健全で活動的な生活習慣は75歳以上の高齢者の寿命を延ばす
最新疫学研究情報No.95
スウェーデンのカロリンスカ研究所のLaura Fratiglioni教授の研究チームによって、「75歳以上の高齢者でも、健全で活動的な生活習慣により寿命を延ばすことができる」との発表がなされました。
先進国では高齢化が進んでいますが、寿命の決定には、生物学的、環境的、心理社会的な影響による複数の要因が関与するという見解が一般的に支持されています。特に、ライフスタイル(*喫煙・飲酒・食事など)や余暇の活動(*運動など)、ソーシャルネットワーク(*家族・友人関係などの社会的な繋がり)などの改善が可能な要因は、寿命と密接な関わりを持っています。
これまでの研究により、ライフスタイルと寿命との関連性、運動と生存率との関連性は示唆されてきましたが、こうした結果が、高齢者にも適用できるかどうかは明確ではありませんでした。さらに高齢者におけるソーシャルネットワークと死亡率との関連性についても、調査結果をめぐって議論が続いています。また複数の要因が組み合わさった場合の寿命との関連性を調査した疫学研究は少なく、その成果は明らかにされてきませんでした。今回の研究は、高齢者における生活習慣と寿命との関連性について、個々の要因や複合的な要因が、どの程度余命に関与するかを調査する目的で実施されました。
研究チームは、スウェーデンの中心部(*クングスホルメン地区)に住む75歳以上の高齢者1810人(※1)を対象に、ライフスタイル、余暇の活動、ソーシャルネットワークの状況(※2)を調査し、それらの要因が寿命に与える影響について分析しました。18年間(1987年~2005年)の追跡期間中に1661人(91.8%)の被験者が死亡し(平均89.5歳)、調査終了時点の生存者は149人(平均96.1歳)でした。
調査の結果、生存している被験者は、女性や高学歴の人に多い傾向がありました。個々の要因と寿命との関連性では、運動が生存率に最も大きな影響を与えたことが判明しました。定期的に水泳やウォーキング、体操をしていた人は、しなかった人に比べて寿命が2年以上長かったことが確認されました。また喫煙者の半数は、非喫煙者に比べて寿命が1年短かったことが明らかにされました。しかし、中年になって禁煙した人は、非喫煙者と比べて生存率に違いが見られなかったことが判明しました。一方、ソーシャルネットワークと寿命には、明確な関連性が見られませんでした。複合的な要因と寿命との関連性については、健全なライフスタイルを維持し、余暇の活動に参加し、密接なソーシャルネットワークを持っていた人(*低リスク者)は、いずれにも該当しない人(*高リスク者)に比べて、寿命が5.4年も長かったことが明らかにされました。慢性疾患のある人や、85歳以上の人でも、低リスク者は高リスク者に比べて、寿命が4年も長かったことが確認されました。
研究者は、「長寿に関するすべての因子を考慮し、調整するには限界があり、今回の研究においても、飲酒に関するデータの偏りや食事の質の評価の欠落など多くの課題がある。今後のさらなる調査が必要とされるが、この研究により、75歳以上の人でも定期的な運動と禁煙により、女性は5年、男性は6年も延命することが明らかにされた。今回の結果は、高齢者であっても良好な生活習慣を奨励することにより、病気を低減させ、生存率を向上させる可能性を示唆している」と結論づけています。
※1この研究は「クングスホルメン・プロジェクト」と呼ばれる老化と認知症に関する大規模疫学調査の一環として実施されています。
※2被験者への調査は、下記の内容について、インタビュー形式で実施しています。
- ライフスタイル:
- 喫煙や飲酒の有無・程度など
- 余暇の活動 (これらの活動の実施頻度):
- 精神的活動(読書・勉強など)
- 運動(水泳・ウォーキング・体操)
- 社会活動(演劇鑑賞・旅行・組織やグループへの参加など)
- 生産活動(ガーデニング・家事・ボランティア活動・裁縫など)
- ソーシャルネットワーク:
- 配偶者の有無、子供・友人・親戚との交流頻度、満足度
出典
- 『British Medical Journal 2012年8月30日号』online版