押す力、押力とでも名付けた方がいいものです。遠心力には引っ張る力はありませんから{加速度や遠心力によって生じる引力は}という文は間違いです。{加速度や遠心力によって生じる}「押力は」と言い変えるべきです。