インフレーション宇宙論への反論　１０

 

��田　敞

 

インフレーション宇宙論（佐藤勝彦。BLUEBACKS）を基に考えてみます。

（以下｛　｝内は上記本よりの引用）

 

問題１　宇宙を見る

｛宇宙では遠くを観測すれば過去が見える｝

｛だんだん遠くを見ていくと、現在、１３０億光年ほどの彼方まで見ることができるのです｝

考察

これには二つの問題があります。

（１）　過去の宇宙の大きさ

　１３０億光年先の宇宙を見ることができるということです。１３０億年前にそこに銀河があったということです。地球からどの方向にも１３０億光年先に宇宙（銀河）が観測されるということですから、１３０億年前には宇宙はすでに地球を中心にして、半径１３０億光年の宇宙になっていたということです。

　１３８億年過去に宇宙は１点から始まったというのがビッグバン宇宙論ですから、８億年ですでに宇宙は今の大きさになっていたということです。これはハッブルの法則に反しています。

　しかし、インフレーションで一瞬より短い時間でこの宇宙より大きく膨張したという理論なら大丈夫です。しかし、それなら、ハッブルが見つけた銀河の赤方偏移はどのような意味を持っているのでしょう。インフレーションに比べ、とてものんびりした膨張です。この膨張をさかのぼって計算したら１３８億年前に宇宙は１点に集まるというのがハッブルの法則です。１３０億年前には宇宙はまだ小さな宇宙だったはずです。ハッブルの法則ではとても、半径１３８億光年の大きさにはないはずです。

宇宙が膨張しているという理論は、遠い銀河ほど赤方偏移が大きいという観測が元なのですから、これを無視したインフレーションは、ビッグバン否定だけでなく、赤方偏移が宇宙膨張に関係なかったという意見になります。ということは、赤方偏移が宇宙膨張の証拠であるという前提が崩れるということです。それは宇宙は膨張しているという理論そのものが崩れるということになります。

　現実の観測では、宇宙ができて８億年後には、すでに、直径２６０億光年（１３０＋１３０）以上の大きさの宇宙が存在してていたということです。ハブルの法則とは相いれない宇宙です。

　ハッブル定数と、宇宙膨張と、観測結果との矛盾です。

（２）過去の見え方

　太陽は８分光年離れています。だから８分過去の太陽を見ていることになります。これは、地球と太陽が８分光年離れていることから起こります。

　１億年過去の銀河を見るためには、地球とその銀河との距離がぴったり１億光年離れていることが必要です。

　１３０億年過去の銀河を見るためには、その銀河と地球がぴったり１３０億光年離れていることが必要です。実際１３０億光年離れているから見えるのです。問題はここからです。

　１３０億年前その銀河から出た光が１３０億光年を１３０億年かけて光速で地球まで飛んできたということです。１３０億年前その銀河から光が出たとき地球はどこにあったでしょう。ここではありません。勿論地球の形はしていません。８４億年後地球になる、けれどまだ他の恒星や星間雲の中にバラバラにあった物質です。でも砂粒一つ欠けてはいません。

　宇宙ができて８億年後だから、ビッグバン論ではまだ宇宙はかなり小さいはずです。ハッブル定数での膨張ならその銀河と地球の前駆物質とはすぐ近くのはずです。ハッブル定数を無視して、光速で離れたとしても、宇宙の直径は１６億光年です。その宇宙の中にある銀河と地球が１３０億光年離れることはできないはずです。すると、１３０億年前にその銀河から出た光は、どんなに地球と銀河が離れていても１６億光年ですから、１６億年で地球を通りこして行ったはずです。それは１１４億年前（＝１３０−１６）です。

　地球とその銀河が互いに光速で離れていったとしたら銀河の光は地球に追いつくことはできないかもしれません。しかし、全天からやってくる銀河の光のすべてから光速で逃げることはできません。一方からくる光から光速で逃げれば、その反対からくる光には光速で接近することになります。

地球は現在秒速２００キロほどで飛んでいるということです。とても光速にはなれません。観測できている銀河で光速で離れている銀河はありません。かりに、地球の前駆物質は最初は光速で飛んでいたとしても、地球に固まった４６億年前からは秒速２００キロメートルほどです。銀河の光は、あっさり追いついて追い抜いていったでしょう。

　その前はどうでしょう。銀河系ができたのは１３０億年前ころだそうです。ちょうど、１３０億光年先の銀河が光を出したころです。銀河系は普通の物質でできています。光速で飛ぶことはできません。すると、１３０億年前に銀河から出た光はあっさり銀河系を通り過ぎてしまったことでしょう。

　その後もその銀河からは光は出ています、しかし、その光は地球を通り過ぎているか、まだ地球に到達していないかです。太陽の光は８分前に出た光しか見えません。９分前の光も５分前の光も見えません。昨日の太陽も、１００年前の太陽も見えません。当然です。それらの光は、すでに地球を通り過ぎて宇宙の彼方を飛んでいるからです。

　アンドロメダ銀河について｛アンドロメダ銀河からやってきた光は、光の速度で２３０万年かかって私たちの地球に到達した光なのですから、現在私たちが見ている光は２３０万年前に出た光です。｝とあります。地球との距離がちょうど２３０万光年だからです。距離によって見える過去が決まってきます。だから、１００万年前のアンドロメダ銀河も、１０億年前のアンドロメダ銀河も見ることはできません。

１３０億年前の銀河の光が見えたということは、地球とその銀河がぴったり１３０億光年離れているということです。宇宙ができてから８億年で１３０億光年離れたということが必要です。とてもハッブル定数では間に合いません。ハッブルの観測した銀河の赤方偏移を基にした宇宙膨張のシナリオとは合わないということです。

宇宙は最初からかなり大きかったということを示唆しています。少なくとも１３０億年前には今観測されている宇宙よりかなり大きかったということです。そのときには、地球の前駆物質もすでにこの近くで星雲の一部であったり、他の巨大な星の一部であったりしたということです。

するとインフレーション理論の肯定になりそうです。しかし、それでは、膨張宇宙論の根拠となった銀河の赤方偏移とそれを基に計算したハッブルの法則を否定することになります。宇宙は膨張しているということの最大の根拠がなくなります。根拠は銀河の赤方偏移だけなのですから。

もうひとつの考えもできます。宇宙は膨張していないという考え方です。今は否定されている定状宇宙論です。宇宙は始めから大きくて、変わらないという考えです。では銀河の赤方偏移が示している宇宙膨張はどうする、ということになります。これは、銀河の赤方偏移の原因を考え直すことで解決します。

 

問題２

｛このように、遠くを見れば宇宙の過去を見ることができるのです。ですから、原理的には、本当の宇宙の果てを見ることができれば、まさに宇宙の開闢を見ることが可能だということが分かるはずです。｝

考察

　これは、宇宙が１点から始って膨張してきたという宇宙では不可能です。

　例えば太陽を考えてみます。宇宙開闢のとき太陽も原子の形でそこにありました。すると、宇宙開闢のときの太陽が見えるということです。書いたように、昨日の太陽も、１億年前の太陽も１００億年前の太陽も見ることはできません。遠いからではありません。その時に太陽から出た光が、すでに地球を通りこして宇宙の彼方に飛んでいってしまっているからです。それなのにどうして、宇宙開闢時の、１３８億年前の太陽が見えるのでしょう。その光は１３８億年前に地球の前駆物質を通りこして行っています。

　アンドロメダ銀河も、宇宙開闢のときにすでに分子や原子として生まれていました。ところが、１３８億年前のアンドロメダ銀河の光が見えるというのです。１０００万年過去のアンドロメダ銀河を見ることはできません。その光はもうすでに地球を通り過ぎてしまっているからです。１００億年前のアンドロメダ銀河を見ることはできません。その光はすでに地球を通り過ぎているからです。１３０億年前、集合し始めたときのアンドロメダ銀河も見ることはできません。その光はすでに地球を通り過ぎているからです。今地球を通りこして、地球から１２９９７７０００００光年先を光速で離れていっているはずです。同じように１３８億年前のアンドロメダ銀河の前駆物質がはなった光を見ることはできません。なぜなら、その時、地球の前駆物質とアンドロメダ銀河の前駆物質は、小さな宇宙のなかで隣同士にあったはずだからです。アンドロメダ銀河の光はさっさと地球の前駆物質を通りこして宇宙の彼方に飛んでいったことでしょう。通り過ぎた光は２度と見ることはできません。

　同じように、１３８億年前、宇宙のすべての物質が小さな宇宙に集まっていたら、その光は地球の前駆物質をさっさと通り越して、宇宙の彼方に飛んでいっているはずです。

膨張宇宙では原理的に宇宙の開闢を見ることはできないのです。見ることができるとすれば定状宇宙なら可能かもしれません。無限の宇宙空間の中で、１３８億年前、１３８億光年離れたところにあった銀河からの光は１３８億年かけて地球に到達するからです。それなら原理的には可能です。そして今、１３０億光年先の銀河が観測されているとうことです。これは明らかに膨張宇宙を否定しています。

 

問題３

宇宙背景放射探査機COBEの観測

｛宇宙が不透明から透明に変わったその瞬間の様子を見ることを目的にしたものです。｝

｛飛行機に乗っていて雲の中にいたとしましょう。雲から出た瞬間に後ろを向いたら何が見えるでしょうか。雲の表面ですね。その雲の表面とはまさに、宇宙が不透明から透明になった境界です。｝

考察

この考えには多くの問題があります。

（１）｛雲から出た瞬間に後ろを向いたら｝

　宇宙全体が不透明だったとき、地球の前駆物質はその中にありました。もちろん宇宙の外に出ることはできません。宇宙は雲しかないからです。雲の外は宇宙の外です。この本では、宇宙は、“無”の中から、山のトンネルを通りこして、“無”の中の山を滑り落ちてできたということですから、この宇宙の外には“無”があるということです。けれど地球はその“無”の中に出ることはできません。

　飛行機は雲から出られます。空の広がりの中の一部が雲で、一部が晴れているからです。すべてが空だからです。だから飛行機は晴れている空に飛び出せます。では地球はどうでしょう。不透明の宇宙の外に飛び出ることができるのでしょうか。できません。ビッグバン論ではそこは宇宙ではないからです。地球は宇宙からどこに飛びだしたのでしょう。それが書かれていません。

（２）｛後ろを向いたら何が見えるでしょうか。雲の表面ですね。その雲の表面とはまさに、宇宙が不透明から透明になった境界です。｝

　不透明な部分はこの宇宙のすべてです。透明な部分は“無”の部分です。境界は、この宇宙と、“無”の宇宙との境界です。晴れも雲も空の一部であるのとは違います。地球が“無”の中に飛びだして、振り返って全宇宙を見ることはできません。

　比喩が間違っています。いつものとおりそのものの説明ができないので、比喩に頼っています。しかし、その比喩がまるで当てはまっていません。

 

　宇宙が晴れ上がったとき、地球の前駆物質もそこにありました。晴れ上がったときには宇宙にはもう不透明は存在しません。霧が晴れたらそこには霧は存在しないのと同じです。地球から不透明の宇宙を見ることはできないはずです。消えてしまった霧を見ることができないように、不透明の宇宙は過去になっているからです。勿論１時間前の霧と現在の晴れの境界線を見ることはできません。現在しか存在しないからです。雲から飛び出した飛行機から見えているのは現在ある雲です。雲が消えたときに、雲は見えません。宇宙が晴れ上がったときには、不透明な宇宙は過去だから消えているはずです。それを見るためには光速を超えて飛んで、光を追いかけていくしかありません。

　境界線が見えるというのは過去と現在を見てその境界を見ているということです。そのようなことは不可能です。

　いや、２３０万年前のアンドロメダ銀河を見ているということは過去を見ているということだ、というのがこの本の主張です。過去を見ているのではありません。過去の映像を見ているのです。

　２３０万年前アンドロメダ銀河を出た光は２３０万年経過して地球にやってきました。その光が出た時刻の地球もやはり添えから２３０万年時間が経過しています。そして、その光と、地球が衝突したのが現在です。現在の時刻の地球が見ているのは２３０万年分経過して現在の時刻になっているアンドロメダ銀河の光です。見ているのは、現在の光です。映像が昔の形なだけです。子ども時代の写真を見ているのとよく似ています。過去を見ているようですが、見ているのは時間の経過で黄ばんでしまった現在の時刻の写真です。アンドロメダ銀河の光も、２３０万年間飛んでいる間に、銀河間にある分子などに衝突して、しっかり傷つき古びています。｛宇宙では遠くを観測すれば過去が見える｝のは、過去の映像が見えるのです。

　過去を見ているようで、過去を見ているのではないのです。古い活動写真を見ているようなものです。

　人は過去の映像を見ることはできても、過去そのものを見ることはできません。タイムマシーンはまだできていません。