ジャスミンの風

                                         
                                           
「羌」を訪ねて敦煌へ−中国シルクロード紀行−13

敦煌(2)



  翌朝12時少し前に敦煌バスターミナルに到着。かなりの遅れであ
る。昨夜トルファンからの途中で、何の前触れも無く突然バスが止まっ
た。運転手が食事をするためらしい。食べ終わってからも煙草を喫っ
たりして中々出発する気配が無い。その間乗客は待ちぼうけ。結局
一時間ほど経ってからようやく動き出した。朝 降車時に乗客の一人
(中国人)がその運転手と言い争いをし、つかみ合いになった。その乗
客はすぐに出て行ったが、運転手はその後もすごい剣幕で怒鳴り散ら
していた。早朝に、敦煌まで120kmほどの所にある柳園でタイヤを2輪
交換したり、自己証明書(中国人)やパスポート(外国人)のチェックが2
回あったりして、乗車時間が3時間半ほど余計にかかることとなった。
新疆ウイグル自治区への出入りは特に厳しいようだ(以前は強制的に
保険を掛けさせられたらしい)。が、何とか敦煌に無事帰り着けてホッ
とした(何時に着くのだろうと気が気で無かったが……)。トルファンに
比べると敦煌は涼しく感じる(気温は28℃を指していたけれども)。


[ポプラ並木の続く道]



[幾重にも連なる鳴沙山の砂丘群]
 バスターミナルで20分ほど休んでから街中に出て、先日訪れ
た夜光杯店や沙州市場に立ち寄った後 市バスに乗り、鳴沙山
近くのYHで再チェックイン。シャワーを浴びてスッキリしてから、
少しは涼しくなったかなと思われる17時頃に歩いて鳴沙山へ向
かう。入口横の楼閣状の建物のある民族博物館(入場無料)を
ざっと見学してから、鳴沙山月牙泉 と上方の額に大きく書かれ
た門のそばで入場券を購入(約1,700円)。中に入ると眼前に幾
重にも連なる巨大な砂丘が現れる。砂山を滑り降りると砂粒の
摩擦音が鳴くように聞こえるので、「沙の声吼えて雷のごとし」と
例えられた東西40km,南北50kmに及ぶ鳴沙山。ラクダに乗って
近くを観て廻ることも出来るようだ。水の打たれた曲がりくねっ
た砂利道を10分ほど歩いて行くと、前方の砂丘の谷合いにオア
シス状の緑が見えてくる。月牙泉である。近づくと、高さ10数mの
楼閣を中心にして砂丘をバックに幾つかの建物が建ち並び、そ
れらの前には東西の長さ200m,深さ5mという三日月形の泉(月
牙は三日月の意)が配されている。漢代からの遊覧地として知ら
れるこの月牙泉は古来枯れたことが無いと言う。

 周辺をしばらく散策した後、意を決して背後にある砂丘に登ってみ
る。こう配がきつくて靴の中にサラサラの砂が入り込み、三歩進んで
は一歩分以上滑り落ちるという感じで、息を切らしながらようやく尾根
の一つに登りつく。足がフラフラで、靴と靴下を脱いで座り込み汗を拭
く。ヒンヤリとした細かい砂の感覚が心地よい。雲ひとつ無い空は真
っ青で陽がまだ高いので、雨傘を差して日除けとする。砂の真上に温
度計を置くと37℃。斜面の途中や尾根筋には他の観光客や家族連
れ,カップルたちも座り込んでいる。はるか眼下には今歩いてきたば
かりの涼しげな三日月形の月牙泉を従えた楼閣群が、砂丘の谷間に
小さく見下ろせる。その対面に聳える砂丘の両端の向こう側には緑
色の中に沙州と呼ばれた敦煌の街が佇んでいる。まさに敦煌は砂漠
の中のオアシスだということがよく分かる。


[緑の映える月牙泉]



[砂丘上にて]


[砂丘の上から眺める月牙泉]




[陽が陰ってきた砂丘]
 寝転んで目をつむると、ようやくここまで辿り着いたな、という気
持ちになる。砂丘上では、大声を出してサンドスライダーやサンド
モーターに興じている人たちが見られる。時間が経ち夕暮れが
近づくにつれて、砂丘の斜面に写る影の形や色が次々に変わっ
ていく。月牙泉も夕闇に霞んでくる。やがて太陽が沈むと、空に
は月は出ていないが宵の明星(金星)がひときわ明るく見える。大
分涼しくなった22時頃、真っ暗な夜道を歩いて帰途につく。YH内
の中庭の屋根の開いた隙間からは、沢山の星々が明るくまたた
いているのが見える。気がついてみると肩掛け鞄やポケットの中
は砂だらけ。部屋ではあのシンガポール人と同室だった。



[砂丘の日没]







                                         
                                           


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